魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第81話 昔日の呪縛を越えて

 突如フリーンを左腕に抱えながら上空から現れたロサリオは、意図的に帝国兵たちが死なないように風の魔術を調整して燃え盛る町舎に叩きつける。


 「な、なんだっ!? 吹き飛ばされっ! 」「身体が…… 浮いて、うわぁぁああ!? 」


 バガガァァアアアンッ!! 


 「アヂィィ!! 火がっ!? 火がぁぁぁああ!! 」


 町舎に叩きつけられ、身体中に炎を身に纏った兵達の阿鼻叫喚が響き渡る。


 「ロ、ロサリオ…… 何で? 王都にいたはずじゃ…… 」


 「ご、ご主人様っ!? ごじゅじんざまぁぁああ!! 」


 ふらつくマルティーナを支え、絶望の色に染められていたサーラブを優しく抱き止める。


 「フリーン、早く治療を…… 」


 「は、はい!? では先ずは致命傷のこの方から! 」


 ロサリオの首に抱き付き、左腕に抱えられてここまで降りてきていたフリーンは、着地と同時に離れて右胸に矢が突き刺さっているミラの側に駆け寄っていた。
 ロサリオはマルティーナとサーラブを抱きしめる腕に力を込めるのであったが、言葉を発することはなく、ただただ震えている。
 その事を訝しむ2人は、色々と疑問があるが声を掛けるのを止められない。


 「ねぇ、ロサリオ? 」


 「ご主人様、どうしました? 」


 「ま、間に合った…… 間に合った間に合った間に合った間に合った…… 今度は間に合ったっ!! 」


 何故か助けた側のロサリオが、滂沱の涙を流している事に2人は驚いてしまう。


 「あ、あんたっ!? もう、ありがとう。だから泣かなくていいのよ。」


 「うるさいっ…… 」


 「ご主人様、ありがとうございます。もう少しでこの身を汚されてしまうところでした…… だから泣かないで下さい。」


 「泣いてないっ…… 」


 震えて今にも崩れ落ちそうなロサリオを逆に2人は受け止める。2人には、ロサリオがこのようになってしまう理由に心辺りがあった。
 いつぞやのナーダ伯爵邸でロサリオが吐露していた、ロサリオにとって全ての元凶。
 母と妹が尊厳を踏みにじられ、蹂躙された後に殺された事に起因しているのだろう。


 「殿下…… 今度は間に合いましたね。」


 「あ、貴女は!? あの魔物大狂乱パンデモニウムの時、ロサリオの傍に出現したっ!? 」


 赤茶の髪を緩く巻かれたサイドテールに纏めており、ネコ科の猛獣を思わせるしなやかな肢体と切れ長な目は、正に女豹と呼ぶに相応しい鋭さと色香を兼ね備えている。


 「あの時の魔法師さんね、専任魔法師はランサローテでは珍しいから覚えているわ。」


 バレッタはロサリオの持つ妖刀エルザバトを大事に抱えながら、マルティーナの驚きに丁寧に答えた。


 「バレッタ、大通りにいる帝国兵の相手をしてこい。俺も直ぐに行く。」


 ロサリオの自分に対する命令に、嬉しそうに頷きながら踵を返す。


 「ゆっくりで構いませんよ殿下。暫しの邂逅を噛み締めてからで構いませんから…… 殿下をお願いね! 」


 茫然とするマルティーナとサーラブに対してウインクをしながら、悠然と大通りに向かって、バレッタは歩を進めていく。
 落ち着きを取り戻したロサリオは、サーラブとマルティーナの怪我の様子を伺う。
 マルティーナは左足と右肩を矢が貫いており、右頬は赤く腫れ上がっている。
 サーラブは腹部に痛々しい程の痣が浮かびあがっており、咳き込むと血が混じっているのを見て、内臓を痛めている可能性が高いと判断した。
 フリーンが治療に当たっているミラという魔法師は、意識不明の重体となっており、フリーンが未だに懸命に回復魔法をかけていた。


 「サーラブ、これをゆっくり少しずつ飲むんだ。この怪我回復ポーションで応急処置をした後はフリーンに見て貰ってくれ。」


 「は、はいっ! ありがとうございます。んく、んく…… 」


 ロサリオからポーションを受け取り、指示に従って内臓に負担がかからないよう、ゆっくりと嚥下していく。
 マルティーナの手当てに関しては、先ずはポーションを湿らした布で優しく包むように当てると腫れが引いてきた。


 「じ、自分でやるわよ…… 」


 「いいから、黙って布を頬に当ててろ。」


 ロサリオの強い口調に圧されて素直にマルティーナは言うことを聞く。マルティーナの矢傷は鏃が貫通していたため、短刀で鏃を切り落とした。


 「鏃を落としたから、抜くときにはそこまで痛みはないはずだから、少し堪えろよ。」


 マルティーナは素直に頷き、其れを見たロサリオは、先ずは左足を貫いている鏃を落とした後の棒であるを引き抜いた。


 「くっ…… 」


 「大丈夫か? 」


 呻くのみで声を出さずに耐えたマルティーナの左足の矢傷に、ポーションを振りかけ布を包帯がわりに巻く。
 うっすらと冷や汗を浮かべて、熱に浮かされるような表情をするマルティーナに、今度は右肩のを引き抜くと伝える。


 「は、早く…… お願い…… んんっ…… はぁ、はぁ。」


 辛そうなマルティーナの吐息を受けて、一気に右肩から引き抜く。


 「んはっ!? あぁ、はぁ、はぁ、んふっ! ふぅ。きやっ!? 」


 さすがに2度目ともなると我慢できなかったのか、喘ぐように声を漏らしてしまう。
 手早くを引き抜いた後、傷口の治療が出来るように強引にローブをずり下げ、右肩と背中を露出させる。素早くそこにポーションを振りかけポーションを湿らせた布を優しく押し当てる。
 大人しくされるがままに耐えているマルティーナを見ながら、上気した頬に潤んだ瞳、艶かしさを助長するような吐息にロサリオは変な気分になってきた。


 (エロッ! じゃない治療治療、これは治療。)


 「後は念のためにこれをゆっくり飲んどけ。」


 ロサリオがぶっきらぼうに渡すポーションを受け取って、素直に飲むマルティーナに些か調子が狂わされる。
 他の面々を見れば、フリーンは既にサーラブの治療も終えて、目を覚ましたミラやサーラブと共に、3名共顔を赤くしながらロサリオ達を凝視していた。


 「な、なんでそんなじっくり観察してるの? 」


 「いや、何といいますか…… ご主人様とマルティーナさんの絵面が余りにも…… 」


 しどろもどろに答えるサーラブに、ロサリオはため息を吐きながらフリーンにマルティーナの治療を促す。


 「フリーンさん、マルティーナを診てやってくれ。大丈夫かマルティーナ? 」


 「う、うん……? 」


 まだ痛むのかどうかはロサリオにはわからないが、心ここに在らずといったマルティーナの様子には、つい心配になってしまう。









 ロサリオに帝国兵を任されたバレッタは、久しぶりの現界に心躍らせながら大通りに向かっていた。あのロサリオの喜びはバレッタにも理解できる。
 ロサリオが8歳で目撃した惨劇をバレッタも見ている。ロサリオの母と妹の首を清めたのも、遺体を埋葬したのにも、バレッタはロサリオと共に取り行っていたのだ。


 「本当に今回は間に合ってよかったですね…… もうあの時の殿下の絶望と憤怒に染まり切ったお顔は視たくありませんから。では、お前たちには報いを受けてもらいましょう。 ― 踊れ、喰らい、焼き千切れ、劫火の蛇の咢が舞う ― 」


 『エリゴォンスラング激昂の炎蛇


 魔物大狂乱パンデモニウムの時に放ったように大量の炎の蛇ではなく、大通りを全体を呑み込むかのような黒炎の大蛇の咢が、大通りから南門付近に展開をしている帝国兵を次々に蒸発させていく。
 魔術は魔力消費も多く、個々の裁量により威力も有用性も左右されるが、様々な局面に対応するように術者の意思で、形状や威力を調節することが可能という利点がある。
 通りに展開していた凡そ1,500以上の帝国兵達は、一瞬でこの世から姿かたちを焼失してしまっていた。
 準貴族級魔族やドラゴンと同等のレベルに判定される、今の人族ではなくなったバレッタの必殺用の得意魔術の前には、人族のレベルでのCランク程度では、相当な備えをしなければ相手をすることは難しい。
 しかも、奇襲を受ければなおのこと防ぐのは不可能であろう。
 事実上、属性持ちのドラゴンのブレスを予期していなかった所に直撃を食らうのと同等である。


 「な、何っ!? あの黒い炎の本流はっ!? 」


 バレッタが放った魔術は、メルダの外に敷いていた第3王女であるエレーナの本陣からでも目視することが出来ていた。


 「わ、わかりませんっ!! しかし、メルダ内に駐留していた大通りの部隊が全て消失しましたっ!! 」


 本陣は余りの魔力の本流に浮き足だってしまっていた。本陣からは南門がよく見えており、あれだけ犇めいていた帝国兵が居なくなってしまったのである。燃えたというよりも、消えたというほうがしっくり来てしまう。
 通り沿いの建造物が燃え盛っているので、炎の魔法が使われたというのが辛うじてわかるといったところだ。


 「先日の魔術以上じゃないのっ! あのアルラオネが現れたとでも言うの? メルダ内の状況を早く報告なさいっ!! 」


 最早エレーナはヒステリック気味になってしまっている。陥落せしめたとばかりに気が弛んだところにこの被害である。


 「一体何が…… どうなっているの……? 」


 唇を震わせながら、意味を為さない疑問を呟く事しか出来ないエレーナであった。

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