魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第63話 帝国からのアプローチ

 メリアンヌ公妃に抱きしめられている最中に、ヘルツォーク公爵と旧ランビエール子爵であるヴェルナー卿が入室してきた。
 メリアンヌとアメリアだけが動じずにいたが、ロサリオは恥ずかしさで、包容からするりと抜け出して立ち上がってヘルツォーク公爵を直視できずに、とりあえず身仕度を整えている。
 ヴェルナー卿は微笑ましい光景を見たなと好々爺然とした表情を浮かべている。通信越しでは冒険者ギルドの会議でロサリオとの面識はあるが、ロサリオとこうして対面するのは初めてではある。自領の継承問題は長年の凝りとして常に頭痛の種であったので、解決した今となっては、当主時代に馳せた眼光の鋭さも鳴りを潜めている。 
 小首を傾げて訝しむ仕草はアメリアにそっくりである。そのような姿を晒すヘルツォーク公爵にメリアンヌ公妃が口火を切るのだった。 


 「あなたが、思いの外抜けているという話をしていたのですよ。遅かったですね、あなた。」


 「あの場にいた貴族達に質問攻めにあってな…… なるほど、とりあえずロサリオ卿は俺の悪口を言って妻に手を出していたと…… 」


 そんなことをしたら、ヘルツォークどころかティファニアも敵に回しかねない。堪ったものではないと、そのようなとんでもない誤解にロサリオは慌てて弁解する。


 「違いますよ公爵!? これはただ、そのう…… 」


 「冗談だよロサリオ卿、メリアンヌは意外と悪巫山戯が過ぎるきらいがあるからなぁ。んでっ、俺の何が抜けているって? 」


 公爵も公式な場ではないせいか、大分言葉が砕けている。 冒険者ギルドでの印象だと、直情的で少々軽いところも見受けられた。しかし大貴族としてもちろんそれだけではなく、陰謀詭計が常日頃となっている宮廷で居場所を確立できている。そのような海千山千の猛者である公爵に対して、ロサリオは好ましい印象を抱いている。
 どのような相手に対しても柔軟に対応できる大人に、兄とは違った憧れを持つのは少年にとってはごく自然な事とも言えるのだ。


 「どう、このイヤリング? いつもと違って素敵でしょう! 」


 いきなりではあるが、イヤリングの事を聞かれて肩透かしをくらい、とりあえず感想を言わないと、嫌味の一つ二つでも出てきそうだと思ったので凝視する。


 「んんっ、いや、ドレスにはあまり似合わない無骨な…… デザインじゃ…… ないかなっ!? 」


 段々とその似合わないイヤリングが、あるものと非常に似ていると気づき出す。


 「通信用のイヤリングっ!? お前まさか…… 」


 「普段身に付けないイヤリングを持って、夜中にこそこそと執務室に行くんだもの。浮気を疑っちゃうわ! 」


 微塵も疑った様子はないが、ヘルツォーク公爵をからかっているのだと、この場の全員がメリアンヌに畏怖を覚える。


 「私達公爵家の人間が使用するものは、緊急性が高い場合を加味して、公爵家の魔力波形で同期出来ますからね。ロサリオ卿の愁腸痛み入る告白には涙が止まりませんでした。」


 「ふぅ、あれはアルラオネの計らいだ! 俺も驚いたさ…… 」


 「えぇ、その後私に内緒でアルラオネ殿との秘密の通信にも涙が止まりませんでした…… 」


 「いや、だからもうお前も聞いてたんだろ!? 俺とアルラオネの通信は涙するような内容でもないし、色が絡んだもんでもなかっただろうが! 」


 泣き真似までするメリアンヌに驚いてしまい、つい捲し立ててしまう。
 既視感を覚えるやり取りに、ロサリオはアメリアを見てしまうが、小首を傾げて微笑んでいる。それを可愛いと思ってしまう自分に腹立たしい。


 「でも私に秘密にしてました。知らせてくれる機会もあったのに秘密にしてました! 」


 「いや、色々と方々に手を回して整える必要もあったしなぁ…… 」


 助けを求めるようにヴェルナー卿とロサリオに首を回すが、ヴェルナー卿は、「ほっほっほっ。」と朗らかに笑うだけで、深入りはしてこない。年の功として割って入っても碌なことにならないのが解っているからであろう。
 ロサリオは女性との口論は無頼漢であり、最初から白旗を上げるスタンスである。


 「それでも私に一言あってもいいのに秘密にしてました!! 」


 「オーケーだ! 俺が悪かった、何でも言うこと聞くから許してくれ…… 」


 アメリアは、なるほど、確かに母に対して脇が甘いと、父に対して感想を抱く。恐らくこの件で自分に利することになりそうなので、父を憐れだとは思うが、澄まして佇むのであった。
 メリアンヌは夫から、何でも言うことを聞くという言質を取ることが出来たので、満足してヘルツォーク公爵を許すことにした。


 「わかりました許します。あなたもここまで周囲に影響を及ぼす秘匿事項は、わたくしにも相談下さい。あなたのルートとはまた別の方法で、あなた達を助けることも出来るのですよ! 」


 「いずれは言うつもりではあったんだよ。彼が伯爵として取り敢えず王国からの陞爵で、身分を固めてからと考えていたんだよ。」


 ヘルツォーク公爵は、ロサリオが王国から陞爵されれば、ヘルツォーク子飼いと表向きは揶揄されることはなく、ロサリオの立場を作ることが出来る。もちろんヘルツォーク公爵が後ろ楯にもなるし、事実子飼いの貴族としたいが、体面が重要視される場はあるのだ。独立貴族として子飼いにするほうが、何かと利することも多い。
 あくまでランビエール子爵とは宮廷貴族という王国から派遣された代官である。ヘルツォーク公爵領内にて世襲であり、領地も公爵から下賜されているので、対外的にも忘れてしまいそうにもなるが、純粋な独立貴族とはまた異なるのだ。
 ランサローテが統一されて、今後は彼の持つランサローテの情報も有用であるし、外交や武力闘争になれば、宮廷貴族よりも独立貴族のほうが権限が強い。宮廷貴族は王に仕えるが、独立貴族は国に仕える。いざというときの場ではこの違いは事の他大きくなる。


 「身を固めると言えば、ロサリオ卿はアメリアとつい先程ですが、婚約致しましたよ! 」


 「んなっ!? …………何でいきなりそんな話になってんだっ!? 」


 メリアンヌが発言したとんでもない内容に、さすがにヘルツォーク公爵といえど素が出てしまっているのを、気にすることも出来ないでいる。


 「あなた、取り乱してはみっともないですよ。帝国からは第1王子の嫡子からと第5王子、第7王子からも縁談が来ており、この間のアメリア自身の活躍もあってなのか、圧力も強くなってきているのです。彼等の継承争いの道具にされるのは明白ここに極まれりといった状況なのですよ!! 」


 「しかし、うちはもっと慎重にと…… ハインリッヒもまだ10歳と幼いし、アメリア自身が継ぐ可能性もあるではないか! 」


 「ヘルツォークには幼くとも嫡子がおり、表立った継承争いも起こらないとどこも見ているのです。国内からの縁談はどこもうちよりも家格は下なので、はね除けて置くことは容易ですが、帝国の第5、第7王子のお二方は1年前から打診があるのです。しかもつい先日、第1王子の嫡子からも打診がありました。第1王子主導の元、地盤を固めにきたのでしょう…… 王族に連なっている彼等をさすがにこれ以上は、特に理由もなく長引かせられませんよ! 」


 「しかし、私に相談もなく急すぎる!! 」


 「貴方はアメリアをあんなにも政争、継承争いの激しい帝国に送るつもりですか!? それにアメリアの婚約相手を決定するのは、私にも裁量があります。それに先程何でも言うことを聞くと言ったじゃありませんか!? 」


 「んぐっ!? むぅ…… 」


 そもそもヘルツォーク公爵は王族とはいえ帝国にアメリアを嫁に出すつもりはない。
 メリットが少なすぎるのである。第1王子の嫡子となれば、次々代の帝王であるが、軍事大国だけあり帝位継承権争いが激しく、敗れれば血縁だからこそ殺される可能性も高い。次代でどうなるかもわからずに混迷を見せている。
 強ければ強大な権力に恩恵と特権が目白押しになるが、負ければ再起が図られぬように徹底して潰される。帝王家に力が集中する分、貴族の力は総じて弱いが、帝位継承権を持つ者の争いが熾烈を極めているのであった。

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