明日はきっと虹が見える

モブタツ

4ー6

  インターホンが鳴り、ドアを開ける。
「お姉さん、こんにちは」
  小さな彼女はぺこりと頭を下げる。
「よっ」
  隣にいた大きな彼は、例の代わりに手のひらを見せた。
「いらっしゃい。上がって」
  彼を家に招き入れるのは何度目だろうか。まぁ、今はそんなことは気にしない。
  お邪魔します、2人で声を合わせて部屋に上がる。健斗と恵美花の手が繋がれているのを見て、少しだけほっこりとしてしまった。

  家に来た理由は分からなかった。ただ「お前の家に恵美花ちゃんと一緒に行きたい」とだけ、健斗から連絡があっただけ。
「恵美花ちゃん、どうかしたの?」
  モジモジと俯きながら時々辺りを見回す。健斗にここに来た理由を聞く前に、彼女が気になってしまった。
「…ゆーき君、今日はいないの?」
  …そういうことか。
「今は、図書館に勉強に行ってるよ」
  モジモジが、収まった。
「そうなんだ!」
「そろそろ帰ってくると思うよ」
「え!?」
  今度は顔が赤くなった。
  この子、すごく分かりやすいな。
「恵美花ちゃんは本当に祐樹君のことが好きなんだねぇ」
「う………ケンちゃんはだまってて!」
「だま……っ!?す、すんません…」
  え、弱っ。
  変な上下関係が垣間見えてしまった気がする。
「もしかして、祐樹に会うのが目的だった?」
「いや、そうじゃないんだよ」
  健斗が恵美花に「ほら、言うんでしょ?」と彼女の肩に手を乗せた。
「あの……えっと……お姉さん…」
「は、はい。なんでしょうか」
  なんか、改まって呼ばれると緊張するな…。
「その…一緒に…遊ぼ…?」
  ………え?
「え……」
  そ、それだけ……?
「いい…けど…」
  本当に、それだけでいいの?
「やったー!!!」
「な?こいつなら大丈夫って言っただろ?」
「うん!ケンちゃん!お姉さん優しかったよ!」
「健斗、これはどういう…」
「恵美花ちゃんがプールに行きたいんだって。せっかくだからお姉さんも一緒にってさ」
  あまりにも思いがけない誘いに大切なことを見落としてしまっていた。

  私を、選んでくれたんだ。
  恵美花ちゃんが。そして、健斗が。
  私を選んで、誘ってくれた。

  心が躍る。顔には出ていなくとも、心の中は大騒ぎだ。
「…ありがとう」
  自然に言葉が出た。
  私を選んでくれて。
  深い意味を込めた。


「ただいま〜…あれ?靴が多い…」
  玄関から独り言が聞こえたのは数分後のことだった。
「ゆ…!?ゆゆゆ……ゆーき…くん…」
  そんな彼女の顔は、祐樹の声を聞いた途端に真っ赤に染まった。
「おかえり」
「ただい…あ、健斗さんに」
「こ、こんにちは!」
「…こんにちは」
  恵美花ちゃん、声裏返ってるよ。
「祐樹君、お邪魔してます。図書館で勉強なんて、偉いなぁ」
「まぁ、色々とありまして」
  靴を脱いだ祐樹はさりげなく恵美花の隣に座った。
「…っっっ!!!?」
  背中がまっすぐに伸びて、呼吸が止まっている。
  わざとやっているのなら、祐樹はなかなか鬼畜だ。
「今日はどうしたんですか?」
「いやぁ…恵美花ちゃんと俺とな、祐樹君のねーちゃんでプールに行こうって話になってさ。…いや、話になってというか、誘いに来たんだよ」
  健斗はなぜ電話やメッセージで誘わなかったか。
  なんとなく、今の状況を見れば納得ができた。
「祐樹君も一緒にどう?せっかくこっちに来てるんだしさ!」
「いいんですか!?海じゃないのなら、是非!」
「…っ!?」
  この流れを読んでたんだ。
  恵美花ちゃんの脳を刺激するためなのか、はたまた彼女をからかうためなのか。
  わざとうちに来て、自然な形を装って祐樹もプールに連れて行く。
  なかなかいい作戦じゃん。
  …やっぱり、彼はいつも私の上に立っている。

『痛い!痛い痛い!痛いよぉ…!助けて…!』

  彼女の悲痛な叫びが聞こえる。
  あの時の私の行いと、今の彼の行い。
  やっぱり、彼は凄い。
「祐樹君。恵美花ちゃんのコップ、空だから麦茶入れてくれる?」
  彼の周りにいる人は…。
「はい。恵美花」
「あ、あり…がとう…」
  自然と笑顔になる。
「お前、また暗い顔してんな」
「へ?」
「遊びに行く約束をしたんだから、もっとワクワクしてる感じ出せよ」
「なにそれ…変な表現」
  お互いの顔を見あってクスクスと笑う。
  …そうだ。
  前の私とは違う。
  私「なんか」ではなくて、私「が」彼の隣を歩くんだ。
  彼と一緒にいるから、前を向くことができたんだ。
「じゃあ、明日な」
「明日!?」
「うん。明日。祐樹君、予定はある?」
「いえ。行けますよ」
「じゃあ、決まりだな!」
  時々彼に振り回されることがあるけど、それもまた楽しい。
「私の予定は聞かないの!?」
「お前、どうせ暇だろ?」
「…もう、私の家出入り禁止ね。恵美花ちゃんはいつでも遊びにおいでね」
「うん!じゃあ、次はケンちゃん連れてこない!」
「ま、待て!ごめんって!」
  こうやって言い返してやれば、私も彼を振り回せるのだから。





  生活がかなり忙しくなってしまい、現在、投稿日がまばらになってしまっています。
  しばらくは毎週木曜日のみの投稿にさせていただきます。

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