冒険者 カイン・リヴァー

足立韋護

船上の魚人

 宿舎で出される料理は、海鮮がふんだんに使われたものばかりで、皆が舌鼓を打った。カインが席の端に座るローゼを一瞥すると、海鮮料理を口にしていなかった。カインの視線を追いながら、アベルが貝料理を平らげてから話し出した。

「森の民と呼ばれるエルフは山の幸と川の生物が主食で、それ以外は口にしないんです」

「プライドの高さはピカイチだな」

 ローゼは本当に仲間がいないのか、他の冒険者とは違い、孤独に夕食を進めている。明らかに周囲から浮いているその姿は、なんとも寂しげに見えた。カインは次にクリスへと視線を向けた。至極普通に仲間達と談笑している。先ほどの不気味な面影はそこにはなかった。

「あの男、カインの過去を知っているふうな口ぶりでしたね」

「……まあ、大した過去じゃなあない。気にすんな」

 翌日、未明。冒険者達は音を立てることもなく、至って速やかに大型船へと乗り込んだ。カインが見る限り、辞退をした冒険者はいなかった。案内人もそれを知ってか、点呼することなく見送るのみであった。
 大型船内は宿舎のように過ごしやすくはなっておらず、恐らくただの漁船を改造したものであった。しかしながら遠目でみるよりはるかに頑強に補強されていた。
 船長と思しき男がひとしきりの挨拶を述べると、船は鈍い音を立てながら夜明けとともに出航した。

────船に揺られること数時間、日を照り返している水平線を見つめるカインは、波がわずかに高くなってきていることに気づいた。
 周囲の冒険者らも徐々にざわめき出し、船を打つ波の音と船の軋む音に表情を強張らせる。

 そこは既に、失われた海域であった。

 波が高くなるとともに、まるでそれを待っていたかのように太陽に雲がかかり始める。カインのいる甲板は不穏な空気に包みこまれていた。明らかに、先ほどまでいた海域と雰囲気が異なっていた。

 そんな折、誰かが「マーマンだ!」と大声を上げる。それと同時に、海中から勢いよく甲板へ飛び乗ってきたのは、魚の頭を持つ二足歩行のモンスターであった。それらは魚より知性が高く、手には漁師から奪い取ったのか、もりを携えていた。先発のマーマンに続くようにして、五~六体のマーマンが飛び出してきた。

「カイン、どうします」

「そりゃあ、ぶっ飛ばすに決まって────」

 カインが飛び出そうとした瞬間、見たことのある冒険者らが前に出た。クリス率いる冒険者集団である。

「カイン・リヴァー、今回は僕らに任せてもらうよ」

 声のするほうを見ると、隣にクリスが立っていた。こんな状況にもかかわらず、不敵な笑みと握りしめる短剣は相変わらずであった。

「なんでわざわざ」

「そんな、僕らはみんなの力になりたいだけさ」

 そう答えたクリスだったが自身は前に出ることなく、仲間達が戦っている姿をひたすらに見つめている。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品