魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

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幕間6 女王リリスとの取引

 サキュバスの女王リリスから取引を持ちかけられて、アルラオネもロサリオも考え込んでしまう。まさか神話の時代から息づくサキュバスの祖と通信用の形代とはいえ、こうして面と向かう機会など、想像すらしたことがないのが普通と言えよう。


 「魔族の動向か…… 知っておいて損はないが、現状我々には裏が取れんからのぉ。」


 確かにとロサリオも思う。人族には魔族に対する情報網など無いに等しい。あるとしても帝国が魔族領に放っている斥候ぐらいであろうか。それすらも定かではない。
 本気でこのような提案をしてくるということは、余程あのサキュバスは、重要な者なのであろうかとロサリオは考える。


 「まぁそこは信じるかどうかは、結局の所あなた達にまかせることにはなるけど…… 」


 「そこまであのサキュバスは、貴女にとって大事なんですかね? 夜の女王…… あの、貴女によく似たサキュバスが。」


 ロサリオとアルラオネはリリスの反応を推し量るように見据えている。
 リリスはロサリオに艶然とした笑みを撫で付けるようにしてきた。


 「うふふ、その通りですよ。あの娘はあまり近くに姿を晒さなかったはずなのによく気付きましたね…… 」


 「魔物大狂乱パンデモニウムの件、というよりもあのサキュバスの命の保証と言ったところですか…… あなたの望みは? 」


 ロサリオに近づき身体を絡ませるように寄り添い答えるのであった。


 「そう、うふふ…… 理解が早いのね! 流石にあの娘に何かあると女王リリスとしては黙っていられなくなる…… ということはサキュバス族も人族に対して…… ね、今まで通りにはいかないわ…… 貴方に了承してもらわないと、今のあの娘程度じゃ、逃げる間も無く殺されるだけ…… ね。」


 「なるほどの…… お主の娘というわけかあのサキュバスは…… それにしても血気盛んなようじゃったぞ! サキュバスとは思えんぐらいにの…… 」


 「御名答。」とアルラオネの言葉にふと母としての顔を覗かせる。このような顔も出来るのかとロサリオも思うが、だからこそ人族とサキュバスは共生できるのかとも思う。
 人族とサキュバスとは大した争いが起こっていないことが如実に物語っている。こういう人間臭い面は嫌いではないとも同時に思うのであった。


 「まぁいいでしょう…… 貴族級の魔族なんて初めて見ましたし、そんな奴が出張ってくるんです。魔族の状況は知っておくに越したことはない。」


 「賢明よ…… 何より私とそこの魔女さんには呪いで私の魔力が深く結び付いている。解るわよね…… 」


 ロサリオの回答に喜びを表すように撓垂れ掛かるが、釘を指すことも忘れていない。そもそも主導権を握るための鍵はリリスが持っていたのかと、ロサリオは嘆息するのであった。


 「まさか儂が体のいい人質になるとは…… すまんの、小僧。何が悪意はないじゃ!? 悪意しかなかろうがっ! 」


 「いやねぇ、悪意は無いわよ。争う気もないし…… ただ交渉を有利にしたいだけ…… それにちゃんと教えるもの! 正直、この魔王様をサキュバス族は敵に回したくないだけ…… 」


 ぷぅっと頬を膨らませてアルラオネに抗議する様は、神話の時代より息づいている伝説のサキュバスには見えず、アルラオネの勘を逆撫でにする。


 「二人とも!? 貴女の娘が出てきても命は奪わない。これでいいですね!? アルラオネさんも! ただし、アルラオネさんに何かあれば…… 俺は単身でも魔族領に赴いて、お前と序でにサキュバス族の本体を殺して回る。」


 「わかったのじゃ…… 事実、儂に選択肢はない…… 」


 「……!? えぇ…… 私も心からそうならないようにしたいわ…… 」


 通信用の形代越しにとはいえ、指向性を持ったピンポイントでの殺気を叩きつけられたリリスは、本体にまで震えが走った。改めてこの人物は、人間の枠をとうに越えていると実感するのであった。 


 「まぁ、取り敢えずは3点ね。一つは、帝国側とヘルツウォーク側のどちらか、若しくは両方で悪魔族の進攻が起きるわね。これは予想ぐらいはしてるでしょ…… ただし、アンデットの派閥と我々サキュバス族は静観。二つ目は、魔族は勇者召喚を妨害するつもり、これは少し先の話になるかしらね。三つ目は、これは正直派閥も不明なんだけど、ティファニアの何処かで不穏な動きをしている者がいるらしいわ…… 実力もかなりありそうなのだけど、魔族側もよくわかってないのよ…… 」


 「ちなみに魔族領には一体どんな派閥があるんだ? 」


 ロサリオはどのような派閥があるのか気になった。そこを知らなければ把握しづらい部分も多々あると思ってのことだ。
 アルラオネは、人質として負担になっていることに引け目を感じて大人しくしている。


 「そうね…… まず大まかに言って、人族がよく知っている悪魔族に魔獣族、不死族、邪竜族、そして私達サキュバス族の5派閥ね…… サキュバス族は悪魔族と同盟を結んでいるわよ。魔獣族は数も多く、悪魔族やサキュバス族に使役されている者も多数いるわ…… だから昔から彼等とは険悪だけどね。後は何処の派閥にも属していないはぐれかしら…… はぐれで徒党を組んだり、個別に動いたり、何処かの派閥と手を組んで動く者もいるから定かではないわ…… 」


 はぐれに関してはお手上げとばかりに肩を竦める。


 「不死族っていうのは? 魔物とは違うのか? 」


 ボーンソルジャーやゾンビにレイス等は人族では魔物として扱っている。そこに疑問が沸いても仕方がない。


 「意思や意識を有しているかで決まるわね。後は分かりやすい所で、リッチーや吸血鬼族は不死族よ。まぁはぐれに多いのも不死族なんだけどね…… 彼等は自己の目的にしか興味ないから。」


 「なぁ…… この情報って役に立つのか? 」


 ロサリオは、う~んと唸りながらぼそっと本音を口にしてしまった。


 「酷っ!? この情報でさえ人族は知らないでしょう! 」


 さも心外と言わんばかりにリリスは仰々しく声を上げるが、それにアルラオネが肯定する。


 「確かに我らは、魔族に派閥が複数あって争っているぐらいしか知らん。後は個別に相対した魔族の情報と古い書物にも載っているような事ぐらいだしの…… 」


 「しかしなぁ、これでは…… 魔族がいつかどこかで何かしますよ、ぐらいの情報だからなぁ。」


 再びロサリオは唸り始める。勇者召喚を執り行おうとしているティファニア王国には確かに有用だろう。警戒体制の引き上げに役に立つ情報といえる。
 ただし、それを陽動に国内の他の場所で呼応されたら、普段よりも手薄となっており被害も増え、且つ召喚準備やまさに最中であれば、如何に警備厚くとも其方に気を取られてしまいそうである。


 「正直あの貴族級の魔族、デカラビアが出現したことで、ヘルツウォークもティファニアも魔族の動向には警戒している。こんな情報なんの役にも立たない…… せめて、いつ、何処で、何が起こる、ぐらいじゃないと話にならん! 」


 「うぅ、勇者召喚を妨害するって言ったじゃない!? それじゃ不満っ! 」


 「そんな神話級の祭事なんかは警戒してて当然だろっ!? 魔族の襲撃なんか示唆したら、余計に混乱して色々疎かになるかもしれないからなぁ…… 」


 リリスは膨れっ面をしながら、ロサリオを下から上目遣いで見上げながら文句を言ってくる。その緊張感の無いやり取りを己が人質のような格好になっているアルラオネは、急速に危機感が喪失して行くのを感じる。
 女王リリスは、呪いやなんやと言いながらもアルラオネの命には興味がないのかもしれないと、アルラオネは溜息を吐き出しながら二人のやり取りを見つめるのであった。


 「わかったわよ! これは細かい場所は定かではないけど、相当力のあるリッチーがティファニア王国内に潜んでいるわよ。はぐれで死霊術を研究している奴でね、不死族とサキュバス族にコンタクトを求めて来たことから発覚したわ! 」


 ロサリオは内心でニヤリとし、アルラオネは目を見開いた。


 「動くのはいつ頃かわかるか? 」


 リリスはロサリオの肩に顎を乗せて考えこんでいるが、半透明で実体がないため、ロサリオ自身は全くもって嬉しくなく、逆に鬱陶しいとさえ思ってしまうが、ここは堪えてもう少し情報を取ろうと顔に出さないようにする。


 「詰めがどうとか言っていたらしいから、そう遠くないことじゃないかしら…… 私は報告を受けただけで興味なかったから気にも止めなかったのよねぇ。」


 (というよりも、ある程度人族も争いとかで混乱しているほうが、サキュバス族は美味しいのよね…… 不満や不安の捌け口をいつも以上に欲するからね、人族は。)


 自分で述べた情報に対して素っ気ない態度であまり関わりがないように演じるが、平和で停滞している大陸の状況は美味しくない。ある程度戦禍が満遍なく薄く広がっているほうが、サキュバス族の活動には適している。平和という名の揺り篭は、欲望もまた眠りにつかせてしまうと考えている。


 「わかったよ…… この辺で満足するよ。こちらも貴女と険悪になりたいとは思わないから…… で、誓約を結ぶのはどうしたらいい? 」


 ロサリオは、相手の種族と得意分野がわかっただけでも良しとした。
 魔族領はお互いにイグレシアス山脈で隔てられており、正攻法で考慮すると帝国側とヘルツウォーク側にしか驚異はない。勇者召喚で魔族が動く事と、近々ティファニアでリッチーが動く事がわかっただけで十分だろうと判断した。
 これ以上聞いても、のらりくらりと年頃の娘のような反応で躱されるのが、関の山だろうとも思ってしまった。


 「そうね…… では、人族からあの娘の身の安全の保証が守られる限り、私の呪いで貴女の命を危険に晒すことはない、と魂で縛りあう悪魔契約の儀式を結びましょうか。」


 「悪魔契約の儀式じゃと!? 神話に出てくる、お互いを魂で縛りあう究極の誓約術式かっ! 教会では魂縛の縁と呼ばれる儀式魔法じゃが…… あれは光系統、何故人族と魔族が同じような術式を使えるのじゃ!? 」


 絶対に違える事のないようにと、司教以上が使用する光系統の儀式魔法にお互いを魂で縛りあう魔法があるが、魔族は光系統を有さない。アルラオネはそこに驚きが出てしまった。


 「光系統も闇系統も表裏一体ということよ。大体同じような事が出きるわ…… 召喚だってそうじゃない。召喚術は闇系統と言いながら、人族は勇者召喚や神降しだってするじゃない! あれも立派な召喚術よ。」


 確かにとアルラオネは顔を顰めながら考える。特異過ぎて召喚術と考慮はしてこなかったが、大枠では陳腐な呼び方となってしまうが、召喚術と言ってもおかしくはない。


 「まぁ何にせよ、当事者二人でやってくれ。俺は嫌だからな。」


 「えぇ!? 貴方と魂で縛りあって結びつきたかったのに! 」


 サッと一歩引いて自分は関係ないとばかりに冷たく言うロサリオにリリスは抗議するがロサリオは取り合わない。


 「まぁこの内容ならば、どっちと結んでも同じじゃろ…… 腐れ縁ついでに儂とお主でちょうどよかろ。」


 「わかったわよ」と残念そうに、しぶしぶアルラオネとリリスで悪魔契約を結ぶ運びとなるのであった。
 夜更けに発展したこの騒動は、アルラオネの部屋内で、他に気取られる事もなく終わりを告げるのであった。

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