九頭竜の名を受け継いだ女剣士

娘々ノベライザー8975

第1章 彼方の地へ

九頭竜八重は、九頭竜家の修行を今でも続けていた。
まだ、旅の準備を終えてなく旅の目的も決めていなかったのだ。
時間は、有限であると師範から教えてくれていたのだが、八重には、やり残していることが山ほどあった。
道場の片付けやら、門下生が自分だけだったので炊き出しの片付けやらもあまり時間は、掛からなかった。
それでも、八重にしてみればその時間内で整理する猶予はあった。

『思えば、9歳の自分を拾ってくれた師が優しかった。』

回想に浸しむ八重は、九頭竜の門下生として家事やら修行やらの時間を過ごしてきてたくさんの勉強をしてきた。
この勉強の成果が今の自分を生かしてくれているのだと実感される。

『ヤマタノ渓谷に住まうバーサーカードラゴンを修行相手としてびしばしとしごかれたのは、良い思い出……じゃないよね。』

考えれば、無理な話だ。
ドラゴンの中でも理性が飛んだ狂乱している相手に何をとち狂ったことをしているのかと冷静になってみて後悔する考えに至ったのは、数秒ほど経過した。
あの時は、流石に師匠に抗議はしたのだが。

『…チョットナニヲイッテイルノカワカラナイデス。』

瞳に光を失った状態で言っていたことを思い返せば、あの時に殴っておきたかった。
殺す気があるような言い方って無いよと、八重は、旅支度を終えていた。

まだ、幼かった自分の過去を思い返してみれば、懐かしさと寂しさが沸き上がって来る。
まだ、最近みたいな感覚が残っているかの様に再び九頭竜の外観を眺める。

「いろいろあったけど、はちゃめちゃな時間を過ごさせてくれた九頭竜さん。今まで、ありがとうございました。八重は、旅に出ます。本当に感謝しきれないほどにお世話になりました。」

八重は、大声で九頭竜家にお世話になったことや寝泊まりをさせてくれたことに感謝の言葉を精一杯の声で一礼をした。
八重の頬に伝う涙は、八重の気持ちを表しているのかもしれない。

「…ししょー…今まで、ありがとう…ぐずっ…ご、ごじゃいましだぁ…ふぇっぐ、うぅっ…。」

九頭竜家の居間にある仏壇にお世話になった九頭竜カガツキの写真が飾ってあった。
写真の近くに、お稲荷と日本酒をお供えしてあるのは、八重が出ていく前にしておいたのだろう。

八重は、ただ走り続けた。
荒野を越えて、山を越えて、そして、ししょーの背中を越えて行く八重は、12歳という幼い子供で居ながら剣術の免許皆伝を取得した。

ししょーの背中を追いかけていた少女は、この異世界に9歳から出現していた。
まだ、幼かった自分は、異世界に来た記憶無かった。
異世界に来た記憶が無い八重は、自分の名前だけは、覚えていた。

早苗

それは、八重の本来の名前だった。
名字までは、思い出せなくて自分の名前だけが分かっていたのには、理由があった。

名札が胸に付けてあったからだ。
背中にランドセルや片手には、学校で使う体育着や運動靴まであった。
しかも、それらは、まだ新品に近い状態だった。

9歳の少女が何処から来たのか、ヤマタノ渓谷にポツンと現れたのを九頭竜カガツキが見つけた。
まだ、幼かった早苗は、九頭竜に門下生としてカガツキにたくさんのことを優しく教えてあげていた。
そして、カガツキから八重として娘としての名前を授けた。
良い母親として娘の成長を見届けたかったのだか、八重が11歳になって2月が過ぎた時に心臓病によって倒れた。
医者からは、長くは無いよと言われた。
八重は、自分が無力なあまりししょーを死なせてしまうのではないかと、一晩中泣き崩れた。

カガツキは、八重に手紙を残して12歳になる日にこの世を去った。
カガツキの葬儀に来た人たちを八重は、知らずにただただ、カガツキの写真を眺め続けた。
涙は、枯れ果てて八重には辛いことカガツキの真っ白で生気を感じられない姿を眺めるしかなかった。

1カ月が過ぎて八重が九頭竜家を出ていくことを決めた。
八重には、カガツキが残してくれた手紙を片手に荷物を持って九頭竜家とカガツキの写真を残して行った。

前を向いて進んで行かなきゃいけない。
でも、幼い少女には、優しくたくさんを教えて残してくれた母親が居なくなってしまったのだ。
一人になってしまったことに少女は、カガツキの存在感が強く意識しているため精神が理性を抑えきれない。

「…お…おがぁしゃん…ししょーしゃまぁ…ぐずっ、ふぇっぐ…わ、わたじ…うぇー…ご、ごめんな…じゃい…ふぇぇぇぇ。」

山を越えた麓の小屋に着いた少女は、一晩中に手紙を読みながら泣き出してしまった。
失ったものが大き過ぎた存在感のカガツキが居なくなってしまった喪失感に圧し殺されてしまったのだから。

少女は、乗り越えていかなければならない。母親を、彼方の地を、そして、明日の太陽が昇ったら、前を進む覚悟を…越えていかないと。

コメント

  • 娘々ノベライザー8975

    ありがとうございます。初心者の書き方ですが、よろしくお願いします。はい、AZAMIさんの作品を読みます。

    0
  • 姉川京

    面白いです!これからもお互い頑張りましょう!
    あともしよろしければ僕の作品も読んでください!

    1
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