狩龍人と巫女と異世界と

GARUD

3 岩から現れた者

 粉塵が舞う中から一人の男が現れた。
 ワルな口調で文句を言っている彼は、ポケットからおもむろにタバコを取り出すと口に咥え、その先端で指をパチン!と鳴らすと口に咥えたタバコには真っ赤な灯が燈された。

 私と一緒にいたおじいちゃんがその光景をボケッと見ていると、男はスゥゥとタバコを吸い込み、指で挟んで口から離すと大きな白い煙を吐き出した。

 そんな彼の姿は、まるで長年嗜好品を我慢してきた人が、ついに、ようやく、再び嗜好品を手にしたような……それはもう、とても満足そうな表情をしていた。

「ンで?お嬢ちゃんはなンだってこんなトコに居るンだ?」
「…………あっ!そうそう!あなたが封印されてたっていう悪い狩人さん?」
「悪いかどうかは人それぞれだけンどもな。だが……」

 彼はそこで一度言葉を区切るとタバコを咥えて今度は小さく一服。
 薄い煙を吐き出したあと、金色に輝く瞳がギラリと光った。

「俺が、狩龍人だ」
「巫女様!」
「ンだこのジジイ」

 私を庇うようにおじいちゃんが前に出たのを狩人さんが鋭い眼光で睨みつける。

「久しぶりじゃな?ナツキよ」
「ァ?…………誰だテメェ」
「賢者オルトロイと言えば分かるかの?」
「オルトロイ……」

 おじいちゃんが名乗ると狩人さんの稲妻のような鋭い眼光が途端に懐かしむような柔らかな瞳に変化した。

 表情も現れた時と比べて、心なしかトゲ薄くなった感じがする。

「お前老けたな!」
「あれから二百年は経ってるでな」
「カカッ!いくら賢者っても寄る年波にゃあ勝てないようだな?」
「試してみるかの?」
「バカ野郎。ンなもん。俺の圧勝に決まってンだろ」
「舐めるでないぞ?お前さんが封印されて二百数年。老いはしたが魔法のキレは現役を超えておる」
「カカカッ!何百年経っても相変わらず威勢だきゃあいいなぁ」

 どうやらおじいちゃんと狩人さんは昔馴染みらしい。
 それにしても楽しそうに話す人だなぁ。
 本当に悪い人なのかな?

「おぃオルトロイ。あンのアバズレはどうなったンだ?」
「アバズレとは巫女風凪様の事か?」
「ソレ以外のアバズレを俺は知ンねぇよ」
「貴様を封印した後、当時の王から責任を取らされてな……火炙りじゃったよ」

 おじいちゃんの静かな言葉に、狩人さんは小さく舌打ちを一つすると、短くなったタバコを一服し、地に落として残った火種をグリグリと足で潰して鎮火させた。

「ねぇ狩人さん」
「おい、オルトロイ。なんなんだこのお嬢ちゃん…………はッ!まさかお前のひ孫や玄孫の類いじゃぁねえだろうな?」
「残念ながら当たり……ではないぞい。今代の巫女様じゃ」
「巫女ってぇ事は…………風凪の後釜ってことか?」
「そうなるのぉ」

 私が話しかけるのを無視して続ける会話にちょっとだけイラッとくる。

「こんなチンチクリンのお嬢ちゃんが巫女だぁ?……俺はもっとこう、ボンッ!キュッ!ボンッ!が好みなんだが?これじゃ寸胴じゃねえかよ」

 狩人さんはケラケラと笑いながらおじいちゃんを横切ると、徐ろに手で私の胸をパンパン!次いでお尻をパンパン!

「なっ?!」
「も少し肉をつけねぇと、ンなんじゃ男にゃモテねぇぞ?」

 アバターとはいえ、初めて男に胸とお尻を触られた件。

 しかもガサツに……無造作に……乱暴に……

 ブチィィィン!

「このドヘンタイがぁぁぁぁ!」

 ブオン!

 私は怒りに任せて風を切るようなビンタを繰り出した!

 だが、私の怒りのビンタは狩人さんにあっさりと掴まれてしまう。

「そう怒ンなよ。俺はチンチクリンには興味がないンだからか「フンッ!」よぉぉ?!」

 掴まれた手は囮!

 弁慶の泣き所に鋭いトーキック!

「危ねえ!あんまお転婆が過ぎると「テイッ!」おわっ?!」

 私の放ったトーキックを片脚上げて回避した。

 だが、これこそが私の第二の罠!

 トーキックを放った足を狩人さんに踏み込む形で素早く地面に着け、狩人さんのバランスを維持している残った片脚、その膝裏へと手を伸ばす。

「ンな?!」

 カクッと膝が抜け、お尻から倒れそうになる狩人さんからすかさず掴まれた手を抜く!
 半回転からの肩でブチかましを入れると狩人さんはドサリと背中を強かに地面へと打ち付けた。

「おわっ?!このアぐふっ……」
「乙女の胸とお尻を乱暴に扱った罰を受けなさいッ!」

 目を吊り上げて起き上がろうとした狩人さんの顔面目掛けて足の裏を突き出した。

 一瞬抵抗しようとする素振りをする狩人さんだったが、何故か両目を見開いて硬直した。

 結果、顔面にメリッと私の足裏がめり込み、狩人さんは後頭部を地面に激突させる事に。

 グリグリと顔面をひとしきり踏んづけた後、ようやくといった感じで足を退かしてやった。

 起き上がった狩人さんは鼻を押さえながら金色の瞳を怒らせる。

「……この痴女めぇぇぇ!下着ぐらい着けろや!」
「……へ?」
「色々と中身が丸出しで思わず固まっちまっただろうがぁ!このアバズレ幼女めがぁぁぁ!」
「……………えぇ?!」

 ギリギリと歯軋りしながら眼をギラつかせる狩人さんの言葉に、私は慌てて股間に手を回すと────うん。無いね。

「おぃオルトロイ!ンなんだこの恥ずかしい幼女は!」
「今代の巫女様じゃと言うとるじゃろ」
「下着くらい履かせとけ!」
「それは気が付かなんだが……まぁに百数年ぶりのおなごの股間に興奮冷め止まんお主の股間も大概じゃぞ?」
「あぁん?!……………ば、バカな?!ンだコレは?!」
「お主……封印されておる間に女の好みが変わったんじゃな……」
「俺が……幼女のアレ見て興奮……だと?……クハッ……笑えねぇよ……」

 何コレ?なんでおじいちゃんと狩人さんが向かい合って悲痛な顔してんの?私が一番ダメージ負ってるはずじゃないの?なんで精神に痛恨の一撃!みたいな顔してんの?

「はぁ……なんかもう怒るのバカらしくなっちゃった……」
「それはようございました巫女様」
「ンだ?ようやく静かにする気になったのかよ?」
「誰のせいでうるさくなっていたと思っているのよ……」
「まぁソレは置いとけ。……ンで、オルトロイ。俺を封印から出したって事は……テメェ、どうなるか分かってンだろうな?」
「はて……どうなるとは、どうなるんじゃろうな?」
「そう惚けンなよ……」

 狩人さんは再びタバコを取り出して先と同じようにパチンと指を弾いて火を点けた。
 ふぅぅ~と煙を吐き出して会話の間を取る。

 そしてゆっくりと、ただ一言

「殺すぞ?」

 瞬間──ブワッと吹き付ける強烈な殺気が私の身体を突き抜けた。



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