庭には、

古宮半月

4話 終りから始まりへ

彼女は、笠井鈴未は、俺に世界のことを語ってくれた。

話しは少し長くなるが
まず、この世界は、こちら(アンデレウェルト)と、あちら(ディーゼウェルト)の2つに分けられている。分けられている、というよりは、むしろ表裏一体、さっき言ったよう相互にダメージを与え合うとても密接な関係にある。
そして、こちらにはフレンカーパーと呼ばれるモノがいる、それらは、蟻程度の大きさから鯨程の大きさまでまちまちだが、一つ言えることは普通ではない、ということ。
あるいは、こちらではアレが普通だとも言える。
さっきの虎はまだ被害が少ない方だ、過去には町一帯を火の海にしてしまったやつもいる。
それをただ見ているだけの人類ではない。
我々のような特殊な能力を持った人間がこちらにいる本体と戦い、倒すことで被害を押さえる、あるいは防ぐことができる。
そんな、我々人類と化け物(フレンカーパー)との争いは、かなり昔から続いていて、少なくとも4000年以上も前からこの争いはあるのだが、あくまでそれは私が知る限りだ。
きっと、もっと前からあっただろう。
特に、日本で。
この小さな島国でその争いは、よく起こったらしい。妖怪大戦争なんてのがあったらしいが、何か関係あるのも知れないな。
あれは、映画だっけ?
まぁそんな、大きな争いは100年に一度起きるか起きないかの頻度だ。しかし、小さな戦いはほぼ毎日のように起きている。
それを、我々特殊能力者が日々戦い、君たちを守ってきた

「…と、いうわけだ。」

「何だか、思っていたよりも規模が大きいですね。」

「そうだぞ、大変なんだぞ、だから感謝したまえ。私達に。」

「まさか、毎日そんなことがあったとは、確かにありがたいことです。感謝します。」

「うんうん。」

「それと、まだ気になる点がいくつかあるんですが。」

「何だ?言ってみろ、答えられる限り答える。」

「そうですか。では、何故俺はこっちへ来たんでしょう?」

「あ、そうか一番大事なことを話してなかった。」

「大事なこと?」

「ああ、妖怪大戦争がまた起こるかも知れないってことを…。」


それは、昨日の夜中、正確には23時59分59秒に世界に激震が走った、実際は人では感知できないほどの僅かな揺れだったが、数秒間、地球全体が揺れた。
そして、同時刻、日本のとある田舎町にそれは現れた。それは大きな真っ黒な蛇のような姿をしていた。アルファベットのZのようなカタカナのヌをひっくり返したような形をしていて、背中には黒く大きな鈴が付いていた。
さらに、今日の7時頃、別のとある日本の町に灰色の同じ形をした、化け物が現れた。

こいつらが現れたのは今回が初めてではない、過去に起きた大きな争いの前にも現れた。
しかし、その争いの時に現れたのは3体居たそうだ。つまり、後一体現れる、その時が戦争の始まり。かもしれんな。
それと、もう一つ戦争の度にあったことがある。それは、時空間の乱れ。
それにより、フレンカーパー達のこちらへの影響が大きくなったり、君のようなこちらへ迷い込んで来てしまう者が出てきたり、世界に何らかの異常をきたす。
今回のそれが理由で君はこちらへ来てしまったのだろう。
「…ちなみに、お前AB型だろ。」

「え!いつ血液検査したんですか!?俺はまだ死にたくない!」

「死なない死なない。実は、こちらへ来る者には共通点がある。」

「その共通点がAB型?」

「あぁ、そうだ。お前の血液は取ったりしてない。」

「良かった、まだ彼女にも会ってないのに。」

「なんだ、お前にも付き合ってるやつがいるのか?」

「いえ、まだいたことありません。未来の彼女にという意味です。そして何故そんな意外そうなんですか?」

「そ、そうか。会えるといいな。」

「で、他にも何か共通点はあるんですか?」

「そうだな、噂で聞いたのは、ある遺伝子が関係してるとか、してないとか。」

「DNAですか。やっぱり血液を!」

「取ってないって言っただろ。それに風の噂で聞いた話だ。」

「そうですか。…他の人は?」

「他の人?」

「こっちへ来たのって、俺だけじゃないんですよね?共通点を持つ他の人はどこかにいるんでしょうか?」

「いる。かもしれないし、いないかもしれない。もし、いるとしたら他の私みたいな者に助けられてるだろう。いなければ、それが一番だ。いくら、記憶がなくなるとはいえ、なるべく巻き込みたくはない。」

「そうなんですか。」

「?、どうした?右手が疼くのか?」

「もう、そんな中二くさいことはしません。
ただ、俺も何か能力あるのかなと。笠井さんむたいに。」

「そういえば、お前が能力使ってるところ見たことないな。普通は、初めて能力使うとき、フレンカーパーに襲われ命の危険を感じたりして、無意識的に発動するはずなんだが。」

「もしかして、俺があの虎に会ったとき、笠井さんがやっつけちゃったからじゃないですか?」

「でもお前、あの時目つむってたよな?小学生の言うようなことだが、びびった、ってことは何かしら危機を感じたってことだよな?」

「確かに…。じゃあ、俺の能力って?」

「まぁ、どうせ記憶なくなるんだし、能力使うこともないから、気にすんなって。」

「はぁ、そうですか…。」
それから、世間話や、しりとりなんかをして、時間を過ごした。
窓から差し込む光はもう、かなり奥まで伸びていた。

「そろそろ話すのも飽きてきたし、帰ったらどうだ?」

「まだ、聞きたいことがたくさんあるんですけど。どうせ、記憶には残らないからって言うんでしょう?」

「わかってるじゃないか。しかし、巻き込みたくないのも本心だ。」

「そうですね。今日はご迷惑をおかけしました。疲れも限界なので、家に帰ってゆっくり休みます。」

「そうか。正面の入口の扉を、帰りたい場所を思い浮かべて開けば、その先はもう家だ。それと、ミサンガを返してもらおう。」

ミサンガをはずし、彼女の手に渡す。
俺はソファーから腰を上げ、靴を脱いでから扉の前まで行くと、最後の言葉はなんて言えばいいのか迷ってから
「では、ありがとうございました。また、会えるといいですね。行ってきます。」

「行ってきますって何だよ。じゃあな。」

笠井さんはあんな顔もするのか…。
でも記憶には残らない。だから
思い出にしておこう。

そして扉の先に一歩踏み出すと。
自分の部屋だった。

扉が閉じられるのと同時に、記憶が消されていく。

「ただいま。…あれ、何言ってんだ?それより、学校の準備しないと。」

それから、学校には普通に間に合って、普通に授業を受けて、友達と遊んで、帰ってきた。
普通、それは日常、しかし、それは今と過去からなる記憶の積み重ねでしかない。

例えば、記憶が消されたら、3秒後に怪獣が現れたら、日常というのは簡単に崩れ去ってしまう。

そして、日本人はそういった儚いものが好きらしい。だから望んでいるのかもしれない。非日常を。

「ただいまー」

「お帰り、そこにあるおばさんが買ってきてくれたクッキー、食べてもいいよ。」

クッキーは普通に美味しかった。
ニュースでは、町に大きな虎が現れて、なんたらかんたら。
何故か聞き覚えがある話だった。
「デジャブってやつか。非日常、出会ってみたいな…。」



そういえばクリスマスプレゼントもらってないな。
と思った非日常な冬休みの始まりであった。


コメント

  • 姉川京

    右手が疼くは草w

    0
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