魔神と勘違いされた最強プレイヤー~異世界でもやることは変わらない~

ぶらっくまる。

第017話 ふつうが居ない

 軍議の間のテーブルに肘を付き、両手を組んでいるアレックスは、アニエスのあからさまな意思表示に、彼女が未だ不機嫌であることを悟った。それでも、この場で昨夜の話を持ち出せる訳もなく、気持ちを切り替えて左隣の青年へと視線を変えた。

 その青年――シーザー・スプリームブレイド――は、第二旅団長を務める二人目の従者である。真の姿はブルードラゴンという竜種の中でも最強と謳われるカラードラゴンの一種で、完全人化形態を取れる竜人族。

 且つ、ユニーク種族である。

 そんなシーザーは、鱗を模した水色の戦国武将然とした鎧に身を包み、流線型を描き鋭利に尖った角が二本突き出した兜を左脇に抱えていた。

 爽やかな空をイメージさせるサラサラの髪に、ダークブルーの瞳。更には、鼻が高くフェミニンな顔立ちをしており、洋風イケメンである。そのような風貌のせいか、東欧諸国の観光客が記念撮影のために着飾っているようにしか見えない。

 が、シーザーは、従者の中でも一二を争うほどの実力者である。

「シーザーは、どう思う? 空から見た感想を聞きたい」

 その瞬間、そっぽを向いていたアニエスがガバっとアレックスの方を見たが、それをアレックスは相手にしない。その行動が意味するところを理解できなかったのだ。

 一方、問い掛けられたシーザーは、いつもの癖で膝を折りかけたが、先のアレックスの言葉を思い出してそれを堪え、低頭してから一歩前に出てから口を開いた。

「恐れながらも、待ち受けるのではござらず。左様な不届き物は、拙者らから攻め滅ぼした方が良きと存じまする。三時間ほど飛行したでござるが、その先は見えぬでござった。なれど、拙者のドラゴンブレスにて焼き払えば、歩兵部隊も楽に進めると存じまする」

 カッと目を見開き何を言うかと思えば、昨夜のイザベルと同じようなことを言い出す始末。アレックスは頭が痛くなり、うーんと眉間をさすった。

 敵の戦力どころか、詳細な位置情報も不明な状態でどうやって攻めるんだよ。
 そもそも、防衛対策を話し合うために集めたのに、イザベルの奴は一体何と言ったんだ?

 当のイザベルは、澄まし顔だったが、笑いをこらえるように口元が力んでいるようにも見える。

 それを見たアレックスは、ため息をつきたくなるのを堪え、シーザーに真意を問う。

「なるほど……座して待つのは、ベヘアシャーの名が泣くと?」

「あ、いえ。そうとは申しませぬ。拙者としては、殿の威光を轟かしめるに其れが手っ取り早いかと愚考した次第にて候」

 シーザーは、口元を結び至って真面目だった。

「ふむ、その意見はわかった。ただ、ドラゴンブレスで焼き払うのは……無しだ。どうも、貴重な植物が多く、ポーション類の補給に活用できそうなんだ」

「左様にてござるか」

 それには頷くのみで、説明を適任者に任せることにした。

「モニカ、それでどうなんだ?」

 モニカ・モリスは、後方支援を主な目的として創設された第三旅団の団長である。彼女もまたユニーク種族のハイエルフで、アレックスの趣味を完全に体現していた。

 聖女をイメージして創造された彼女は、金糸で装飾を施された白と緑を基調とした祭服に、長めの金髪を前に垂らしている。海のように澄んだおっとり垂れ目で微笑むようにアレックスを見つめ、慎ましやかにお辞儀した。

「アレックス様、それは、効用の話でしょうか? それとも、お二人のことでしょうか?」

 そんな慎ましさを全て吹き飛ばすほどの二つの爆弾が、アレックスの視線の先で、揺れていた。

「あ、あの……アレックス様?」

 訝しんだモニカの問い掛けに、何とかその大量破壊兵器から視線を外し、アレックスは仰々しく一つ頷く。

「うむ、両方だ」

「承知しました。先ずは、薬草類ですが、これは今のところ何とも言えません。確かに回復草などを見つけましたが、一番良くて上級ポーションの原料になるかどうかでした」

「ふむ。まあ、一日も経っていないのだ。今後実施する周辺調査のときに集めさせよう」

「承知しました。それでは、問題のあのお二方ですが、順調だと思います」

「おお、それは良い。何日も掛かると聞いていたが、早まりそうか?」

 やっと良い報告が聞け、心なしか声のトーンが軽くなった。

「はい、未だシルファさんは目を覚まさないのですが、刺激反射を確認できましたので、明日にでも目を覚ます可能性があると思います。ですが……」

 困ったように眉根をひそめたモニカが言い淀み、アレックスがその原因を言い当てる。

「ラヴィーナか?」

「はい、イザベルの話は素直に聞いてくれるのですが、わたしの話を聞いてくれないので……お仕置きしちゃいました」

 ニタっと悦に浸ったような笑みのモニカを見たアレックスは、一瞬悪寒が走った。アレックスの表情が崩れたことに気付いたモニカが弁明したが、その内容が怖すぎる。

「ああ、大丈夫ですよ、アレックス様。殺してませんよ。ちゃーんと生きていますからっ。そうですねー、今はスリープの魔法で眠ってもらっていますので、きっと良い夢を見ていると思いますよ」

「え……?」

 目をトロンとさせてヤバい笑みを浮かべているモニカの表情を見たアレックスは、

 何それ? ヤバい! モニカに設定した性格って何だっけ?
 てか、刺激反射とか言ってたが、シルファを叩いたりしてないよなっ? な!

 と顔を強張らせた。

「わ、わかった。それは、信じよう。だ、だが! 彼女たちは、貴重な情報源だ。丁重に扱うように心がけよ」

「はいー、承知しましたぁ」

 おっとりと気が抜けるような返事と共に、モニカは立ち位置に戻った。

 ……本当にわかってるよな?

 モニカの様子に心配になったアレックスは、まともな従者が居ないことにショックを隠せないでいた。

 その実、従者たちは、その外見から性格まで全てアレックスが一から創造したキャラクターであるため、そのことは彼のせいだった。それでも、異世界転移に巻き込まれるなど完全に不測の事態であり、こればかりはどうにもならない 。

 よし、次の従者に期待だ!

 と、気を取り直して別の従者へ視線を移したのだが、その先に居たのは、こともあろうか――
 好感度が二〇%まで落ち込んでいるハイドワーフのブラックであった。

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