のぶなが! 【だんます!! After Story】

慈桜

第3話

 
「はぁ……この街も俺のものか」

「さっきから何言ってるの?」

 ども、こんにちは。のぶのぶでっす。

 とある夕暮れ時にJKにお散歩に行かないかいと誘われるイケメンな俺ちゃんだけど、なんとJKさんは偽物のなんちゃってJKさんで、事務所で受付をしてからお金を払ってと言い出したのです。

 勿論払いましたよ、えーえーえー。

 こちとら何もえちえちな事をするわけでもなく、見た目アウトなJKボブの合法ロリを連れ回してお散歩しただけで金を取られたんですがね。

「ねぇ、池袋に何しに行くの?」

「はぁ……どうしてついてきてしまったんだいマドカちゃん」

「え、お金あげるからついて来いって言ったのはチョンマゲさんだよね?」

「ふっ、そんな事もあったのかもな」

 まぁ、あまり気にすんな。
 向こうの手違いがあって18:30よりヒカルちゃんを予約しているのだが、裸一貫で突っ込めば、またもや本能に負けてしまうだろうから、俺は大量に遊べるゲームやオモチャの類を買い込んだ。
 そして、間違えが起きないように理性保全装置としてJK(偽物)を用意したのだ。

「今からチョンマゲさんはホテルに風俗嬢のお姉さんを呼ぶが、エロい事はしない。マドカちゃんは俺の妹の設定で三人で楽しく遊ぶんだ。いいね?」

「おーう? え? まぁ、お金くれるならいいけど」

「よし、おにーたんと言ってみなさい」

「おにーたん?」

 くっ、演技指導から始めなければならないな。
 こいつは設定に身を染める、もう一人の自分スイッチを持っていないようだ。

「違う! もっと大好きなお兄ちゃんに甘える心構えでおにーたん! リピートアフタミー!」

「お、おにーたん!!」

「グゥゥッド!! それだよそれ! それが欲しかったんだよ! タクシーは止めない!!」

 タクシーの運転手さんは気まずそうに咳払いをしているが、ここは勘弁してもらおう。
 俺としても死活問題であるからな。

 休日に妹と買い物に行く優しいチョンマゲのお兄さんをヒカルちゃんの前で演じるのだ。

 客と嬢の壁を越える所から始めなければならないからな。

「つきましたよ」

「サンキューサンキューファートゥーカインド」

「ねぇ、チョンマゲなのに英語過多っておかしくない?」

「うるせぇ。気にしたら負けなんだよ」

 何はともあれ、JKを隣に乗せながらに夕暮れ時の東京の街並みを窓から眺めるってのは最高の気分であった。

 まさに勝ち組とはこの事かと理解できたのは言うまでもない。
 コレがガチのJKの妹であれば文句ないが、ウチのガチの妹はビスケットオリ◯みたいな重装戦車であるし、妹だと思った事もないのでノーカンだ。

「ねぇ、なんで風俗嬢と遊ぶのに私が要るの?」

「んー、完全にノリ」

「のり?!」

 馬鹿正直に下半身の脳みそに打ち勝つ為とは言わないし教えない。
 今日はエロいノリで来たんじゃないんすよってノリを示すのが必要なわけで。

 つか『すよっ』てハクメイみたいな言い方になったな。
 やっぱり一回戻ってハリセン振り抜いてこようかしら。

「なんか、このホテルぼろくない? 他にも綺麗なラブホいっぱいあるよ?」

「このデリヘル特化感がいいんだよ。パチモンJKは黙ってろ」

「パチモーン? 妹として雇っといてその言い方おかしくない?」

「パチモンならもっとスペックあげろし。ペチャコイしペチャコイしペチャコイし」

「ペチャコくねーわ! これでもCカップだっつーの!」

 ああ、やめろやめろ。俺の理想のJKは公衆の面前で乳のサイズを叫んだりはしないんだ。寄せて上げるな。

「いいからだまってキャリーバッグ運べよペチャコンドリア。それが君の仕事だ。ゆーのー?」

「わかってるけど、これ重たすぎ。一緒に行ってて思ったけどマジで買いすぎでしょ」

「ペチャコンドリアはスルーなのね」

「だって意味わかんないもん」

 てな訳でお部屋に到着。
 壁紙がボロいのがいい感じでござる。
 抜き専門ホテル感満載。

「とりあえず荷物を広げよう。警戒心が薄れる感じでな」

 人生ゲームにポータブルゲーム。
 勿論ダンクエは用意してるし、PZ4も買ったった。
 黒ひげ危機一髪にワニワニさん、トランプにお菓子は勿論のこと。
 後はテキーラをインベントリからポポポポン。
 これでホームパーティの様相と相成りまして、ホイ。

「ちょっとシャワー浴びるねー」

「いや、待て待て待て。マドカちゃんがここでシャワーを浴びるのはおかしいだろ。もうそろそろヒカルちゃん来るし」

「えー、でも歩き回ってベタベタだもん。別にいいじゃん。お兄ちゃんなんだから」

 ガラァーっと曇りガラスの向こうのバスルームに入って行ってしまった偽JK。

 薄暗い部屋に反して明るい照明のバスルームの曇りガラス越しに、裸の感じがわかってしまう。

 曇りガラス、これ重要ね。

 あかん、これあかんやつ。

 ヤツはJKであるから淫行条例でタイーホだと自分に言い聞かせていたが、偽物であるイコール合法である事実が脳内に巻き起こる。

 いかん、いかんぞ俺。
 曇りガラス越しの制服に騙されるな。

 煩悩退散煩悩退散色即是空色即是空。

 おっと、タイミングよく着信。
 俺も身嗜みを整える必要があるよねってノリで脱ぎかけていたが、なんとか思い留まる事に成功した。

『もしもしぃ。マンダフルですぅ』

「あぁ、こんちわどうも」

『あのですねぇ、ヒカルさんが少し遅れてしまうようで19:00からのご案内になってしまうのですが、よろしかったですかぁ?』

「ええ、わかりました。それでは19:00からで。部屋番号はメールで送らせて貰ったのですが届いていますか?」

『はい、604号室ですねぇ。承っておりますぅ』

 ふぅ……まずい事になった。

 ねぇ、みんなならどうする?
 今まさに曇りガラス一枚向こうで、ノーガードでお股の緩そうな女子がシャワー浴びてるわけ。
 普通男の人とホテルに二人っきりの状態で気にせずシャワー浴びたりする?
 しないよね? それって、もしかしてスカートの中身近辺がヤバイことになったから証拠隠滅してるってパターンもあるわけじゃん? 

 エロ本の読みすぎ? 細けぇことはいいんだよ。

 仮にそうだとしたら向こうは据え膳差し出してきてる状態なわけで、切腹してるのに介錯しないのは武士としてどうなのって話になってくるじゃない。

 いや、違うよね。
 ここで間違えるわけにはいかない。

 向こうはエロい事が苦手でお散歩JKしてるわけで、お金の為に付き添ってくれたんだから、バッチコイな筈なんてことは……。

「あ! 制服そっち置いといて。濡れそう」

 おうふっ、普通にガチャって開けちゃったよこの子。
 なんか殆ど見えちゃったよ。
 制服から何もかも渡されちゃったよ。
 シャワーホースと腕で全部隠したつもりかよ、ふざけんなよ。

 俺を不能なヘタレだとでも思ってんのか?

 よろしい、ならば戦争だ。

「ふわぁぁぁぁぁああああ!!」

「え? え?! なにごと!? なんで?!ちょ! 」

 圏論、数学的構造とその間の関係を矢印と点だけで抽象的に扱う数学理論の一つだが、男女関係においても俺はこの理論で指し示す事が可能であると考えている。
 つまりは矢印と点、→と・であるが、それは何を示しているのかは説明をする余地も無く、対象間の射からなる圏が男女間に於ける基本的な考察であり、つまり何が言いたいのか簡潔に言うとね。

「死にたい」

「こっちのセリフだよね?! 妹の愛でかたハードコアすぎるよ!?」

「完全にハニートラップ。もう悪意しか感じない」

「めちゃくちゃ楽しんでおいて酷い言い様だな?!」

 ねぇ、どうしたらいい?
 俺ちゃんってば、だんますの為にリアルに来て頑張るって決めたのに、二日間何してた?って聞かれたらナニしてたよってしか応えらんない。

 これじゃガチのキチガイじゃん。

 キチガイだけど戦ったら超tueeが俺の魅力じゃなかったっけ?

 敵に容赦しないし、殺戮余裕っ『すよっ』て感じのダーティなキチガイだったよね? 
 今の俺ちゃん歩く海綿体じゃん。
 なんだよリアルって、雑念多すぎるだろ。

 あたいただの性欲オバケのキチさんじゃないっすか、やだー。

 てか、また『すよっ』てハクメイっぽいの来たな。あいつ多分俺のこと探してやがんな。

 あれからあの子ったら何回もちょっかいかけてくるの。
『世界樹はこんなこともできるんすよー』って。
 その度に腰の入ったフルスウィングで大統領もビックリの一撃かましてんだけどね。
 ほんと、あれこそ真性のキチガイですよ奥さん。

 多分今頃俺の家臣とかがしばいてる予感。

「ねぇ? 聞いてる? なんで虚ろな目で天井見てるの?」

「自分の弱さを呪ってる。絶滅危惧種を救いたい」

「もうチョンマゲは絶滅危惧種だよ?! 救いようないよ!」

 ああ、やめて。このカオスな状況でドアをノックノックしないで。
 マドカちゃん、頼むから早く服着てくれ。

「ふぅ……よし、いいかい? マドカちゃんは俺の妹。それ以上それ以下でもないからね?」

「一回捕まれよ」

 さて、仕切り直そうか。

 これから本気でヒカルちゃんを冒険者に戻す為に頑張ろうじゃないか。






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