魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第70話 冒険者ギルド内大騒動

 心行くまで嘲笑し、冒険者を煽るロサリオは、今このフロアに200名程いる全ての冒険者達が、内々に燻らせていた怒りの炎を噴出させるように、さらに燃焼剤を投じる事になる。
 その嘲笑をうっとりとした表情で見つめるアメリアは、もうティファニアの月とは呼べる存在では無くなってしまったのかもしれない。


 「舐めているに決まっているだろう。冒険者なんぞ、只の雑用夫とどれぼどの違いがあるというんだ? 
 危険を感じたら蜘蛛の子を散らすように逃げていく雑魚ばかりじゃないかっ!? ふははははっ、これでは雑用夫に申し訳がないな!! はははははっ! 」


 ロサリオ自身も冒険者としてランサローテで活動したことはあったが、あくまで戦いというものを覚え強くなり、軍事行動に役立つ少数での隠密や工作を学ぶために活動していた。リスク度外視の活動であったために何度もその身に深い傷を負いながら、渦中に身を投じていたために冒険者の本文とは外れている。
 そこまでしてやっとバルトロメ公爵家の軍事部門の頂点に躍り出ることが出来たのだ。
 復讐という名の戦争行為が己の全てであった当時のロサリオからすれば、リスク回避のために依頼を請け負わなかったり、任務中に逃げるような冒険者はAだろうがなんだろうが、斥候以外役に立たない雑兵以下だと感じていた当人である。


 そして、ロサリオの性格も普段はおとなしく見えるかもしれないが、決して寛容ではなくむしろ苛烈な激情家といえる。でなければランサローテであの様な暴挙とも言える行動は取らなかったであろう。
 氷炎の牙やローゼンベルクの薔薇は、道中一緒に行動したこともあったので、別段含むものは持たずに済んでいるが、そのような人物が元々冒険者という者達に好感は得ていなかった所に、あのような言葉を投げつけられれば怒りもする。アメリアやフリーンがいた事も拍車が掛かってしまっていた。
 このロサリオの言葉には、奥で静観を装おっていたB以上の高ランク冒険者達の腰も上げてしまっていた。


 「「「「「ぶっ殺すぞてめぇ!! 」」」」」


 「では、お前らに資格があるか見てやるよ…… 」


 そう言い放ったロサリオは、フロア全体に殺気を込めた魔力を解き放つ。殺してしまわないように一応は加減をしている所に、まだ理性的であると言えるかもしれない。


 倒れる音が聞こえる。


 呻き声が辺りに鳴り響いている。


 気絶してしまった者もいる。


 恐怖で四肢が弛緩してしまい粗相してしまった者もいる。


 誰も血を流した者はいない。


 辺り一面には、倒れ付して身動き出来ない者達で溢れかえっていた。
 夥しく人が重なりあう姿は地獄のような様相である。アメリアとフリーンは直ぐ側に控えて居たこともあり、ロサリオの服の裾を掴んで身を寄せて居たため、ロサリオの殺気の籠った魔力にはほとんど当てられていない。


 「うふふふ、あれだけの威勢がずいぶん静かになってしまったこと…… 情けない方々、これではロサリオ様の言う通りですわね。わたくし、冒険者という方々はもっと猛々しくも柔軟な分別ある強者だと思っておりましたのに…… 」


 アメリアが口元を手で隠しながら淑女のような仕草で微笑んでいるが、恍惚とした表情にこの死屍累々とも見て取れるような場所では、不気味以外の何者にも見えなくなってしまっている。


 「それは夢を見すぎですよ、アメリア様…… というよりアメリア様は大丈夫なのですか? 私にはこれでも結構キツイんですが…… 」


 「全身にロサリオ様を感じられて、わたくしはむしろ心地いいぐらいです。そんなことを言いながら、キツイのを言い訳にしてフリーンさんは少しくっつきすぎじゃないですかっ!? 」


 女性二人の姦しさにロサリオはテンションが萎えて行くのを感じる。
 当初ロサリオに突っかかってきた巨人の斧の面々は、軒並み床に倒れ付しており、意識は何とか保ってはいるが、恐怖で金縛りにあったかのように身動きが取れない。
 D以下は殆どが殺気の籠ったロサリオの威圧に当てられて気絶しており、Cで倒れ付して身動き出来ないが何とか意識は保っている。Bでさえ、立ち膝程度や己の武器を支えにしてはいるが、金縛りにあった状態にある。


 (なるほど…… Aが12人にSが1人か…… はぁ、朝の最混雑時ではないとはいえ、この程度の威圧で身動き取れそうな奴らがこんなものか…… )


 ヘルツォーク公爵とナーダ冒険者ギルド支部長のヘルナーゼが、冒険者登録を願い出てきた意味が納得出来たロサリオであった。
 B以上の冒険者には強制指名ができる。ロサリオはティファニア貴族ということであり、ティファニアは貴族軍の腰が重い。有事に際し、冒険者という身分でロサリオを動かしたいという思惑があったものと推測が出来た。
 髪の色も黒色に浸食しない程度の割合なので、50以上のレベルの冒険者達は、何とか身動きが取れるように見計らって人数を確認した。
 ただし彼等も一人の人間からこれほどの殺気を浴びせられたことなどない。しかも漫然と周囲に放出しているだけでこの圧力である。やはり、迂闊に動く事など出来ないでいた。


 「リーチャさん…… あまりこういう物言いは好きじゃないんですが…… ここにいるのはヘルツォーク公爵令嬢です。他にも…… 」


 フリーンの方を見遣るが、いつの間にかロサリオの右腕に組み付いており、左腕とは反対の右手の人差し指を、黙っていてほしいというような装いで唇に押し当てている。
 仕方なく、アメリアの名前のみで冒険者達の非を咎めてこの場を納めようとした所に、階段から怒鳴り声と共に降りてくる人物がいた。


 「なんじゃい!? この尋常じゃない殺気は!! ここを何処だと思っとるんじゃぁあ!! 」


 「ギ、ギルド本部長…… 」


 国を跨いで各都市にあるギルドの支部長を束ねる、文字通りの冒険者ギルドのトップである。
 5階ある建物内にある3階の執務室から、ロサリオが放った殺気を感じとり降りてきたのであった。


 「元凶はそこの白髪か…… いい度胸してるな小童がっ! 」


 リーチャの呟きをロサリオは聞き取り、周囲に解き放っていた殺気を霧散させたので、ギルド本部長は悠々とした足取りでロサリオの前まで来た。
 ただし、周囲の冒険者で意識がある者達は、身を持って知った恐怖で震えながらロサリオを見ることしか出来ないでいた。


 「むしろお前らのほうがいい度胸をしている…… こちらは書状を持って来ただけでこいつら複数に絡まれたんだからな。猿山の大将は詫びという言葉を知らんのか? 」


 いい加減冒険者ギルド側の御託を聞くのに耐えることが出来なくなったロサリオは、もう一度殺気をフロア内に解き放つ。堪らずにギルド本部長は片膝をその場に付き、息が荒くなってしまった。


 通常、老いにともない気力体力は衰えていく。もちろんレベルも同様に落ちていく。全盛期はSであった冒険者ギルド本部長も今ではギリギリAを保っているか否かといったところであろう。60も近い年齢のヴァルターが未だにSを保っているのが異常である。だからこそ大陸中から畏敬の念を集めている。


 「ぐうぅ、このようなギルドを敵に回すような真似をして…… ただではすまさんぞ! 」


 ギルド本部長まで巻き込まれてしまい、AとSが動き出そうとしたが


 「黙って見ていろ! 」


 周囲に放出していた殺気を若干弱めて、その分ロサリオが指向性の殺気を放ち、その場で屈服する失態を晒すこととなった。
 それでも未だに自身への魔力の浸食は起こっていない。全く本気でいない証拠だとアメリアとフリーンには見てとれていた。


 「なっ!? あやつらが…… 」


 その姿に冒険者ギルド本部長含めて冒険者達も絶句してしまう。そのなかを何とかリーチャが這いつくばるようににじりより、冒険者ギルド本部長にアメリアから渡された書状と概要書を受け取った。


 「お前がっ!? ナーダの魔物大狂乱パンデモニウムでCランクの魔物300体とDランクのオークジェネラル50体を一人で討伐したランビエール子爵だとっ!? するとそちらがアメリア公爵令嬢か…… しかし、このような暴挙はっ! 」


 もはや埒があかないと思い、懇願するようにもう一度フリーンを見つめる。その視線を感じとり、嘆息しながらも仕方がないとばかりにロサリオに一言付け加える。


 「もう…… この件は貸しですよ! いいですね!? ロサリオ様。」


 「頼むよ…… こんな猿相手じゃ話が進まない…… というより、もうどうでもよくなってきた。」


 しょうがない人ですねとでも言いたげな、2度目の嘆息を吐きながらギルド本部長に告げる。


 (えぇ!? フリーンも煽ってたじゃないか…… )


 そんなロサリオの内心に気づいたのか、アメリアが宥めるようにロサリオの頬に手を添えて、微笑み掛けてはロサリオの不満を霧散させるのであった。


 「冒険者ギルド本部長、私はフリーン・チャント・グレゴリオ、その名において、非は冒険者ギルド側にあると証言致します。」


 「グ、グレゴリオ…… 」


 「教皇の関係者だとっ!? しかも教会発足から関わるあのグレゴリオ…… 」


 リーチャが頭の片隅に引っ掛かる物を思いだそうと考えるように呟き、ギルド本部長は正しい意味でフリーンを認識した。
 神の子イグレシアを擁立してイグレシア正教会を設立したグレゴリオ。その家名は世に1つしかないのを意味する。何よりフリーンが掲げた教皇印入りの十字架を見抜く目は、大陸中に根を張る冒険者ギルドの長として流石である。


 「事情を把握したならさっさと対応しろっ! それとも…… イグレシア正教会、教皇筋の証人がいて、それでも此方に落ち度があるとでも言うのなら…… 今日からギルド本部は別の場所になるっ! 」


 これで問答は終いとばかりに、一層力を込めた殺気を一瞬ではあるが周囲に叩き込む。
 もはや軒並み冒険者達は気絶して、痙攣を起こしだし、しまいには弛緩した肢体から失禁し出すのであった。


 「これは情けない…… 」


 「ロサリオ様…… 遣りすぎです。」


 アメリアは多量に失禁した事に伴い、異臭がするこのフロアを一瞥してから、眉根を寄せて侮蔑しながら冒険者達を見遣る。フリーンはそんなアメリアを仕方がないとは思いながらも、ロサリオを諌めるのであった。


 結論としてロサリオ自身は、冒険者ギルドと大きな確執を残しながらもBランク冒険者として登録が済み、アメリアもEランク冒険者として登録が済むのであった。
 ランビエールとしての登録証を、リーチャはロサリオに渡しながらも、旧知の人物に言葉を添えるのであった。


 「無茶苦茶ですよ…… でも、生きてたのなら良かったです。」


 「内緒でお願いします…… まぁあの島にいましたから、冒険者には余り良い印象が無かった分、僕も納まりが付きませんでした。まぁ、殺していないので問題ないでしょう…… 」


 苦笑しながら未だに惨憺たる様相のフロアを見渡すロサリオであった。


 「大有りですよ!? ギルド本部長だって回復せずに寝込んでいるんですから…… 色々あったみたいですね…… いつかまた、話を聞かせてください。」


 「そうですね、冒険者ギルドで関わって良かったと思えた事は、リーチャさんが唯一の方でしたから…… ではまた…… 漏らしたことは内緒にしておきますね! 」


 ウインクをしながら、最後にリーチャの顔を羞恥で染め上げる一言を付け加え、冒険者ギルド本部を後にした。
 こうして旧知に会えた嬉しさと、発奮出来たことによる爽快感を気持ちのいい夜風と共に感じながら、王都ティファニアにあるヘルツォーク公爵邸へ戻るのであった。
 翌日には大陸に激震が走る凶報がもたらされることになるとは、この瞬間において露とも知らずに。

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