魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第64話 不穏渦巻く帝国の思惑

 他国から帝国の帝位継承権を持つ者に嫁ぐ者は少なく、余程の弱小国か再起や家の命運を帝国に託すような王族や貴族ぐらいであり、ティファニアの、しかもヘルツォーク公爵領に縁談を持ってきても断られるのが関の山である。
 それでもアメリアの大陸中に響き渡る美しさに惹かれて、1年前より婚約の催促が来ていたが、つい先日のナーダでのアメリアの戦乙女もかくやという活躍もあり、軍事大国である帝国の継承争いに、強い有利性を見出だしたためなのかどうかは定かではないが、かなりの圧力が掛けられて来ているのであった。


 アメリアを取り巻く対外的な現状を把握することが出来たロサリオは、ランサローテでも名を馳せるヘルツォーク公爵でも、流石に帝国の継承争いが掛かるような王族には、強くは出れないのだろうと気付いた。
 しかも、ヘルツォークのアメリアに縁談を申し込む時点で、継承争いを勝ち抜くという強い意志が見てとれる。争いの渦中に放り込まれるのは明白だ。
 特に、もっと喫緊で質の悪い帝国の思惑がロサリオには見受けられる。これはランサローテではよく似た事例として枚挙にいとまがないものである。


 ヘルツォーク公爵は断固として拒否したいところだろう。ただし、対応を誤れば公爵領と継承権のある王子の軍での争いになる可能性がある。よもやティファニアとグランクルス帝国での戦争にまでは発展しないとヘルツォーク公爵は考えているが、ヘルツォークが防波堤になるのは変わらない。


 王国のために戦うのであれば、ヘルツォーク公爵は相手がいくら強大であろうとも戦争に躊躇いはなく、寧ろヘルツォークの責務であると考えるが、自らが引き金を引くことになって王国に迷惑を掛けるのは、ヘルツォークの成り立ちから言っても遺憾であり、父祖達に申し訳が立たない。


 「すいません。僭越ながら意見を述べても宜しいでしょうか? 」


 「ロサリオ様……? 」


 父と母の会話に割り込むことをアメリアは躊躇っていた。自らの事とはいえ、事は国益に絡む政治的側面が強い内容である。いくらアメリアが聡明であろうともまだ子供であり、事は隣国の大国との外交も絡んでおり、王族に次ぐ大貴族の専決事項という認識があるからである。
 そこにロサリオが何かを気負うわけでもなく、ごく自然体で言葉を投げかけているのに驚いてしまう。


 「ロサリオ卿!? 君がかね? 」


 「あなたも当事者に近い立場になりましたからね。聞かせてください。」


 ヘルツォーク公爵は訝しんだが、メリアンヌはここで話を遮り自分の意見を差し込んでくるロサリオに、どのようなことを述べるのかと少し興味がでてきた。


 「ここに来るまでの馬車の中でアメリアから、大陸の色々なことを聞きました。グランクルス帝国の事もその中にはありましたが、そもそもグランクルス帝国とティファニア王国及びヘルツォーク公爵領はほとんど交易も無いと伺いました。」


 「そうだな、帝国は鉱物資源が豊富で、1cm核程ではあるが賢者の石も産出される。それらを含めて大方はマーチャント通商連合と取引されている。通商連合はそれらを武器や防具、賢者の石を砕いて魔道具の起動核に加工後、大陸の各国に販売しているのが実情だ。ティファニアも基本はマーチャント通商連合からの輸入がメインであり、輸出もマーチャント通商連合、アエギディウス聖国、その他の国々となっており、グランクルス帝国との取引はほぼ無いのが現状であるな。」


 どこまでアメリアから聞いているかは知らないので、問われた交易の概要をロサリオにかいつまんで説明するようにヘルツォーク公爵は聞かせる。
 ロサリオは、ヘルツォーク公爵からの情報でアメリアから聞いていた内容の裏が取れたので、やはりと思い話を続けるのであった。


 「その交易面からみてもグランクルス帝国は、明確にヘルツォーク公爵領、延いてはティファニア王国を敵国と、しかも後々戦争を考慮に入れていると考えてしまいます。」


 「そこまで断言できるのですか!? ロサリオ様っ? 」


 ヘルツォーク公爵とメリアンヌ公妃は難しい顔をしてロサリオを見ている。常に国境を接しているので、考慮には入れている事項であるが、大陸の事情に疎いと思われていた人物に、こうまで推測されるのは穏やかではない。


 「そうだねアメリア、僕はどうしてもランサローテでの考え方になってしまうから…… でもどこも戦争を考慮に入れると、同じようなパターンになるところはある筈なんだ。僕では読み取れるパターンは少ないけど、兄さんならもっと詳しく読み取れるんだろうけどね。」


 「もう、ロサリオ様はいつもお兄様の事を凄いと言っておりますが、貴方様も十分に才覚があるのですから自信を持ってください!! 」


 自分の事を才覚があると言われてもロサリオは苦笑を浮かべてしまう。
 例えフェメスは、自分がいなくても軍略にも優れ、武勇を奮うことはなくとも前線での指揮も十分にこなすのだ。そのような兄であるので、武力だけの自分はどうしても兄に引け目を感じてしまう。
 兄であり、そして父代わりとしても自分の事を面倒見てくれていたのだ。尊敬と憧れを抱いており、常々兄の様になりたいと思ってはいたが、現状の自分ではどうしても見劣りしてしまい、比べることも烏滸がましいと感じてしまう。


 「ロサリオ卿、あなたは何故そう考えるのか聞かせてほしいわ。」


 公妃メリアンヌに促されて言葉を続ける。


 「はい、まずは豊富な資源を帝国がティファニア王国に卸さないということです。結果としてティファニア王国はマーチャント通商連合経由で、武器や防具といった軍需物資、鉱物資源自体を購入しなければならない。マーチャント通商連合は優先的に帝国から鉱物資源を手に入れることができるので、大国ティファニア王国にも販売ができるのと、そしてその分安く軍需物資を帝国に卸して持ちつ持たれつの関係が築かれる。
 鉱物資源の産出量が少ないティファニア王国が鉱物資源自体を購入できないと、帝国もメインは輸出した鉱物が加工された通商連合の軍需物資とはいえ、ティファニア王国との生産技術の差を帝国有利に開いていくことが出来ます。
 軍需物資の自国での生産技術の格差に購入価格の差は国費にも直結します。ティファニア王国が富んでいるとはいえ如実に影響は出てくるでしょう。
 アエギディウス聖国は、教会を各国に敷設しているので、この限りではありませんから詳しくは分からないのですがね。マーチャント通商連合で手に入れた鉱物や軍需物資を、各国の教会に配賦出来ますから。
 加えて兵の質、帝位継承争いで軍事衝突をしており、魔族領とも小競り合いが続く帝国の兵は質が恐らく高い。失礼ですがティファニア王国の兵は弱い。正直僕はそのレベルの低さに驚いてしまったぐらいです。
 恐らくアメリア様が帝国からの縁談を突き返そうがしまいが、早晩戦争が仕掛けられる可能性が高いと思いますよ。もしかしたら帝国の狙いはヘルツォーク公爵領かもしれませんしね。資源の流入を遮り弱らせていくのは戦争の常道です。」


 ヘルツォーク公爵領とメリアンヌ公妃は二の句が継げなくなる。ロサリオの言うとおりであるのだ。ヘルツォーク公爵領やティファニア王国の貿易問題としては既に認識していた事項ではある。
 ただしそこまで戦争に直結するとまでは考えていなかった。戦争は外交としては愚策である事が多いので、帝国もそこまではしないであろうと考えていた。ただしここまで論理だてて言われると戦争の可能性が頭を過ってしまう。
 ヴェルナー卿は12歳という身で、思考回路が戦争一色で塗りつぶされてしまっているロサリオの事を意味がないとは知りながらも、ランサローテ島という魔境は子供でさえも容易く修羅に変えてしまうのかと、哀れみにも似た思いを抱いてしまうのであった。

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