明日はきっと虹が見える

モブタツ

5ー2

「えっと……そのせつは、たいへん、おせわになりました………」
  ぎこちなくお辞儀をする恵美花は、えへへ、と笑ってみせた。
「お姉ちゃんに言えって言われたんでしょ」
「その…ちゃんとお礼が言いたかったの。でも、言いかたがわからなくて……」
「お礼なんていらないよ。こうやって遊びに来てくれるのが一番嬉しいからさ」
「本当に!?」
「うん。もちろん」
  最近、少し閃いたことがある。
  うちにはマンガもなければゲームもない。テレビがあっても録画機能がないから、彼女が好きなアニメを録画しといてあげることもできない。DVDプレイヤーもない。つまり、家に遊びに来た人が楽しめる要素が何一つない。
  でも、彼女にとって、私の家…というか、私にしかできないことがある。
「じゃあ、座って待っててくれる?」
「え?う、うん。お礼を言いに来ただけなんだけどなぁ…いいの?」
「いいよ。座ってて。ちょっと色々やることがあるからさ」
  わかったーと気の抜けるような声を出しながらリビングに座った。
  さて、やってみるか。
  スマホの電話アイコンをタップし、呼び出す。
  コール音が何回か鳴り、彼はすぐに電話に出た。
『…もしもし?ねーちゃん?』
  わざとスピーカーで通話してみせる。
「わっ!?ゆーき君…!?」
  広島に帰って数日が経った今、祐樹との連絡手段は電話になっている。
  楽しめる要素は一つもない私の家だけど、恵美花が来た時はこうして電話してあげればいいのだ。
「もしもし?今うちに恵美花ちゃんが遊びに来とっ……来ててね。恵美花ちゃんとおしゃべりして欲しいんだけど、今平気?」
『宿題は終わらしたけん、平気じゃけど…何話したらええん?』
「………!」
  恵美花の赤面する顔がなかなか可愛い。
「まぁ、なんか適当にさ。せっかく記憶も戻ったんだから。」
『…ほうか。分かった。というか、もう僕の声聞こえとるんじゃろ?恵美花』
「きっ………聞こえて………………………ます」
『…なぜ敬語?』
  確かに。
「そ、そうだ!明後日ね、コロネのおねーちゃんの高校の文化祭に行くの!」
『へー。そんなんだ。誰と?』
「美優おねーちゃんと、あさな!」
  あさな?
『あさ、な?』
「あ…えっと…エミのイトコなの」
  健斗の言葉を思い出す。

『俺にさ、もう1人、イトコがいるんだよ』
『あの2人は、いつも2人でいる。遊ぶ時も、授業を受ける時も。体育でペアを組む時も一緒らしい』

  健斗が「同時に2人を失うところだった」と言っていた、あの子のことか。
『僕も行きたかったなぁ…高校の文化祭とか、行ったことないんだよね』
  よし。今だ。
  紙を見せる。
「じゃあ、高校生になったら一緒に回ろうね。………え!?」
  よしよし。計画通り。
『え?えっと…うん。その時はよろしくね』
  言葉を発さずに顔を真っ赤にしている。
『恵美花?』
「は、はい……」
  なんか、私が一番楽しんでいる気がする。


「…エミ、コロネのおねーちゃんのこと嫌いになりそう」
「ごめんって」
  電話が終わると、彼女は目を合わせてくれなかった。
  どうせ文化祭の話題になるのだろうから、それならいっそのこと初めからカンペを書いておいて、それを読ませてしまおうという私のイタズラがここまで上手くいくとは。
「でもまぁ、私のこと嫌いになったら、祐樹とも電話できないけどね」
「ひ…ひどい!」
  健斗に引き続き、恵美花の弱みも握れたようだ。
  なんか…私の性格、変わってる気がする。
  お互いの顔を見合わせて笑っているこの時間が楽しくて、あぁ、やっと戻ってきたんだって、心から安心できる。癒されている、と言う表現が正しいだろうか。
「そういえば、あさなちゃんって、どんな子なの?」
「うーん…ちょっと性格がおねーちゃんに似てて、でも、年上の人には礼儀正しい…かんじ?よく、しっかり者だねって言われてるよ」
  なるほど。
「…エミが車に轢かれた時も、一緒にいたの」

『そうだ。あの日も、2人は一緒にいたんだよ。…同時に、イトコを2人も失うところだったんだ』

  彼の真剣な口調が脳裏をよぎる。
  今、こうして恵美花が私の前にいること、文化祭に恵美花と「あさな」が行けること。それは…あの日、2人が命を落とさなかったからある「今」なんだ。
「せっかく記憶も戻ったんだしさ。明後日は2人で思いっきり楽しみなよ」
「うん!」
「…恵美花ちゃん」
「ん?」
「………帰ってきてくれて、ありがとう」
「…っ」
  少し気恥ずかしそうによそを見て笑った。
「…こちらこそ。」

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