魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第80話 足掻き続けた結末

 ヴァルター率いるヘルツォーク公爵軍は、既に形成していた陣地を破壊されてしまっていた。
 朝から苛烈にパーヴェル率いるグランクルス帝国軍の猛攻に曝されてしまい、徐々に徐々に押し込まれてしまい、城塞都市ナーダに退く機会を計る段階に来ている。


 「グランス子爵戦死しましたっ! 」「コーラル男爵重症っ! 本陣に退いてきます。」


 自領の軍を率いてきた貴族にも戦死者が出てきている。ヴァルターはせめて今日中ぐらいは、ここで持ちこたえたかったが、損失の数も10,000近くなってきている。
 悠長な事を言っていられる状況ではなくなってきていた。


 「攻めて攻めて攻め込むのだっ!! もはやヘルツォークの奴らの防御は無いに等しいぞっ! 」


 グランクルス帝国兵の発する声が、本陣にいても明確に聞こえてくるまでに迫っている。


 「魔法師部隊は急ぎナーダに撤退しろっ!! オリビアとクラフト卿、そしてナーダ伯爵は負傷兵と7,000の兵を纏めてナーダに撤退っ! 儂と残りで殿を務める。」


 ヴァルターがそう指示を出し、オリビアとクラフト卿は魔法師部隊を護衛する形で兵を纏め始める。
 そこにナーダ伯爵がヴァルターの隣に馬を進めてきた。


 「殿は私がやりますよ、ヴァルター殿。流石にうちの領内での戦ですからな…… 当主筋が務めなければいい笑い者だ。」


 ナーダ伯爵は、何の気負いも無しに死地に残ると言っている。貴族であれば、我先にと逃げる者も多いであろうと思われる中、ヘルツォーク公爵領の辺境を守護する者としての覚悟が据わっている。


 「しかし、今後はナーダで籠城戦になる…… 貴殿がいた方が守備隊の士気に関わるのでは? 」


 「なぁに、60とはいえ、いまだ父親が健在ですからな。既に任せてありますよ…… クラフトさえ生き残れば、後は父に教育を任せます。」


 自家に対する憂いの無い表情でこう言われれば、ヴァルターとしても反論は出来ない。総指揮はヴァルターではあるが、ここはナーダ伯爵領である、軍における指揮及び裁量はナーダ伯爵も高い。実質今回のヘルツォーク公爵軍のナンバー2である。
 軍事行動の筋としてもヴァルターが残るよりもナーダ伯爵が残るほうが正しい。


 「ヴァルター殿も年だからといって自分が死地に残る必要はないんですよ。貴方は後方に居るだけでも帝国軍に対する圧力になるんですからな。」


 「わかった。3,000を残していく。援軍が来るまでナーダは必ず守りきる。」


 ヴァルターは耐えるように奥歯を噛みしめて、ナーダ伯爵に伝える。


 「ええ、任せましたし、任されました。」


 晴れやかな表情である。ある程度の年齢のいった軍人は、己が死地を探しているのだろうか。ヴェルナー然別、ナーダ伯爵然別、託す者のいる者のなんと晴れやかな表情かと、ヴァルターは羨むように見つめるのであった。


 「ん、何だ!? あれは…… ドラゴン!! 」


 ふと、空からの圧力にヴァルターもナーダ伯爵も空を見上げると、迫力のあるスカイドラゴンが通過していった。
 帝国兵達もこれだけ低空をドラゴンが飛行することは珍しいため、一瞬であるが気を削がれる。
 本陣にいたパーヴェルも勿論ドラゴンの存在に気付き、警戒を込めて注視するが、そのまま飛び去って行くのを確認して安堵する。


 「あのドラゴン…… 背に何か取り付けていなかったか? いや、まさかな…… 」


 パーヴェルの呟きは、ドラゴンが巻き起こす強風に散らされて、誰にも拾われることはなかったのであった。









 第3王女エレーナは本陣にて、メルダに自軍が侵攻したのを確認後、パーヴェルに伝令兵を出した後、その後の指示を伝えにきた伝令兵の対応をしていた。


 「パーヴェル様は何と? 」


 「はい、メルダ陥落ご苦労であった。と申されておりました。ついては、ノダール辺境伯領から来る、後詰めの兵をメルダで迎えられる段取りを姫様に行ってほしいとのことです。加えて5,000の兵を編成し、明日の早朝にパーヴェル様率いるナーダ攻略軍に編入するように、との事です。」


 エレーナは、伝令からのパーヴェルの要求を全て受諾した。


 「わかりました。私はここで兵の受け入れ、及び補給線の確保に務めます。明日の早朝にそちらに5,000を向かわせる段取りを済ませます。」


 伝令兵が退出するのを見計らって、側近に指示を出す。


 「ノダール辺境伯領にメルダに行軍するよう早馬を出しなさい。あちらも向かっているでしょうが、状況報告が欲しいでしょう。メルダ内の状況は? 」


 「敵方の少数が未だ残ってますが、時間の問題でしょう。既に我が軍2,500程が、メルダ内を掃討するために入って数時間が経ちますから。」


 側近の報告を聞いてエレーナは安堵する。最低限の戦果は上げることが出来たであろうと思えた。昨日の兵の損失の多少の挽回にはなったのではないかと、自分に言い聞かせるのであった。









 マルティーナ達は、目眩ましと時間稼ぎのために町舎に火をかけてから脱出したが、所詮は時間稼ぎであり、殺到した帝国軍に直ぐに見つかってしまった。


 「いたぞっ! あのローブは宮廷魔法師だっ! 」「あれが、先程と昨日の魔法を放った奴かっ!! 」「エレーナ様の命令だ、引っ捕らえろっ!! 」


 もはやマルティーナとサーラブ含めても5人しかいない。まだ北門までは距離がある。
 マルティーナとサーラブ、そして生き残っている魔法師の女性で魔法攻撃を加える。


 「ファイヤーレイン」


 「ファイヤーボム」


 「サンダー」


 マルティーナ、サーラブ、そしてメルダに配属されていた魔法師のミラが、順に魔法を唱えた。
 範囲攻撃魔法を放ったマルティーナとサーラブのお陰で帝国兵の隊列が崩れ、損害を与えることが出来た。ミラは雷属性であるが、もう既に範囲攻撃魔法を唱える魔力が残っていない。
 帝国軍の隊列が崩れたその隙にさらに逃げようと試みたマルティーナ達だが、グランクルス帝国軍から矢が降り注いでくる。


 「きゃああああっ!? 」「ぐっ、ぐうぅ…… 」「大丈夫ですかマルティーナさんっ!? 」


 生き残っていた兵士2人が、3人を庇うように前で剣を振るって矢を防ごうとするが、さらに飛んできた攻撃魔法の直撃をその身に受けてしまった。
 マルティーナは左足と右肩に矢を受けて倒れ込んでしまい、ミラも右胸に矢を受けてしまう。
 サーラブは高い身体能力で矢が掠めるに留まっていた。


 「万事休すね…… 」


 そこへ帝国兵が近づいてくる。


 「手間かけさせやがって。」「なぁ見て見ろよ、例の宮廷魔法師と狐人族のほうっ!? とんでもねえ美人だぞっ! 」「どうする? 頂いちまうか、住民が逃げてやがるから鬱憤がたまってんだよな! 」


 兵士2人は帝国兵の魔法攻撃で絶命しており、ミラも右胸に矢が刺さって瀕死である。マルティーナも左足を貫いた矢のせいで満足に身動きが取れず、サーラブが2人の前に身を呈して立ちはだかる。


 「宮廷魔法師のほうはエレーナ様に捕らえろとの命令だしな…… 狐人族のほうはこの美貌だ、パーヴェル様に献上したほうが、俺達出世出来ないか? 」


 小隊長クラスの騎士の言葉に、なるほどとその場にいた兵士達が納得するように、獣欲に満たされていた眼光が和らいでいった。
 もう直ぐにでも他の兵士や騎士達が来そうな勢いであるので、蹂躙している暇はなさそうであるのは、3人には幸いしたかもしれない。
 率いているエレーナもまだ成人前の女性であるので、マイナスの評価が下されるかもしれないとの思考が、マルティーナ達に迫っていた帝国兵達の頭をよぎっていた。


 「サーラブ、あんたは逃げなさい。私達2人…… 特に私がいればあいつらは満足するはずよ。」


 「どうやら私も向こうの捕らえる標的になってしまったそうで無理そうです…… 後ろを向いた瞬間に矢と魔法が飛んで来そうですから…… 」


 燃えた町舎の向こうからは多数の帝国軍の気配がしており、この場にも30人程の帝国兵がいる。矢をつがえてマルティーナ達に向けている者や魔法師もいる。


 「せめてこの娘も助けてくれればいいけど…… 」


 帝国兵の会話から察するに、マルティーナとサーラブは捕らえられても帝国の首脳陣に引き渡されそうであるが、このミラという10代後半の若い魔法師は、どのような目に合わされるかわからない。サーラブがその事に気付いて視線を帝国兵から切り、マルティーナとミラを見た瞬間、帝国兵の騎士が素早く間合いを詰めてきた。


 「サーラブ前っ!? 」


 マルティーナの言葉にサーラブは、ハッと我に返り視線を戻すが、相手の騎士の力量が高く、サーラブは反応もままならずに鳩尾に拳を受けてしまう。


 「しまっ!? くふっ…… かはっ!? 」


 多少体勢を反らしたために気絶はしなかったが、重い一撃にそのまま九の字に倒れ込んでしまう。


 「これ以上お前らも抵抗するな…… 引っ捕らえて本陣に連れていけっ! 」


 「おらっ! 立てっ! 」


 「ぐっ、ああっ! 」「くぅ…… 」「…… 」


 荒々しくサーラブの髪を掴み上げ無理矢理立たせ、マルティーナは左腕を捻り上げられながら起こされる。ミラに至ってはほぼ意識がないのか、声すら上げられずに左右から引摺り起こされた。


 「上に引き渡されるからって安心するなよ、道具のように使われて、女の尊厳を踏みにじられた後は、飽きられたら性奴隷として奴隷館行きだ。」


 ニタリと厭らしい顔つきで、3人を眺めながら言う騎士の言葉を聞いて、周囲の兵士達も下卑た笑いが方々で起きる。


 「そんなことになるぐらいなら、下を噛みきって死んでやるわよっ!! 」


 マルティーナは気丈にも屈しないと言葉を吐くが、騎士はすかさずマルティーナの頬に容赦なく平手打ちを加える。


 「きゃぁぁあっ! う、うぅ…… 」


 「口の減らねえ女だなぁ、美人だからって調子に乗ってんじゃねえよ!! 死なれても面倒だ、猿轡にするものを持ってこいっ、あんまりうるせえと、俺達でおなしくさせたくなってくんじゃねえか…… はははははっ!! 」


 「マルティーナさんっ!? あんた達っ、ぐっ、ああっ!? 」


 言葉を張り上げるサーラブの髪を更に持ち上げ、腕を関節を極めて捻り上げる。マルティーナは力一杯張り倒されて、意識が朦朧とし出してきていた。


 (あんたは心配してくれてたのに、無茶しちゃって御免なさい…… もう会って謝ることも出来なくなっちゃった…… )


 「隊長駄目だ、はぁ、はぁ、もう我慢できねえよっ! こんだけ気丈なら俺達がヤッちまったぐれえじゃ、壊れたりしねえですって!? 」


 何人かの兵士が、張り倒されたマルティーナや艶かしく呻き声をあげるサーラブを見て、再度獣欲に取り付かれた血走った目をし出した。


 「そうだな…… 俺も滾っちまったからなぁ、この狐人族と瀕死の魔法師はこの場でヤッちまうかっ!! まぁ、この宮廷魔法師はエレーナ様が所望しているからな。お前ら我慢しとけ。」


 「おぉっ!! 」「話がわかるぜっ! 」


 後方に控えていた兵士がサーラブに殺到し出す。


 「きゃあああっ、放してっ! いやっ、いやああああ!? 」


 髪を持ち上げられ、関節を極められて身動きが取れないなか、着ている服を千切、引き裂かれて肌を露にすると、帝国兵達のヴォルテージが最高潮に達しようとしていた。


 「ご、ご主人様ぁ、御免なさいぃ…… 」


 サーラブは、このような場所で分けもわからない奴らに汚される自分に腹立たしく、己の主人であるロサリオに申し訳無さから、虚ろな表情で謝罪の言葉を口にしていた。
 そのサーラブを、ゴブリンもかくやという欲まみれの表情を浮かべた、小隊長と呼ばれていた騎士が覆い被さろうとしてきた。


 「お前が謝る必要は何処にもないだろう。」


 サーラブが目を瞑ろうとした瞬間、強い魔力を帯びた黒い風が辺り一面に吹き荒ぶ。
 身も凍るような恐ろしい魔力を孕んでいたが、不思議とマルティーナもサーラブも恐怖ではなく、安堵が心中を去来した。
 その意思を持ったかのような黒い風に、マルティーナやサーラブを捕らえていた兵達や騎士は、絡め取られるかのように、今にも燃え落ちそうな町舎へ吹き飛ばされるのであった。 

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