明日はきっと虹が見える

モブタツ

二章[はめられた私]1

ゴールデンウィーク。学生なら大抵の人々は楽しみだろう。もちろん、私もそのうちの一人である。
  なぜなら、弟がやってくるから。
  そして、祐樹の願いを叶えてあげられるからだ。

  ゴールデンウィーク数日前のこと。私は教室で頭を抱えていた。
(千葉の水族館って…なんでわざわざ県外の水族館に行きたがるんじゃ…)
  金銭的な余裕がない私に対してかなり鬼畜な弟のオーダー。交通費などの雑費だけなら余裕なのだが、水族館の入場料を含めてしまうとかなりの出費になってしまうため、私の財布は破壊されてしまうのだ。
「はぁ…」
  メッセージアプリを開く。
『なして千葉なん?県内の水族館じゃだめなんか?』
  率直な意見を祐樹に送信。何があったのかは知らないが、祐樹が通っている小学校は放課中は預けるという約束の元なら学校にケータイを持って行って良いという校則が出来たらしく、昼過ぎになれば返信が届く。こちらからしたらかなり助かるが、本当に何があったんだろうか。
  返事が来たのは放課後。昼頃送ったメッセージに返信してくれたので、まぁ返事が来るのはこれくらいになるだろうと予想はしていた。
『祐樹:そこ、シャチのショーが見れるんよ!広島おったら絶対見れんけん!そっち行ったら行っときたいんよ!』
  …なるほど。弟が千葉の水族館にこだわる理由が何となく理解できた。
  そう、理解できた。理解はできたのだが。
  金銭的に余裕がないのには変わりはない。
  どうしようもない状況に陥った私は頭を抱えるばかりであった。
「お前、今日ルピナス行ける?」
  そこに現れた救世主が、健斗だった。
「うん…」
「なんだぁお前、まーたなんか悩んでんのか?結局前回は何を悩んでんのかよく分からないまま終わったし。今回は俺に話してみ?」
  話したところでどうにもならないだろう。と、半分諦めモードで私は悩みを打ち明けた。
  しかし。どうにかなった。
「俺の友達がそこのチケット5枚持ってるぞ」
  まさかこんな形で悩みが解決してしまうとは思ってもみなかったが、問題はあっさりと解決してしまった。
「自分は行かないから、いらないかって俺に渡そうとしてたところなんだよ。ほんと、運良かったなお前」
  どういう経緯でチケットを手に入れたのかは謎だが、この際とことん甘えさせてもらおう。今回は本当に運が良かった。

  そして、今に至る。
  ゴールデンウィーク1日前になってようやくゴールデンウィークが楽しみになった。
  あの可愛い弟(仮)を喜ばせてあげられるのだ。まぁ、本当は家出をした贖罪のつもりなのだが。
  ルピナスに健斗と向かい、チョココロネを買う。おばさんにこの前のお礼(娘、泊めてくれてありがとうね!ってやつ)を言われ、恵美花自身からも頭を下げられ。屈辱的な顔をしながらも菜乃花「さん」も頭を下げていた。
  そんなに大袈裟な。1泊くらいなら全然気にしないのに。と、思いながらもサービスのチョココロネはありがたくいただくことにした。
  チケットが5枚もあるとなると、私と祐樹が行っても三枚余る。というわけなので、ルピナスで健斗、美優、恵美花も同行することで話がまとまった(菜乃花「さん」はやることがあるそうなので妹をよろしくと言って自分は断念していた)。これが弟に友達を紹介する良い機会になると思ったので、私も快く承諾した。チケットは健斗の物だけど。
  ついに明日、祐樹がやって来る。
  私ってブラコンなのかな…楽しみでしょうがない。
「お姉さんって、私のお兄ちゃんに似てますね」
  隣を歩いていた美優は、笑いながら言う。
「な、なんで?」
「弟さん来るの、すごく楽しみ!って顔してますから。お兄ちゃんとタイプ似てるなーって思って」
「美優、もしかして俺のことシスコン…みたいな言い方してる?」
  顔に出てたか。
「あ、気を悪くしたらごめんなさい」
「どういうことだよ!」
  こんな奴と一緒にして。みたいな?
  確かに健斗に似ているのかもしれない。普段、なかなか物をねだらない祐樹が私に物をおねだりする時、私はとても弱い。なんでも買ってあげちゃう。そして財布のお腹が減る。
  そこら辺はやはり、少し前に健斗にパンを買わせていた美優に少しだけ似ているのかもしれない。
  美優が健斗に見せた柔和な笑顔が、夕日に照らされ、私の視界をぼんやりとさせた。



『ほんまに!?じゃあ、行けるん!?』
「ほんまよ。こっちに来たらちゃんとお礼言いんさいよ?入場料って結構高いけん」
『言う言う!ほいで、誰か一緒に来るんか?』
「お察しがいいねぇ。弟よ。健斗と、美優ちゃんと恵美花ちゃん…って言っても分からんか。とりあえず、高校二年生男子一人。その妹一人。あんたと同い年の女の子一人。私と祐樹を含めた5人。チケットが5枚あったけぇ」
『そんなにおるんか!緊張するわぁ…』
  前も言ったけど、今時の小学生って緊張するものなのかな。
「大丈夫よ。みんな優しい人達じゃけん」
『…ねーちゃんが言うなら本当に大丈夫なんじゃろーなー…もう明日から待ちきれんわぁ』
「今日は早よ寝んさい。明日起きれんかったら元も子もないけんね」
『そーするわー。そんじゃ、おやすみ〜』
「おやすみ」
  電話を切ると、部屋は静かになった。テレビもつけていないので、私が声を出さない限り、私が何かをしない限りは音というものは生まれない。
  明日からこの部屋が少しだけ華やかになる。
  恵美花が泊まりに来た時のように、心地よい空間に変わる。
  こんなにゴールデンウィークが楽しみになったのはいつぶりじゃろーか。
  弟に早く寝ろと言ったくせに、私はその夜、眠ることができなかった。

  それは、弟以外にも頭の中から離れない人物がいたからであった。

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