魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第73話 ドラゴンの手懐け方

 ティファニア王城を後にしたロサリオ達は、急ぎ足でメリアンヌ公妃が言っていたリンドヴルム王国の大使館に向かっている。


 「あの時にメリアンヌ公妃が言ってたが、当てになるのか? 最悪俺一人ででも走って戻るぞ! 」


 「そんな無茶苦茶な!? ……多分大丈夫だと思います。それにロサリオ様の加護にもお母様は触れていましたのでおそらくは…… 」


 アメリアから聞いたリンドヴルム王国の概要を思い浮かべて、なるほど、皆勘違いをしているなと改めて思う。追々、自身が持っている古代竜の加護について話しておくかと考えるのであった。


 (まぁ、目下の希望はあの首飾りということか…… )


 リンドヴルム王国大使館に到着した5人は、馬車から飛び降りるように大使館に駆け込んだ。


 「と、止まれ止まれ! 急に駆け込んで来て何用だ!? 」


 入り口の門に控える衛兵二人に、交互から槍で遮られてしまうのも仕方がない勢いであった。アメリアはそこで一度落ち着き自身の名を明かし、持参したメリアンヌの書状を渡す。


 「失礼しました。衛兵の方々、わたくしはアメリア・ローゼンベルク・ヘルツォーク、本日は母である元リンドヴルム王国第1王女でもあった、メリアンヌ公妃からの書状をお持ちしました。大使へ取り次ぎ下さい。」


 「メ、メリアンヌ様の!? 確かに似ている…… 」


 「いや、それよりもヘルツォーク公爵令嬢が…… し、少々お待ち下さい。」


 兵達は慌てて書簡を大使に届けていった。リンドヴルムのメリアンヌがヘルツォーク公爵に嫁いでから14年も経つが、未だに国内では人気も高く、20代後半の者等は未だに魅了されているものも多い。
 12歳の頃より、ティファニア王立魔法学院に通っている時は、誰が射止めるかで、戦争が起きるのではと騒がれた程の美貌であった。
 結局の所、現在のティファニア王や近衛騎士団長らと飄々と遊び歩いていた、4歳年上のヘルツォーク公爵に自らが猛アタックを繰り返した末、半ば強引に落としたという経緯もあり、皆は居たたまれなかっただろう。
 現在でもヘルツォーク公爵は方々に恨まれているのは、帝国が侵攻してきた今となっては笑い話にならないのかも知れない。


 「これはこれは…… 確かにそのお姿だけで、メリアンヌ様の繋累と一目でわかりますね。私は、このリンドヴルム大使館で大使をしております、ピエールと申します。中でお話を伺いましょう。」


 大使館から仕立てのいい格好をした、ティファニアにおけるリンドヴルムの外務のトップである大使が、アメリアを懐古的な笑みで以て出迎えてくるのだった。









 「なるほど…… 」


 来賓用応接室に通されたアメリア達は、出された紅茶を飲みながら、ピエール大使がメリアンヌからの書状を読み終えるのを待っている。
 落ち着いた内装は、来訪した人物の気を和らげるかのような温かみを持った色合いをしており、互いにじっくりと、荒々しくならないような話し合いが持たれるように、設計されているのだろう。
 (しかし…… いるな、3頭か…… 大分気配を落ち着かせているが、こんなのを王城付近の大使館に引き入れられるのか…… 余程友好的な付き合いらしいな。)


 アメリアに恥を掻かさせる事のないよう、音を立てずに紅茶を気を使いながら飲む。隣のフリーンを見ると、流石な所作で紅茶を飲んでいる。家柄に加えて神官としての所作は国を跨いでも恥ずかしくないものである。
 ロザリーは緊張も何も表情に表さずに黙々と頂いたポットから、ロサリオのカップにお代わりを注いでいた。


 「ふむ、アメリア様はこの書状の内容はご存知ですか? 」


 「いえ…… ただし、わたくし達が困った状況になれば、ここを訪れよと…… この首飾りが役に立つと。」


 公務用の胸元の空いていないブラウスの中に隠すように身につけていた首飾りを取り出し、背後に控えていたアンナに装着させてもらった。
 その首飾りを確認したピエール大使は、納得するように首肯く。


 「確かに書面には、アメリア様、それにロサリオ様が望むのであれば、我が国が誇る騎竜であるワイバーンを貸してやって欲しいとあります。リンドヴルムとティファニア、並びにヘルツォークとの関係を鑑みますとこちらとしても吝かではございませんが…… その首飾りがあれば、竜騎士のように扱いに精通せずとも操作の指示を与える事が可能です。しかし、ワイバーンは騎士で一人乗り、皆様ですと精々二人までかと…… 現状騎竜は3頭しかなく、首飾りがあるアメリア様ともう一人までしか…… 」


 ピエール大使の誠意も言いたいことも理解できたアメリアは、最悪ロサリオと自分だけでもワイバーンを借りてナーダに駆けつけようかと考えていると、ロサリオが壁面越しを見据えながらピエール大使に口を挟む。


 「一頭違うのが混ざっているみたいですね…… ワイバーンなどよりもよほど大きく、しかも速そうなのが。」


 ピエール大使はぎょっとしてロサリオを見る。特段隠しているわけではないが、何故解るものなのかという疑問からである。


 「え、えぇ…… おりますが、よくわかりましたね……? 」


 「まぁ、強さが全然違いますからね。それで、その一頭のほうでは駄目ですかね…… 」


 勧めなかったからには何か理由があるのだろうと、ロサリオはピエール大使に問い質す。


 「輸送用の属性無しのスカイドラゴンなのですが、操るためには、王族の方々持つその首輪と慣れ親しんだ者がいないと言うことを聞かないのです。」


 ドラゴンを服従させて指示を出すための魔道具かと、今更ながらにロサリオ達は首輪を注視する。


 (よくもまぁ、そのような国宝と等しい首飾りを輿入れとはいえ持たせたな。リンドヴルムになければ、装飾品として扱う以外に価値がないじゃないか。)


 現実的な感想が浮かぶロサリオであるが、ランサローテでさえこのような体面というものはある。ヘルツォーク公爵とメリアンヌの結婚には、国との結び付きという側面も強いので、このような国宝の首飾りを持参させる必要も出てくるのだ。


 「ロサリオ様、何かお考えが? 」


 考え込むように眉間を寄せるロサリオにフリーンが質問する。その言葉にロサリオ自身もピエール大使に確認しようと顔を向けた。


 「そのスカイドラゴンに対しても、アメリアが身に付けている首飾りで指示をだせますかね? 」


 「えぇ、指示を出すのは出来ます。しかし、スカイドラゴンはレベルも高く、扱いに精通した者、慣れ親しんだ者でなければ言うことを素直に聞くかどうか…… 」


 考え首肯はするが、そう上手くはいかないと忠告するピエール大使である。
 そもそもワイバーンもスカイドラゴンも卵が孵る所から人の手で飼育して慣れさせるが、元々ワイバーンはCランクであり、スカイドラゴンに至っては、属性が無くともBランクの魔物である。
 竜は知能も高いので、ワイバーンは素直に人に懐くが、そもそも強力な個体であるスカイドラゴンは、長年飼育や訓練に携わった者にしか慣れる事はなく、アメリアの持つ首飾りと同様の魔道具を介さないと騎竜としての指示までは受け付けない。


 「あっ、ロサリオ様の加護があれば!? 」


 アメリアが思い出したかのように表情を明るくさせるが、ロサリオは首を振って否定する。


 「あれはそういうのには使えないはずだよ。ピエールさん、スカイドラゴンであればこの5人を問題なく運べますか? 」


 「元々荷台を取り付けての輸送用ですからな。体躯も大きいので問題ありません…… まさか、スカイドラゴンを使用するつもりですか!? 」


 「ならば行けるか」と呟くロサリオの意図を読み取ったピエール大使は驚きと共にロサリオとアメリアを交互に見る。


 「では参りましょうか。ロサリオ様がそう言うのならば問題ないのでしょう。ピエール大使、案内をお願いします。」


 立ち上がるアメリア達に呆気に取られてしまうピエール大使であり、怪我などされても外交問題になると悩んでしまうが、決意のこもった眼差しに射ぬかれてしまい、諦めて裏手の竜舎へ案内するのであった。









 「こちらがスカイドラゴンです。」


 そこには鈍色の鱗を纏う大柄な翼竜が佇んでいた。一見して大人しい瞳を湛えているが、ワイバーンの3倍は胴体があり、翼は倍近い物が2対計4枚備えている。輸送時は専用の荷台を取り付けてぶら下げて輸送するとは、ピエール大使の弁である。
 魔法属性のない種類のスカイドラゴンとはいえ、大きい体躯で空を駆ける様は圧巻であり、Bランクとはいえ容易に討伐出来る魔物ではない。


 「よく、竜の加護を持つ者は、竜と意思を疎通させて空を縦横無尽に共に駆けると言われておりますが…… 」


 フリーンがロサリオの加護にもそのような特性があるのではと問うが、アメリアにしたのと同様に首を降る。


 「移動時にでも話すよ。まずはこいつに言うことを聞かせなければな…… ピエール大使、騎乗用の鞍をお願いします。出来れば5人乗れるような物を。無理であれば4人乗れれば構いません。」


 「承知しました。元々竜騎士と王族を乗せるための乗竜台がございます。皆様方であれば余裕をもって乗ることができるでしょう。」


 「それと、全力で飛ばしたらヘルツォーク公爵領のナーダまではどのくらいで着くかわかりますか? 」


 スカイドラゴンの速度に関する問いに、唸るように考えてピエール大使は答える。


 「騎乗した者が耐えられるとは思いませんが、約2日…… しかし、連続で12時間飛ばしたら8時間は休ませないと潰れます、というよりもそのような無茶な要求は通らないと思いますが…… 」


 了解の意を込めて視線と頷きで以て返事を返したロサリオは、スカイドラゴンと向き合う。


 「時間もない…… 出し惜しみは無しで行く。皆は下がっていろ! 」


 ロサリオの不穏な気配を感じ取ったのか、大人しかったスカイドラゴンの鼻息が荒くなってきており、威嚇するような目付きと、喉の奥から腹の底に響くような唸り声が鳴り響いてきた。


 『グゥオオオオオン!! 』


 「「「きゃあああ!? 」」」


 「……んぅ!? 」


 「ぐぅ、大人しいこやつがここまで敵意を発するとは…… 」


 明らかな敵意に近いものを感じとったのか、威嚇を込めて圧力のある咆哮を発してくる。
 女性陣は悲鳴を上げてへたり込むなか、ロザリーはへたり込みはしたが、多少呻くのみなのは、感情表現に乏しいからなのかとこの場において益もないことをロサリオは考えたが、スカイドラゴンに向き合い、魔力と殺気を解放する。
 ティファニアへの道中にゆっくり休めたお陰か中々に調子がいいのを感じる。
 全身から黒色の魔力が吹き出し、アメリア達に魔力波の影響が及ばないように全身を循環させながら、スカイドラゴンにのみ圧力をかけていく。


 『ギャッ!? ギュゥゥ…… ギュオゥゥゥ…… 』


 一瞬錯乱したかのように飛び立とうと試みたスカイドラゴンではあったが、それすらロサリオの圧力に据えられて、地に伏して怯えるような声しか上げられない。
 そして、スカイドラゴンの頭に対し、髪を魔力の影響で黒く染めたロサリオが、手を翳しながら近づいていく。


 「こ、これが…… 魔王としてのロサリオ様…… 」


 「ええ、デカラビアと戦っていた時のロサリオ様の状況と同じです。」


 ピエール大使に聞こえないように小声でアメリアはフリーンに確認を取る。
 離れた所にいるとはいえ、あのような魔力に当てられてしまえば、即座に命を刈り取られてしまいそうだとロザリーやアンナは恐怖を感じるのを止めることは出来ない。


 アメリアは、ふとナーダより戻ってきた時に、ローゼンベルク城でアルラオネに忠言されたことを思い出した。


 「よいかアメリア嬢よ、小僧はな…… 魔族や魔物としてのランクでSSSランクと認定されたのじゃ…… それすらも超えるかどうか審議されている…… 人族のSSSランクとは訳が異なる。人族でさえ、SSSランクは1,000年間出ておらん! 奴は大魔王ルツィフェルと同等かそれ以上ということじゃな。 人族のSSSランクが12人、しかも2パーティーが連携して初めて対峙が出来る存在じゃ…… 1,000年前のルツィフェルに臨んだ勇者達でさえ、SSSが6人、SSが6人であったからのぉ…… ゆめゆめ忘れるでない。生半可な気持ちでは、付き合っていくことなど出来んということじゃ…… 」


 嗜虐的な笑みを浮かべながら、スカイドラゴンの頭に手を置いて屈服させているロサリオは、確かに魔王がペット用に竜を恐怖で以て手懐けているように見える。
 アメリアはアルラオネの言葉を噛み締めながらも、気丈にも立ちあがり、ロサリオに声を掛ける。


 「終わりましたか? ロサリオ様。」


 「ふむ、問題ないだろう。ある意味魔物は単純だからな…… 絶対的な強者には逆らわん。逃げることすらさせてもらえない恐怖というのを味わわせてやったからな。俺には従うだろうが、アメリアの指示に従うか試してくれ。」


 頭を地に下ろしているスカイドラゴンの瞳は、確かに怯えているように皆からも見える。ロサリオに言われたようにアメリアはスカイドラゴンに近づき、優しく言葉をかけるのであった。

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