命集めの乱闘〈コスモコレクトロワイアル〉
第16話 夏の宴と幾多の不可解
このままいけばリプテダイトとの対立は避けられない。
蒼太は人を殺めるのに大きな抵抗を持っている。たとえそれで幼馴染を蘇らせることができたとしても。
人を殺めずに結晶を集めきるのはほぼ不可能。
人を殺める日は必ず来る。
ならば……
やむおえない。
弟子の心の奥深く。師匠は1つの魔術を施す。
人格を少しずつ、本人も気づかないほど少しずつ術者の望むものへと書き換えていく術式。リーシャの長年の研究の産物。普通の人間なら到底たどり着くことのできない領域。それはシンプルに且つそれを完璧なまでに表現した名。
「人格矯正術」という。
奴にはさっさと結晶を集めてもらわにゃならん。そのためならいかなる手段も問わない。異質体が異変を起こすことに意味があるのだから。
光を感じる。長旅はスマ○ラXのロード時間にイライラしていたリーシャを苛立たせるには十分すぎる、しかしちょこっと考え事をしていただけで瞬く間に終わってしまった。
ネットで知り合った同業者から買った一冊の分厚い魔道書。
多大で複雑な術式と莫大な魔力が必要な魔術。
それは次元を超えて1つ先の世界に転移するための術式、の一往復分のみで出現地点の座標指定ができないといういわゆるお試し版だった。
「空間転移を一体どれだけ複雑に組み直せばこんな術式が組めるのか……。まったくまだまだ世の中にはすごい奴がいるんじゃな。」
魔術の翼を翻し眼下の海と遠くに見える本州の光を見て改めて思う。この魔術の力の大きさを。
※※※
頼りにしている人が留守、家にいるのは修行の身が1人。
「まあ、現実でそんな簡単にいろいろ起こるはずないか~」
桐真 蒼太は某イカちゃんが絵の具を撃ち合うゲームをしていた。夏休みの課題など家庭教師(リーシャさん)のおかげでとうに終わり今まで味わったことがないような余裕をしっかりとかみしめていた。しかも現在8月29日午後11時、まだまだ時間はたっぷりとある。
「まあ修行はしましたし!?課題は終わってますし!?それなりに予習はしたし!?別に誰にも咎められないっすよね!?」
画面の中のイカちゃんは笑顔を崩さずこちらを向いている。嗚呼自由な夏休み、なんていい響きだろう。何をしても怒られることはない。ああ人間生きてさえいればいいこと起きるんだなぁ。
「まあ私人間じゃないんですけどね。」
某海賊団の骸骨を思い浮かべ、そのままヨホホと笑いたくなるのを必死に抑えた。
若干深夜テンションが混ざっているのか、なんかもういつもと色々違う悪魔の少年はそのまま一晩中イカちゃん達と戯れていた。
※※※
夜は明けて8月30日。時刻は午後1時。
8時頃に寝ぼけた頭でログインボーナスをもらいに行ったのは覚えている。そこから5時間も寝てしまったようだ。寝ぼけた頭は無意識に練習着に着替え、いつの間にかいつもの稽古場所に向け歩いていた。習慣って思ってた以上に強く体に刻み込まれるのだなぁ。だんだんと脳が目覚めてきた蒼太は若干恐怖すら覚えた。
「まさかリーシャさんがいない日まで朝稽古してしまうとは……」
頭を抱える少年を照らす太陽は、しかし少年と彼らが住む家を囲むビル達によって直射日光を浴びせることはできなかった。ほぼ真上の太陽すら直接は届かない、そんなことなど夏の昼に外に出るなんてことしない少年は知る由もなかった。時刻は午後2時を回るころだった。
結局昨日と何も変わらない、不健康極まりない1日を自分の魔術で作った快適空間で過ごしていた。さすがに自分がどれだけ遅く起きたのか知ったからには夜更かしはできなかった。
8月31日。多くの学生の言わば決戦の日。しかし中学2年生の夏休み最終日の午後6時から自由研究に取り掛かったり、小学生の時学校当日午前3時まで宿題をやったりしていた蒼太に怖いことなどもはやなかった。最終日に好きなだけゲーム。嗚呼なんていい響きだ。蒼太の数少ない特技の1つ。休みの日の特に何も予定がない日のみめちゃくちゃ早く起きることができる、を発動し、朝7時からゲーム機を起動させていた。
※※※
不可解。そう不可解だらけなのだ。ここ最近。
この家には自分1人しかいないはずなのに……。
寝ぼけていると、朝起きた後自室の隣の部屋をノックして「起きてー」って言ったり、パンを明らかに自分だけじゃ食べきれない量焼いていたり、目玉焼きなんかのおかずも2人分作ってしまう。
それにこの家、大きすぎる。両親と自分だけで住むには明らかに部屋数が多い。しかも自室の隣の部屋はそれなりの大きさがありながら全く使われていない。最近掃除した覚えはないのになぜか埃もほとんどない。なんなら重い家具でも置いてあったような跡もある。両親の部屋は1階だし、2人の趣味の部屋や物置部屋もある。
そもそもこの部屋には使われる目的がないのだ。しかもこの家を建ててから約2年で両親は海外転勤。そこまで1度も大規模な模様替えはしていない。そこからこの家で暮らして1年。もちろん1人で模様替えなどできるわけがない。そもそも当時小学6年生になりたての女子を1人おいて家政婦なんかもつけずに両親ともに海外に行くなんて絶対におかしい。
中学生になった少女は1つの仮説にたどり着いた。その仮説はつまり
「まるでお兄ちゃんかお姉ちゃんがいたのにいなくなっちゃって、しかもそれを忘れてしまったみたい……」
ということだった。
蒼太は人を殺めるのに大きな抵抗を持っている。たとえそれで幼馴染を蘇らせることができたとしても。
人を殺めずに結晶を集めきるのはほぼ不可能。
人を殺める日は必ず来る。
ならば……
やむおえない。
弟子の心の奥深く。師匠は1つの魔術を施す。
人格を少しずつ、本人も気づかないほど少しずつ術者の望むものへと書き換えていく術式。リーシャの長年の研究の産物。普通の人間なら到底たどり着くことのできない領域。それはシンプルに且つそれを完璧なまでに表現した名。
「人格矯正術」という。
奴にはさっさと結晶を集めてもらわにゃならん。そのためならいかなる手段も問わない。異質体が異変を起こすことに意味があるのだから。
光を感じる。長旅はスマ○ラXのロード時間にイライラしていたリーシャを苛立たせるには十分すぎる、しかしちょこっと考え事をしていただけで瞬く間に終わってしまった。
ネットで知り合った同業者から買った一冊の分厚い魔道書。
多大で複雑な術式と莫大な魔力が必要な魔術。
それは次元を超えて1つ先の世界に転移するための術式、の一往復分のみで出現地点の座標指定ができないといういわゆるお試し版だった。
「空間転移を一体どれだけ複雑に組み直せばこんな術式が組めるのか……。まったくまだまだ世の中にはすごい奴がいるんじゃな。」
魔術の翼を翻し眼下の海と遠くに見える本州の光を見て改めて思う。この魔術の力の大きさを。
※※※
頼りにしている人が留守、家にいるのは修行の身が1人。
「まあ、現実でそんな簡単にいろいろ起こるはずないか~」
桐真 蒼太は某イカちゃんが絵の具を撃ち合うゲームをしていた。夏休みの課題など家庭教師(リーシャさん)のおかげでとうに終わり今まで味わったことがないような余裕をしっかりとかみしめていた。しかも現在8月29日午後11時、まだまだ時間はたっぷりとある。
「まあ修行はしましたし!?課題は終わってますし!?それなりに予習はしたし!?別に誰にも咎められないっすよね!?」
画面の中のイカちゃんは笑顔を崩さずこちらを向いている。嗚呼自由な夏休み、なんていい響きだろう。何をしても怒られることはない。ああ人間生きてさえいればいいこと起きるんだなぁ。
「まあ私人間じゃないんですけどね。」
某海賊団の骸骨を思い浮かべ、そのままヨホホと笑いたくなるのを必死に抑えた。
若干深夜テンションが混ざっているのか、なんかもういつもと色々違う悪魔の少年はそのまま一晩中イカちゃん達と戯れていた。
※※※
夜は明けて8月30日。時刻は午後1時。
8時頃に寝ぼけた頭でログインボーナスをもらいに行ったのは覚えている。そこから5時間も寝てしまったようだ。寝ぼけた頭は無意識に練習着に着替え、いつの間にかいつもの稽古場所に向け歩いていた。習慣って思ってた以上に強く体に刻み込まれるのだなぁ。だんだんと脳が目覚めてきた蒼太は若干恐怖すら覚えた。
「まさかリーシャさんがいない日まで朝稽古してしまうとは……」
頭を抱える少年を照らす太陽は、しかし少年と彼らが住む家を囲むビル達によって直射日光を浴びせることはできなかった。ほぼ真上の太陽すら直接は届かない、そんなことなど夏の昼に外に出るなんてことしない少年は知る由もなかった。時刻は午後2時を回るころだった。
結局昨日と何も変わらない、不健康極まりない1日を自分の魔術で作った快適空間で過ごしていた。さすがに自分がどれだけ遅く起きたのか知ったからには夜更かしはできなかった。
8月31日。多くの学生の言わば決戦の日。しかし中学2年生の夏休み最終日の午後6時から自由研究に取り掛かったり、小学生の時学校当日午前3時まで宿題をやったりしていた蒼太に怖いことなどもはやなかった。最終日に好きなだけゲーム。嗚呼なんていい響きだ。蒼太の数少ない特技の1つ。休みの日の特に何も予定がない日のみめちゃくちゃ早く起きることができる、を発動し、朝7時からゲーム機を起動させていた。
※※※
不可解。そう不可解だらけなのだ。ここ最近。
この家には自分1人しかいないはずなのに……。
寝ぼけていると、朝起きた後自室の隣の部屋をノックして「起きてー」って言ったり、パンを明らかに自分だけじゃ食べきれない量焼いていたり、目玉焼きなんかのおかずも2人分作ってしまう。
それにこの家、大きすぎる。両親と自分だけで住むには明らかに部屋数が多い。しかも自室の隣の部屋はそれなりの大きさがありながら全く使われていない。最近掃除した覚えはないのになぜか埃もほとんどない。なんなら重い家具でも置いてあったような跡もある。両親の部屋は1階だし、2人の趣味の部屋や物置部屋もある。
そもそもこの部屋には使われる目的がないのだ。しかもこの家を建ててから約2年で両親は海外転勤。そこまで1度も大規模な模様替えはしていない。そこからこの家で暮らして1年。もちろん1人で模様替えなどできるわけがない。そもそも当時小学6年生になりたての女子を1人おいて家政婦なんかもつけずに両親ともに海外に行くなんて絶対におかしい。
中学生になった少女は1つの仮説にたどり着いた。その仮説はつまり
「まるでお兄ちゃんかお姉ちゃんがいたのにいなくなっちゃって、しかもそれを忘れてしまったみたい……」
ということだった。
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