魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

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第74話 ロサリオと古代竜エキドナ

 アメリアに声を掛けられたスカイドラゴンは、一度ロサリオを見上げたが、魔力と殺気のこもった視線に射抜かれて震えながら頭をアメリアに垂れる。
 遠くからピエール大使が驚愕た恐怖で震えながら「どうやら大丈夫なようですね。」と何とか言葉だけを発して未だに地面にへたりこんでいる。見兼ねたフリーンがピエール大使を支え起こしてからロサリオ達に近づいてきた。


 「もうロサリオ様は何でもありですね…… さすがはと言った所ですか…… さて、古代竜の加護が関係ないという理由、教えて頂けますか? 」


 (どうもこのフリーンさんの笑顔は苦手なんだよなぁ…… )


 いつもの内心を読ませないアルカイックスマイルで問われると、断り難い誘惑にかられてしまう。
 元々話すつもりではあったので、ピエール大使が出立のための乗竜台の取り付けまでの時間潰しも兼ねて、話し出すのであった。









 「皆さん勘違いしていると思いますが、古代竜と俗にいうドラゴンは別種の存在らしいんですよ。まぁ僕自身ティマンファヤ山にいる古代竜から直接聞いて知ったんですがね…… 」


 今は、リンドヴルム大使館の裏手の庭に設えられていたテーブルを囲んで、ロサリオの話をアメリア、フリーン、アンナ、ロザリーが、大使館職員のスカイドラゴンへの乗竜台、屋形のような物の取り付け作業を見ながら聞いている。


 「別種ですか……? 」


 「うん、そうらしいよ。」


 今まで知られていない新説に皆が興味を唆られる。すっかり落ち着いて普段の様子に戻ったロサリオは、第一声がロザリーであるとは思いもよらなかった。無表情で食い気味に状態をこちらに向けてくる様は、若干怖いとさえ感じる。


 「ティマンファヤにいる古代竜の名はエキドナ、そもそもドラゴンの姿じゃなかったからなぁ。古代竜と言われてもピンとこなかったし…… 本人がそう言ってるだけだしなぁ。」


 「エ、エキドナッ!? イグレシア正教会のではない、古い神話に登場する女神ではないですかっ!! 」


 他人事のようにぼやくロサリオを怒鳴りつけるようにフリーンが大声で驚きを露にする。皆はその剣幕に圧倒させられて口を挟むタイミングを逸してしまった。


 「本人は、古代竜だって言ってたよ、ただし、神に等しく生物のドラゴンとは一線を画していると…… 寿命もないらしいし。」


 「そもそもロサリオ様は何故そのような存在と出逢い、加護を頂くまでに至ったのですか? 」


 フリーンの剣幕が強烈で、たじろぎながら喋るロサリオにアメリアが事の発端を問い質す。


 「古代竜は稀に自然発生するらしく、ティマンファヤを少数で隠密行軍中に襲われていた半人半魔のような姿をした…… 後から発生して間もない古代竜だとわかったんだけど、それを助けたんだよ。エキドナは自分の娘だとか言ってたけど…… 」


 これらを聞いても何故ティマンファヤのそれらが古代竜と呼ばれるかはわからない。大陸では古代竜とは、リンドヴルム王国の国名にもなったように、リンドヴルムという長い胴体に翼を持って空を駆ける、魔物のドラゴンとよく似た姿を想像する。
 魔族領やヘルツォーク公爵領と境を接するバルトフェアテル侯爵領との領境のイグレシアス山脈の頂上部に古代竜がいることが確認されているが、そちらもドラゴンに酷似した姿をしている。


 大陸ではこれらから、ドラゴンの最上位種が古代竜だと認識していたが、ロサリオの言は定説を根底から覆す物であった。


 「上半身が少女で下半身が竜というか蛇というか…… 魔物とは違って言葉を発しながら必死に逃げていたから、つい助けてしまってね。そこからエキドナを探してその娘を返した所、礼として加護とこっちでは賢者の石か…… を貰ったというわけなんだ。」


 ざっと話をして見回すと、アンナにロザリーはぽかんとした表情でだいぶ間の抜けた顔を晒している。アメリアも眉間に皺を寄せながら、上を向いたり目を閉じたり考え込む姿勢を取っている。フリーンに至っては下を向きながらぶつぶつと何事かを呟いている。正直に言って非常に不気味である。


 「フ、フリーンさん……? 」


 幽鬼のように揺らめきながら、元々ロサリオから見て右手側のほうに座って居たこともあり、ガシッとしがみつきながらもっと詳細をと訴えてくる。


 「な、なぜその方はご自身を古代竜だと? 発生とはどういう事ですか? どのくらい昔から? 他の古代竜とも意志疎通は出来るのですか? 」


 「ちょっ!? 落ち着いて! 話すっ、聞いた限りの内容は話すから!! 」


 フリーンを引き離し身繕いをするロサリオを鼻息と呼吸音も怪しく響かせながらフリーンはロサリオを据わった目で注視している。


 (怖っ!? フリーンさんの何に触れたんだろう? )


 「エキドナは人の姿も取れるし、竜の姿も取れるって言っていた。ランサローテでもその姿を見たものはいないらしい…… 家の書物にもティマンファヤの古代竜とかティマンファヤの女神なんて書かれた古臭い書物もあるぐらいだし…… エキドナは、『竜を率いる姿やドラゴンとは次元の異なる強大さで以て、各種族から古代竜という竜の神々なんていう意味合いを込められたのだろう』なんて言っていたよ。」


 「で、では発生とは? 」


 「うん、魔物のドラゴンは卵から生まれる。でも古代竜と呼ばれる者達は、龍脈の吹き溜りから自然発生するらしい…… スキュラ、あぁこれは僕が助けた発生して間もない古代竜だけど、エキドナの因子と龍脈から立ち上る魔力を使って作ったらしい…… エキドナや大陸にいる古代竜もそうだろうけど、もういつ発生したかはわからないほど定かではないらしい。何より、ランサローテ島は、大昔は大陸と地続き…… 繋がっていたって言ってたよ。ある神々の戦いで分断されたって…… アメリアは知ってるんじゃないかな? 」


 「え、えぇえええ!? 大陸と地続きっ!? 」


 「え、アメリア様が…… 何で……!? ヘルツォークのっ! 」


 話が少し逸れたかなと思いながらも、ロサリオの言った事実に目が溢れんばかりに皆が見開いて驚きを表現する。その声に驚いて、作業中の大使館職員が、こちらを何事かと振り替えるほどだ。フリーンはアメリアに視線を移している。


 「うん、アメリアはナーダ城壁で言ってたけど、アザゼルという名をフリーンさんとは別の意味合いで捉えていたしね…… まぁ、話が少し逸れたけど、大陸の古代竜がドラゴンといくら似て見えても別種の存在ということ。もうほとんど神に近いんだろうね。」


 ロサリオ以外の面子は大なり小なりイグレシア正教会の教えを信仰している。その教義のなかには、古代竜が神である事など全く出てこず、 正直、魔物と同一視しているのが現代の教えと言えよう。


 「じ、じゃあロサリオ様、古代竜の加護とは一体? 」


 「古代竜との意志疎通が可能な事と、彼らが持っている絶大な耐物理防御に耐魔力防御かな…… この二つに関しては神々の加護を超えるらしい、エキドナは豪語していたよ。あの大禁呪…… あんなの古代竜の加護がなければ、今の僕でさえ消し飛んでいたよ…… そのぐらいとんでもないものだった。魔力を放出する扱いも格段に上がったよ、これはレベルとはあまり関係ない部類だから。後はどうも各地にある龍脈を使えるっぽいけど、使い方はわからないなぁ。」


 アメリアの問いも尤もだと思い、詳細を教えて貰ったわけではないが、隠すような内容でもないので、あっけらかんとした雰囲気で答える。
 つい先日まで話さなかったのは、単に長くなるから腰を据えた状況でなければならなかっただけである。
 ただし、ランサローテ出身のロサリオにはわからないが、この内容の取り扱い如何では、イグレシア正教会の教義に多大な影響を及ぼす。現にアンナやロザリーは困惑を隠せていない。


 フリーンにとってある意味教会における、グレゴリオ一族の派閥の目的である禁書の蒐集及び内容の流布の阻止には合致する内容であるが、こうも教会にとっての禁忌が出てくるとは思わなかった。教会にとってロサリオは、禁書がひとりでに歩いているようなものである。しかも、強大な強さも誇っているために手が出せない。異端殲滅部隊を動かしても全滅するのが目に見えている。
 ランサローテに母であるディンプナ枢機卿に伴わずに、ヘルツォークに残った価値は多大であったが、余りの内容を事も無げに話してしまうロサリオに頭痛と眩暈を起こしてしまった。


 「フ、フリーンさん…… 大丈夫? 」


 ロサリオにとっては、なぜこのような状態になっているのかはわからないが、頭痛と眩暈を起こしてフラフラとしているフリーンを慮って反射的に気遣ってしまう。他の3人は、フリーンが司祭ということもあり、ここまで教会の教義と相違が出てくる内容を聞かされては、倒れてもおかしくはないだろうとフリーンの内心に同情をしてしまう。
 正常な状態には程遠いフリーンに変わり、アメリアがロサリオに釘を刺す。


 「ロサリオ様、この内容はここだけの話にしたほうがいいでしょうね。他では他言無用にしたほうが宜しいでしょう。」


 「ん? それは構わないけど、元々言いふらすような内容でもないしね。でもどうしてだい? 」


 やはりというか、そうであろうとは感じていたが、ロサリオはイグレシア正教会の教義を全くと言っていいほど知らないということが明白になってしまった。


 「確実にイグレシア正教会を敵に回してしまいます。古代竜は魔物と同一視されており、魔王と並んで神敵の急先鋒ですから…… 」


 「なるほどね…… まあ神敵かどうかはともかく、各種族の敵というのは、ことエキドナに関しては間違っていないかも知れない。ランサローテでは誰も姿を見たことがないって言ったけど、生息エリアに入った者は全て殺していたみたいだから。僕は偶々スキュラを助けたから友誼を得たけど、向こうにとっては単に気まぐれの暇つぶしのような感覚だったと思う。まぁ、正直神なんて言うのはそんなもんだと思っているけど、気まぐれで助け、気まぐれで殺す。」


 「はぁ、その物言いは他のイグレシア正教会の面々の前では言わないで下さい…… いらぬ物議を呼んでしまいます。」


 神に対するロサリオのあまりの言い方に、ため息と忠告をフリーンは止める事が出来ない。
 ロサリオもイグレシア正教会の司祭の前で、言うことではないなと肩を竦める。
 そこにロサリオ達が話し合いを始める前に、買い出しを頼んでいた大使館職員が戻ってきた。


 「ア、アメリア様にランビエール伯爵! 頼まれていました食料に各ポーション類の用意が整いました。」


 元々ロサリオは、軍事行動のために、ランサローテ中金貨を約50枚、ランサローテ金貨を100枚、その他銀貨及び銅貨がマジックポーチに残っていた。
 ランサローテでのロサリオ自身の軍事行動も終わりを迎えたために、軍を預かる身としての資金としては多くはないが、個人で持つには、大陸の金貨よりも含有量が倍であり、その分価値も高いため、中々の財産である。
 5人分の食料は、念のため5日分を用意して貰ったが、得に贅を尽くす訳ではなく、通常の軍や冒険者が取るような物であるので、金貨4枚もあれば十分であるが、ポーション類は下位の物でも中金貨1枚はする。
 下位の体力回復ポーション、怪我回復ポーション、魔力回復ポーションを各10個用意して貰ったために、ランサローテ中金貨で15枚使用した。ヘルツォーク公爵から報奨で大白金貨100枚を貰っていたが、そちらには手を付けないでいた。
 元々ヘルツォーク公爵領へ請求を回そうと考えていたアメリアは、ロサリオに不満も露に文句をつけたが、スカイドラゴンに関してはアメリア、ひいてはヘルツォーク公爵領に世話になるからと譲らなかった。
 ヘルツォーク公爵領に進軍した帝国の対処のための費用なので、アメリアはロサリオが私財を投じる事に難色を示したが、大陸に飛ばされてから、銅貨1枚すら使わずに、アメリア達に世話になっていたこともあってか、ロサリオが頑なに譲らなかったこともあってしぶしぶ認めるアメリアであった。


 「さて、スカイドラゴンの準備も終わりそうだし、そろそろ出発しよう。目標は明日の日暮れにメルダへの到着だ。」


 「明日の日暮れですかっ!? しかもメルダに? ピエール大使は2日と…… 」


 ロサリオの飛行スケジュールにアメリア達は驚く。明らかにピエール大使の述べた日程よりも早い予定だ。


 「ああいう場合、少し長めに言うものだろうし、今は14時になる頃合いだし…… それに体力回復ポーションもある。これは魔物にも使えるからな。流石に潰れそうになったら休むさ。」


 (12時間全力で飛ばして6時間休ませる。そして10時間さらに全力で飛ばせば、約2,500kmあるティファニアからメルダまで間に合うはずだ。しかも空なら直線だ! )


 「しかし、私達はいくら屋形作りの乗竜台に乗るとはいえ、風の抵抗等は…… 」


 アンナとロザリーが、私達はただのメイドで一般人に等しいとでも言うように不安を述べる。


 「飛んでいる間は僕が常に魔力障壁を張るから大丈夫だよ。スカイドラゴンならワイバーンよりも、速さはわからないけど、体力はあるだろうから行けるはずだ。間に約6時間は休みも入れる。」


 その行程が可能か不可能かを問わず、どちらにせよ帝国は既に進軍している。戦端は開かれているはずだ。急ぐしかない状況である。


 「それにしてもナーダではなくメルダが到着目標ですか? 」


 ロサリオの到着目標地点に疑問を呈するのはアメリアである。


 「おそらく、ナーダ近郊のヘルツォーク軍20,000の展開を確認しているはずだから、今頃はそれとぶつかっているはず、そして、補給路の確保も含めてメルダを落としたいはずなんだ…… 本来ならば一気呵成にナーダを攻略したかったはずだけちど、それは出来ないからね。砦建設のための人手と共にメルダには500程度兵は集まるから、今頃は住民の非難中…… そこにはサーラブもいるはずだから、急がないと…… それに…… 」


 住民の非難のために兵を割く可能性もある。その中には、見た目や態度はクールだが、その中身は思いやりと優しさに溢れている魔法師がいるかも知れないと考えてしまう。
 少々焦りを滲ませたロサリオの言葉に、アメリアもフリーンもそこに誰がいるか嫌な予感として思い付いてしまった。


 「アメリア様っ、準備が整いました。既にこちらの大使館でもヘルツォークの状況は聞き及んでおります。御武運を! 」


 「ありがとうございます、ピエール大使。この件は、追ってヘルツォーク公爵領より、必ず礼をさせて頂きます。」


 アメリアはピエール大使に礼を述べ、正式にヘルツォーク公爵領よりリンドブルム王国に礼をすると伝える。
 ロサリオは目礼のむをピエール大使にしつつスカイドラゴンに向かう。スカイドラゴンはロサリオに対する恐怖で身を縮ませており、大人しくアメリアからの指示を待っている。


 スカイドラゴンに取り付けた、5人も入ると決して余裕があるとは言えないが、屋形作りの乗竜台に乗り込んだロサリオ達は、ピエール大使と大使館職員に、まさか本当に言うことを聞いて飛ぶとはと、驚きを以て見送られて、ヘルツォーク公爵領内グランクルス帝国国境に接しているナーダ伯爵領都、そしてメルダへと飛び立つのであった。

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