魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第71話 ティファニア王謁見

 この日、ティファニア王城謁見の間には多数の貴族達が集まっていた。宮廷貴族はもちろん、独立貴族でさえも都合が付く者はティファニアへ馳せ参じていた。
 それもこれも偏に件のランビエール子爵の為人を見定め、あわよくば繋がりを得たいという思惑からであろう。
 ヘルツォーク公爵と同年のティファニア王が厳かに報奨に関して告げるのであった。


 「まずは改めて、ランビエール子爵の叙爵の件はこちらでも了解した。後で了承の書面を渡す。そして、貴族級の魔族の単独討伐、並びにナーダで起こった魔物大狂乱パンデモニウム鎮圧、大義である。」


 ロサリオは跪き、その後ろにはアメリアとフリーンが控えている。アルラオネは宮廷魔法師が連なっている所に控えている。
 ロサリオ自身報奨の件は、ヘルツォーク公爵から聞いている事もあってなのか、幾分ローゼンベルク城での謁見の焼き直しを見ているようで些か気が抜けていた。


 「既にヘルツォーク公から聞き及んでいるだろうが、此度の働きによって、そなたに伯爵位と共に約1,000年もの間、王家直轄領であったティファニア大平原がある地、ヒラリウスを与える。」


 (ヒラリウス!? 確か何処かで聞いたことが…… アリア、いや兄さんからか? )


 ロサリオが疑念を感じ、表情を歪めて思考に陥るなか貴族達がざわつき出した。


 「伯爵位だと!?」「そもそもがランビエール子爵を継ぐというのも裏がありそうなのにか!」「ヘルツォーク公爵は従兄弟叔父にあたるとの事だが……」「それすらもいきなりだ!」「あのヒラリウス領とは陛下も酷なことを……」


 アメリアはざわつき出した貴族を気にしつつもロサリオを見る。ローゼンベルク城での謁見とは異なり、ロサリオの気配に凄みも何も感じないのは、やはり今朝がたの報が原因かと考えるのであった。









 王都ティファニアにあるヘルツォーク公爵邸では、午前中に謁見が組まれている事もあり、開城の10時に赴くために余裕を持って皆が早めに起き出していた。アルラオネにフリーンもこの館に滞在している。
 ロサリオは、ランビエール子爵邸から専属のメイドとなっているロザリーに、着替えを手伝われる所であった。


 「いいよ手伝わなくて、自分でやるし基本はこのいつもの服だからね。」


 「いえ、ここまでの道中もあまりお世話させて頂けませんでしたので、若干とはいえ装飾もあります。着崩れを起こすわけにも参りませんから…… 」


 自身の傷だらけの身体を見せるのは躊躇われたが、これは一度見せてからでないと駄目かと思いながら、寝間着の上下を脱いで肌を晒すのであった。
 下着姿一枚だけとなったロサリオに対してロザリーは目を見開いて絶句する。ただし、それも一瞬だけで後はいつもの無表情に戻っていた。
 その反応にロサリオは毒気を抜かれてしまった。


 「私も余り公には出来ない出自では御座いますが、御館様は、一層特異で在らせられるのですね…… 」


 ロサリオの一際大きな傷痕を掌でなぞりながら言うロザリーに、多少の擽ったさを感じながらも、余り感情を表に出さない彼女に不思議な感覚を覚える。


 「気味が悪くはないのかい? この傷痕だらけの身体をした、何処の者とも知れない男に仕えるのは? 」


 「気味が悪いとは思いません…… ただ、どれ程の軌跡を歩めばここまで惨いことになるのかと興味は湧きます。それにここまでヘルツォーク公爵家の方々に認められる同年の男の子など、他には絶対にいないでしょう。」


 感情の起伏に極端に乏しいだけで、感慨等は普通に得ている娘なのだなとロサリオ自身も彼女に興味が出てくるのであった。
 そうしてお互いの手が止まり、暫く見つめ合っているとドアがいきなり開かれた。


 「小僧! 急報じゃっ! すまんが話がある…… うっ、その身体は!? 」


 ノックもせずに傍若無人のように入ってくるアルラオネに対して、ロザリーは眉根を寄せるが、ロサリオのほうは彼女に関して諦めている。


 「全くいきなりですね…… あっ!? アメリアにフリーンさんも…… 」


 「すいません、ロサリオさ……!? 」


 「!? 何をしてるんです? ロザリー…… 」


 アルラオネの後から続いてきたフリーンとアメリアに気づいたロサリオは、仮にも貴族の室内にノックも無しとは、もうプライベートは己には無いのだろうかと諦観にも似た気持ちが去来するのであった。
 アルラオネは痛ましい者を見るように目を細めており、フリーンに至っては涙ぐんでさえいる。一度ロサリオの傷痕を見ているアメリアは、一瞬涙を目に溜めたが、それには構わずにロザリーに詰問しようとしたところ、「メイドとして着替えのお手伝いです。」と言われてはぐうの音もでない。
 取り敢えず、手早く肌着とズボンを履いてアルラオネの報を聞こうと望むロサリオであった。


 「私は外したほうが宜しいでしょうか? 」


 ロザリーが気を使い、アメリアとアルラオネを見て確認を取る。


 「小僧専属ならば儂は構わんが…… アメリア嬢はどうじゃ? 」


 「元々が私の専属でしたから、教育や為人ひととなりは確かですよ。大丈夫だと思います。」


  アメリアの言葉で、アルラオネはロサリオに向き直る。


 「ランサローテの皇帝が崩御して、新たにフェメス公爵が第一皇女を妃として、皇帝に即位したと儂の魔法師としての伝から連絡があった。今日、明日にでもギルド経由で各国に報告が入るじゃろ! 」


 その報告にはフリーンも驚き、ランサローテに赴く事になる母である枢機卿にも影響があるだろうと、口元に手を寄せて考える。ロザリーに至っては、何故この内容がこうも慌てて自身の主人にあたるロサリオに報告すべき内容なのかと訝しんでいる。


 「そうですか…… この報を聞けてようやく実感が湧きましたよ…… 」


 「実感ですか…… ロサリオ様? 」


 立ちあがり窓に向かう。その背にロザリーは上着を掛けるのを手伝いながら、その背に主人の郷愁のような雰囲気を感じ取る。
 ロサリオは、窓から遠く離れているランサローテを見るように朝焼けの空を眺めながら、アメリアの問うような呼び掛けに答えるのであった。


 「この報を聞けて、本当に遣りきった事を実感できた…… 魔王討伐の報を聞いた時以上に。これであの島の呪いは終わる…… 以前よりも遥かにマシになるだろう。」


 ロザリーは生唾を飲み込む。自らの主人が何を言っているのかは解らない。しかし、ただ事ではない気配を察知して息をするのも忘れていた。


 フェメスが皇帝に就くとまでは聞いていなかったが、それでいいと思った。恐らく皇帝崩御にも兄が関係しているだろうとも。形骸化していた皇帝とはいえ、権力は一本化したほうがいいのは明白である。


 「結婚か…… また、絵になる二人だろうな…… 」


 「お兄様のお相手はそれほどですか? 」


 ロサリオの微笑みながらのかすかな呟きを、アメリアは聞き漏らさなかった。


 「ランサローテ一の美姫とまで言われた人だよ。兄さんだって仙姿玉質もかくやと4年前までは言われていた…… 男なのにね…… お似合いだよ。」


 二人の姿を心のなかで浮かべながら、アメリアの問いに答えるのであった。


 「そうですか…… 整理はつきましたか? 」


 「ついていたつもりだったんだけどね…… ロサリオ・サン・バルトロメは確かに死んだんだと…… 今、実感した。」


 今までも思ってはいたことであったが、口に出して初めて腑に落ちる事もあるものだと、ロサリオは実感するのであった。
 その言葉を聞いて安堵するアメリアは重ねて問う。


 「では、今のあなた様は? 」


 「今の僕は…… 」


 アメリアの問いに振り返りその眼差しをみる。嬉しさと若干の不安を目の色に浮かべているのを確認すると、この娘は今まで、本当に真剣に自分の事を考えていてくれたのだなと、思う事ができるのであった。


 「ロサリオ・メルダース・ランビエールだよ。僕には十分過ぎる名だと思うよ。」


 「そうですか…… ふふふ、はぁ…… 」


 にこりとしたと思えば、途端に不機嫌を隠そうともせずに、ロサリオにため息をぶつけ出したアメリア。


 「えっ! あれっ? 何で!? 」


 良い話の流れであった筈だと思ったのに、ロサリオには何が何だか解らなくなってしまった。


 「加えてっ! わたくしの婚約者でしょうっ!? 」


 「あ、あははははは…… 」


 取り敢えず、笑ってこの場をやり過ごそうとしていたところにフリーンが入ってくる。


 「いつの間にそんな愉快な話になってるんです…… アメリア様? 」


 剣呑な雰囲気を隠そうともせずに、フリーンが得意のアルカイックスマイルで、ロサリオとアメリアに詰めよってきた。相変わらず目は笑っていない所に背筋がゾッとしてしまう。


 「ほれっ! 余裕があるとはいえ、今日は王への謁見日じゃ! 主ら二人もそれぐらいにせい。」


 埒があかなくなりかけてきたアメリアとフリーン二人の睨み合いに対し、絶妙なタイミングでアルラオネが手を叩きながら遮る事に成功した。









 ティファニア王城謁見の間は騒然としている。ティファニア王は何処か楽しむように事態を静観するように睥睨している。
 アメリアは今朝方の出来事を思い返していた思考を切り、騒然とする貴族達に耳を傾ける。ロサリオに対する否定的な意見が大多数を占めている事に対し想像していた通りであった。


 (さて、エーリッヒが何を以てこの、まだ少年といえる者をランビエール子爵として叙爵したのか…… 書面上は問題ない…… ましてランビエール領はヘルツウォークの専決事項ではあるが、アードリゲ孤児院のAクラス出身など、王家とヘルツウォーク公爵家の間では、裏がありますと言っているような物だが…… )


 ティファニア王の目には、本来の年よりも大人びた雰囲気を持った容姿の整っている少年にしか、未だ映っていないのであった。
 貴族達の騒然とした状況を助長するかのように、突如謁見の間に通じる扉が開かれた。激しく開かれた扉の音で喧騒が止み、一瞬の静寂が訪れる。


 「王に至急御報告申し上げます! 」


 流石にティファニア王は眉を顰めたが、報告に来た者がよく見る近衛の騎士であったために、余程の重大事であろうと叱り付けることはしなかった。


 「謁見中であるぞ!」「しかも報奨の授与である場に…… 」「あれは近衛騎士だぞ! 何か余程の…… 」


 ただし、この場にいる貴族達や武官及び文官達はこの異例の事態に困惑と先のロサリオに対する騒然さが合わさって、せっかくの静寂が激しく打ち破られてしまい、収集がつかぬ程の喧騒に発展してしまった。


 「静まらんか皆の衆っ!! このような場に飛び込んで来るのだ、危急の報ということか…… 」


 「はっ、恐れながら申し上げます。ナーダより通信が入りました! 帝国軍およそ50,000がヘルツウォーク公爵領に侵攻したとの事です!! 」


 長い間平和を享受していたティファニア王国に、激震が走る一報がもたらされたのであった。

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