魔神と勘違いされた最強プレイヤー~異世界でもやることは変わらない~

ぶらっくまる。

第022話 防衛準備

 アレックスの拠点であるシュテルクストは、高台になっている北側に城が建っており、北側だけが外郭と内郭が一体となっている。その内郭より内側は、シュテルクスト城から南門まで伸びる石畳の道を挟むように、主要軍事施設が所狭しと建ち並んでいた。

 作戦会議を終えて城から出たアレックスは、内郭の南門付近の広場へと向かって歩いている。

「城のすぐ隣が兵舎ってどうなんだろうな」

 辺りを見渡しながらアレックスは、そんなことを呟く。

 アレックスは、これから大量のNPC傭兵を召喚しようとしており、そんな彼らと近い距離で生活することについて呟いた訳だが、それは仕方がないことである。

 ――それは、ゲームを開始した二年ほど前まで遡る。

 その当時、アレックスのスタート地点は、スカラーランド王国という魔導学が盛んな国だった。スタート地点は、運営が予め用意した四大大国のいずれかからランダムで決まる。

 そのスカラーランド王国の宿敵であるヴァルード帝国との戦争イベントで実績を積んだアレックスは、三カ月足らずでスカラーランド王国の辺境伯まで上り詰めた。それは運営も想定外のスピードで、一時はアレックスの偉業がネット掲示板を騒がせたりもした。そして、ユニーク種族のチートぶりも話題になった。

 シュテルクストは、そんなアレックスが独立を見据え、スカラーランド王国とヴァルード帝国を結ぶ街道上に作った町であった。それでもその当時は、スカラーランド王国のカレッジという城塞都市を拠点としており、ヴァルード帝国と敵対関係であった。

 それ故に、防衛のために真っ先に軍拡を推し進め、建設の優先順位は、兵舎、内郭、防衛兵器、城、外郭、各種――傭兵、商人、魔導、商業――ギルド施設、そして最後が一般設備――お店各種、宿屋、住居――だった。

 独立後、国として軌道に乗ったベヘアシャー帝国は、防衛拠点を次々に建設し、シュテルクストが戦闘の前線になることはなくなった。それから、区画整理を行ったが、兵舎の規模が保持可能な兵数となるため、それだけが内郭内に取り残された。


 閑話休題。


 アレックスは、NPC傭兵たちとも交流を持たなければいけないことを思い出した。

「あー、好感度とかあるから、むしろ、その方がいいのか? いくら俺が皇帝とは言っても、これからは傭兵というか、兵士たちのことも知らないといけないしな」

 部下の管理を全て自分で行おうとするのは効率が悪い。ふつうは、必要最低限の接触のみで、他は直の部下に任せるものだったりする。そう考えられるのは現場主義のアレックスらしいかもしれない。

「よし、ここいらなら大丈夫だな」

 南門の前の広場に到着したアレックスは、NPC傭兵を召喚すべく、編成画面を開く。

「えーっと、先ずは、一連隊ずつだったよな」

 先程の会議で決まったことに準じてアレックスは、どんどんNPC傭兵を召喚していく。

 一つ目は、転移門の設置。
 第四旅団ブラックの工兵を召喚し、転移門を建造する。
 人数は、数十人いれば足りるらしいのだが、二つ目の対応にも人手が必要であるため、第一連隊の千人を召喚した。

 二つ目は、防衛戦のために周辺開拓。
 第五旅団クノイチ第六旅団ハナの第一連隊を召喚し、二千人規模で東側を重点的に調査を行う。
 そして、城壁から数十メートル先が深い森で覆われているため、ブラックの残りの兵士が森を切り開く。それが済めば、防衛兵器であるバリスタ等を有効活用できる上に、野戦も行える。 

 三つ目は、空き家の接収せっしゅうを含めた住居整備。
 軍団編成しているNPC傭兵の数――三万三千三百人に対し、許容数は三万五千人。単純計算だと、全く問題ないのだが、ゲームのときに気にする必要がなかったことが、現実となった今では大問題だった。

 それは、性別。

 つまり、男性兵舎と女性兵舎の区分けをする必要があった。

 アニエスをはじめ、どの従者も性別など今まで気にも留めない些末事などと言っていた。それでも、現実となったからには引けない意地みたいなもので、アレックスは断固として区別することを指示した。
 差別をするつもりはさらさらなく、単純に考え方の問題だ。

 よって、その対応のために、第一旅団アニエスの第一連隊を召喚した。

 会議で決まったのは、以上の三つだけだったが、それぞれの補助として第二旅団シーザーも同じく第一連隊を召喚し、千人の竜騎兵が空から警戒に当たる。

「何度見てもいいな、これは」

 南門前の広場には、約四千人がぎゅうぎゅうになって跪いており、フライングドラゴンにまたがった竜騎兵が次々と舞い上がって行った。

 生憎、城門前のスペースにも限りがあり、竜騎兵たちには早速上空警戒の任についてもらうことにしたのだ。

 となると、残りの四千人も跪かせたままの訳にもいかない。

 そこでアレックスは、思いっきり息を吸い込んでから号令を掛ける。

「きりぃぃぃーっつ!」

 プレートアーマー姿の四千人が一斉に立ち上がり、敬礼の仕草をしたことで発生した鎧が鳴る音が、アレックスの耳へと届く。

 ゲームの中でも多少の効果音がしていたが、実際に鎧が鳴る音は圧巻で、アレックスをゾクゾクさせた。半ば興奮状態のアレックスは、次なる号令を掛ける。

「休め!」

 今度はそこまで声を張らなかったため遠くまでは届かず、波のように近くから遠くへと休めの体勢になっていく。

 ククッ、いいねいいね、とアレックスはその様子を眺めながらほくそ笑む。

「現在、各旅団長が副官たちと打ち合わせを行っている。おそらくそんなにも時間は掛からんだろうが、それまでこのままでは辛かろう」

 そこで言葉を切ったアレックスが近くの者たちへと視線を投げるが、見つめられた者は揃いも揃って無言のまま首をふるふると振って、辛くないと、意思表示をした。

「まあいい、このままで待機するかどうかは各々の判断に任せる。それでは、別命あるまで、内郭の内側なら自由に行動して良いぞ。それでは、解散!」

「「「「「「「「「「はッ!」」」」」」」」」」

 敬礼に対し、返礼のつもりで手を上げたアレックスは、ひとしきり頷いてから南門に向かう。アレックスと南門をたった今召喚した四千人が塞いでいるため、その真ん中を通ろうとすると、その集団が割れて道を作った。

 ほう、やっぱりゲームとは違うな、とアレックスの行動に敏感に反応する兵士たちの様子を見やり、悠然とした足取りで突き進む。

 ただ、その八千の瞳に見つめられ、さすがに鬱陶うっとうしく感じたりもした。解散と言ったにも拘らず、その兵士たちは、アレックスから視線を外すことなく、敬礼の姿勢を維持したままであったのである。

 皇帝というものがどんな存在か、もう一度確認する必要があるな、ともう少し和気あいあいとしたいアレックスは、この堅苦しい感じをどうにかしたいと思った。

 煩わしい視線に晒される中そんなことを考えながら歩き、あともう少しで門というところで、見覚えのある人物が正面の跳ね橋の方から駆けて来ており、アレックスは足を止めた。

 オレンジ色の癖毛に、少女に見えるあどけない顔立ちをした鋼鉄のプレートアーマー姿の兵士――

「おい、ジャン!」

「あ、こ、これは陛下!」

 急に声を掛けてきた人物がアレックスであることに気付いたジャンは、慌ててその前に跪くのだった。

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