命集めの乱闘〈コスモコレクトロワイアル〉

風宮 詩音

第21話 通りすがりの少年と死のループ

なんか一段落してやりきった感がすごいのでちょっと買い物にでもいこうかと大通りに出る。何かこだわりがあるのか昔ながらのスタイルの八百屋で8分の1に切ってあるスイカを手に取る。今日安いのは人参ジャガイモ玉ねぎ……


「カレー作るか!」


どうも自炊は得意なようでめんどくささよりもあれ食べたいが上回れば結構料理してたりする。


「お、にいちゃん夕飯はカレーかい?ならちっちゃいけどこのかぼちゃどうだい?」


差し出されたかぼちゃは手のひらに乗るほど小さい。けどひとりならちょうどいいか。


「んじゃ、それも一緒にください。」


「毎度!ちょこっと安くしとくからな。」


ありがとうございますとお金を渡しながらお礼を言う。こういう昔ながらってのがいいよねぇ。雰囲気も好きだけど近いから夏休みだけで常連になっちゃってまけてくれるっていうね。


行きつけのスーパーに向かう道。カレーのルー買うためだけに行くのも面倒だなぁとなに安いものはあるかスマホで広告を見る。もちろん横断歩道の信号待ちで。


「んー。昼前のタイムセール……お、国産豚肉安いじゃん。あとは納豆と牛乳と……お米安いけど持ち帰れるかなぁ。」


意外と安いものも多く、これならカードのポイントもたまるし行くしかないか…。


ゆっくりと前を見る。信号は青点滅。まあこの場所はビルの影で涼しいからちょっと待つくらいいいか。


そんな蒼太の目の前を走って渡る小さな女の子。


歩行者信号はちょうど赤。


ちょうど横断歩道にさしかかる大型トラックに


速度を落とす気配はない。


飛び散る血に似た赤い光。


呆気にとられる周りの人々。


その先に見える。


必死に何かを叫ぶ少年。




そのとき世界が揺らいだ。


陽炎のように揺らぐ世界は徐々に速度を失ってゆく。


全てのものが速度を失ったとき、眩い光が世界を包む。


そして意識が弾き飛ばされる。



※※※




「ん?なんか変な感じが……。」


「どったのにいちゃん?お釣りいらないならおじちゃんもらっちゃうぞ?」


「あぁ、何でもないです。」


お釣りを財布に入れ大通りの方へ歩き始める。ルーだけ買うのも時間、労力その他諸々もったいない気がするので信号待ちの時にでも広告を見よう。そんな風に心の中で考える。台風一過の青空は雲一つなく真夏の太陽はジリジリと地上を焦がす。大通りまでの道は学生寮となっている背の高いマンションで囲まれているが向きのせいででちょうど日陰ができない、とそこに強い向かい風が吹き抜ける。なま暖かいが吹いているだけでだいぶ涼しい。


そんなこんなで背中を焼いている太陽とも一時の別れ、こちら側と大きなスーパーを遮る大通りの横断歩道の前は日陰となっていてそこそこの人がいた。


信号は点滅。少し涼みたいし待とう。そう思い広告を見るためスマホを取り出すと横断歩道にはいかにも軽そうな白い帽子。さっきの突風でとばされたのかと考えていると、そこへ飛び込む小さな人影。帽子の持ち主にしては小さい子だが今はそんなことどうでもいい。重要なのは歩行者信号が赤に変わり、そこに大きなトラックが迫っていること。走り出してももう遅い。蒼太が信号待ちの人々を抜けたところで人影の正体。小さな少女は人間が結晶になる、つまり死ぬときに見られる光の粒になっていた。その色は血を連想させるほど赤く黒かった。


(あれ、これ…どこかで……?)


そこで世界は豹変する。


揺れる視界。のろまな世界。それらを包みこむ白い光のその先で何かを叫ぶ少年。


全部……見たこと…ある気がする…。



けれど………………。



あれ?何だっけ?




※※※



「ほいおつりね!毎度!」


あ、お札崩さなくても小銭あるじゃん失敗したなぁ。まあどうせルー買いに行かないといけないしスーパーでうまいこと小銭使おう。お札は持ってるだけでお金持ちな感じするし。ちゃっちゃと行って帰ろ。暑いし。



マンションで囲まれた道を抜けたとき強い向かい風が吹いてきた。風が吹いてりゃ涼しいんだけどねぇ。


歩行者信号はまだ青。行けるかとちょっと早歩きしてみる。


ん?あの子の帽子……ああ飛んじゃった。体の大きさと帽子の大きさがあってない気がするなぁ。


風に飛ばされた帽子を追いかける少女。なんかいいなぁ。そして言っておくが俺はロリコンじゃないッ!


って帽子が横断歩道に……信号もう赤じゃん!


考えるが先か飛び出したのが先か。


走り出しは好調。でもあのトラック、間に合うかどうか……。



また1人、人を追い越す。修行中といえど悪魔の身体能力。常人よりは速く走れる。速いはずなのに横断歩道までが異様に長い。やっとの思いで横断歩道にたどり着いた時には少女とトラックはまもなく横断歩道へさしかかるところだった。


翼を使えばもっと速度を出せる。しかし現状翼を持った能力並びに翼を生成する魔法もない。


……少女を助ければそれと翼のおかげで取材が来る。


翼を出して助けられなければ……それでも翼の取材が少なからずくるかもしれない。


どうせ取材されるなら助けた後の方が気分がいい!



横断歩道へ踏み込む一歩にありったけの力を込めて、紫色に淡く輝く水晶のような翼を広げた少年は音速に届きそうな感覚とともに少女に迫る。


すぐ目の前に少女が見える。しかし左側にはトラックが迫る。


あと少し



そのあと少しが







とどかない。








当初少女を抱いて歩道まで出て自分がクッションになるところまで考えていたのだがそれは実現できそうにない。




なら、せめて押し飛ばすだけでも…。


悪魔は頑丈。悪魔は頑丈。あいつのためにも俺は死ねない。


そう自分に言い聞かせ少女にタックル。それと一緒に持ってきたカバンを少女の頭がくるであろう場所へ投げる。









けたたましい轟音。体が強い衝撃とともに右に吹っ飛ぶ。



とっさに盾にした翼は跡形もなく、その内側でさらにガードの構えをしていた腕に強い痛みを感じる。それでもなんとか立ち上がって周りを見てみると、少女はなんとかリュックを枕にできていた。トラックは横断歩道近くの電柱にぶつかり止まっていた。


今だせる最高速度…といっても早歩き程度、それで少女のもとへ行く。


息はあるのでとりあえず救出成功だろう。



奥から身内……お兄ちゃん?らしき少年が走ってくる。これはお礼言われて一躍有名人だなぁ。そんな妄想を思い浮かべ、斜め上を見ていた顔を正面に戻す。


そこにいたのは絶望以外の何物でもないような表情を浮かべた、お兄ちゃん(仮)。



「どうしたn……ッ!





言いかけた時蒼太の前を何かがすごいスピードで上から下へと通った。





彼の斜め後ろにある、トラックがぶつかった電柱。



それは根元で折れて




少女を叩き潰した。



蒼太も、お兄ちゃん(仮)もきれいによけて。






夏の太陽よりも眩しい光に視界を奪われ、頭がぐらぐらする中聞こえたのは


うるさいセミの声でも、人々の混乱を表すようなざわざわした音でもない。




ただのひとりの少年の叫び声だった。

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