明日はきっと虹が見える

モブタツ

4ー9

『…なんかこう…記憶を呼び起こすアイテムみたいなものがあればいいんだけどな…』
『そんな魔法みたいなアイテム、あったら苦労しないよ』

  そんな、魔法みたいなアイテムを見つけてしまったかもしれない。
  それを持ち主に届けるのは私の義務だ。
  ……だって、私は約束したから。
  見つけたら連絡するって。言ったでしょ?
  インターホンを押してしばらくするとドアが開いた。
  中から出てきたのは、菜乃花だった。
「…え?どうしたの?」
「急に押しかけてごめんね。恵美花ちゃんに渡したいものがあってさ」
「エミちゃんに?」
「なのかー?だーれ?」
「ほら、一緒に祭りに行ったお姉さん」
  二階からひょっこりと顔を出した。
「あ!こんにちは!」
  少しだけ、笑ってくれた。
「こんにちは」
「とりあえず上がってきなよ。あんたの家からうちまで割と距離あるでしょ?せっかく来たんだし、少しくらいゆっくりしてきな」
  最初は要件が終わればすぐに帰ろうとしていたけど….。
「焼きたてのチョココロネ、持ってきてあげるからさ」
  その言葉で、お言葉に甘えようと決めた。

「入って」
  菜乃花の部屋に入る時が来るなんて思ってもみなかった。
  なにせ、彼女は私をいじめる身で、私は彼女にいじめられる身だったのだから。彼女の家に私が自らの足で向かい、彼女が私を家に招き入れるなんて、そんなことが起こっていいのだろうか。
  菜乃花の部屋は…別に部屋がピンク色だとか、ぬいぐるみが置いてあるとか、逆に男性アイドルグループのポスターが貼ってあるとか、特にそういった特徴はなく、正直中性的な部屋だった。
  ただ、女の子らしい香りのする部屋だ。
「何立ち止まってんの?ほら。座りなよ」
  ベットの前にある小さな机にお茶が置かれた。
  そして、焼きたてのチョココロネがジュクジュクと音を立てていた。
「ありがとう」
「いいのいいの。それで、渡したいものって?」
「…これなんだけど」
  カバンから日記を取り出す。彼女はそれを見た途端に顔色が変わった。
「それ……エミちゃんの日記……!?」
「中、見ちゃった。恵美花ちゃんのもので間違えないと思う」
  そして、"あの"ページを開いた。
「恵美花ちゃん…さ。私と菜乃花のこと、心配してたみたいだよ」
「………」
  彼女は黙って読み続ける。
  時計の針の音だけが部屋に響き渡る。
  ……静かだ。
  2人の人間がいる空間だとは思えないほどに。
「………………っ」
  小さく息を吸った音が聞こえたのは、数十秒後のことだ。
「…………はぁ……」
  そして、大きくため息を吐いた。
「エミちゃん…本当ににうちのこと、よく見てんだから…」
  日記を静かに閉じる。
「ありがとう。これは、うちが責任持ってあの子に渡しておくよ。そして、あの子に伝える」
  私に対して、彼女は優しく微笑んだ。

「あの子にとってあんたが、どれだけ大切な存在なのかを。ね」






  家に帰ると、祐樹が宿題を終わらせていた。
  綺麗になった部屋に満足し、図書館で勉強するのはやめたらしい。
「まだ半月も夏休みあるのに、よく終わらせたね」
「ねーちゃんが小学生の時に宿題やらんくて…怒られとったじゃろ?」
「う、うん」
「あれ見たら、いやでも『やらんと』って思うじゃろ」
  あー…見られてたか。
「それで、どうじゃった?」
「菜乃花が渡してくれるって。お姉ちゃんから渡したいんじゃと」
「ほうか…恵美花ともう一回くらい遊べんかね…」
「祐樹、だいぶ振り回されとったけど、ええの?」
「でも、僕と仲良くしてくれるんじゃけん、ええことじゃろ?」
「……優しいね。あんたは。」
  スマホがバイブでメッセージの受信を知らせる。
「ねーちゃんに似たんよ」
  ポケットからスマホをとり出す。
  ……え?
「え、祐樹、もう一回言って」
「もう言わんわ」
  スマホに気が行っていて全然気づかなかったけど…なんか言われたのかも。
『月末の花火大会、よければあんた達も一緒に行かない?その時は、浴衣貸すからうちに来なよ』
「祐樹」
「ん?」
「あんたの願い、叶うかもよ」

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