冒険者 カイン・リヴァー

足立韋護

無限迷宮

 イーファ平原を越えた時には既に辺りは闇に包まれていた。そんな視界の悪い中、地下迷宮への入り口はまるで二人を飲み込まんとするかの如く、口を開いていた。平原を過ぎてから森に入る手間で、石畳に階段が設置されているだけの簡素な造りであった。

 いつも通り、馬の手綱を木に括り付けてから階段を下りてみると、十数人は通れるであろう広い洞窟が現れた。先に来ていた冒険者のものだろうか、松明は所々点けられており明るさは問題なかった。下り坂になっている洞窟をさらに降りていくと、やがて迷宮への入り口が姿を見せた。

「でっけえ……」

 迷宮は灰色の石のような建材で造られており、壁の高さは人が何人分かもいまいち判断つかないほどであった。
 迷宮の入り口は城壁を縦に割ったようにされ、そこの前には簡易のテントや焚き火などが山ほど設置されていた。しかしどれも古いもので、帰ることができなかったとされている冒険者らのものであろうことはすぐにわかった。
 圧倒的な建造物と残された物から、帰ることができなくなるという噂の信憑性が増した。

「こんな迷宮、いつ誰が造ったんでしょう……。一年や二年ではききませんよ」

「気をつけろよ、ここは無限迷宮って呼ばれてんだ」

 事の経緯をアベルへと説明すると、彼は呆れながらもカインの行動には賛同した。

「それで、帰る作戦は考えてあるんですか」

「とりあえず、ロープ!」

 カインは自慢げに長いロープを取り出した。それを入り口から垂らしながら、先へ進もうとした。

「ふざけてるんですか、カイン。そんなもので帰れるのであれば、無限迷宮などと呼ばれはしませんよ」

「ふ、ふざけちゃいねぇよ! じゃあなんか名案あるのか?」

 アベルがバッグから取り出したものは、革袋に入った白い粉であった。アベルが迷宮へ入っていったため、カインも後を追いかけると、アベルは白い粉を左手の壁にだけ塗っていった。暗闇の中でも光るそれは、目印として見つけやすいものだった。

「なんだそりゃ!」

「さっき倒したスカルナイトの骨粉です。彼らの持つ魔力が微弱に光るため、こういう使い道もあるんです。それに、左の壁だけに印をつければ、進行方向がわかるので帰りの目印に使えるんです」

 二人は幾度も迷宮を曲がっていき、進もうとしたところで地鳴りのような音が鳴り響き始めた。
 カインがふと背後を振り向いた時には既に遅く、二人が来た道が塞がれていた。

「……そういうことかよ」

 地鳴りは複数回にわたり続き、やがて収まった。

「な、何がどうなってるんです!」


「────この迷宮、動くぞ」

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