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保存料たっぷりの生活

聖 聖冬

無添加の世界②

「飲め飲めー!」

 笑い声と喧騒とでごちゃごちゃになった砦の中は、少し前まで一触即発の状況から180度反転して、お祭り騒ぎみたいになっていた。
 ボスと呼ばれる女児に呼ばれた時に決めていた覚悟とは裏腹に、あちらにはその気が全く無かったらしく、こうやってもう飲めもしない葡萄《ぶどう》ジュースを無理矢理喉の奥に流し込む。

「ぷはぁ……もういっぱいだ」

「おぉ! 流石の飲みっぷりだな、だが酒じゃなくて良かったのか?」

 もういっぱいだをもう一杯と解釈の相違が生じて、再び木をくり抜いたコップに葡萄ジュースを注がれる。

「それでさ、俺は何で探されてたの?」

「……そうさな、簡潔に言うと巫女と歩いていたからだな」

「それだけ?」

「それだけ……」

 アルコールを入れてもいないのに何故だかくらくらして来て、右手に持ったコップを投げ出して仰向けに倒れ込む。
「大丈夫か坊主」と落ち着いた声音で俺の体を起こした大男に支えられ、未だに名前も知らない女児に頬をぺちぺち叩かれる。

「さて本題に入らないとな。お前を攫わせた最も大きな理由はな……」

「騎士団ですボス! それも武装した騎兵約300以上の」

「全員ここを放棄して東部の砦に向かうぞ、そこは先遣隊が既に押さえてる筈だ! 死にたくなければ死に物狂いで走れ!」

 報告を聞いて即座に全員が立ち上がると、その指示だけで少数の者が得物を携えて残り、後は必要最低限の物を持って遥か遠くを闇に紛れて駆ける。
 女児の短な手から抜き放たれた倭刀が月に反射して光を放ち、忍び寄っていたアサシンの首の皮を一枚残して沈黙させる。
 それに続いて周りでも残った7人が2人以上のアサシンを仕留め、返り血を浴びて濡れた服が物々しさをより感じさせる。

「さて……逃げ遅れたみたいだがお前の面倒は見きれないぞ。私に続け、必ず生きて帰れるぞ」

「ボスはその人を連れて逃げてください、ここは俺らが掻き回します」

「まっ、私ら7人に掛かればこんなのイージーモードだし」

 糸を手繰って飛来する矢を止めた物腰柔らかそうな青年と、血塗れた倭刀に付いた血を血振りで地面に落とした少女が先頭に立つ。
 その2人を中心として、森の左右に散開した5人が姿消す。

「じゃあ後は任せた」

「はい」

「おっけー!」

 背中を叩かれて後ろを振り返ると、既に森の中に消え去ろうとする背中が振り返らずに遠くなっていく。
 すぐに走り出して小さな背中を追い掛けると、足下から跳ねて来た刃が眼前に迫る。

「うっ……」

 反射的に目を閉じて背中から地面に倒れ込む。空を切る音と肉と骨を断つ音が同時に響き、ドサッと地面に落ちる音が聞こえ、死ぬ前のたった3秒間の猶予で自分の死に様を見ようと目を開けると、目の前には小さな手が差し出されていた。
 目を開けた俺を見ると女児はニッと笑って差し出した俺の手を掴み、半ば強引に俺を立ち上がらせる。
 その小さな体からは想像出来ない程の大きな力は、無理矢理立ち上がらせるだけに留まらず、振り回して7人が足止めしている方向とは逆に投げられる。

「うわぁぁぁ!」

「走れ! ちょ、邪魔だっての!」

 転がりながら何とか着地して言われた通りに走っていると、すぐに女児が隣に並走して5秒も掛からずに追い抜かれる。
 だが、すぐに右の方向から明らかに追って来ている足音がして、前を走る小さな背中が倭刀を逆手持ちに持ち替えて足音の方に消える。

「ぐぁっ……」

 小さな断末魔を響かせた木々が漸く途切れ、真っ暗闇だけが広がる平地に出たと安堵したが、森の出口で横一列に無数の光が灯る。

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