命集めの乱闘〈コスモコレクトロワイアル〉

風宮 詩音

第15話 棚の謎と家族会議

「そういえば、テレビの下の棚ってなんで扉をこんなガッチガチに固めてるんですか?」
桐真きりま蒼太そうたはテレビの下の…取っ手を鎖でぐるぐる巻きにして南京錠がつけられている棚を指差して言う。


「あぁ。気になるなら開けてみるか?もう閉じておく必要もないしな。」
そう言ってリーシャ・アルバスは南京錠の鍵を取りに行った。



そんなやり取りが行われたのは10分前、その時蒼太は中に入っているものの見当がつかなかった。目の前では絡まる鎖を頑張って外している幼女。口を開かなければただの幼女しかしその独特の口調のおかげかリーシャのことを可愛いと思っても愛しているという感情は生まれなかった。


鎖は予想以上に長く蒼太を不安にさせた。そこまで厳重に封印しなくてはならないものなのか、と。


鎖を床に置いたリーシャがゆっくりと取っ手に手をかける。


ギィィィ


古い家具を思わせる音。しかし扉は緩んでいる箇所もなくすんなりと開いた。


そこに入っていたもの……いや。つめこまれていたものは。



「げ…ゲーム機ぃぃ!?ってW○iにD○に3○S。しかも俺がもってたカセットばっか。あ、でもこっちのカセットは日本語なのに全く聞いたことないやつばっかだ。」
そう言って蒼太はシリーズらしき何枚かのカセットを指差した。とそこで蒼太は1つの疑問を思い浮かべた。


「あれ?俺って1人暮らしだったんですよね?だったらゲーム機も全部俺のものだったんじゃ……。なのになんで今俺持ってないんですか?」
蒼太がこの家に来て数日後リーシャは蒼太の所有物を片っ端から運んできた。しかし他の人も使っていたもの、例えば家電。いくら親が海外で働いていると言ってもいつか長期の休みがもらえれば帰ってくる。その時もしそれがなくなっていたらそこで矛盾が生じてしまう。もし親がゲーム好きなら自分たちの分も買うはず。


「もしかして、俺って他に家族がいたんですか…?」



…………………………



「わしの部屋にあとWi○Uとそのカセットたくさんあるけどあとでやるか?」


その真剣な顔に知られざる昔の自分を期待したのが間違っていたのかもしれない。


「話そらしましたよね?」


「お前が読んでたあのラノベ。全巻持ってるけどあとで読むか?」


「………話…そら……そらさないでください。」


「今絶対考えたよな?ちょっと迷ったよn」


「迷ってません!断じて迷ってません!」


その後もリーシャは蒼太の興味のありそうなものを餌に話をそらそうとする。それに対して蒼太は少し迷ってから答える。そんな言い合いを続けること十数分。



「とりあえずリーシャさん。あなたが俺と同じ趣味の持ち主だということはわかりました。」


ゼェハァと息を切らしながら蒼太は言う。
対してまだまだ余裕の表情のリーシャ。


「まさかここまで同じ趣味の人間がいるとはなぁ。てか、話が脱線してしまったなぁ。なんのために修行やらずにここで話していたか覚えているか?」


師匠のその言葉で蒼太はここにいる理由を思い出した。


「現状の報告とこれからの方針の決定。ぶっちゃけ忘れてました。」


「とりあえずそのてへぺろって顔やめろ、結構ムカつくぞ?」


やったつもりはない…けれどでも。この人と出会ってからよく笑ったりやったことない表情したり、表情豊かになった気はしていたがまさか二次元でしか見たことのない表情てへぺろを俺が……。


「お主。ほんと顔に出やすいな。考えていることがだいたいわかるぞ?今は大方『自分がてへぺろだなんて……』ってとこじゃろ?」


ニヤニヤと迫ってくる顔。なんかムカつくって感情の他に全く逆の感情がこみ上げてきたが、それは知らないふりをしておこう。



「それで。いきなり話を逸らされたせいで全くできてない現状報告から。」
一旦息継ぎをし真剣な表情になる師匠。


「現在、我らが持っている結晶は約2000個。この前の大爆発で出た結晶はざっと計算して9000万。個人でもし運べたやつがいたとしたら…………それでも1人500個が限界ってとこかな?」


前もって計算していたのかそれとも今の一瞬で暗算したのか。しかしどちらにせよ。


「9000万………。いくらなんでも多すぎますね…。」


自分がやったわけではないにしてもそれを集め、自分のために使おうとしている。胸が詰まって苦しい。今にも吐いてしまいそうなほど苦しい。


「わしらが始めたことじゃ。しかし当初の予定通りではないがな。」


当初の予定。全世界の死刑が決定した人々や不慮の事故、戦争の被害者などの結晶をかき集める、というもの。


「そもそもいくつか不可解なことがある。なぜリプテダイトは結晶を欲しがる?今の力も十分すぎるくらいに強いはず。それにこの前見つかった禁忌魔術図鑑タブーマジック・レコードが読めるほど綺麗だったこと。何より解読が速すぎる。あれに使われている文字を現代で読める人間などそうそういないというかほぼゼロじゃ。それがたった3カ月で解読されるとは……。」


蒼太にも読めない古い文字。名をアルバス文字という。


「でもそれはどうしようもないですし、とりあえず今後の活動方針を決めませんか?」


「ああそれはもう決めてあるぞ。とりあえず日本はまだ平和だから何か大きな争いが起きるまで待機。争いが起こったら便乗して結晶を頂く。」


いつの間に考えたのやら、スラスラと活動方針を話す。


「争いが起きるまでの間に我らはさらに力をつける。じゃがわしはちょっと用事があるのでな、しばらく留守にするぞ。」


今までほとんど家から出なかった師匠がしばらく留守とは……そこまで深刻なのかと考えている蒼太。そんな弟子をほったらかしてリーシャは支度を始めていた。


※※※



リーシャは初めて見る大きな、まるで大剣が入っていそうな袋を背負い、風の翼をはためかせ、闇夜に消えていった。

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