魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第67話 第3章 プロローグ

 聖イグレシア歴998年6月20日、ここはグランクルス帝国のヘルツォーク公爵領との国境に程近い城塞都市クラス。
 ここは、グランクルス帝国第1王子の派閥に属する、マイコプ・クラス・ノダール辺境伯爵が納める領都であり、隣接する第7王子、第3王女、帝都方面の南に接する第5王子共々同じ派閥である。
 今はノダール辺境伯邸の執務室で第5王子と帝都にいる第1王子を除いて主だった者が集まっている。
 口火を切ったのは、国境会談に帝国側の代表として参加していた第3王女のエレーナ・アストラハン・グランクルスであった。


 「現在、我が軍5,000、ノダール辺境伯爵軍10,000、サラトフお兄様の軍15,000がこのクラス周辺の都市に分散して集結しております。」


 約1年近く前から準備を行い、ヘルツォークや国内の帝位継承権を持つ者達に気取られぬように兵を動かしてきた。
 先のヘルツォーク公爵領における魔物大狂乱パンデモニウムに乗じてクラス周辺に進軍させてきたのだ。
 エレーナに兄と呼ばれた、第7王子であるサラトフ・アストラハン・グランクルスがエレーナからの報告を引き継ぐ。


 「そして、アルセリー兄上が自領と帝都のイヴァーン兄上の軍、総勢20,000を引き連れてくる予定である。」


 「帝都から動けないイヴァーン御兄様が自軍を出陣させるのですか…… 」


 第1王子のイヴァーン・アストラハン・グランクルスは帝都アストラハンに隣接した直轄領を管理しており、グランクルス城に詰めることがほとんどであり、宮廷内の政争で離れることがほとんどない。


 「それだけイヴァーン兄上も、このヘルツォーク公爵領への進攻が本気だと言うことだ。帝位継承争いが苛烈を究めだしたからな…… 確実な功績が欲しいところだろう。兄上の嫡子、パーヴェルを総大将に据えて派兵するとのことだ。」


 「パーヴェル王子が!? 」


 現第1王子であるイヴァーンには、今年で成人を迎える14歳の嫡子がおり、文武両道で支持者も多く民衆にも人気が高い。女だてらに剣を嗜むエレーナも師事を仰いだこともある。
 しかし、成人前で20,000の軍勢を率いて戦に参戦するとは思いもよらずに驚いてしまう。


 今まで二人の会話を聞いていたノダール辺境伯爵が、口を重たそうに開くのであった。


 「しかし、ヘルツォーク公爵領との開戦となると、ひいてはティファニア王国との戦争ということにもなりえますぞ…… 落とし処を見誤ると…… 」


 「大義名分はまぁ、アメリア姫の件があるからな。イヴァーン兄上はナーダと周辺を落とした段階で停戦交渉に入る算段だ。婚約の交渉では我々は、形の上では虚仮にされたに等しい。ある意味我々に進攻する隙を与えたということになる…… ティファニアも迂闊には介入できんだろう。それをすれば全面戦争になるからな。」


 サラトフの言葉を受けてエレーナも表情と共に気を引き締める。


 「元々これは何年も前から計画されていたこと。近年稀に見る王子、王女の数で継承争いも類を見ないほどに苛烈となってきています…… 私はそれほど面識がありませんでしたが、イヴァーン御兄様よりも年上の兄様も謀殺されました。帝王から見て孫の世代にも継承争いの被害が及んでいます。」


 沈痛な面持ちで骨肉の争いを語るエレーナに、ノダール辺境伯爵は言葉を続けられなくなる。
 常に暗殺の影がちらついている立場である。覚悟を決めた表情をサラトフとエレーナは共に浮かべている。
 その表情を見て、第1王子や第5王子の決意も変わらないだろうとマイコプは心中で嘆息したがら、斥候からの情報を伝える。


 「斥候からの情報では、あのアルラオネも元の姿には戻れず、魔物大狂乱パンデモニウムで驚異の活躍をしたランビエール子爵とやらもアメリアやアルラオネと共に王都へ向かうとのこと。」


 その情報にサラトフは気色ばむ。


 「なんと!? またとない好機ではないか! 王都へは20日はかかるはずだ! 国内では、もう我らの動きは察知されただろうがもう遅い!! アルセリー兄上がイヴァーン兄上と自領の軍を編成して、ここクラスに到達する予定が約2週間だ。アルラオネ達は王都にすら到達していない! 情報を知って戻ってくるまでにローゼンベルクまで進軍も可能だな!! 」


 「かの夜の魔女の存在が難点でしたからな…… 不在であるならば! 」


 これほどの機運に満ちることなどそうないと息巻くサラトフに、ノダール辺境伯爵もこれぼどの好機は逃す手はないと思い直す。


 「では、私達は御兄様たちが到着次第直ぐにでも進軍できるように準備を致しましょう。互いの軍の編成にクラスへの集結。そしてヘルツォーク公爵には、書面をしたためて置きます。進軍の為のアメリア姫を口実とした通告ですが、届く時期と進軍時期を見計らっておきます。」


 エレーナが締め括るように今後の段取りを提示する。


 「くっくっく、上手くすれば奴等が戻る頃にはローゼンベルクを包囲…… いや、落とすことさえ可能かもしれんっ! くははははははっ!! 」


 ノダール辺境伯邸の執務室に嘲笑が響き渡る。ヘルツォーク公爵領に風雲急を告げる狼煙が、グランクルス帝国ノダール辺境伯爵領都クラスにて告げているのを、ロサリオとランサローテの皇帝となるであろうフェメス以外は気付けていないのであった。
 ただし、ロサリオの忠告によりヘルツォーク公爵も軍備の手配を行っていることをグランクルス帝国側も気付いていない。
 双方の軍が相対することにより、平和という名の停滞から揺蕩うように大陸も動き出すのであった。

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