魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第69話 王都ティファニア冒険者ギルド本部

 スフェルデに滞在した翌日の夕方、ロサリオ達一行は王都ティファニアに到着した。


 到着後、王都にあるヘルツォーク公爵邸で旅の汚れを落とした後、アメリアとフリーンを伴い王都ティファニア冒険者ギルド本部に向かっている。
 予てより冒険者ギルドナーダ支部長のヘルナーゼより、ヘルツォークの冒険者ギルドで手続きを受けて欲しいと言われていたが、慌ただしく動いていたために、先伸ばしとなり、ヘルツォーク公爵からも口添えをしてもらい、王都ティファニア冒険者ギルド本部での冒険者登録をランビエール子爵として行う運びとなった。
 これは、貴族としてよりも冒険者としての身分で動くほうがいい場合があるのではという配慮の下、ヘルツォーク公爵との打ち合わせで決定した事項であり、ロサリオ自身も冒険者というものをもちろんよく知っているために、二つ返事で了承している。


 ナーダでの活躍を以て特例でのBランクからの冒険者登録となる。
 一般的にBランク以上の昇格からは、A以上の冒険者からの推薦と貴族の推薦及び冒険者支部長の推薦の3つが必要になるが、ヘルツォーク公爵、ヘルナーゼ支部長、氷炎の牙及びローゼンベルクの薔薇の各推薦状を得ており、ティファニア王都冒険者ギルド本部長にもヘルツォーク公爵から話が通信の魔道具で通してあるので、異例というよりは、いきなりBランクからの登録は前例がないが手続き上問題無くなっている。


 ロサリオは、剣は帯びずに自動回復機能付の黒い軍服のような貴族服とも取れるいつもの衣服を纏っている。アメリアは貴族の女性服ではあるが、私的な外出用の堅苦しくはないもので纏めている。フリーンは数着持っている法衣の内の洗濯済みの物に着替えを終えている。


 公爵令嬢として書類を預かっているアメリアと神官修行として冒険者登録もしているフリーンを伴い、ロサリオは冒険者ギルド建物を視認できるところまで来ていた。


 「流石、大陸唯一の100万人以上が住む大都市の冒険者ギルド…… ナーダの3倍はあるじゃないか!? ねぇ、アメリアも本当に冒険者登録するの? 」


 ナーダでさえランサローテ支部と変わらない大きさで、ヘルツォーク公爵領の辺境ということを考えると十分な規模だと思っていたロサリオであったが、冒険者ギルド本部の大きさに圧倒されていた。


 「しますよ! アルラオネ様とお父様にも許可は頂いています。魔法の習得や習熟には少人数での魔物討伐が都合がいいと聞きました。
 それに、ヘルツォークやティファニアのように人が多ければそれだけ依頼もあり、ランサローテのように軍が積極的に魔物の駆逐には動きません。予め定められた軍事演習に組まれているだけですから、どうしても冒険者達に頼るのが大陸の状況です。」


 軍備は金が掛かり、他国との戦争がなければ必要最小限に抑えるのが常である。魔物討伐や護衛等は冒険者に依頼するほうが、結果として国費は抑えられるものかとロサリオは納得するが、何もアメリアまで冒険者登録しなくても思いながら言葉を発する。


 「日も落ちた事だし、早めに済ませようか。どっちにしろもうギルド内は帰ってきた冒険者達で騒いでいるだろうけど…… 明日は登城だから今日の内に手続きだけでもしておこう。」


 ロサリオはそう言い、アメリアとフリーンを相互に見て、修行の一貫で冒険者として出入りしていたフリーンはまだしも、酒が入っている冒険者達が居る中にアメリアを連れていくのは、内心気が引けていたが、書状の管理とギルド本部長への対応はアメリアに任せていたので、仕方ないかと考え扉を開くのであった。


 「うわぁ! 凄い熱気に人ですね! わたくしは冒険者ギルドは初めて中に入りました。」


 アメリアは初めて訪れる場所に興奮を隠しきれないでいた。


 「依頼から帰ってきた冒険者達でごった返してますね…… 併設されている酒場も人で溢れている。」


 「日が沈んで暫くたったこの時間は揉め事も多いですし…… ロサリオ様、やはり目立つのか見られています。」


 ロサリオは嘆息するように呟き、ロサリオ同様に冒険者ギルドに多少は慣れているフリーンは周囲を見渡す。


 周囲にいる冒険者達も異色な3人に目を向け、ざわつきだすのであった。


 「ありゃ貴族だよなぁ、何で神官の女を連れてるんだ? 」


 「依頼に来たんじゃねぇか? 」


 「10代半ばから後半くらいか!? 二人ともえれぇ別嬪じゃねぇか!! 」


 (やれやれ、神官のフリーンさんはまだしもやっぱりアメリアは場違いにも程があるよなぁ…… )


 瞬く間に視線を集めだした二人に頭痛を覚えるが、そうも言っていられない。依頼用窓口に用があるわけではないので、早いところ手続きを済ませたいが、こうも冒険者用受付が混み合っていると、待つしかない。冒険者ギルド内では依頼を持ち込むのでなければ、貴族の特権等は敵視されるだけで何の役にも立たないことを経験上ロサリオは解っている。


 しかし、幸か不幸か受付奥にある扉から忙しいのを見越して、ちょうど手助けをしようと出てきた受付嬢が、ギルド内がいつもと異なる騒然さを醸し出していることに気付いた。
 その原因が、入り口付近にいるロサリオ達だと即座に見抜いた受付嬢は、他の受付嬢から、「あっ、リーダー」と呼び止められるが、それを無視して受付カウンターから出てきて対応するのであった。


 (なっ!? 何で……? )


 サッと目をそらしうつむき加減になるロサリオ。受付嬢が疑問には感じたが、それに構わず挨拶と問いかけを行うのであった。


 「神官…… あら! 司祭様ですか!? それとそちらのお二方は貴族の方でいらっしゃいますよね。当ギルドへどのようなご用件でしょうか? 依頼であれば左奥の窓口で受付できます。」


 フリーンを即座に法衣から司祭と気付く目敏さは彼女が優秀なのであろう。
 見た目の程は20歳ぐらいに見えるが、立ち居振る舞いとフリーンを司祭と直ぐ様見抜いた目敏さ、何よりギルド内の雰囲気を悟り、原因のロサリオ達へ対応する機敏さといい、この受付嬢の如才無さは見た目通りの年齢ではないことを物語っている。


 ロサリオは顔を青くしながら俯いて顔を左手で覆ってため息をついている。
 そんなロサリオの反応にアメリアとフリーンは訳がわからず、とりあえずアメリアが要件をいうのであった。


 「実は、わたくしとこの男性は冒険者登録に来たんですの。こちらの封蝋された書状を冒険者ギルド長に、概要はこちらの書面に書いてあるのですが…… 」


 一応は名前を伏せて要件を言うアメリアであるが、概要書とはいえ、一介の受付嬢に渡していいものかと躊躇ってしまった。


 「なんだなんだ、お嬢さんとそこの優男が冒険者登録だって!? 」


 「ぎゃはははっ! じゃぁ貴族の3男以下とかそんなんか? お嬢さんもそんな男辞めてこっちにこいよ! 」


 「そうだぜっ! いい目見させてやるからよっ! 」


 「おい、リーチャさんよお、あんたがわざわざ相手するような奴らじゃねぇんじゃないか? 新米じゃないか…… 」


 「はいはい、皆黙りなさい。からかわないの。ごめんなさいね、一応私は受付を纏めているリーチャというの。もし差し支えなければ、封蝋のされていない概要書は拝見させてもらえるかしら、内容如何によっては直ぐにでもギルド長に取り次ぐわ。」


 アメリアやフリーンに対して、あからさまな下卑た視線と声を投げ掛けられて、二人は表情が険しくなり、ロサリオも俯いていた顔を上げて、文句の一つでも言い放とうとした絶妙のタイミングで、野次を飛ばしていた冒険者達にリーチャと呼ばれた女性が、ピシャリと場を静める様は中々堂に入っている。
 アメリアは、この女性であれば問題はないかと書状と概要書を渡す。


 「拝見させて頂きますね。推薦状や紹介状であれば、試験無しにEランクから登録できますから…… どれ、ふむふむ…… 」 


 リーチャが概要書に目を通す間も冒険者達はアメリアとフリーンに厭らしい視線でめ付けている。ロサリオに対しては、まだ小柄ということもあり明らかに侮る視線が多い。
 女性冒険者等はまだ成人したての小柄な貴族の少年に見えているので、冒険者が務まるのかと心配そうに眺めている。


 「えぇっ!? Bランク冒険者登録の推薦状!! な、なんなのこの概要書はっ!? 」


 (まぁ、さすがにリーチャさんでも素が出るか…… いくらなんでもいきなりBはないよなぁ。初めて会った時から5年、最後に見たのは2年も経っているのに、見た目は変わらないなぁ。仕事できるオーラは強くなってるみたいだけど………相変わらず独身なのかな? )


 このリーチャという女性、才色兼備で冒険者達に人気は高く、大人の色気とサバサバとした格好のいい面を持っているため、年下、年上を問わずにファンが多い。
 以前はランサローテ支部で受付をしており、ロサリオの担当であった。
 ランサローテは冒険者の数が少なく、常時各所領の軍隊が軍事行動の一貫で魔物討伐をしていたために、冒険者の肩身は狭かった。兵も強いし当然のことながら、冒険者よりも数が断然多い。
 よって必然的に冒険者は採取や少数精鋭でしか行動できないような限られた依頼しかなかった。しかもあちらこちらで戦争をしており、どの派閥の兵も強者が多いので下手な対応を取れば、軍は苛烈な決断を取るため双方から攻撃を受ける羽目になる。


 ランサローテでは冒険者は強者や憧れの対象ではなく、雑務を行う程度の者という認識でしかなく、あからさまに雑魚扱いする者もいるぐらいである。
 もちろん、魔物も大陸に比べて比較的に強いランサローテで、冒険者として長く活動できていれば強者も存在するが、そんな者は軍にいくらでもいると一蹴されてしまう。
 ランサローテでは、冒険者はAランク以上でなければ軍や貴族には相手にすらされないのである。軍務に勤しむ各貴族領では、数の揃わない冒険者等、CであろうがBであろうが斥候程度の価値しか見出だしていないのが実情である。


 そのようなランサローテへ5年近く前にあたる20歳の時に、マーチャント通商連合の地方支部から派遣されたリーチャは、当時8歳のバルトロメ公爵弟の冒険者登録を行い、ロサリオの担当として凄まじい勢いでの依頼達成、及びランサローテでの冒険者の地位改善に貢献、あまつさえその担当した冒険者が、史上最年少という10歳でのAランク昇格を果たした功績を称えられて、ティファニアのギルド本部に栄転したという経歴を持つ。
 流石にロサリオとは2年間顔を合わせておらず、当時は今よりも10cmは身長が低く、髪も赤金髪であったために目の前にいる少年が旧知のバルトロメ公爵弟とは気付いていない。 


 リーチャの咄嗟の悲鳴のような叫び声に、アメリアとフリーンは睨むように眉をしかめ注意をしようとしたが、周囲にリーチャが発したものと似たような悲鳴や怒号が巻き起こり、気をそちらに削がれてしまう。


 「はあっ!? このガキどんな小細工を使いやがったんだ! 」


 「初登録でBランクなんて未だかつて聞いたことねえぞっ!? 」


 「コネかなんだか知んねえがっ!? こっちゃあ実力でやってんだよ!! んな虚仮にするような真似すんならぶっ殺すぞっ!ごらぁ!! 」


 ギルド内が冒険者達の怒りの気質で大部分が満たされるのを感じて、リーチャはあまりの内容ではあったが、口が滑ってしまった自分の失態を恥じてしまう。
 しかしこのままでは大人数での暴動に発展してしまうと考え、冒険者達を押し留めようと我に帰る。


 「皆さん落ち着いて!? 推薦状も複数あり、ギルド本部長にも事前に話が通ってるみたいなので、直ぐ確認取りますから!! 」


 「確認だったら俺らがとってやるよ!! Bランク様々なら俺らと渡りあえんだろ!! 」


 そういって、一歩前に出てきた冒険者パーティーがいた。大柄な筋骨隆々な大男が二人に全身鎧の男一人、それと魔法師のローブを着た者が一人に、獣人族の男が二人。
 そのパーティー以外にも敵意を剥き出しにしている冒険者が多数いる。


 「あ、あなた達はCランクパーティーの巨人の斧!? もうすぐBランク昇格ではないですか…… 騒ぎを起こしたらっ!? 」


 個人の技量としてもパーティーの練度も高く、攻撃重視のパーティー編成である。
 リーチャは、彼らは不味いとロサリオ達を見ても女性二人は、彼らに怯えるどころか侮蔑の視線を向けて煽っているようにも見える。当事者となっている男は、嘆息しながらリーチャへ話しかけてきた。その端整な容姿に郷愁を刺激されながら、思えば初めて正面から顔を見たなと、場にそぐわない感想を抱いてしまった。


 「なんかすいません、リーチャさん。彼等の相手は僕がしますよ…… 正直腹にも据えかねていましたので…… アメリアにフリーンもいいかい? 」


 「はい! 正直わたくしも怒り心頭です。どうかお気の済むまで。」


 「本来なら司祭として止める立場かもしれませんが…… あのゴブリンのような薄汚い視線には辟易しました。殺さない程度であればいいんじゃないですか? 」


 アメリアは、ロサリオの気が済むのであればと寄り添うように肯定する。フリーンは嫌悪感も露にむしろ期待するように背中を押してきた。
 リーチャはその声に、頭の片隅に置かれていた記憶を刺激される。
 彼女らの言葉に冒険者達は怒りの火に油を注がれ、飲んでいたものや受付にいた者も、こちらに体を向け敵意を表してきている。


 「ガキィッ、死んだぞてめぇっ!! 冒険者舐めてんだろっ! 」


 もはや一触即発の状態にまで場が出来上がっているが、ロサリオ達3人には全く緊張が見られない。
 リーチャはロサリオから目が離せなくなってしまっていた。


 「舐めている…… か…… ククククク…… フフフフフッ、アーッハハハハハハッ! 」


 「な、なんだぁ!? いきなり…… 気でも触れやがったかこのガキ! 」


 突然笑いだしたロサリオに、相対していた巨人の斧の面々もその場にいる冒険者達も呆気にとられてしまう。
 その嘲笑とも取れる笑い声を聞いたリーチャは、遂にここにいるはずのない、死亡したとつい最近知ることとなった人物を思い出すことができた。


 「ロサリオ・サン・バルトロメ公爵弟…… 」


 ロサリオの嘲笑と冒険者達の怒号で、その呟きは誰にも聞かれることはなかったのは、彼女にとって幸いであったといえる。

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