明日はきっと虹が見える

モブタツ

4ー10

  浴衣なんていつぶりだろう。
  菜乃花の家には沢山の…と言っても、数える程だが、必要以上の浴衣があった。紫をベースにカラフルな花が描かれた可愛らしい浴衣。正直、私にはもったいないくらい良い浴衣だ。
  菜乃花も恵美花も浴衣を着こなし、「せっかくだから」と祐樹にも甚平を貸してくれた。なんとも夏らしい。
  健斗も美優も夏らしい服装でゆったりと歩いている。
「数週間前に夏祭りに行ったのになぁ」
「私も、それ思った」
  まぁ、今日は夏祭りではなく、花火大会なのだけど。
「ねーちゃん」
  祐樹を見ると、珍しくニコニコとしている。
「な、なに?」
「お小遣い、ちょうだい?」
  ………いつの間にこんなにあざとくなったんだろう。
「…可愛くすればなんでも許されると思わないこと」
  そう言いながら、私はお金を渡した。
  あぁ……出費がすごいな…。
「花火まではまだ時間もありますし、屋台回りませんか?」
「だなっ。お前も報われないなぁ」
「可愛いから許してる。でも、そろそろ甘やかすのやめないとね」
  財布の中に入ったお金を見て。
  ふと、思った。

  親の仕送りの量が…この時期だけ多い気がする。

  もしかして祐樹がこちらに来るのを見込んで多めに送ってくれてるのかな。

  あんな態度とっちゃったけど、やっぱり謝るべきなのかな。

  …っと。
  せっかくの花火大会なのに、こんな考え込んではまた健斗にからかわれてしまう。
  今は楽しまなきゃ。
「あんた、浴衣似合ってるよ」
「へっ?」
「やっぱ、うちは浴衣を選ぶセンスがあるんだね」
「おねーちゃん、それじゃあ自分を褒めてるのか着てる人を褒めてるのか分かんないよ」
「確かに、似合ってるな」
「どうせ『なくても映える』とか言うんでしょ?」
「いやいや!ほんとに似合ってるから!」
  美優が健斗を睨んでいる。怖っ。
「ほら、行ってきな。祐樹君と一緒に周りたかったんでしょ?」
「う、うん……」
  菜乃花は恵美花の背中を押した。
「祐樹。行ってらっしゃい」
  私は祐樹の背中を押した。
「それと」
  菜乃花は突然私の背中も押した。
「あんたもね」
「え?」
「エミちゃんが、一緒に周りたいんだってさ」
  提灯の明かりが彼女の顔を照らす。
  優しく微笑む彼女の顔が見えた。
「行ってこい。後で落ち合おうぜ」
「え?な、なんで私が」
「お姉さん。恵美花ちゃん直々のご指名ですよ」
  見ると、全員がクスクスと笑っている。
「う、うん…行ってくる」
「?」
  祐樹も何が起こっているのか分かっていないようだ。
「それじゃあ、行こうか」
「う、うん」
  どこか、恵美花は表情が固いような気がする。
  3人で歩み出す。
  人混みの中に入っていく。
  後ろの3人の姿が見えなくなった。



「恵美花は、なにが食べたい?」
  最初に話を切り出したのは祐樹だった。
  誰にも愛される存在である祐樹。人それぞれに合った対応の仕方を編み出す。緊張して喋れない子には優しく話しかけ、元気で活発な子には程よく冷静に。この子は本当に賢い。
「り、りんご飴…食べたい」
  赤面しながら小さく呟いた。
  てか、姉妹揃ってりんご飴好きなんだな。
「じゃあ、りんご飴買おっか。お金は私が出すよ」
「え、い、いや、エミが出すよ!」
「いいの。私、たくさんお金持ってるからさ」
  強がって笑ってみせた。ほんとはそんなに持ってないけどね。
  でも、嬉しそうにりんご飴を眺める彼女の笑顔を見ると、別にお金なんて関係ないって思っちゃう。
  こうやって弟にもお金がかかってしまうんだ。
  それから、花火の開始時刻まではあっという間に時間が過ぎた。終始彼女がモジモジしていたのが気になったが、それ以外は特に何事もなく花火の時間を迎えることができた。
「あの…2人に、お話があるの」
  合流場所に着き、みんなを待っている時。
  彼女が口を開いた。
「どうかしたの?」
  祐樹も心配そうに尋ねる。
「これ……届けてくれてありがとう」
  バックから、日記が出てきた。
  あの時…渡したやつだ。
「どういたしまして」
  話が終わったのかと思い、歩き出そうとすると…。
「今日、みんなを誘ったのはね。エミなの」
  服の裾を引っ張られ、止められた。
  …恵美花が、みんなを誘った?
「エミは…みんなのことが大好き。」
「恵美花、急にどうしたのーーー」
「エミはね。怖かったんだ」

「あの日、目の前から車が走ってきた時。エミ、死んじゃうのかもって思った」

  ………え………?
「えみ…か…ちゃん?」
「エミは運良く生きてた。でも…目を覚ましても、おねーちゃん達は素直には喜ばなかった」
「恵美花…?」
「エミは……酷いことをした。ごめんなさい」
  突然、彼女は私に頭を下げた。
「………っ」
「こんなに酷いことをしたのに、エミと……私と、真剣に向き合ってくれて、ありがとう」

「………コロネのおねーちゃん」

  言葉が出なかった。
  体も動かなかった。
  一瞬、呼吸を忘れた。
  周りの人混みの声が聞こえなくなった。
  そして、彼女の言葉が……胸に響いた。
「恵美花ちゃん………!」
  それは、言わずとも理解ができた。
  彼女が帰ってきたのだ。
「恵美花…!」
「えへへ…コロネのおねーちゃんが届けてくれた日記を読んだ時、急にビビッと来たんだ〜」
  自然と涙が溢れる。
  彼女の体を抱きしめた。
  小さくて、暖かくて。
「…お帰り。恵美花ちゃん。」
「ただいま。コロネのおねーちゃん」

  私達の後ろで花火が打ち上がる。胸に響く重低音。眼に映るのは私に微笑む彼女の顔。
  やっと、呼んでもらえた。
  健斗と菜乃花、美優に祐樹。
  みんなで、取り戻したんだ。
「…よかったな」
  突然、後ろから健斗の声がした。
「健斗!?」
「ずっと、遠くからみんなで見てたぞ」
「すみません。あたし達は祭り行く前から知ってたんです」
「あんたと祐樹君は驚かせようと思ってね。…というか、エミちゃんが自分でしっかりと話したいって言うからさ」
  みんなと別れる前、終始みんながニヤニヤとしていた理由がなんとなく分かった気がする。
「…よかった。記憶が戻って。」
「病院の先生もね。奇跡的だってさ」
  菜乃花の安心したような笑顔。
  いつぶりだろう。

  夜空に打ち上がる花火が私たちを祝福しているようだった。

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