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うちの地元に現れたゾンビがカラッカラだった件について

島倉大大主

第二章 私と618:1:発生時:六月十八日 昼 十二時半辺り

 作者(以下、私)がテレビの報道でゾンビを見たのは、六月十八日の昼の民放バラエティであった。

 浅草の土産物を紹介している最中のことであり、リポーターが真っ先に気づいたので、一時期ネットではテレビ局が関与しているという、くだらない噂が流れたりもしたあの映像を、私はライブで見ていた。

 ここで偶然映し出されたゾンビは中年の男性で、上下青のジャージであった。(動画サイト等で、この番組は公式にアップされているので、興味のある方は、『青ジャージゾンビ』で検索されたし)

 彼は、観光客の一人に組み付いた。

 悲鳴が小さく上がり、リポーターが振り返り、硬直する。続いてカメラマンかディレクターの、小さく、どうした? という声が入った。
 リポーターは、二回振り返り、次第に騒然とする周囲の群衆に歩み寄った所で、中継が唐突に終わった。
 スタジオに映像が切り替わると、ゲストの女性タレントが、司会者に、あれって――と言ったところで、ガチャガチャと雑音が入り、(多分中継先からの)悲鳴が響き渡った。
 司会者、出演者全員が顔を見合わせ、約一分絶句する中、スタッフの声が飛び交い、中継いけるのか、という声を最後に突然『しばらくお待ちください』の画面に切り替わった。

 私は昼休み中であり、社員食堂で食事をしていた。メニューは日替わりランチで、メインはアジのフライだった。タルタルソースがやけに酸っぱかったと記憶する。

 昼間っから、と意味不明な言葉を発し、男性社員の一人がチャンネルを変えた。
 すると、どのチャンネルも報道特番を放送していた。(社員の一人が、某チャンネルも午後の洋画劇場を中断して報道特番をやっているのを目にして、マジかと呟いたのには、正直笑ってしまった)
 浅草、渋谷、銀座で『暴動』と『火災』が起きている、とキャスターは原稿を読み上げている。



 皆さんご存知の618事件の第一報である。


 皆がざわつく中、とにかく情報を集めるように通達し、午後の仕事を全て中止するべきかと重役連中に相談した。重役連中は異常事態である、ということは認めたものの、果たして仕事を中断するほどの事態であるのか、という点で意見が別れた。

 テロかな、と誰かが言った。報道の歯切れの悪い表現が、徐々に場の空気を緊張させていった末の発言であったのだろう。

 部下の一人がSNS経由で、かなり人が死んでるみたいです、といきなり言ってきた。
 重役の一人が、まさか×××××情報じゃないだろうな、ときつい声を出す。ちゃんと裏は取ったか? と別の重役。
 いやあ、とその部下は頭を掻きながら、苦笑いをした。
 その時、私の名前を呼ぶ声がした。

 外に食べに行っていた、秘書とその仲間たちが食堂に入ってきた。
 彼女は、ネット、系列会社、取引先、家族や友人等経由で、浅草、渋谷、銀座で火災と爆発があり、東京駅周辺で大パニックが起きている事が確定である、という情報を持ってきた。山手線と中央線、地下鉄も止まってるみたいです、とも言う。

 それは――と先程きつい声を出した重役が言葉に詰まる。
 すると、さっき叱られた社員が、あのう、と私の肩を叩いた。

 また、SNS経由であれですけど、どう見ても――その、ゾンビみたいなのが歩いている、って情報が流れてきてるんですが――

 ゾンビ? と誰かが馬鹿にしたような言い方をしたのを覚えている。
 その時、外食から帰ってきた重役の一人(私より年上の古参の一人で、ご隠居と呼ばれている)がスマホを持って、駆け寄ってきた。
 これを――と、彼は無表情で私達に画面を向ける。
 私達はSNSにあがった映像を立ったまま見た。
 それは、私の地元を救った価値のある貴重な動画だった。(後に保存した)

        ――――――――――――――

 渋谷のスクランブル交差点近辺を、近くの歩道橋の上から撮っているらしかった。
 車が数台転がり、ボンネットから白煙が上がっている。
 アスファルトに、大勢の人が倒れていた。辺りには真っ黒い液体が飛び散っており、血なのかガソリンなのか、それとも全く違う液体なのかは判然としなかった。
 動画のバックには、歩道橋の上にいる他の人々の声と、何処かの店舗のコマーシャル音声、破壊音らしき音が小さく時折入っていた。
 突然、甲高い悲鳴が上がり、続いて大勢の声と足音がし始めた。撮影者らしき人物の唸り声(男性である)、カメラが一瞬揺れる。(恐らく後ろから押されたのだろう)

 と、フレーム内左端に倒れていた女性が、ゆっくりと立ちあがった。
 糸の切れた人形のような動き、というのを私は産まれて初めて見た。左足に重心が寄っているようで、殆ど片足立ちだ。
 後姿だが、学生服らしきものを着ているようであった。
 女性は、のろのろと首に鉄でも入っているような、ギクシャクとした動きで、首を横に傾けた。
 と、その女性に、救急隊員らしき白衣の男性が駆け寄った。大丈夫ですか、とかなんとか声をかける男性に、女性はしなだれかかる――いや、正確に言えば、首筋に噛みついたのだろう。
 悲鳴が上がり、カメラが女性と隊員に寄る。
 血しぶきが上がり、隊員は女性の肩に手をかけ、引き剥そうとしているように見えた。

「ヤバい」

 この状況を象徴する一言を、撮影者は発した。
 カメラがさっと下がり、撮影者の靴がちらりと映った瞬間、動画は終了した。

        ――――――――――――――

 誰も何も話さなかった。
 私も頭の芯が痺れたような感覚を味わっていて、言葉が出なかった。
「まあ、ともかく――東京はもう駄目だな」
 専務が実に判り易い言葉を何とか発し、皆はやたらと頷いた。

 結局、午後の仕事は定時の時間を一時間早める、ということで再開した。
 だが、午後三時に携帯のアラームが鳴り、テレビで『緊急事態』が布告された。
 やむを得ず、震災の時と同様に、緊急連絡手段を確認した後、全員が帰宅措置となったのである。

 そういえば、大体その辺りから、電話が繋がりにくくなっていたように思う。

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