明日はきっと虹が見える

モブタツ

4ー5

  しばらく経って。
  荷物をたくさん持たされた祐樹と、身軽な恵美花が帰ってきた。妹の荷物を持たされた健斗のように、疲れ果てた顔をしている。
「つ、疲れたぁ………」
「ありがと♪ゆーき君♪」
  記憶を失いながらも彼に恋をしている恵美花。記憶を失う以前はモジモジしていたが、今ではこんなにも大胆に行動している。記憶を取り戻したらどんな反応をするだろうか…。恥ずかしさで死んでしまうのでは?
「お疲れ様。妹が迷惑かけちゃったみたいだね」
「い、いえ!そんな…気にしないでください」
「ほら」
  菜乃花はもう1つの小さなりんご飴を渡した。
「…!」
  嬉しそうに受け取るも「え、いいのかな…」と戸惑いを隠せていないようだ。
「あ、ありがとうございます」
「これからも妹と仲良くしてやってね」
「は、はい!こちらこそ!」
  あくびをする健斗。
  タピオカドリンクを片手に戻ってきた美優。
  りんご飴を渡して微笑む菜乃花。
  貰ったりんご飴を嬉しそうに見つめる祐樹。
  遅れて帰ってきた恵美花。
  みんなを見て、私はきっと安心しているのだろう。
  気がつけば、自然と笑みがこぼれていた。

  みんなのことが好きだ。

  今、改めてそう思うことができた。
  世界が少しだけ輝いて見える。
  周りの提灯の光。人混み。聞こえてくるのは楽しそうな声ばかり。
「みんなと来れてよかったかも」
  私の声は、誰にも届いていないだろう。
「そうか。なら、誘って正解だったな」
  健斗にだけは聞こえていたのか。
「恵美花ちゃんが何か思い出してくれたら…なんて思ったけど、違ったみたいだね」
「あぁ…目的はもう変わったからな」
「新しい思い出を作る。欲張るならば」
「今までの思い出も取り戻す」
  そうだ。
  だから、今こうして。
  彼と共に。
「いやぁ…夏だな。太鼓の音も、子供の声も。この景色も」
  彼と、共に。
「そうだね。夏っぽい」
  同じ景色を……
「あぁ……そうだな」
  同じ景色を……?
「健斗?」
  同じ景色を……見れているのだろうか。
  健斗は私が見ている景色のその先を見ている。
  例えではなく、彼の目は遠くを見ていた。
  それも…とても寂しそうに。
「健斗?健斗ってば」
「ん?あ、あぁ。ごめん。なんか言った?」
「いや…なんか、寂しそうだったから」
「寂しそう…か。お前にはそう見えたんだな」
「えっ?」
「まぁ、そうだな。寂しい。今を楽しんでも、楽しまなくても、時間は過ぎていくんだよな」
「どうしたの急に」
  ちょっとお爺さんみたいだよという私の言葉に、彼は笑い出した。
「いやぁ…ずっとこの時間が続けばいいのにな」
「そうだね」
「お兄ちゃん…」
  タピオカドリンクを飲み終えた美優が、隣で寂しそうに健斗を呼んだ。
「美優、全制覇したのか?」
「…おかげさまで。」
「そうか!こりゃ、帰ってからの体重測定が楽しみだな!」
  …あれ?
「…そうだね」
  美優ちゃん…元気がない……?
「美優ちゃん?」
「……すみません、疲れちゃって」
「…何に?」
  安堵する私をよそに健斗は静かに尋ねた。
「え?祭り。歩き回るのに疲れちゃった」
  彼女の言葉を聞いた健斗は、また、静かに俯いた。
「帰りも荷物持ってやるよ」
「やったー♪」
  なるほど、そういうことか。
  ニタニタと笑う美優を見る限り、荷物を持ってもらう作戦がうまくいっているようだ。
  深く考えた私が馬鹿だった。
  そう、深く考えすぎなのだ。
「みんなベンチに座り込んじゃったね」
  菜乃花が久方ぶりに口を開く。
  言われてみれば、残りの元気な人は恵美花くらいしかいない。楽しいことでも疲れはやってくる、か…。
「結構歩きましたね」
  りんご飴を食べ終わった祐樹がため息をつく。
「ご馳走様でした」
「いいえ」
「なのか、もう帰るの?」
「周り尽くしたし、そろそろ帰ろっか」
「えー!もっといたい〜!」
  見た目は小学5年生でも、やっぱり中身は2年生みたい。
  彼女が駄々をこね始め、姉が頭を抱える。そんな光景をみんなで笑って見ていた、その時。
「健斗?」
  女の子の声が、彼を呼んだ。
「ん?おぉ。明里(あかり)じゃん。祭り来てたんだ」
「明里!やっほ〜」
「菜乃花!2人とも本当に仲いいんだねぇ」
「ちょ、そんなんじゃないって!」
「美優ちゃんに恵美花ちゃんも、こんばんは♪」
「明里さん、こんばんは」
「おねーさん!こんばんは!!」
  少し大人っぽい雰囲気を感じる、お淑やかな女の子だった。
「…あの人誰?」
  周りには聞こえない小さな声で、美優に尋ねる。
「明里さん。お兄ちゃんと同じ中学出身の、現在同じ高校の人です。お姉さんと同じクラスじゃないですか?」
  あんな子いたっけというのが第一印象である。
「えっと……こんばんは」
  明里は私の方に向いて、確かに私にそう言った。
「ど、どーも」
「同じクラスだよね?私のこと分かる?」
「えっと…ごめんなさい」
  本当はもう死んでる予定だったから、周りの人の名前に興味がなくて。なんて言えるわけがない。
「こ、こちらこそごめんね。突然変なこと聞いちゃって。えっと…あなたの名前は…」
「いいよ。私のことは気にしないで」
「え?」
  せっかく健斗と楽しそうに話していたのに、私が邪魔してしまった感じがした。

  私の名前は、私が周りから感じなかったものと同じだ。

  それは、私が今一番求めているものかもしれない。

  私の名前は、時々人を助けることがある。

  それは………………今の私に、相応しくない。

  健斗と明里が楽しそうに話している。
  お互いを茶化しあって、笑っている。
  そんな光景を、私は。
  ただ、黙って見ていることしかできなかった。

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