冒険者 カイン・リヴァー
死闘
カインは薄目で周囲にいる騎士団員を確認すると、その瞳がみるみるうちに紅く濁っていく。まるで何かに操られるようにして、隣の冒険者に斬りかかり始めた。斬りかかった騎士団員の後ろから、更に別の冒険者が剣でその背中を突き刺す。
四十はいる人々が一斉に殺し合いを始めた。一方で騎士団長のジークは目を瞑りながら、ひたすらに部下であった者たちの攻撃から身を守っていた。
「騎士団長! ここは逃げるぞ!」
カインがそう叫ぶと、ジークは幾度も頷き、何度か斬られながらも階下へと降りて行った。カインは、再び少女の足元だけを見るようにして、様子を確認する。
少女はどこか歩きづらそうにしながらも、こちらへと向かってきている。やがて立ち止まり、手足の動きを確かめるようにして、前足を踏み出したかと思えば、体をネジのように捻りながら突進してきた。
想像できなかった動きに、カインは魔斧ドラードで突進を防ぐ構えしかできなかった。少女から放たれた体当たりとは思えないほどの重みに、カインは歯を食いしばりながら、それを止めた。
「よくぞ我が呪眼を見抜いた」
「呪いには慣れっこでな。お前、何者だ」
「我が名は、"ヘルズ"という。久方ぶりに肉を借りこの地へと顕現した」
「……ヘルズ、だと?」
ヘルズと名乗った少女は、体をあらぬ方向へとひねりながら、その拳をカインへと幾度も放った。熟練の格闘家でも連発できない、その重い拳全てを、カインは魔斧で防ぎ、弾き切った。薄目で、且つ正面を見ることができないために、カインは限界を感じ始めていた。
「夜避けの武器か。力が出ぬわけよ」
「夜避け……?」
気付かなかったが、ヘルズと相対している際、魔斧ドラードはまるで脈動するようにして、赤い光りを明滅させていた。
「お主、面白い。名は」
「なんで殺そうとしてくる相手に、名乗らなきゃならねぇんだ!」
少女は、一瞬間を置いてから、楽し気に笑った。
「それもそうよのう! はははは! ああしかし……面白かったが、肉体に限界がきたようだ」
カインは、ヘルズの両手がひん曲がり、血を滴らせていることに気付いた。少女の体は重い突進や、連撃に耐えうるほどのものではかった。少女は膝から崩れ落ち、体を僅かに痙攣させた。
「覚えておくぞ、長く生きる少年よ。再び顕現するときを、楽しみにしておく」
やがてヘルズの体は動かなくなった。カインはそれを数回蹴り、力が抜けていることを確認すると、目を見開いてその場に座り込んだ。短くため息をついてから天井を仰ぎ見る。光を失った魔斧を地面に置き、両手を地面についたとき、生ぬるい感触が手先に触れた。
カインは、その光景に表情を歪ませた。
周囲でやかましく鳴り渡っていた戦いの音はいつの間にか鳴り止み、その代わりに、死体と肉塊、そして赤い血の海と鉄の臭いだけがその場に残っていた。
四十はいる人々が一斉に殺し合いを始めた。一方で騎士団長のジークは目を瞑りながら、ひたすらに部下であった者たちの攻撃から身を守っていた。
「騎士団長! ここは逃げるぞ!」
カインがそう叫ぶと、ジークは幾度も頷き、何度か斬られながらも階下へと降りて行った。カインは、再び少女の足元だけを見るようにして、様子を確認する。
少女はどこか歩きづらそうにしながらも、こちらへと向かってきている。やがて立ち止まり、手足の動きを確かめるようにして、前足を踏み出したかと思えば、体をネジのように捻りながら突進してきた。
想像できなかった動きに、カインは魔斧ドラードで突進を防ぐ構えしかできなかった。少女から放たれた体当たりとは思えないほどの重みに、カインは歯を食いしばりながら、それを止めた。
「よくぞ我が呪眼を見抜いた」
「呪いには慣れっこでな。お前、何者だ」
「我が名は、"ヘルズ"という。久方ぶりに肉を借りこの地へと顕現した」
「……ヘルズ、だと?」
ヘルズと名乗った少女は、体をあらぬ方向へとひねりながら、その拳をカインへと幾度も放った。熟練の格闘家でも連発できない、その重い拳全てを、カインは魔斧で防ぎ、弾き切った。薄目で、且つ正面を見ることができないために、カインは限界を感じ始めていた。
「夜避けの武器か。力が出ぬわけよ」
「夜避け……?」
気付かなかったが、ヘルズと相対している際、魔斧ドラードはまるで脈動するようにして、赤い光りを明滅させていた。
「お主、面白い。名は」
「なんで殺そうとしてくる相手に、名乗らなきゃならねぇんだ!」
少女は、一瞬間を置いてから、楽し気に笑った。
「それもそうよのう! はははは! ああしかし……面白かったが、肉体に限界がきたようだ」
カインは、ヘルズの両手がひん曲がり、血を滴らせていることに気付いた。少女の体は重い突進や、連撃に耐えうるほどのものではかった。少女は膝から崩れ落ち、体を僅かに痙攣させた。
「覚えておくぞ、長く生きる少年よ。再び顕現するときを、楽しみにしておく」
やがてヘルズの体は動かなくなった。カインはそれを数回蹴り、力が抜けていることを確認すると、目を見開いてその場に座り込んだ。短くため息をついてから天井を仰ぎ見る。光を失った魔斧を地面に置き、両手を地面についたとき、生ぬるい感触が手先に触れた。
カインは、その光景に表情を歪ませた。
周囲でやかましく鳴り渡っていた戦いの音はいつの間にか鳴り止み、その代わりに、死体と肉塊、そして赤い血の海と鉄の臭いだけがその場に残っていた。
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