魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

幕間9 アメリアとマルティーナ

 「あのぅアメリア様、パーティーのほうは宜しいのですか? 」


 バルコニーでロサリオと別れたアメリアとマルティーナは、アメリアの先導でパーティー会場とは別の場所に向かっている。
 そんなアメリアにマルティーナは、宴もたけなわも既に過ぎ去ってはいたが、主賓の1人でもあるアメリアが戻らなくていいのか心配になりながら、先を歩くアメリアに声をかけた。


 「構いませんよ。メインはロサリオ様の紹介と護衛隊達への労いでしたから。」


 「はあ…… で、何処に向かっているのですか? 」


 マルティーナは、何となく予感としてどのような話し合いがされるかは予想されるが、 公爵家の姫であるアメリアと二人きりというのは落ち着かない。
 アルラオネにアメリアが指示している関係で、共に学ぶ機会もあったが、先日の国境会談も含めて二人きりになったことはなかった。
 アメリアとマルティーナも身分に大きすぎる差がある。ナーダからの道中ではロサリオが間に居たこともあり、アメリアとマルティーナの距離は非常に近いものがあった。
 しかしそのロサリオが居ないとお互い独特な緊張感を感じてしまう。


 アメリアも身分差があるとはいえ、魔法を嗜む者としてマルティーナ事を尊敬と羨望の念を抱いている。その事も相俟って、気軽には接する事は出来ていなかった。
 正直アメリアは自分の容姿が、社交界や市井の人々から高い評価を得ている事を正しく理解している。振る舞いもそれを高く意識していた。
 ただし、心中の大半を占めるようになった異性が、アメリア自身から見ても、決して劣るとは思えない女性であるマルティーナと親しげに、そして心の距離感もかなり近しく接しているのを見せられると、心中穏やかでは居られなくなる。


 「ここよ、ここは来賓や宮廷貴族同士が打合せで使用する部屋なの。さすがに今日の祝賀がやっている時間は誰も来ないわ。」


 さして広いわけではないが、落ち着いた色調と豪華さを表さない丁度品で、変な緊張感を抱いていた両者の気持ちも少し落ち着いてくる。打合せには相応しい室内の装いであった。
 両者は対面越しに腰を落ち着けると共に、アメリアから今回ここにマルティーナを連れてくる事になった内容を、マルティーナの目をしっかりと見据えながら切り出すのであった。


 「単刀直入に言うわね、マルティーナはロサリオ様の事を女としてどう思っているのかしら? 」


 マルティーナとて魔法の研究に勤しんでいたとて鈍くはない。アメリアのロサリオに対する好意は気付いている。というよりも二人を見ていて気付かない者など皆無なほど、アメリアはロサリオにぞっこんな様子が見て取れる。
 マルティーナからしたら、何時か問われるだろうとは漠然とだが考えてはいた。


 「アメリア様のお立場で、私程度の事を気にされるのですか? 余り意味はないのではと思いますが…… 」


 公爵令嬢という貴族社会でもかなり高い立場にいるアメリアからしてみれば、孤児出身の自分の何を気にする事があるのだろうとマルティーナは訝しむ。
 実はこの考え自体はマルティーナ自身、己を低く見積もって言わざるを得ない。
 宮廷魔法師団に所属した、出来た時点に於いて、一代限りではあるが貴族に準じている。いわゆる宮廷貴族である。
 宮廷貴族には、騎士爵、準男爵とあり、それ以降は独立貴族達と同じ爵位が侯爵位まである。
 ティファニアもヘルツォークも騎士団に採用された時点で騎士爵であり、小隊長クラスで準男爵、部隊長クラスで男爵である。将官クラスは主に男爵以上で構成される。
 宮廷魔法師はというと数は少なく貴重であり、門戸も狭い事もあって、採用になった時点で男爵の地位となる。
 宮廷貴族は独立貴族よりも一段下に見られる風潮があるとはいえ、それを抜きに言えば純然たる爵位を冠しているマルティーナのほうが、公爵の令嬢というアメリアよりも立場は上である。
 皆が察するように、現実はそのような対応が取れるわけではないという実情は存在する。


 アメリアは、建前としての貴族社会も実情の貴族社会も、正しく理解しているからこそのマルティーナに対する話し合いであるのだが、当の本人であるマルティーナが全く理解していない。


 「マルティーナ、先ずはせめて二人だけやある程度親しい人間しかいない所では、わたくしの事はアメリアと呼んで下さい。」


 「え、いえ…… しかしそれは…… 」


 マルティーナからしてみれば、殿上人にも等しい公爵家の令嬢からそのような事を言われるとは思っても見なかった事である。


 「その宮廷魔法師のローブには重みがあるのですよ。忘れてはいないでしょうが、貴女は宮廷貴族位としての男爵という立場です。」


 「うっ、それは確かに…… 」


 正直に言って、宮廷貴族位の事が頭から抜け落ちていたマルティーナは言葉に詰まってしまう。その様子から忘れていた事を見抜いたアメリアは嘆息しながら、今後起こり得るだろうマルティーナの状況を説明する。


 「貴女には今後、独立貴族からの婚約の話が出てくると思いますよ。男爵に子爵、場合によっては中央に影響力の弱い伯爵家からなども考えられます。」


 アメリアが発した内容にマルティーナはまさかと思いながらも、真剣なアメリアの表情に否定出来ないで、唯唯聞いている事しか出来なくなっている。


 「ロサリオ様はこれからヘルツォークのランビエール領を継ぎますが、それだけに留まるかはわかりません。何にせよ、自家専属としての宮廷魔法師としてロサリオ様は、恐らくマルティーナを指名するでしょう…… そうなった場合、マルティーナは断るんですか? 」


 各貴族家には、専属として宮廷魔法師を雇いいれる風潮がある。その場合、宮廷魔法師団として席は置くが、同時にその所属する貴族家としても活動する。
 貴族家に所属した宮廷魔法師は、平和なこの時代においては、宮廷魔法師として召集される事も殆どなく、その家の軍事行動や参謀として活躍する事が常である。当主や当主筋の子息や子女と婚姻を結ぶ事も多い。
 確かにマルティーナはまだ何処の貴族家の専属にはなっておらず、そのような話が出ても断っている。相手が貴族家としては大物であってもアルラオネに矢面に立って貰って断っている。
 アメリアのその真剣な表情に強い問い、ここは退かずにマルティーナは答えるのであった。


 「そうね、ここまで真剣に問われるのであれば答えないわけにはいかないわね…… 。もしあいつから請われれば私は断らないわ。それに放って置けないわ…… 放って置いたら、あいつは何処に向かうかわからないから…… 」


 やはりとアメリアはマルティーナの答えを受け止める。明確に好きだとは言っていないが、声音とその表情で十分すぎる。
 そもそもアメリアとロサリオの二人を見たときの周囲の受け止め方のように、それはロサリオとマルティーナの二人を見たときの反応もまた同じものである。


 「ではわたくしから言うことはひとつです。二人でロサリオ様を支えて行きましょう…… こうもロサリオの事が好きで気になってしょうがないという表情をされてしまってはね。」


 アメリアは片目を瞑りながらしてやったりと言った風にマルティーナをからかう。


 「なっ、な…… べ、別にそんなんじゃないです…… ていうか好き過ぎてどうしようもないのはアメリアでしょう!! 」


 「まぁわたくしはロサリオ様の事は一目惚れですし、今では女として愛しておりますが、好き過ぎるとは言ってませんよ! 」


 「あっ…… いや、私は…… 」


 アメリアは泰然とマルティーナの言葉に返すが、テンパってしまったマルティーナは、本音が出ているのを指摘されて、さらに顔を赤くしてあたふたしてしまう。


 「そういう飾らない本音でぶつかることの出来るマルティーナだからこそ、あそこまでロサリオ様の心の深い所まで、自然と寄り添える事が出来たのですね…… 」


 「ああ、もうっ…… 好きですよ! 一緒にいたいと思ってますっ!! これで満足ですかっ!? 」


 開き直ったマルティーナは顔を真っ赤に染めながら怒鳴りつけるようにアメリアに言い放った。


 「ふふふ、やっと素直になりましたわね…… 今までは、わたくし自身が愛する男性に対して、まさかこんな身近に強敵が現れるとは夢にも思ってなかったのですが…… 」


 アメリアとてティファニアの月とまで言われて自惚れていたわけではないが、相手は大陸の常識などは、己の力一つで吹き飛ばすこの出来る男性である。
 公爵令嬢ではなく、1人の女として磨き、高めていかなければ傍に侍る事は叶わないのではないかという焦りも持っている。


 「ロサリオは、相手の身分なんか最初は気にしても、いざとなると全く無視して自分の好きなように振る舞いそうな奴ですからね…… 」


 「ええ、だからマルティーナには負けたくありませんが、でも二人でロサリオ様の力になればいいのではなくて。1人の力だけでは、あの方を支えるのは難しいでしょうから…… だからこそ、ランサローテのアリア皇女は気になりますね。」


 アメリアはふとロサリオに婚約者がいた事を思いだす。ロサリオはランサローテであのような悲劇的な結末を迎えてしまったが、当の婚約者たるアリア皇女はどのようにロサリオに接しており、今はどうしているのだろうかと考えてしまう。


 「気にしてもしょうがないでしょう? その皇女様はランサローテにいるんだし…… どちらにしろ物理的に婚約は解消されているでしょうから、新たな婚約者でも探すんじゃないですか? 」


 「う~ん…… 確かにそうなんでしょうが、そうも言いきれないような…… 」


 マルティーナの意見は尤もであるし、アメリアにも反論する余地はないのだが、女としての勘なのか、ただ一概にそう切り捨てる事がアメリアの中で出来ないでいる。


 「まぁ今は、帝国の事のほうが先ね。あいつの言う通りになったら、ヘルツォークはまた困難に直面することになる…… 」


 「そうね…… マルティーナはナーダに向かうんだから、十分気をつけてね。」


 アメリアは漠然とした自分の感覚を振り払うかのように、マルティーナが言った帝国の事に意識を割くようにする。
 貴族級魔族に魔物大狂乱パンデモニウム、もしロサリオの予想が的中した場合は、帝国との戦争である。その事に思いを馳せるとアリア皇女に感じていた漠然とした予感めいた物も霧散してしまった。
 アメリアとマルティーナ、出自はかたや公爵令嬢にかたや孤児といった二人であったが、本音をぶつけ合い、確かな絆で結ばれた夜の一幕であった。

「魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く