魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第79話 大物同士の対談

 時はロサリオがティファニア王との謁見の間を退出し、スカイドラゴンで飛び立った直後に遡る。


 ティファニア王はアルラオネを捕まえて、ロサリオ・メルダース・ランビエールという少年の事を問い質した後、執務室で映像通信用の魔道具を起動させた。傍らには問い質して内容を聞き出したアルラオネ、それに宰相や近衛騎士団団長と副団長も傍にいる。


 「ずいぶん面白い人物を懐に入れたなエーリッヒ、アルラオネから全て聞いたぞ。」


 ティファニア王は全てと言ったが、アルラオネは、ロサリオが大魔王アザゼルその人であるというところまでは伝えていない。流石にそこまでを伝えてしまえば、国家の敵として認定される可能性も高い。
 アルラオネやヘルツォーク公爵があの話を聞いて受け入れることが出来たのは、そこまでに至った状況と心情の慟哭を、直に本人から聞いたからこそであった。第三者から聞かされただけでは、感情移入も理解も出来なかったかも知れないのである。 


 映像通信用魔道具に映し出された人物に、ティファニア王は親しげな口調で話しかける。
 話し掛けられたエーリッヒと呼ばれる人物、エーリッヒ・ローゼンベルク・ヘルツォークはばつの悪そうな表情を浮かべて答えるのだった。


 「もちろんお前にも報告するつもりだったさ、ただうちの状況は判っているだろう? それに俺の懐だけで納まる人物かはわからん…… それは多分お前でもだ。」


 「まぁ、それはな…… ただその割には根回しは素早かったではないか? 」


 一睨みをしてヘルツォーク公爵へティファニア王は問う。


 「それはうちの専決事項だからな。どうとでもなるさ。」


 不敵な笑みを浮かべてそれに答えるヘルツォーク公爵。二人の明け透けな関係が垣間見えるやり取りである。


 「うちのアメリアが目を付けたんだからな。優先権は貰うさ…… しかも、ランサローテのバルトロメ公爵弟とは知らずに、ただの女の感だけでだからな…… 父としては末恐ろしいとさえ思うよ。」


 「お前の言い分もわかる。ただ、大々的にアメリア嬢の婚約相手として、発表出来る状況ではないのが、お前には痛いだろうな…… 対帝国や魔族が侵入してきた件で忙しいだろう? 」


 ヘルツォーク公爵を気遣うようなティファニア王の物言いに、ヘルツォーク公爵は、逆に訝しさを感じてしまう。


 「もちろんそうだが…… はっ!? ヴィルヘルム、お前まさかっ!? 」


 ついティファニア王のファーストネームを呼んでしまうヘルツォーク公爵であるが、ここにいる宰相でさえ、その事を誰も咎めることはしない。
 幼馴染みとさえ言えるような二人の間柄である。そもそもがいつも公式な場以外では、このようなやり取りであるのだった。


 「俺の娘も捩じ込ませようかと考えている。」


 にやりと口角を上げながら、してやったりとティファニア王はほくそ笑む。


 「てめぇ、ヴィル!? それじゃあアメリアのほうが立場的に後塵を拝するじゃねぇかっ! 」


 もはや互いの立場も糞もない言葉使いである。ヘルツォーク公爵としても、ティファニアの月とまで言われている娘を側室にされるなど、いくらティファニアの王女相手とはいえ、面子が潰されるのは間違いない。


 「さすがにそれはお前にも悪いし、いらん事を貴族どもが探りそうだからなぁ…… 側室としてフラウのほうを婚約させようと思う。やはり俺としても直接的な繋がりは欲しいしな。」


 ティファニア王が述べたフラウとは、10歳になる第2王女であるフランソワ・エメリタ・ティファニアの事だ。
 アメリアと同年の第1王女かとヘルツォーク公爵は考えたが、第2王女であるならば構わないかと考える。仕方ないという気持ちのほうが強いことは否めないといった表情をしている。


 「しかしなぁ、流石に王女との婚約は目立ち過ぎないか? ただでさえランサローテは統一されて、これからはティファニアとも交易が始まるはずだ…… というよりもティファニアとしてはしたほうが国益に適う。ロサリオ卿の素性にたどり着く者がランサローテで出てくる恐れがあるぞ。」


 「あのなぁ、お前の所のアメリアのほうが、うちの娘連中よりも遥かに知名度も影響力もあるからな…… 悔しい事にフラウはオマケの側面が強い。王家と繋がりを付けるためだけのな…… 」


 第1王女は巫女性も高く、祭事などで教会の総本山であるアエギディウス聖国とも交流がある。しかし、性格も慎ましやかで見目も麗しいが、目立つようなタイプではなく社交界にも出席はない。
 第2王女は活発だとの評判ではあるが、まだ年齢的に社交界にすら出ていない。
 10歳の頃から出席しているアメリアが特別であり、見るものの目を奪う程の華やかさと幻想的な容姿も相まってか、既に大陸中にその名を轟かせている。加えて前の魔物大狂乱パンデモニウムでの活躍もあり、母であるメリアンヌ公妃の往時の評判すらも霞む勢いである。
 現在のティファニア王や帝国の第1王子のイヴァーンからも求婚されたという母よりもである。


 「それはさておき、帝国の件も含めて忙しいだろうとは思うが、何故お前からは悲壮感や緊迫感というものがないんだ。なあリック、何を隠している。」


 ティファニア王もヘルツォーク公爵の事を愛称で呼ぶ。少々切羽詰まった問いのため、旧知の間柄の砕けた言葉使いをお互いに隠そうともしなくなっている。


 コンコンコン


 ヘルツォーク公爵が口を開きかけたその時に、ヘルツォーク公爵の執務室の扉をノックする音が鳴り響く。


 「恐らくメリアンヌだろう。お前の知りたい答えを持ってきてるはずだ。空いている、入ってきて構わんぞ。」


 ヘルツォーク公爵側は、公爵自身1人であるため、扉の向こう側にいるであろう人物にそのまま入室を許可する。
 呼ばれた人物は、ただ扉を開いて入室するだけだというのに、映像通信用魔道具越しですら、目を奪われる程の所作と美貌を以て入ってくるのであった。


 「お久しぶりね、ヴィル。宰相はともかく、貴殿方が揃うと学院時代を思い出すわね、フフフ。」


 そのままヘルツォーク公爵の隣にまで歩を進め、艶然とティファニア王達に微笑を浮かべる。


 「アメリア嬢の王立学院入学依頼だから、つい最近ではないか。アメリアと君が並ぶ姿に卒倒しそうな者が続出したのは記憶に新しいよ。して、二人が抱いている余裕の理由を教えて貰っても構わんかね? 」


 「相変わらずお世辞が上手ね。ええ、もちろん教えるわ。アメリアには私が嫁ぐ時に持参した、竜王の首飾りを持たせたわ…… リンドヴルム大使館からも連絡がありましたから、明後日にはナーダに着くでしょう。」


 実際には明日にでも到着するのであるが、そこまでは知らずに大使館よりのおおよその日程を応える。明日のアメリアからの通信で驚く事になるのは明白であるが、それでもティファニア王都から城塞都市ナーダ間を2日で移動する事は、未だかつてなかったことである。


 「そうかっ! リンドヴルムの…… なるほど、往年の竜王姫の再来というわけか。」


 「あらあら、今聞くと少し恥ずかしい呼び名よね…… 」


 リンドヴルムの竜王姫、ティファニア王が呟いたその名を聞いて、メリアンヌは恥ずかしげに肩を竦める。


 「そういうことだヴィル、アメリアがロサリオ卿を連れてナーダに向かっている以上、ナーダが落ちる事はないだろう。元々の軍の展開もしている…… メルダは落とされるであろうが、ナーダに取り付く前にロサリオ卿が到着するだろう。」


 ヘルツォーク公爵の言うように、20,000をナーダに展開している以上、いくら帝国軍が50,000の規模とはいえ、2日やそこいらで陥落することはありえない。
 ナーダ自体は平野部にあり、河川が流れているのもローゼンベルク方面のナーダより東側にある、支流が都市に入り込んでいるが、帝国が攻めてくるのとは逆方向であり、監視及び防衛は強化されている。
 奇策を用いることは出来ない状況である。


 「なるほど、ではこれからは彼に対する報奨の算段をする必要があるな…… なぁリック、数万の兵をただ1人で退けた場合、そしてそれが戦の勝敗を決した場合の報奨には何が相応しいと思う。」


 絵空事のような話であるが、有り得ない事では無いところに、ティファニア王は頭が痛くなる。


 「まぁ…… もうこうなったら、アメリアと一緒になってヘルツォークを継ぐぐらいになるかもなぁ。彼がいなければうちは、全兵力を動員する事態になってたかもしれんしな…… 」


 半分冗談混じりになるが、ヘルツォーク公爵は参ったとばかりに言葉にしてしまう。
 グランクルス帝国の件だけではなく、一連の騒動はヘルツォーク公爵領内の出来事である。ヘルツォーク公爵が述べたようにデカラビア、魔物大狂乱パンデモニウム、グランクルス帝国軍と立て続けに起こった騒動は、ヘルツォーク公爵領の存亡を掛けた大惨事となっていた事であろう。


 「そうね…… でも喫緊でもっと大変な状況になる可能性があるわ…… 」


 「うん? 何か懸念があるのか? 」


 メリアンヌ公妃の深刻な表情に、ヘルツォーク公爵は聞き返してしまう。


 「メルダにヴェルナー卿の部隊とマルティーナが救援に向かったそうよ。ナーダから戦況報告があったわ…… 」


 「あっ、あの馬鹿弟子っ!! 」


 「むうぅ…… 」


 メリアンヌ公妃の告げた事実にアルラオネは激昂し、ヘルツォーク公爵は表情を苦悶に歪ませて唸り声を上げてしまう。
 二人はロサリオのランサローテにおける顛末を知っている。かの人物が、本質は相当な激情家で有るということもである。
 もしマルティーナがメルダで戦死したとなれば、1人で帝国と敵対してしまうのではという恐れに、直ぐに行き着いてしまった。


 「それは、かなり不味いかもしれん…… しかし事ここに至っては、もうどうすることもここからでは出来ん…… 」


 「そうね、祈るしかないわ…… 」


 ティファニア王達にとっては、アルラオネが直弟子を心配するのはわかるが、公爵夫妻がそこまで不安を露呈する理由が不明である。
 帝国軍にナーダが攻められている状況では泰然としていたのに、アルラオネの直弟子が戦禍の渦中となるメルダに向かったというだけで、あからさまに動揺をしているのである。
 おかしい、何かあると勘ぐるには十分であった。


 「おいリック、そのアルラオネの直弟子のマルティーナには何がある? 何故そこまであからさまに動揺をする? 」


 何とも答えようのないティファニア王からの質問に戸惑っていると、アルラオネが助け船を出すかのように返事をする。


 「まぁ実はの…… うちの馬鹿弟子とロサリオ卿のやつは、相当に仲良くての…… 彼が取り乱しそうで心配なのじゃよ…… 」


 「男女の仲であるというのか? しかし、彼もバルトロメ公爵弟であるはず…… いくらまだ成人前とはいえ、惚れた女が仮に戦死したとして、お前ら3人がそこまで動揺するものなのか? 覚悟の上であろう。」


 同席している宰相達は知らされていなかったのであろう。ティファニア王が放った、バルトロメ公爵弟という言葉に絶句している。
 ティファニア王の言葉に3人は苦悶の表情を浮かべる。この3人は知っているのだ。親しい人物の死を目撃したことによって、有り余る才能を如何なく発揮して、終には魔王と呼ばれる存在にまで到達した人物を。
 本人は、「ただ墜ちて行っただけだ」と自嘲気味に吐露するであろうが、事実ランサローテでそれを実践した人物であるのだ。


 リンドヴルム王国大使館からの報告で、公爵夫妻は帝国との戦に光明を見出だしていたが、ナーダからの戦況報告で、別の意味で暗雲が立ち込めるのを予感するのであった。









 結局、寝ていたロサリオは、皆が帰ってきた気配を感じ取ったのであろう、直ぐに起きてしまいそのまま出発することになった。
 出発前にメルダ到着後の段取りを打ち合わせ後、スカイドラゴンで飛び立った。スカイドラゴン自体も、アメリアの回復魔法とアメリアが手ずから飲ませたのが効いたのであろう、軽快な飛行を続けている。


 「見えましたっ! ナーダですっ!!」 


 「は、速い…… まさか本当にこの短時間で着いてしまうとは…… 」


 アメリアはナーダが目視出来たことに興奮し、フリーンはただただ驚いていた。
 時刻を確認すると17時少し前である。27時間、実質飛行時間は休憩時間を抜くと19時間である。ワイバーンではスピードも休憩時間も足りず、この短時間では不可能であっただろう。
 このスカイドラゴンを使えたのは僥倖であったが、ロサリオは内心焦っていた。アメリア達から、ヴェルナー卿の部隊に混ざってマルティーナが、メルダにいる事を途中休憩した町で聞いていたからである。


 「生きてさえいてくれたらどうにでもなる…… 間に合えっ! 間に合えぇぇぇええ!! 」


 悲壮な叫びが谺する。アメリア達も同じ気持ちである。身分を超えた友人と呼べる友人2人の安否が気にかかる中、高度を落としつつナーダ上空を飛び越えて行く。
 突然都市上空に現れたドラゴンの姿に住民達が驚くなか、そのまま戦場へ赴くのであった。 

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