魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第68話 曰く付きの王家直轄領

 ロサリオ達は急ぎ王都に向かっていた。
 当初の護衛人数を減らした分の予算をポーション類に充て、それらを馬や回復役のフリーンとアメリアに使用しており、通常であれば約3週間かかる王都ティファニアへの日程を、14日という強行軍を強いている。
 到着日時は途中に立ち寄った領主館より、通信の魔道具で王城に届けてある。
 ティファニア王への謁見日時は、到着予定日翌日の7月4日の午前に取り計らって貰える事となった。
 もちろんヘルツォーク公爵とも連絡を取り、異変の兆候について確認を取ったが、現状は問題は起こっていない。
 ヴァルター率いるローゼンベルク近衛軍10,000が既にナーダ周辺に展開済みであり、ナーダ伯爵軍5,000も編成し行動可能との報告も受けている。後は近隣の貴族軍の編成のみとなり、続々とナーダに行軍している。その中にはランビエール子爵軍1,000も含まれており、指揮官は老境に差し掛かっているヴェルナー卿という事実に、ロサリオ達は驚いてしまった。


 王都ティファニアまで後1日のところまで来ており、 王都ティファニアの衛星都市の1つである、スフェルデに滞在していた。
 まだ昼過ぎであるが、謁見は明後日であるのと、ここまで都市や町に滞在はしたが、かなり無理をした移動速度であったために、本日はゆっくりと休養をとることとなった。
 明日の朝に出発すれば、夕方にはティファニアにあるヘルツォークの邸宅へ到着する予定である。


 現在はスフェルデを領都とするテルトー公爵邸のラウンジで、ロサリオ、アメリア、フリーン、アルラオネに加えて護衛隊の指揮を取っているサブナクが休息していた。
 一先ずは落ち着いたこともあって道中気になったことをロサリオは尋ねるのであった。


 「ランビエール子爵領というかヘルツォーク公爵領を抜けてから、1日くらいして北に迂回して移動しましたけどどうしてですか? 」


「「「「? 」」」」


 その場にいる面々は、当初何を聞かれているのか気付くことが出来なかった。ロサリオ以外、というよりもティファニア王国含めて大陸では有名であるので、皆が説明を失念していた。


 「なるほどの…… 確かにお主は知らんくてもしょうがないか…… 王家からの報償の件も関係することもあるであろうし、教えておこうかの。」


 アルラオネはアメリアに目配せをして了解を得る。ここにはサブナクがいるが、魔族と遭遇した当初にロサリオとやり取りがあり、ロサリオが偽名を使っていたことも知っているので、ヴァルターからロサリオの素性を聞いている数少ない人間である。ただし、魔王の事までは話をしていないので、細心の注意は必要である。
 くだんの王家直轄領の説明だけであれば問題ないであろうとアメリアも判断しアメリアから切り出す。


 「実は、ヘルツォーク公爵領内にあるランビエール子爵領の東側と領境を接する王家直轄領内にあるティファニア大平原は、約1,000年前の大戦での大激戦区だった所です。」


 魔族大戦、説話や歴史としてしかロサリオは知らなかったので、詳しい位置関係は知らなかったが、ここティファニアが戦場であったことは周知であったので、なるほど、ここがと納得する。
 そして、アメリアの言葉を引き継ぐようにフリーンが詳細を説明す。


 「私達教会関係者もこのティファニア大平原は、修行に打ってつけなんです。何故なら、ここはアンデットの巣窟になっておりますので…… ティファニア王家直轄領の外周部には、ランビエール子爵領側に都市が一つ、北側と東側にも都市がそれぞれあり、神官達や冒険者、軍が定期的にアンデットを討伐しています。」


 「へぇ、そんなにアンデットが出るんですか? 約1,000年間で掃討は出来なかったんですか? 」


 ロサリオが至極尤もな疑問を述べる。その疑問にアルラオネが見た目の年齢とそぐわない、鷹揚な態度で脚を組み換え応じる。


 「疑問は尤もだがの…… 中央に行くほどアンデットは強大になるのじゃよ。それこそ当時の騎士や魔族がアンデットと化しているのじゃ…… 外周部は負の魔力に引き寄せられたレイスや負の魔力だけで出現したボーンソルジャー等の雑魚が多いので、教会関係者の修行には打ってつけなんだがの…… 」


 「あぁ、なるほど…… 魔族や力ある戦士達のアンデットは中々手に終えないですからね…… 下手したら討伐難易度はBから場合によってはS以上だ…… 」


 ランサローテでも経験があるロサリオは直ぐにその驚異を納得する。
 戦士達でアンデット化して弱くなる個体もいるが、騎士や戦士等の武器をメインに戦うものは、総じて強くなる。生きていた頃の無意識下で掛けている肉体のリミッターが外れているのだ。加えて不死身であるのでとても手強い。


 「ご存知ですか!? 1,000年前のティファニア大平原では、C以上の騎士達も魔族も多くがここで散っています。戦死者の数も膨大ですので、この1,000年浄化は出来ていません。ただし、各都市に神官が多数いるので、中央に入り込み過ぎなければ、そこまで危険ではないんですがね。」


 アンデットの驚異を知っているロサリオに、意外性を見たフリーンが説明を加える。


 「いやぁ、ランサローテでもありましたよ! 霧深い場所を進軍していて、敵と遭遇したと思って戦闘に突入したら、相手はアンデットの中隊だった! なんてことがね…… しかも敵軍まで現れたもんだから、三巴みたいになっちゃって乱戦になりましたよ…… ランサローテは従軍する神官も少ないしあれは参ったなぁ、アハハハッ! 」


 「ロサリオ様…… それは笑い事ではないです。はぁ、中隊規模のアンデット、しかもそれらは騎士達でしょう!? 普通なら両軍壊滅してもおかしくないです…… 魔物行進モンスターパレードより全然質が悪いじゃないですか!? 」


 お気楽に笑い話のように語るロサリオに、ランサローテはこうも非常識なのかと、アメリアは嘆息と共に怒鳴りつけるという器用な真似を行うのであった。
 中隊規模の騎士達のアンデット等、Cランクの魔物が200体出てくるような状況と同義である。イグレシアス大陸では笑えない。数千からなる軍の派兵事態だ。


 「まぁ、実際ロサリオ卿にかかればそんなもんなんだろ! レッサーデビルといい、Cランク300体とDランク50をやった時といい、驚きを通り越して夢でも見たんじゃないかと思っちまったくらいですからねぇ。いやぁたまげたのなんの!? 」


 サブナクは持ち前の陽気な性格を発揮して、笑顔を浮かべながらロサリオに敬称を付けて会話に加わる。


 「サブナクさんに敬称を付けられるのもなんだかこそばゆいですね…… 」


 「何言ってんですか! 歴とした貴族で、しかもあのバルトロメ公爵弟でしょ!? まぁ、詳しい経緯は知りませんが有名ですからね、偽名を使いたい気はわかりますが…… 道中にアメリア様やそこの神官の美人さんに膝枕されながら、遭遇した魔物を討伐する指揮を取るんですから、何処の魔王かと思いましたよ。」


 「いやっ…… あれは…… 」


 強行軍で行動していたとしても、やはり魔物に遭遇することはあった。
 ロサリオが戦うことを断固反対したアメリアとフリーンに、それならばと二人のレベルを少しでも上げておこうとロサリオは考え、50人の護衛隊を指揮して止めをアメリアとフリーンに刺させて魔物を討伐してきた。
 戦闘に参加させないという配慮の下、膝枕を強制的にさせられながら。


 魔法や魔術で倒すよりも直接その手で倒したほうがレベルが上がり安いのは、この世界では周知の事実であるので、魔法師や神官等の後衛のレベリングをこのように行うのは、冒険者達や戦場に身を置く者であれば常である。
 魔力量というのはレベルの上昇と共に上がるが、運用する技術はレベルに関係なく努力や才能が物を言う。魔力量自体も持って生まれた量の大小があり、砲台にや支援に徹する軍所属の者であればレベル上げに固執しない者もいる。
 アメリアはレベル10、フリーンはレベル17という貴族の子女や神官としては年齢を考えれば、この大陸ではアメリアは平均であり、フリーンはやや高い。
 その事実にロサリオは愕然としてしまい、この機会を多少でも活用して二人のレベルを上げようと考えた。


 そうして、魔物を瀕死の状態に追い込むまで、膝枕をされながら護衛隊を指揮するという、なんとも傲慢で鬼畜な態勢を取るに至った次第である。
 護衛隊に死者がでないように、要所でロサリオが膝枕をされながら魔術を放ち、アメリアもアルラオネの書物の勉強の成果を見るために、膝枕をしながら氷の初級及び中級魔法を放つ姿も騎士達にとっては、その傲慢さと余裕然とした二人の態度に悪魔のようだと畏怖を覚える。
 しかし、アメリアは騎士や民衆に人気も高いために、まるでアメリアを虐げているかのようなロサリオに不満や嫉妬が高まり、尚且つ神官の美少女にまで膝枕をさせ、か弱く儚げに見える二人に対して直接魔物に手を下させる等、ランビエール子爵は魔王だと揶揄されても仕方がないことであった。


 「この道中、騎士達の目が酷かったんですから…… もう目も合わせてくれなくなりましたし…… サブナクさんだけですよ、変わらず接してくれるのは。」


 「ワハハハッ! いやぁ、そりゃぁしょうがないですよ! あんな態度で指揮されて、しかも魔法ぶっぱなして俺らを助けちまうんですから! まぁアメリア様達の膝枕に嫉妬してるっていうのもあるんでしょうがね。俺は面白ければいいんで気にしないですよ! なんと言ってもロサリオ卿には恩があるんでね。」


 サブナクは、レッサーデビルに抜かれてアメリアが危機に陥った時に颯爽と現れて、危機からアメリアを救ったロサリオに非常に大きな恩を感じている。


 8歳以降同姓で親しい人間を持つことが少なく同年代は皆無であったため、兄よりも年下である19歳のサブナクに親しくされるのはロサリオとしても嬉しいと感じる。
 そんなサブナクの粗野とも取れる言葉使いに、アメリアはさすがに注意をするのだった。


 「サブナク卿、あなたも貴族なのですからせめて少しは言葉使いを…… まぁ個人的にはここは私的と言える場なので強くは言いませんが…… 」


 そのアメリアの言葉にロサリオが驚く。


 「えっ…… サブナクさんって貴族だったの!? 」


 「まぁ、よく言われますが、一応は貴族ですよ。侯爵家の3男ですがね。家とは他領である公爵領軍の騎士団にいて貴族もくそもないと俺は思いますし、尊敬してた人がそう言ってもいたんでこんな感じなんですよ。」


 言われて見れば、その顔立ちや立ち姿は精悍で顔も整っており、貴族出の騎士として申し分ないように見えるが、普段の言動は冒険者と相違ないとロサリオは思ってしまった。反面、大陸では斬新だなとも感じる。


 「尊敬する人ですか? おそらく貴族なんでしょうが、どのような人なのですか? 」


 悪戯に引っ掛かった人物を覗き込むような、悪ガキめいた表情をしながら、サブナクはロサリオの問いに答えるのであった。


 「エルザリオ・ヘルツォーク様だよ! 表向きはロサリオ卿のお父上だな! 」


 つい忘れがちになる、設定としての自らの出生の背景を思い出しながら、呟くように返答する。


 「なるほど…… 色々と影響を与えている人なのですね…… エルザリオ・ヘルツォークという方は。」


 「そう、だから忠告だ! その事実を忘れないようにな…… ロサリオ卿が何故ここにくる背景となったかは知らんが、ヴァルター団長から素性は聞いている。エルザリオ様はティファニア王国軍でも名が通っているから、その辺も気を配らせないと宮廷貴族どもや地方貴族にいらん腹を探られる可能性も高いですから…… 」


 「たしかに…… ヘルツォーク軍やティファニア王国軍は、王都の学院卒の就職先としては人気を博しておるからの…… しかもほぼ完全な実力主義、優秀だからこそ家の密命で探る輩も出てくるか…… 」


 アルラオネがサブナクの話を受けてサブナク自体に探るような視線を送る。


 「あっ!? 俺は家とはそこまで深く紐付いてないですよ! であれば、エルザリオ様の下にいなかったですから。」


 サブナクの慌てるように言う姿にアメリアは、くすりと笑みを溢しながら、従兄弟叔父にあたるエルザリオの事を思い出しながら、サブナクに忠告も加える。


 「エルザリオ殿は権力や政治に関わろうとしなかった方ですからね…… お父様も仲が良かった分、困っていらっしゃいました。ただし、サブナク殿はこれからヴァルター様直属になります。家のほうから何か打診されても…… 」


 「だ、大丈夫ですよ! 家とは不仲ですし、あっても突っぱねます! 俺の居場所はここしかないですからね…… 」


 アメリアの牽制に慌てて答えるサブナク、その愛嬌とどこか哀愁が漂う台詞に、ここにいる一同に笑いが生まれるのであった。

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