魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第82話 魔王による審判の雷

 フリーンがマルティーナへ回復魔法を掛けている間に、ロサリオは何故このタイミングでここに現れることが出来たかをマルティーナとサーラブ、次いでにその場にいたミラという女性魔法師に語り終えていた。


 「相変わらずあんたは無茶苦茶よ…… これからどうするの? 」


 「取り敢えず、ここの帝国軍を蹴散らしてからアメリア達と合流する。向こうも上手くいけば、残ったヘルツォーク軍もナーダへ退避出来るはずだからな…… 護衛としてバレッタを付けるから、暫く大人しくしておいてくれ。先ずはこのメルダ内に居る帝国兵を掃討する…… 安心して待機出来ないだろうからな。」


 言うなりそのまま上空に浮かび上がっていくロサリオを、女性魔法師のミラはポカンと現実感なく見送る。


 「あ、あれ…… う、浮いてる? 飛んでる!? あ、あんなの見たことも聞いた事もありませんよ!! 」


 混乱して宮廷魔法師の正装に身を包む、自身よりも位が上であるマルティーナに戸惑いを表すかのように、ミラは揺さぶりながら質問をする。
 確かに飛行魔法など存在せず、風の魔法で無理矢理衝撃を与えて飛ばすぐらいの方法しかない。事実ロサリオが行使しているのは、有り余る魔力を運用して身体を浮かせて自在に操っているだけのオリジナルである。
 ランサローテでの魔王としての戦いの中盤から、漸く使用出来るようになったものだ。


 「まぁ、見てなさい…… もうああなったら誰にも止められない…… 既存の理屈じゃ通用しなくなるから。」


 「取り敢えず私達はロサリオ様の真下にいましょう。変に動いて巻き添えを食らわないようにしないと…… 」


 ミラがゴクリと、この世の物とは思えない物が始まるのではないかという恐怖に生唾を飲み込むなか、フリーンは皆に迂闊に動かないように注意する。


 ロサリオは、上空から町全体を見回せる位置で、帝国兵の存在やその人物が持っている魔力を確認する。


 「まぁ、中々に強いな…… Bランクもちらほらと混じっている。1,000ちょいといったところか…… よし、捉えきった。バレッタッ! 戻ってこいっ!! 」


 メルダ内に侵入している帝国兵を魔力感知にて、素早く把握し魔術行使の準備に入る。建物内にいる帝国兵も含めて、メルダ内に居る全ての人物の頭上に魔方陣が浮かび上がる。
 1,000を越える魔方陣の魔力光による輝きは、山々の稜線において昼と夜が溶け出すように混ざり出し、仄暗くなり始めた景観に幻想的な煌めきによるアクセントを醸し出す。


 「うわぁ、凄い綺麗! 」


 「馬鹿…… そんなロマンチックな光景じゃないわよ…… 」


 サーラブが単純に幻想的な光景に目を奪われるなか、マルティーナは余りの出鱈目な魔力運用からくる恐怖に、背中を伝う冷や汗と全身の震えが止まらない。
 隣に居るミラを見ると、ガチガチと歯が嚙み合わないかのような音を出しながら失禁している。
 正しくこの現象を理解している証拠であると、フリーンは初めてあのロサリオを目にするのであれば、仕方がないことなのかもしれないと思うのであった。
 バレッタはフリーン達の元まで退いてくると同時に、誇らしげにロサリオを見上げる。


 「殿下、あぁ殿下っ…… その姿をこの目に焼き付けることができ、バレッタは歓喜の念に堪えません!! 」


 ランサローテでは目にする事が叶わなかった、魔王としてのロサリオの姿にバレッタは涙を流しながら歓喜する。


 「さあ、果てまで追う雷に恐怖するがいい。」


 『ゲヴェターズフォルゲン』


 メルダ内に居る帝国兵一人一人の頭上に煌めく魔方陣から無数の雷撃が降り注ぐ。
 それなりのレベルにあるものは、魔法防御を展開したり、素早い動きで逃げようとするが、高速で降り注ぐ雷撃と、そもそもの術者である、ロサリオの圧倒的魔力の強さに防ぐことも逃げる事も叶わずに撃たれ焼き尽くされていく。


 「ギュウォウォウォウォウォッ! 」「アガガガガガガッ!? 」「うわっうわっ、グバババババ! 」


 ズガンッズガッガガガガガガガガッ


 ロサリオの魔力によって黒く浸食された黒雷が、無慈悲にメルダ内を豪雨のように降り注ぐ。


 「アハハハハハハハッ! 何だ何だ、大して逃げることも出来ずに喰らうだけかっ!? あれだけ粋がって女を追い回していたのに、随分と情けないじゃないかっ! フハハハハハハハッ!! 」


 上空にいる、黒い魔力が漏れ出すかのように噴出させているロサリオの姿は、エレーナの本陣からもよく見えていた。


 「な、あれは…… 貴族級の高位の魔族だとでもいうのですかっ!? 」


 ロサリオが放つ圧倒的魔力と黒雷からもたらされる轟音によって、馬は嘶き怯え出す。兵士達にも恐怖が伝播してしまい、軍事行動における士気は最悪と言っていい。


 「あ、あんなの人間じゃないっ!? 」「メルダの町にいたやつらはどうなった?」「う、うわあああああ!! 」


 馬の暴走に便乗して、そのまま逃げ出そうとする兵も多数出てきており、混乱の極みに陥ってしまっていた。


 「お、落ち着きなさいっ!? こちらにはまだ6,000の兵がいるのよ。こらっ! 屈強を誇る帝国兵が敵前逃亡など許しませんっ!! 」


 本陣を立て直そうとエレーナは檄を飛ばすが、外側である国境方面に配置されていた部隊が、数百名の規模で逃げ出してしまった。


 「おいおい、逃げるとは興醒めだぞ…… あぁ、あれを試そう。確かこんな感じだったな…… 」


 「ひっ!? 」「あ、あの化け物がもうこちらまで来てるぞっ!! 」「とにかく、打てっ! 打てぇぇええ!! 」


 ロサリオはメルダの外壁の外までそのまま浮遊しながら、嘗てデカラビアという貴族級魔族が使用していた魔術を逃げ出していく部隊に放とうと思い描く。
 慌てふためいている帝国兵から魔法や矢による攻撃に曝されるが、圧倒的強度を誇る自身の防御魔術により全く意に介さない。


 『ゲヘナフレイム』


 ロサリオの手の平から発せられた黒い火種が、逃げ出した部隊の中心に高速で着弾する。
 手の平サイズの黒炎であったため気付くものはおらず、そのまま走り去っていたところに轟音が沸き起こる。


 ドゴォォォオオオオオオン!! 


 「キャアアアアアアアッ!? 」


 直径1km近い黒い火柱が立ち上ぼり、エレーナが居る本陣にすら衝撃と熱波が押し寄せてくる。


 「ひ、姫様を守れっ!! 」


 側近数名が身体を張ってエレーナを守るが、ロサリオの今の魔術で、逃げ出した兵を狙ったために本陣から離れた所に着弾したはずであるが、余りの広範囲の被害に3,000名強の犠牲者が出てしまっていた。
 余りの巨大な火柱にマルティーナ達はもちろん、ここから30km以上離れているナーダですら観測出来る程の高さである。


 「少々魔力を込めすぎたか…… アメリアから言われた第3王女のエレーナとかいう奴以外は、どうなっても構わんからいいだろう。幸い本陣の中心は被害も少なそうだしな。」


 (ランサローテの時は、とにかくレベルが上がり易くなるように、時間を掛けて戦いながら、エルザバトで一人一人斬り捨てていったが…… やはり魔術を使うと楽だな…… )


 ロサリオは、騒然とするエレーナの本陣を睥睨しながら第3王女エレーナを見つけた。


 「あれだな、アメリアから聞いている容姿に合致するな…… 」


 ロサリオはエレーナに向けて防御魔法陣を展開させる。周囲10m程の即席の展開であり、側近も2名巻き込んでいる。
 しかし、強度はまるで問題ないと思われる程であり、もはや聖域に近い。


 「な、何なのこの強力な結界はっ? 誰が展開したの? 」


 「我々ではありません…… とんと検討も…… 」


 エレーナのヒステリックな問いかけに対し、同じく防御魔法陣に捕らわれた側近が訳がわからないと答える。


 「おい、死にたくなければそこを動くなっ!! アメリアがナーダ攻略の本陣にアレを使うからな…… やはり雷属性でいいか。」


 エレーナは空中に浮遊するロサリオから声を掛けられ大いに戸惑う。もはやエレーナの疑問は尽きることは無くなるほど、目まぐるしい状況の変化に付いていけていない。
 思考が纏まらなくなってきているのが現状である。


 (死にたくなければ? というよりもあれは大陸共通言語!? に、人間なのか……? )


 「もう指定無しだ。逃げることも叶わない…… せめて祈るんだな、死ぬまで永続的に続く黒雷から、苦しまずに逝けるように。」


 エレーナの本陣を覆って余りある程の、巨大な魔法陣が包み込むように浮かび上がる。


 『ゲヴェターダウルハフトゥ』


 無慈悲な黒雷の豪雨が、止む気配を見せずにエレーナ率いる本陣の3,000名に降り注ぐ。
 もはやエレーナと側近2名は悪夢を彷徨っているかのような、この現実的ではない光景を眺めているだけであった。兵士達の五臓六腑を刺激する阿鼻叫喚ですら、どこか夢現のような心持ちで、防御魔法陣内で聞いている。
 側近2人は、気でも触れたかのように口元から涎を垂らしながら、壊れたように笑っている。


 「このくらいでいいか。」


 ロサリオは魔術の発動を切って地に降りる。そこにメルダからバレッタに連れられた4人が来るのであった。
 豪雨とも呼べる雷に荒らされた辺り一面の大地に絶句する。
 少し離れた火柱が起こった箇所は、大地があまりの高温に曝されガラス状に変化して、夕焼けに照らされる事により、戦場にはそぐわない温かな煌めきを反射している。


 「こ、これは…… 正に魔王の所業じゃない…… 」


 「凄まじいですね、流石は殿下! 」


 マルティーナとバレッタ以外は言葉も出ない。ミラは目に飛び込んできたこの惨状を恐怖に慄き、再度漏らしながら膝から崩れ落ちてしまう。


 「ご主人様、全員殺したんですか? 」


 「いや、アメリアからも言われていたからな…… そこのエレーナとやらは生かしてあるぞ…… オマケもいるが、こいつらはいらんな。」


 エルザバトを抜き放ち、瞬きをする間も無く2人の側近の首を跳ねる。
 その生暖かい返り血を勢いよく浴びて、エレーナは正気に戻る。


 「え、あ…… あれ、キャアアアアアアア!? 」


 周囲には、黒焦げで九の字に身体を折り畳んで絶命している、帝国兵の遺体と悪臭で充満している。
 その強烈な視覚と嗅覚からくる情報量の多さと残酷さに絶叫しながら粗相をしてしまう。


 「ここまでくると王女も形無しだな。まぁ、恐怖に怯えて漏らした女というのも、こう中々にくるものがあるな…… 」


 ロサリオは自分も含めて、人体の焼け焦げた悪臭などに曝されないよう、風の魔術で皆を覆い被せるように展開していたが、そのなかにエレーナも含めてやった。


 「バレッタ、拘束しておけ。おいっ、お前がグランクルス帝国第3王女のエレーナでいいんだよな。」


 アメリアから聞いていた容姿に、そして身に付けている高価な装いで間違いないと確信はしていたが、本人の口から言質を取るために確認する。
 痙攣ひきつけを起こしそうなほど恐怖で震えていたエレーナが、ロサリオの問いかけにビクリと反応をした。


 「は、はい…… わわ、わたくしが…… エレーナ、です…… 」


 「ちっ、壊れかけてんじゃねぇか。」


 口元から涎を垂れ流し、焦点の合わない瞳に虚ろな表情、何とかロサリオの問いに答えはしたが、精神に異常をきたす寸前である。


 「仕方がないですよロサリオ様、壊れきっていないだけマシです。味方のこの方も恐怖で壊れかけてますから。」


 フリーンはミラを見ながらロサリオに苦言を呈する。ミラは恐怖でロサリオを直視出来ない。
 この人の者とは思えない惨劇を引き起こした人物に対して、よく喋りかけることが出来るものだと震えながら思うのであった。


 「これからどうするの? 」


 もはやここでの戦闘は、文字通り完膚なきまでに帝国軍を皆殺しにしたこともあり終了している。


 「そろそろアメリアもここにくるだろうから、それを待ってからだな…… 恐らくヘルツォーク公爵軍はナーダに入っただろうから、これから夜営の準備に入る帝国のナーダ攻略軍を俺が急襲して、それでこの戦争は終いだ。」


 アメリアには段取り通りにするよう伝えてある。それでヘルツォーク公爵軍もナーダに退く機会を得られるであろう。
 ロサリオの言葉通り、ナーダ方面からアメリアが操るスカイドラゴンの姿が、夕焼けに照らされながら空に映し出される。
 もう間も無く夜が訪れる、たれそかれとも分からなくなる間際の黒と赤が混じりあい、黄昏を背景にしつつメルダでの戦闘は終わりを告げるのであった。

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