明日はきっと虹が見える

モブタツ

四章[切なく、そして儚く]1

「おじゃまー。…んー…ただいま?どっちなんだろう」
「ただいまでいいんじゃない?」
  夏休みが始まり、家に祐樹がやってきた。また、しばらく家の中が賑やかになる。
  そして今日はもう1人、来客がいた。
「ただいまー」
  慣れた様子で私の家に上がる彼。
「…健斗は『ただいま』じゃないから。」
「ナイスツッコミ!」
  ニッと笑う彼に、また、つられて笑ってしまった。


「んじゃ、作戦会議といこーか」
  私が作ったミートドリアを突きながら、彼は真剣な表情で言った。
「祐樹君、話は聞いてると思うけど」
「はい。伺ってます。記憶を失ったそうで」
「あぁ。なかなか解決しなくてなぁ…。わざわざこっちに来てもらってるのに、なんだか付き合わせて申し訳ないな」
「いえ。構いませんよ。大切な友達ですから」
  全く、どこでそんな言葉遣い覚えたのか。
  真面目で優しい感じがすごく出ている。
「お前の弟、めっちゃしっかりしてんじゃん」
「何?『お前とは大違い』って顔してるけど」
「そんなこと、思ってねぇよぉ」
  ヘラヘラと笑う顔にパンチを入れたくなる。
「ねーちゃん、ほんと料理上手いね」
「祐樹君のねーちゃんって、広島にいる頃から料理してた?」
「いいえ。正直、こちらに遊びに来るようになって、驚きましたよ」
  …弟を使って私のことを調べるな。
「へぇ……お前、意外と努力家なのな」
「食費の節約をしたいだけ」
  私の言葉を聞いた彼は、突然本棚の方を指差した。
「料理の本買ってるから、実際意味なくね?」
「ちょ…!?勝手に見ないでよ!」
  美優とパスタを作った時のことを思い出す。
  そういえば…健斗は辺りをキョロキョロと見ていたような。
「わりーわりー。そろそろ本題に入らないとな」
「恵美花ちゃんのことね」
「あの…僕から提案があるのですが」
  引っ込み思案な祐樹が、珍しく自分から意見を述べようとしているところを見て、少しだけ呆気にとられてしまった。
「お?なんだ祐樹君」
「記憶がなかなか戻らないのは、姉から聞きました。これは簡単には解決しない問題だということも。それなら、夏休み中に色々な場所に遊びに行ってみるのはどうでしょうか」
「初めからそのつもりではいたけど…なるべく多く遊びに行くってことか」
「まぁ、そういうことですかね。ねーちゃん、どう思う?」
  健斗の意見に少し似た、彼の意見を呑む。
  それが、正解なのかは分からない。
「…正直、何が正解かは分からない」
  でも。
「でも、それが一つの打てる策なら、やるしかない」
「前向きだな。俺もそう思う」
「夏休みは遊ぶ機会が多いですし。僕も…恵美花と、遊びたいですし」
  ………え?
「今、なんて言った?」
「恵美花と遊びたいって言ったの。何か問題でもある?」
  ツンデレなのか、目を合わせずに、そっぽを見てそう呟いた。
  もしかして、脈あり…?
「いや、ちょっと意外だなーって思っただけ」
「…?」
「それで、どうする?何からやったらいいんだろうな。ざっくりとした案は出たとして、まずは何から手をつけたらいい?」
「うーん…とりあえず、夏といえば何か、どんどん出していこうか」
  全員が、同時に手を合わせて「ごちそうさま」とつぶやいた。
「肝試し」
「健斗、なんでいきなり肝試しが出てきたの?」
「海水浴…?」
「祐樹、海苦手じゃなかったっけ?」
「怪談話」
「健斗、それじゃあ思い出にならない…」
  祐樹は「うーん…」と考え込み、固まってしまった。
「じゃあ、みんなで集まって怖い話の番組見るとか?」
「健斗はなんで怪談系しか浮かばないの」
「…そういえばそうだったな」
  いや、気付いてなかったのかよ。
「シンプルに、夏祭りとか、プールとか、花火とか。難しく考えなくていいんじゃない?」
  突然の鋭い意見。
  祐樹が額に手を当てて考えた結果がこれだったようだ。
「まずは、夏祭りかな」
「近いうち、ここら辺で夏祭りがあるな」
「あー、地元の子どもたちが有志でお神輿とかやるやつ?」
「それ。恵美花ちゃんは毎年、エンジョイ勢だぞ」
「お神輿をやらない…ってことですか?」
「そういうこと。俺、毎年恵美花ちゃんに連れて行かれるんだけどさ。金がすっ飛ぶんだわ。だから、今年はお前に面倒見てもらいたい」
「いや、それじゃあ私の財布が…」
「2人とも、今はお金の話してる場合じゃないですよ」
「「…すみません」」
  でも、よく考えたら、これはチャンスだ。
  記憶を取り戻せるかはさて置き、思い出を作るチャンス。そして、夏休みを有意義に過ごせるチャンス。恵美花ちゃんと一緒にいられるチャンス。そして…。
「お前の弟って、ほんとしっかりしてるよな」
  いつのまにか全員の皿を台所に持って行き、慣れない手つきで洗っている姿を見て、彼は関心したように呟いた。
「これじゃあ、どっちが上かまじでわからねーな」
「…私の方が、お姉ちゃんなんだからねっ」


  さて。
  今の私がするべきことは、何だろうか。
  夏を楽しむべき?
  難しく考え込んで答えを探す?
  それとも、自分の願いを全力で叶える?
  どれが正解かなんて分からない。
  きっと、答え合わせもできないだろう。
  私が生きるこの時間に、正しい道がなんなのかなんて、わかる人はいないのだから。
  でも、これだけは分かる。
  彼と一緒にいるべきだと。
  彼と、同じ空の下を歩き、恵美花を救うべきだと。
  もし、私が、私自身の願いを叶えることを選んだら。

  それは、私が知らない"アイ"を知ることに、なるのかもしれない。

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