魔神と勘違いされた最強プレイヤー~異世界でもやることは変わらない~

ぶらっくまる。

第012話 異世界PVP?

 シルファとラヴィーナの事情を知った上で彼女たちの姿を改めて眺めたアレックスは、その痛々しい姿に唸る。逃亡者となると変に関わりたくないが、一先ず彼女たちの仲間を殺した訳ではないことがわかり、ホッと一安心したのも束の間――

「は、はい、至高の御方がわたくしの名を存じていたことには、恐悦至極でございます。しかながら、その名が失われようとしているのでございます」

「え、あー、それは……」

 ただ単にアイコンを見ただけなんだけどなー、とアレックスは今でもはっきりと見えるシルファの頭上を見ながら、頬をぽりぽりとかく。

「はい、そのためにご降臨なさったことも承知しております。いにしえの誓いを守るべく、このわたくし、シルファ・イフィゲニアは、身命を賭してお仕えしとう存じます」

 話についていけていないアレックスを置き去りにしたまま、尚もシルファは話を進める。

「それに見合うかどうかは、例によって試練でお確かめになっていただければ、と」

 その表情には先ほどの儚げな少女の姿はなかった。全てを言い切り満足でもしたのか、今では口を結び、凛とした眼差しをアレックスへと向けている。

 だから、さっきからこの子は何を言ってんだよ!
 至高の御方! 降臨! 古の誓い!
 はぁー! そんなもんは知らん!

 などと、アレックスの心中は荒れに荒れていた。

「仕えるだと? しかも、身命を賭して………その言葉に二言はないのだな?」

「はい、魔皇帝マグナ・イフィゲニアの直系たるシルファ・イフィゲニアに二言はございません!」

 どこの時代の武士だよ! と突っ込みを入れたい気持ちを堪えながらも、それは適当に煽った結果だった。

 それ故に、アレックスの考えとは全く違う方向へと話が進み、引くに引けないところまできてしまった。それでも、皇帝を演じ切るしかないかと諦めるアレックス。

「うむ、その心意気や良し! それを証明してみせよ!」

 アレックスは、満足そうな表情を作ってからそう言い放った。

 試練がなんのことかさっぱりわからんが、こう言っておけば何かわかるだろう。

 適当に言って促せば、その試練の正体がわかると思ったアレックスのその考えは、成功した。

 が、

 失敗でもあった。

「それでは、恐れながらもこの機会に感謝し、宜しくおねがいいたしますわ……」

 すくっと立ち上がったシルファがアレックスを見ながら腰をかがめた姿勢のままスリ足で下がっていく。それに合わせてラヴィーナもアレックスたちから距離を取る。

「至高の御方の配下の皆様方! そのままでは危険ですので距離を取っていただけないでしょうかぁー!」

 注意喚起するように声を張ったラヴィーナの言葉を聞き、事態の重さをようやく理解したアレックスは、どっと油汗をかいた。

「え……そういうことなの?」

 今更気付いたところで後の祭りだった。

 これからアレックスとシルファのPVPならぬ一騎打ちが始まろうとしているのは、明らかだった。

 慌てたアレックスはイザベルの肩を掴んだ。

「おい、イザベル!」

 こうなったらイザベルに頼んで仲裁してもらう外なかった。

「我が君よ、大丈夫だと思うが、無理せんようにな」

 肩を掴んでいるアレックスの手の上に自分のそれを合せたイザベルは、満足げに頷いてからサッと身を翻してその場を離れていく。

「え? あっ、おい!」

「勝ったら褒美は今夜な」

 イザベルは、仲裁するどころか、この対戦に賛成のようで、ご褒美まで用意してくれるようだった。その内容は言い方から大体予想がつくが、まさかとは思う。

「こ……今夜? って、な、何が、今夜な、っだ! そうじゃねーよっ!」

 アレックスは、禁止行為とされていたことをイザベルと過ごす場面を一瞬妄想したが、直ぐに我に返って怒鳴ったが、もう遅い。

 イザベルだけではなく、NPC傭兵たちも大分離れた位置にまで避難しており、シルファも準備万端のようだった。

 シルファの周辺に幾多の魔法陣が出現しており、赤、青、黄、紫や白といった様々な魔法陣がそれぞれの色に輝いていた。それはアレックスにも見慣れた魔法陣であり、身体強化や魔力強化を施したことが嫌でもわかった。

「まじかよ! そんだけの数の多重掛けは、そのレベルでは無理だろうが!」

 レベル一三二では実行不可能なハズの数の魔法陣を目にしたアレックスは、リバフロの常識が通用しないことに歯噛みした。

 一方、そのアレックスの表情を見たシルファは、口角を上げる。

 どうやら、お眼鏡に叶ったのかしら?
 魔力が心もとないですが、折角のこのチャンスをふいになどできませんの!
 
「そ、それでは、参ります!」

 努めて笑みを広げているシルファであったが、その実、大分無理をしていた。それでもシルファは、引ける訳などなかった。アレックスを神と信じ、そのアレックスに己の力を認めさせ、彼の使徒となるべく、全力を尽くす。

「って、お前も人の話を聞け―!」

 悲痛な叫びに近いアレックスの言葉がシルファに届くことは無かった。

「インペリアルフレイム!」

「おいっ、それって、幻想級魔法じゃねーかぁぁぁー!」

 またもやシルファのレベルでは使えるはずのない魔法名を聞き、アレックスは驚愕の叫び声を上げた。

 視界を覆うほどの巨大な炎が迫り、肌を焼くような熱量を感じたアレックスは、「落ち着け、俺!」と、最善の選択をするべく心を静めるために目を瞑った。

 一番簡単なのは、反射系の魔法だが、それではシルファを傷つけてしまう。
 敵ならそれで構わないが、これはアレックスが試練の内容を理解せず、無責任にシルファにそれを促した結果であり、彼女のせいではない。

 ただそれは、建前であり、実際の人を傷つける覚悟ができていないのが本音だったりする。

 となると……

 おもむろに上げた右手をシルファが放った暴力的な炎へとかざし、瞑っていた瞳をカッと見開き、ポツリとひとつ。

「喰らえ!」

 すると、シルファから放たれたドラゴンブレスを思わせる巨大な炎の塊が、排水口に吸い込まれる水のように渦を巻き、するりとアレックスの手の中に吸い込まれた。

「なっ! 何が……」

 その結果を見たシルファは、薄れゆく意識の中で後悔した。

 体調が万全ではないのは承知していたが、少しはダメージを与えられると考えていた。そして、その威力に感心され、認めてもらえる……と。

「わ、わたくしは……なんて、愚かな、こと、を……」

 ダメージどころか、汚れ一つすらつけられなかったことに驚愕しながら曖昧な意識が途切れた。全ての魔力を使い果たしたシルファは、そのまま倒れ込み昏倒した。

 一方、アレックスはその試みが成功したことに胸を撫でおろし、盛大に息を吐きだすのだった。

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