魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

幕間3 ローゼンベルク晩餐会 ― マルティーナ ―

 ヘルツォーク公爵への謁見、そして執務室での打ち合わせがあった夕刻。国境会談に赴き、多大な戦果を挙げてきたアメリア達が戻ったこともあり、戦勝祈願を祝してローゼンベルク城で晩餐会が開かれた。
 未曾有の危機であったこともあり、数日前から準備されていたこともあって、ヘルツォーク公爵領と接しているティファニア王国の貴族も出向いている家もある。
 そして、護衛隊100人全員が参加するので、ローゼンベルク城でも1,000人は収容できる一番大きい広間を使用している。


 先程、ヘルツォーク公爵から祝辞を賜り、そして通信から文面を書き起こしたものであるが、ティファニア王からの祝辞も賜ったことにより、会場の盛り上がりの度合いが増すのであった。


 「護衛隊の面々よ! 皆大儀であった。ヘルツォークの武勇を大陸中に示し、民衆を守り抜いた勇気と気高さは我がヘルツォーク公爵領の誇りである!! 本日は細やかではあるが、護衛隊を称えるための宴席の場を設けたので、十分に楽しんで英気を養ってほしい…… 堅苦しいのはこのぐらいにしよう! 乾杯!! 」


 「「「「「「「乾杯っ!! 」」」」」」」


 ヴァルターとオリビアを除く騎士達88人は、待ってましたとばかりに食事に貴族や給仕の御婦人たちの元へ足を向ける。独身の者や恋人のいない者には相手を見つけるいい場である。
 騎士団の隊長や場合によっては部隊長クラスであれば時折こういった場に参加する機会もあるが、例え近衛騎士団所属でも平騎士であるとこういう機会は無いと言って等しい。しかも今回は多大なる武勲を引っ提げての参加である。御婦人たちへのアピールにも力を入れやすいだろう。
 そのような光景をロサリオは、島も大陸も若い騎士達の行動に大差は無いのだなと郷愁を込めて眺めるのであった。


 「何を黄昏ているのよ、勲功第一の子爵様! 」


 声を掛けられて振り返ると、行軍時に着用していた魔術師のローブではなくましてやドレスでもない、儀礼用とも言うべきか、城内で勤務するときの宮廷魔術師の礼服を纏ってマルティーナが声を掛けてきた。
 大きな三つ編みで身体の前に垂らしていた亜麻色の髪をアップにして夜会巻きを施している。ベアトップのドレスのようであるが、デザインと生地は騎士服の様に厚手で凛々しく格好いいが、豊かな胸元が色気を強調している。ニーハイの黒いブーツとミニスカートとの絶対領域がとても眩しい。そこにローブとは異なる丈の長い魔法師団用の公の場にも着用できるコートを羽織っていた。
 ナーダ伯爵邸で見たようなドレスとはまた違う、凛々しくも女性の色気を十分に醸し出しているマルティーナの姿に一瞬言葉を失う。


 「!?…… いや、何でもないよ、正直マルティーナに見惚れちゃってたよ…… 」


 「なっ!? 何よいきなり…… 素直じゃない!? 」


 ロサリオの言葉が嬉しく顔を赤くしてしまうマルティーナを見て、微笑ましさと意識がこの会場に戻っていくのを感じた。


 「凄い人の数だね…… アメリアも大変そうだ。」


 公爵と公妃の傍にいるアメリアにも多数の貴族達が集まっており、ホストとして無視するわけにもいかずに、彼らに声を掛けて全てに対応している姿は立派であると感じ入ってしまう。


 「何を他人事の様に言っているのよ! あんたもああなるのよ。あの貴族達も公爵達に真っ先に挨拶に行っているけど、本音はあんたと顔繫ぎをしたくてしょうがないに決まっているじゃない…… はぁ。」


 そんなことも分からないのかと、傍観者のような様子のロサリオに、マルティーナは呆れと共に溜息を吐き出してしまった。


 「いや…… わかってはいるけど、ティファニアの貴族としてこの場にいる実感がね…… まぁ他にもあるけど、どうにも湧かないんだ。」


 苦笑しながらそうマルティーナに答えるロサリオに、目配せをしながら顎で方向を指し示す。


 「そうは言うけど分かってる? あそこにいる大勢の女性陣はほとんどあんた目当てよ。騎士達に恨まれても知らないからね…… ふんっ! 」


 マルティーナの顎が指し示す先を見ると、貴族の子女達と見受けられる女性陣が、周囲と話しながらロサリオに視線を送っている。


 「うっ!? ……マジかぁ、はぁ…… 」


 「ん? あれっ、嬉しくないの? 」


 何故かうんざりした表情を浮かべるロサリオに、鼻の下を伸ばしてだらしない顔をするんじゃないかと疑っていたマルティーナは、予想を見事に外されて疑問を投げかけてしまう。
 別にロサリオとて嬉しくないわけではないが、正直目の前にいるマルティーナやアメリア、フリーンにサーラブの方が美人だと思うので、会場にいる貴族の女性たちに心を奪われるような事態は起こらないと確信してる。それに、昼間の執務室でのアメリアの事もあるので、落ち着いて他の女性を観察する余裕が無いというのが実情だ。


 「別に、マルティーナの方が全然綺麗だよ。それよりもちょっと相談したいことが…… 」


 「!? んなっ!! 何をいきなり言ってんのよ!? Hな相談じゃないでしょうね!? 」


 アメリアの事で意見を聞こうとしたが言葉を言い終わる前に、ロサリオの言葉を受けて顔を真っ赤にして、先程までの凛々しかった姿が、瞬時にいつもロサリオと接するときの姦しい姿に変わってしまった。


 「声が大きい!? 違うよ、アメリアのことだよ…… Hな相談って…… どんな目で僕のこと見てるんだよ!? 」


 「だっ…… だって!?…… 」


 サッと自身の胸元を隠して半身になり、警戒しているような反応をする。


 「いやっ!? 見ちゃうでしょ! セクシーだし…… てかもしかして馬上の事を言ってんの? 」


 「ぷっ! あははははは! 冗談よ、何慌ててんの! キョドり過ぎよ!! 逆にやましいことでもあるんじゃないかと疑っちゃうじゃない!? 」


 ロサリオの慌てふためく様子を見てマルティーナは吹き出してしまった。ここまでの反応を流石に見せてくるとは思わなかったので、笑いつつも何か隠してるんじゃないかと穿った見方をしてしまう。


 「ぐっ…… やましいわけじゃないんだけど、ちょっと聞いてほしいことがあったんだけどもういい!! 」


 ここまで揶揄われては素直に相談するの気も失せてくるものである。もちろんいつものじゃれあいの範疇だとお互いにわかってはいるが、ロサリオの方は相談の内容が内容だけに二の足を踏んでしまう。


 (やましいわけじゃないけど…… 勘か!? ピンポイントで話しづらい疑い方をかけてくるなぁ…… )


 目尻を拭いながら呼吸を整えているマルティーナを見ながら、このような場で話すことでもないかと思い直して、立ち去ろうとしたところをマルティーナの右手がロサリオの左手の裾を掴んで離さない。


 「ごめんごめん!? そんなに不貞腐れないでよ。それに今私から離れると、貴族やご婦人たちに囲まれるわよ! いいの…… それでも? 」


 「うっ!? ……それは遠慮したいなぁ。」


 「でしょ! だったら話しなさいな。相談事があるんでしょ? それって…… この祝宴、晩餐会が始まってから、ずっとあんたの事を目で追っているアメリア様の事と関係あるの? 」


 「っ!? ……。」


 マルティーナが切り込んできたいきなりの核心に声にならない驚きを表してしまった。そこまで自分は分かりやすいのかとロサリオは自問自答してしまうが、不安げに上目遣いで見上げてくるマルティーナには強く出れない。得も言われぬ庇護欲と嗜虐心が混同した感情を抱いてしまう。


 (ずるいよなぁ、あっけらかんとサバサバしていたかと思えば、急に可憐な部分を見せてくるんだから…… )


 「そういえば、その前にマルティーナに聞きたいことがあったんだ。」


 「んっ、なぁに……? 」


 セリフの最後のクスリとした控えめな微笑に思わずドキリとしてしまう。


 「あぁ…… いや、マルティーナは何で僕が魔王だったとわかっても、知る前と接してくれる態度が変わらないのかなぁって? 恐かったり、不気味だとは思わなかったの? 」


 照れくさくなり、鼻の頭を掻きながら目を合わせられずに、顔を上に向けて煌びやかな演出を施しているシャンデリアを見つめる。
 クリスタルを透過して照らし出す光は少々朧気であり、ロサリオの靄がかかった心中を晴らす事はなく、同化して胸中の不安や期待が溶け出して、筆舌に尽くしがたい表情を浮かべる。


 「なんだ、そんなこと…… 」


 「そんなことって…… フリーンさんは最初から気付いていた節があったけど、アメリアもやっぱりなんか変わった気がするし…… まぁいい意味でなんだけど、正直みんなにドン引きされると思ってたのに全然そんなことないし…… 」


 ロサリオの擾々じょうじょうとした胸中を気にせずに、そのようなことは、然したる事でもないとした態度でマルティーナは接する。


 「感情に任せて行動して、迷って泣いて、大好きなお兄さんに憧れて影響を受けて…… 引っ込みがつかずに意地を通して…… 」


 「マルティーナ…… 」


 ロサリオを見据えて語るマルティーナの表情は、まるで手の掛かる弟を見る姉のような、しょうがないと思いながらも優しげな笑みを向ける。


 「普通の男の子と中身は変わらないじゃない。皆一緒よ! ただ少し…… 他人より色々と優秀で、普通であれば諦める所を足掻いて叶えてしまっただけ…… 貴方は卑下することはないわ! 」


 自分ですら乱雑になり整理がつかない心情が晴れていくのを感じる。同年代どころか、年長の大人達にすら一線を画されていた。自分を対等に見て、受け止めてくれる人間のなんと有り難い事かと、視界が定まらず像が滲んでいく姿を見せまいと、もう一度天井を見上げるとシャンデリアが視界に入ってぼやけて何も見えなくなってしまう。


 「全く…… あんたはちゃんと泣きなさいって言ったでしょ…… それにね、私は元々孤児だったの。馬上で言ったでしょ! よくわからないうちにアルラオネ様に拾われて、その前の事は小さすぎて覚えてないのよ…… だから人の過去はあまり気にしないわ! もっと未来の事をあんたは気にしなさい!! 私達はまだ成人もしていないんだからね。」


 気合を込めるようにロサリオの背中を小気味よく叩いてしんみりした空気を一掃させる。


 (本当にこの娘は…… サバサバとしながらもよく気を使って優しさに満ちているな…… )


 ギルド史上最年少の10歳でのAランクやバルトロメ公爵弟としての数々の武勲など、マルティーナの包容力のある優しさの前には形無しだなと心から思う。


 「本当に同い年の12歳かよ…… 年齢誤魔化してるんじゃないか? ただ…… 嬉しいよマルティーナ、ありがとう。」


 「うっさいわね!? 一言余計なのよ! ほらっ、未来の話をするわよ…… 当初の相談事って何よ? お姉さんに話してみなさい! 」


 蓮っ葉な物言いで左手で自身の年齢に似合わないふくよかな胸元を叩き、ニヤリと口元を歪めて獲物を逃がさないように見据える。
 ベアトップの魔術師の正装から除く胸が、叩かれたことにより弾み波打つのが非常に艶めかしい。


 (そうだな、未来の事を考えよう! マルティーナも言ってたし。アメリアの事もまだ公式に公表されたわけじゃないし、もう何が何だかわかんないし…… )


 「実は、よくわかんないうちにアメリアと婚約しちゃったみたいなんだよね! ハハッ!! 」


 時が凍り付く音が鳴り響いた。

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