保存料たっぷりの生活

聖 聖冬

無添加の世界⑥

メリー率いる騎士団との死闘はひとまず終わったが、元より数に利のある騎士団の追撃を逃れる為、馬で進む事が難しい山に隠れて進む。この辺りに拠点を構える傭兵崩れから残党狩りに遭うリスクこそあるが、追跡者が騎士と言う事を逆手に取り、取り締まる側と取り締まられる側がぶつかるようにと、フランチェスカは半ば賭けのような選択を選び取った。
1番深手を負った美波をいち早くこの場から離脱させる為、馬より足の早いユーリが1人で飛び出して山を駆けて行った。

リリアは残った4人に四方を囲まれながら険しい山を登り続け、崩れそうな岩肌を削りながらフランチェスカはゆっくりと進む。その行動の真意が分からないまま進み続け、誰も一言も発さないせいでこの行動の意味も聞けない。

一刻も早く追撃の手から逃れたい筈なのに、進んだ方向をわざわざ教え、更にはゆっくりと進んでいるのか。それにまだ追われている理由も聞かされてない為、分からないことだけが悪戯《いたずら》に増えていく。

「居たぞあそこだ! この線はやはりあいつらの付けたものだ」

ほら言わんこっちゃ無いと言いたい所だが、必ず考えがあっての事だと信じてフランチェスカを見ると、何も言わずに倭刀を抜いて構える。

「迎撃だ!」

「ノープランかよ!」

予想していたよりも遥かに多い追撃隊が左右に広がり、あっという間に3枚の壁を作り上げて武器を向けられる。
さすがにこの人数でこれだけの数とやり合うのは無理だと腹を決め、フランチェスカを中心として四角形に広がった4つの背中に武器を捨てるように促すが、誰も武器を捨てずに目の前の騎士を睨み続ける。

「ここで諦めて捕まっても死ぬ、戦って1人でも多く道ずれにして死ぬ。要はな、意地悪をやるかやらないかの問題だ」

「フラン様、それは気持ちの問題」

「そうそう気持ちの問題」

少しだけキメた風に言ったフランチェスカに、獅子色の髪と蒼髪の双子の姉妹がばっさりと切る。

「騎士だぜお前ら。良質な武器と防具だ、引き潰せ!」

「遅れました主よ。少々邪魔が入りまして」

「来たかラジャイオン、よくやった」

崖を駆け下りる傭兵と騎士が衝突した戦場を抜け出す為に走り出し、複数の騎馬が突っ込んで来たタイミングを見計らって、ラジャイオンが騎士を馬上から叩き落とす。
まるで意思があるように動く糸が騎士をひとまとめに縛り、馬だけを貰って4人が跨る。

少し遅れて走って来た馬の手綱を取ったフランチェスカに手を掴まれるが、吹き飛んで来た傭兵が繋いでいた手を引き剥がす。
遠心力に逆らえずに足場の無い宙へと投げ出され、フランチェスカの悲痛な叫びを上げる顔を最後に水の中に飲まれる。

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