魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第61話 公妃との邂逅

 退出を促されたので、ロサリオとアメリアは謁見の間を出た後にヘルツォーク公爵の執務室へ向かった。そこでヘルツォーク公爵と旧ランビエール子爵達と内々の打ち合わせということで、呼ばれていたからである。
 執務室に入り、ヘルツォーク公爵達が来るまで待つこととなった。


 「先ずは伯爵位への陞爵、おめでとうございます。」


 アンナが淹れてくれた紅茶を飲みながら、アメリアがロサリオに対して祝いの言葉を述べる。


 「……ふぅ、って言ってもまだランビエール領の当主っていうのも呑み込めていないのに。陞爵に王家直轄領って…… 」


 自分を取り巻く流れが急過ぎて、付いていけている気がしないというのが正直な気持ちであろう。
 もうここまで場が整えられていると、流れに乗るしか選択肢がないのが現実である。


 「貴族級の魔族を単独討伐に魔物大狂乱パンデモニウムであれほどの功を上げる。例え平民が行ったとしても、騎士爵や準男爵を飛ばして、領地持ちの男爵くらいに叙せられてもおかしくないんですよ。」


 未だに現状に流されて金銭も多額に報償として出ている状況である。そう簡単に納得できていないロサリオを嗜めるように言い含める。


 「いや、でもアメリア! 」


 「何ですか? でも……? うふふふ。」


 微笑みながら小首を傾げるアメリアに、怯みながらも心情を伝えようと努力する。


 「うっ…… 正直僕は死んだことになってるし、平民みたいなもんじゃないか!? それがランビエール子爵を叙されていて今回の伯爵への陞爵なんて…… 今さらなんだけど、他の貴族やなんかが黙っていないんじゃ…… 」


 「はぁ、本当に今さらですわね…… まぁランビエール子爵の件だけ取っても急ですから、ヘルツォークはまだしもティファニア王城で不満が表に出てくるのはこれからでしょう。
 それに元々、ロサリオ様は皇位継承権第5位でいずれは皇帝の予定だったのでしょう? よしんば皇帝にはなれなくとも婚約者が婚約者ですから、独立して公爵位となっていたはずです! 伯爵位などまだまだ格下ではないですか!! 」


 「いやっ…… 確かにそうだけれども! でもあの時はその後のことなんか考えてなかったし…… 兄さんがいたから、ただその辺はお飾り宜しく任せておけばいいと……」


 自分は軍人である、その後のことなどは、兄がすべて取り計らってくれるからと、戦に没頭していたので、貴族のマナーなどは小さいころに学んではいるが、当主としての振舞などは考えたこともない。
 ロサリオにとってはある意味未知の領域である。父と兄の姿を思い起こすが、父の公務の姿は朧気であり、自分が兄のように出来るとは微塵も思うことはできなかった。


 「ロサリオ様が煩わしいと感じるようなところは、今後すべて私のほうで取り計らいます。もちろん家を頼りますし、ロサリオ様の意見を尊重しますから! 」


 そこでアメリアは一呼吸を置き、悪戯を思いついたようにロサリオの耳元で囁くのであった。


 「後は、二人きりの時は陛下とお呼びして慣れておきますか? 」


 「っ!? い、いや…… それはいいよ、何かこそばゆいし…… 」


 「あら! それは残念です。ふふふ。」


 (一体何に慣れるというんだろう……? 何故に陛下!? いいや、あまり深く考えないでおこう。残念って、からかっているだけだろうに…… はぁ。)


 内心溜息を付いていると、アンナが空いたカップに紅茶を継ぎ足してくれたこともあり、話題の転換にもなればと思いついたことをロサリオは質問するのであった。


 「そういえば、アメリアは王都の学院に通っているんだっけ? いつ頃戻るんだい? 」


 帰路の道中の馬車内で、そのような事をアメリアが言っていたので聞いてみることにした。


 「公務でこちらに戻ってましたから、この後学院へ戻ります。ロサリオ様も王都へ招聘されておりますから、そこまではご一緒ですね! 」


 「あぁ、そうか、僕も日程とかの件でダリム宰相に詳細を聞かなければならないんだったね。そういえばティファニアの学院って貴族の子弟が多いんでしょ? 国外からも来る人達がいるんだっけ? 」


 ランサローテでは、自領にて各々独自で学んでいたなと思い返す。皇都の学院もあるにはあったが、皇族の関係者ばかりであり、戦乱の影響下もあって通う人間は少なかったと聞いていた。そういう状況もあり、貴族は独自に家庭教師を付けたりしていたし、戦闘や軍略に重きを置かれていた。
 各貴族領にて教育水準に差が出ていたのが実際の話である。


 「はい、帝国や通商連合加盟国に聖国、それに他の中小国家からも来ていますね。ですので、12月から3月末までは休みの期間です。帰郷するのに時間がかかる方々も多いですから。そして4月から新たな年度として始まり、8月中は休みや祭りという交流期間となり、11月末で年度が終了します。私のように公務で抜ける場合、それが長くなるような生徒には、休みの期間中に補講もあるんですよ。」


 「ふ~ん…… 他国からも来るなんて凄いね! 平和な証拠でもあるってところかぁ。うちでは考えられなかったなぁ…… 」


 ランサローテで他領の貴族の子弟も含めて集めた場合、そこが戦場になるのが明白であり、そもそも人が集まらない。経済的な交流もあるから、将来的に各国の要職や貴族家当主となるような人物と早期に面識を作るのは、利点が大きいのだろうと半ばぼんやりとしながら考えていた。


 「あっ! もし希望があればロサリオ様も通われますか? 」


 予想だにしていなかった事を問われたので、意識が急激に引き戻される。


 「えっ!? ……僕が? 」


 「はい、学ぶという意味でも、そして貴族家当主として、方々と面識を作っていくためにも利点が大きいと思いますよ。それに学院の総学長はアルラオネ様です。便宜も図れると思いますし、ロサリオ差にとっても利点が大きいかと思われます。」


 「えっ!? あの幼女そんなことやってたのか…… まぁ本人は魔術を体系化する研究をしてるみたいだったから、そういう場で研究成果を広く普及させていくのには、学院というのは便利なのか…… 」


 夜の女王リリスとアルラオネとの密談内容を考えると、お互い近い場にいたほうがいいのかもしれないと考える。あの情報の内容を考えると、帝国側や聖国とも連携を今後として図っていく必要があるだろうが、当面は帝国側とヘルツォーク公爵領での問題が大きい。
 アルラオネも情報の開示は、公爵とティファニア王にしか行わないと言っていた。ロサリオからの口外は固く禁じられているし言おうとも思わない。
 大陸は国が分かれているので実感しにくいのだろうが、山脈に遮られている部分が多いとはいえ広大な魔族領とも接している。中々にきな臭い状況が燻っていると感じるのであった。


 「幼女とはまた…… この大陸ではアルラオネ様は非常に尊敬の念を集めていますから、ティファニア王立魔法学院という名称も、そして各国から人々が集まるようになったのもあの方の功績が大きいですから。
 2年後には、聖イグレシアス暦も1,000年を迎え、魔法学院も名称が変更されて、大陸中から人が集うようになってから丁度200年の節目です。
 奇しくも2年後は、大魔王ルツィフェルが倒されてから1,000年、そしてアルラオネ様含む80名が討伐した魔王サタナキアの魔族戦役から200年です。その年の8月は盛大なお祭りになりそうです。」


 (アルラオネが携わっているとなると、無関係ではいられなくなりそうだなぁ。)


 コンコンコンコン


 「失礼します。メリアンヌ公妃がお見えになられましたのでお通し致します。」


 扉がノックされたので、いよいよ公爵達かとロサリオは身構えたが、公妃ということで肩透かしをされてしまったが、謁見の間にてヘルツォーク公爵の隣に座って常に微笑を湛えていた方だと思い出す。隣のアメリアを見ると、アメリアも何故公妃がこの場に来るのかわかっていない様子だった。
 メリアンヌ公妃はメイドを伴い入室すると、ロサリオに謝辞を含めて挨拶をするのであった。


 「初めまして、ロサリオ・メルダ―ス・ランビエール子爵。わたくしはメリアンヌ・ローゼンベルク・ヘルツォーク、公爵の妻であり、アメリアの母になります。この度は娘の危機を御身を危険に晒してまで救っていただき、母として、また公妃としても感謝の念に堪えません。」


 アメリアとよく似ており美しい貴婦人であるが、とてもアメリアという今年13になる娘を持つ母親には見えない。20代前半といったローゼンベルクの薔薇の面々と同世代に見えてしまう。
 事実、メリアンヌは32歳という年齢ではあるが、10歳は若く見られる女性であり、才色兼備ということもあってヘルツォーク公爵を羨む人々の大きな要因となっている。


 ランサローテ皇国では戦乱ということもあり、女性は貴族家及び平民でも15歳前後で婚姻をして、10代のうちに子供を1人か2人産むことが多いが、ここ大陸では平和ということも理由の一つであり、そのこともあって男子が学院卒業やある程度の勤務先の下積みを終えてから結婚するため、女性の婚姻の平均年齢が18歳から22歳程度とランサローテ皇国と開きがある。平民ともなると諸般の事情が絡むため、早かったり遅かったりと一概には言えなくなる。


 「幸運が重なった結果とアメリア様自身の行動、決断力が良き結果を招いたことも事実でございます。わたくし如きには過分なお言葉でございます。」


 アメリアによく似た容姿に大人の女性の雰囲気を兼ね備えている。白金と呼べる綺麗なプラチナブロンドは母親譲りかと少し見惚れてしまっていたが、急いで跪き公妃メリアンヌの礼に応える。
 自らの母に見惚れていたロサリオをしかと確認したアメリアは、母に似ていると自身でも自覚しているので、嬉しさと若干の嫉妬で内心複雑であった。


 「ここは公の場ではありませんから、改まった礼は不要ですよ。お顔をお上げになってくださいロサリオ卿。そもそもこちらが礼を述べる立場なのですから。」


 優しい笑みを湛えてそう言われてしまえば、ロサリオも顔を上げて接するしかない。緊張で落ち着かないところにアメリアからメリアンヌへ問いかける。


 「お母様がこちらにいらっしゃるなんて!? どうされたのですか? 」


 「本日の夜は晩餐会が開かれますが、その前に落ち着いて話をしておきたかったのです。件の英雄殿もいらっしゃることですし。」


 メリアンヌ公の、のんびりとした口調にロサリオは緊張が溶かれていくのを感じる。アメリアに対して最近は何故か怖いと感じることも多かったが、元来アメリアもこのような柔らかく包容力がある雰囲気であったなと思い返す。


 「お二人での話であれば、僕のほうは席を外しましょうか? 」


 話の内容はアメリアのことであろうと感じて、気を利かせようとしたロサリオであるが、メリアンヌは軽く首を振り否定を表してから同席を求めてきた。


 「いえ、ロサリオ卿もこの場に居て頂いて差し支えありません。アメリアもナーダでは、ヘルツォークとしての立派な振舞い、母としても誇らしく思います。」


 アメリアを労う姿は親子間の良好さが伺えて、ロサリオとしては少し羨む気持ちが出てしまう。
 アメリアは、そのことで母として謁見の間では言えない何かがあるのだろうかと訝しんでしまう。


 「実はその件のアメリアの功績で、困ったような嬉しいような状況になってしまったのです。」


 「お母様、それは一体何なのですか? 」


 少々もったいつけるような物言いに、内容が読めないアメリアはつい急かしてしまう。
 ロサリオは何となくこちらをチラリと見るメリアンヌに、退出したほうが良かったのではと、冷や汗が背中を伝うのを感じてしまった。


 「貴女の戦場での余りのカリスマと武功に、国内からの婚約の申し込みが多数来ているのと、あの帝国からも婚約の申し込みが来ているのです。」


 ガタッ!、がしっ!! 


 「どちらへ行かれるのでしょう? ロサリオ様? 」


 「長くなりそうなのでお手洗いに…… 」


 思わず腰を浮かせてこの場を退散しようとしたロサリオを、素早い動作で捕まえるアメリア。


 「先程、執務室に入る前に行っていたのをわたくしは覚えておりますわ! お母様もロサリオ様に同席してほしいそうですから、一緒にお話を伺いましょう! うふふふ。」


 掴んだロサリオの腕を胸に搔き抱きながら、ソファーへ引き摺り混むように座り込む。腕の感触とえもいわれぬ微笑に溺れるような感覚を味わいながら、ロサリオも同様に座り込むのであった。


 母には見せたことのない表情や行動に、メリアンヌは内心でとても微笑ましく感じていた。謁見の間で感じた娘に対する印象は間違っていなかったと確信するのであった。


 (国境会談に向かう前と帰ってきた後では大違いね。すっかり女の顔に雰囲気を出しているのね…… 大方ナーダでの事も彼に影響されたといったところかしら。)


 「お母様…… その婚約ですが…… 」


 メリアンヌは、改まって母に対して意見を述べようとしたアメリアを遮り、言葉を被せてきた。


 「まぁ、でも全て断ろうと考えておりますけどね。」


 「えっ!? 」


 「……? 」


 アメリアはメリアンヌのまさかの言葉に驚き、ロサリオは話の展開に付いていけていない。


 「全て断るとは…… どういうことです? お母様…… 」


 貴族家の女性として婚約は仕方がない面は認めるが、現状無くなるということは、アメリア個人としては有難いが、ヘルツォーク公爵家としてどういうことなのだろうと疑問に思う。
 ロサリオなどは、このような話の場に居ても落ち着かないだけで、勘弁願いたいとさえ思っている。


 元々ヘルツォーク公爵家は、男子がアメリアの10歳になる弟だけで、側室にも娘しかいない。
 大貴族としてアメリアの嫁ぎ先は昔から考えていたが、アメリアは幼い頃から優秀さが際立っていたために、婿を取って家を継がせることも考慮に入れていた。そのような状況もあり、方々からの申し出は多々あれど、正式な婚約者がいなかったのが現状である。


 ロサリオは、メイドのアンナにそのことを耳打ちされて、初めてアメリアの状況を知ることが出来た。


 「ねぇ、アメリア…… 素晴らしい方が現れたじゃない! 」


 「っ!? ……はい! それはもう、他に類をみない方です!! 」


 アメリアは母である公妃の意図を即座に見抜き、その言葉尻に勢いよく乗り肯定を露にする。
 先程のアメリアの様子を伺うような慎重さから、大胆な変わりようにロサリオは付いて行けずに、驚きと頭に?マークを浮かべて混乱している。


 「アメリアも乗り気ですので、ロサリオ卿、アメリアと正式に婚約して頂けますでしょうか? 」


 「ふぁっ!? ……えっ? 僕ですかっ!? 」


 ロサリオ自身は全く想像もしていなかったので、すっとんきょうな声を上げてしまった。隣のアメリアを見ると期待するような眼差しをしており、公妃メリアンヌは微笑んで観察するように二人を見比べるのであった。

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