うちの地元に現れたゾンビがカラッカラだった件について

島倉大大主

第二章 私と618:4:万端 六月二十二日、午前三時十一分から六月二十五日、午前八時三十一分まで 2

 ところで、読者諸君の中には首を捻る人もいるかもしれない。

 所謂、『お役所仕事』は、手続きに時間がかかるものではないか? と。

 あまり知られていない事だが、Yが言った通り、緊急事態の布告がなされた後に、A総理は『緊急事態につき事態収拾まで地方が独力で人命に関して責任を持って行動する』という政令を公布している。

 これは読んで字のごとしの、ガバガバかつ前代未聞の政令なのだが、非常に効果があった。(作者個人としては、これだけでもA総理は歴史に名が残ってもおかしくないと考える。まあ、本当の所は、前述通り、人がいなかったので、何も決められない。だから、地方に丸投げする――という政令だったのだろう)

 これに基づき、私の地元の県知事は自分の責任において、命令系統を簡略化。対策本部に情報を集中させる事に成功した。手続等も県知事の許可が、分単位で下りた。(勿論、簡潔かつ明快な説明が必要ではあった)

 よって、ボランティアの募集は、こんな短時間で実行に移せたのである。

 とはいえ、『非日常的な募集』に『短時間』で、しかも『午前中』に人が大勢集まる、なんてことは、私達は考えていなかった。十人、できれば二十人人くらい来てくれれば、『切っ掛けとしては十分』なんだがなあ、などとXや他の面接官と談笑していたぐらいである。

 だが――職員が、真っ青になって私達の控室に飛び込んできた――と書けば読者諸君は想像できるのではないだろうか?

 面接会場は、某会議室から、某大会場(確定申告のシーズンによく使われる場所である)に変更になった。面接を待っている人の為に、マイクロバスを数台派遣してもらい、HPを更新。
 夕方の六時までに、我々四十人(急遽、面接官も増やした)で面接した人数は、七百八十一人。翌日の二十三日は二千人近くに膨れ上がった。年齢層も、小学校高学年から、九十代の御老人まで、男女比も半々、外国籍の人も大勢いた。

 彼ら彼女らの志望動機は、殆ど同じだった。


『待っているだけだと、気が変になりそうだ。だから、何かさせてくれ』


 我々は当初の考えを改め――結果、全員をボランティアとして雇う事となった。


 私の地元は、中心都市はそれなりだが、車で三十分も走れば、田畑と建物が入り混じり、山に面した場所も多い田舎だ。だから、監視カメラ等に頼った『見張り』には限界がある。
 結局は『人海戦術による見張り』が一番効果的であり、それに関しては、人は幾らいても多すぎる事はないのである。

 よって、ボランティア達は、住んでいる地域ごとにチームを組んでもらい、互いの連絡手段を確保、最初期に配置された『地元民の見張り』と連携してもらった。
 これにより異常があった際に、迅速に中央に情報が伝わるようになった。

 予行演習を行った際は、対策本部に情報が上がってくるまでに一分半。そこから『発見の報』が地域民に情報が開示されるまで、三分。チームは全部で二百十八あったので、そこから同時に連絡してもらう実験も行ったが、情報の精査まで五分弱。
 本番では、『動揺』や『アクシデント』で、最大三倍くらいまで時間がかかるかもしれないが、それでも、かなりのスピードだったのではないかと考える。

 また、これに連動して、警察官が現場に急行する予行演習も行った。

 先に述べたように、警察官は我々の用意した装備を着用し、二人一組で巡回していたが、増員をかけ、県境を重点的に、数チームで二十四時間体制で交代で巡回することに変更した。

 ここで問題になるのは、震災時を思い出していただけるならば、すぐに判ると思うのだが、避難者による混乱、車の渋滞等が警察官達を動けなくしてしまう可能性だ。
 これに関しては、例えば誘導する警察官を送る、などという本末転倒な事をやっても仕方がないので、簡単な解決方法、『徒歩による急行』を行ってもらうことになった。

 これは応援等が迅速に駈けつけられない等、デメリットはあるのだが――警察官達が、束になっても『数万体のゾンビの群れ』をどうこうできるわけはないのであるから、あくまでも、『現場を仕切って、殿になってもらう』ための急行だったので、問題はないと判断された。
 そして警察官には、『自分の命を最優先して行動せよ』との厳命が下っていた。(重ねて言うが、迅速な避難が困難な人達は、すでに東京とは反対方向の北部に避難が完了していたのである)

 この体制が完全に整って、滞りなく動き出したのは、二十四日、午後十一時。

 そして『ゾンビ発見』の一報が入ったのは、六月二十五日、午前八時三十一分。

 まさに、ギリギリであった。

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