冒険者 カイン・リヴァー

足立韋護

人影

 カインは背負っている魔斧を振りかざして壁へと叩きつけた。しかし、カインの怪力をもってしても、若干の傷がつく程度であった。壁に杭を刺すこともできないために、壁の上に昇ることすら許されないことを悟った。そして同時に、この迷宮に閉じ込められたことも理解した。

「これはまた……参りましたね」

「この構造に気づいた冒険者が、ここらで諦めるんだろうな」

「進みますか?」

「当たり前だ。ニータの両親を見つける。密室に閉じ込められたわけじゃないんだ。どうとでもなるさ」

 アベルは骨粉をしまい、道に印をつけることを諦めた。二人が迷路を進もうとしたところで、迷路の角から人影が現れた。それは恐る恐るといった様子でこちらににじり寄って来た。
 姿を現したのは、耳の尖った形が特徴的なエルフであった。金の長髪を揺らしながら両手に握る短剣を構え、その新緑のような色の瞳でカインらを睨みつける。

「アンタら、冒険者でしょ。ここのお宝を狙いに来たの?」

 エルフは名乗ることもなく不躾にも質問を投げかけてきた。カインは若干眉をひそめながら、斧を背負ってから答える。

「事と次第によってはな。目的は人探しだ」

 エルフは「そう……」と答えてから短剣を下ろし、暫しの間考え始めた。それから何かを決めたようにして、またこちらへ顔を向ける。

「ねえ、それなら協力してよ」

「キョーリョク~?」

 素っ頓狂な声で返答したカインは、あんぐりと口を開けた。

「そう! 私は冒険者のローゼ・クロイツァー。お宝は山分けで構わないわ。どう?」

 カインが断る前に、アベルが一歩前に出て「お断りします」と言い放った。ローゼは苛立ったようにして返答を求めた。

「あなたは、その装備から察するに冒険者になり立てなのでしょう。冒険者というものは、よほどの緊急時でもない限りは、クエスト受注時や出立時から仲間を決めていることが常識です。道中の総経費や戦闘による貢献度によって報酬の分配率を決めなくてはならないからです」

「え~? 言ってる意味よくわかんないけど」

「では、はっきり言いましょう。ローゼさんと言いましたか、あなたは今しがたの地鳴りで我々と同様に迷宮の構造を知った。そのうえで脱出手段を失い、安全が担保できなくなったあなたは、適当に見つけた我々を、手っ取り早く利用しようと考えたのではないですか」

「お、おいアベル、言い過ぎなんじゃ──」

「憶測で物を言っているのは承知の上です。ですが、今会ったばかりの素性も知らない相手を仲間にするなど、愚か者のすることです」

「もう……もういい!」

 涙目を浮かべたローゼは何回かの地団駄を踏み、鼻を鳴らしながらその場を去っていった。

「ほら、言わんこっちゃない。女の子泣かせるなよ」

「ま、まさか泣くとは……。ですが、これがお互いのためです。宝物を見つけた途端、後ろから刺されたくはありませんから」

「まあ言えてるな。そしたら、進むか」

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