魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第60話 ローゼンベルク城謁見の間

 ローゼンベルク城謁見の間にアメリアとロサリオは、玉座に座っているヘルツォーク公爵を前に膝まずいていた。


 (公爵とはいえ、もう一貴族じゃないだろ!? もう完璧に国の呈を為しているじゃないか…… )


 周囲には城内勤務であるヘルツォーク公爵領の文官の姿も見える。


 「アメリアよ、此度の国境会談の任、大義であった。ナーダでは魔族に魔物大狂乱パンデモニウムと、次々に襲い来た難事を乗り越えてきたことを誇りに思う。面を上げよ。
 そして、会談に同行し此度の難事であった魔族討伐、そして、魔物大狂乱パンデモニウムでの献策の成功、Cランク300とDランク50をたった一人で殲滅した、ロサリオ・メルダース・ランビエール子爵、面を上げよ。」


 当代のヘルツォーク公爵の声が謁見の間に響き渡る。続いて報償の一部を言い渡すのであった。


 「ランビエール子爵には、此度の功績を讃えて王国より伯爵位が授与されることとなる。メルダースに戻り次第、王城へ登城せよとの事だ。詳細は陛下より直接賜ることとなるであろう。日程の詳細は後程、宰相であるダリムより確認するといい。」


 謁見の間には、公爵領の重鎮達も控えているが、王国からの報償である伯爵位にざわつきが起こっている。世襲貴族が爵位を上げるというのは、この200年無かったことであるので当然だ。


 ただし、ランビエール子爵もナーダ伯爵も、領土はヘルツォーク公爵に与えられてはいるが、元々その領土はティファニア王国からヘルツォーク公爵が賜った領土である。
 彼らは世襲貴族であるが、対外的には領土を持たない宮仕えの貴族である。宮中貴族では持たない世襲という特権を、ティファニア王国宮中貴族である彼等が、ヘルツォーク公爵領内に領土を公爵から与えられているのは、ひとえにヘルツォーク公爵に対する王国の信頼とヘルツォーク公爵領の力であると言える。
 国と言って差し支えない規模であるので、そちらのほうがヘルツォーク公爵としても楽であるという側面もあり、助かっているのも事実ではある。
 王城勤務の貴族位が与えられる文官と変わりないのだが、ティファニア王国内の貴族でも、その事実を忘れる者も多いのが実際のところではある。


 宮中の貴族位は基本的に一代限りであるので、ここでもヘルツォークならではの差が出てくる。
 宮中貴族としては伯爵位は二番目に高い位であり、それより高い宮中貴族はティファニア王国宰相しかいない。
 ナーダ伯爵は辺境であり、代々武勇も示してきているので別格であるとの声も多いが、宮中貴族としての爵位である伯爵位は、ヘルツォーク公爵領の宰相やナーダ伯爵と同格である。王国の一部門を司る、閣僚へ選出される資格にもなるので非常に高位である。
 ここに、王国の社交界で対した時の面倒さが露見される。やはり同じ爵位でも宮中貴族と独立貴族では、独立貴族のほうが格上として扱われる。世襲によって歴史や家格が背景に出てくるからであろう。独立貴族達は、ヘルツォーク公爵領に領土を持つ彼等も独立貴族として基本は接する。
 しかし、王城の宮中貴族は難しい。彼等は王城で権力を持つことはないが、やはり世襲という特権は利権も絡むので、妬みや嫉みを持つ者も出てきてしまう。
 ローゼンベルク城に仕える宮中貴族とも対等な扱いが、さらに不満を煽るのかも知れない。宮廷内は世襲ではないからこその、自己の権力に固執する側面もあるということであろう。


 ロサリオは、やはりティファニアとヘルツォークは、ある程度までは、別の国と認識したほうがいいのかも知れないと考えるのであった。


 アメリアがそのことも含めて確認したいこともあるので、発言の許可を取る事となった。


 「ランビエール子爵の件ですが、わたくしから質問をしても宜しいでしょうか? 」


 「発言を許す。申してみよ。」


 ロサリオ本人からではなく、アメリアから質問が出たことに多少の意外感を覚えるが、隣の公妃メリアンヌを覗き見ると、微笑んでいるだけで内面は杳として知れない。


 「ティファニア王国の事情もあるので、わたくしから。ロサリオ様が伯爵位としての宮中貴族となるのでしょうか? それとも従来のランビエール子爵が伯爵と家格が上がるものなのでしょうか? 」


 確かに、我が国とヘルツォーク公爵領が関わると、ごく稀にヘルツォーク公爵領に領土を持つ貴族が、宮中で位を上げることがあった。その場合、宮中位は一代限りであったが元々の爵位は、ヘルツォーク公爵領に領土を持つ家に残っていた。
 通常、宮中と言っても騎士団の役職などの武官もいる。貴族家の嫡嗣はそのまま家を継ぐので、宮中貴族を目指すのは次男以下が多い。世襲ではないが、自分の子供を宮中へ仕えさせやすくもなるからであるのと、貴族に拘りたい面も多いのも理由である。
 この200年はアメリアが言うような特異な立場になった貴族は輩出されていないが、当時その貴族は、ヘルツォーク公爵領に領土を持ち当主となったまま、一代限りの宮中貴族位の伯爵位を賜った人物であった。
 それは、当時のランビエール子爵であり、200年前の魔族戦役でヘルツォーク公爵軍の剣として、一番槍として突撃し、最終決戦ではアルラオネ達の選抜80名の中に自身の息子が加わり、さらに最前線での魔族軍の足止めと多大な戦功を上げる事となった。
 戦後ティファニア王国第一騎士団団長に叙された事に伴い伯爵位を宮中の武官として賜ったという事例があった。


 「此度の戦功は例が無いほど多大であったからな。正式に登城して叙勲を受ければ、ランビエール伯爵となる。まだどこかは未定であるが、王家直轄領が与えられる筈だ。まあ、ランビエール子爵にということを考えると何処かは容易に推測はできるがな…… 」


 「なんと! 」


 「200年前でも王家直轄領を受領された者はいなかったというのに…… 」


 周囲が先程より大きくざわつきだした。それも当然であるが、今回のような個人での圧倒的な武功を成し得た者がいないので、王家も当初悩んだがランビエール子爵領は、ちょうど王家直轄領に接している。そしてその地は問題を抱えているので、武勇に誇る人物に領地として下賜して、少しでも改善が張れれば都合がいいと考えていた。その地であれば諸侯からの不満も噴出せず、むしろ同情を誘うであろうと。 
 ヘルツォーク公爵自身、ティファニア王からははっきりと王家直轄領の場所は伝えられていないが、既に予想は立てており、まず間違いないであろうと確信している場所である。


 (正直、ロサリオ殿にとっては大変であろうが、私としては楽しみではあるな…… メリアンヌもどうやら彼の事を気に入ってはいるようであるしな。それに…… このような場は兄に任せて不慣れであると聞いてはいたが、堂に入っているではないか。) 


 ロサリオは常に身に着けていた黒衣の騎士服と貴族衣のようなものではなく、城についてから城中のメイドに渡された儀礼用の貴族服を身に着けている。
 ロサリオの白髪に映えるよう考えられたのであろう、黒を基調として要所に青地と白地の布を拵っており、金糸が鏤められている。
 貴族がざわつく中を狼狽えた様子も見せずにヘルツォーク公爵へ貴族の礼を取る姿は、彼を何者かと推挙するような話声も聞こえていたが、次第に声を潜めて彼に魅入りだしているものが多い。


 元々12歳、8月で13歳となる年齢であるが、非常に整った大人びた容姿はしている。
 最近はアメリアにマルティーナといった同年齢であるのに、10代後半に見える少女たちといるせいか、年相応にまだ自分は少年だと自分自身感じているロサリオであったが、周囲から見れば10代半ばの成人に成りたてぐらいに見られているので、十分大人びた容姿といえよう。通常12歳の少年に見られるような容姿ではない。


 宮廷での振舞に慣れてはいないとはいえ、実績及び十分な経験のある軍人であるのだ。堂々とした所作を振舞えば、そこから発生する気配や醸し出す雰囲気は、権謀術数犇めく政治の世界とはまた異なる圧力として謁見の場に満たされている。長らく平和を享受していた貴族達は自らが身を置く世界とはまた別種の圧力に圧倒されるのも当然である。


 (なるほど、論じる場でなければ宮中が苦手とはいえ、その存在感で他を圧倒できる…… これ程の存在感を放てる者などは、ヘルツォーク、ティファニアでもそうはいません。何処へ出ても問題にはなりませんか…… 逆にその存在感がいらぬ憶測を呼びそうで心配ですわね。)


 隣にいるアメリアは、一先ずはロサリオの立ち居振る舞いに、見惚れてしまう程の堂に入った姿に感心するが、貴族達が要らぬ詮索をしないであろうかと危惧してしまう。後程、父に情報統制の進言をしようと心に秘めて置くのであった。
 ロサリオの存在感でその場が静まり返ったのを確認してヘルツォーク公爵が、残りの報償を言い渡すのであった。


 「さて、先ほどの報償はあくまで王家からであるからな。我がヘルツォークからも褒美を渡そう。なにせ娘の命の恩人であるからな。ヘルツォークの管理貴族とはいえ他家の者であるから十分な褒美を取らせようではないか。」


 まさかこれ以上報償が出てくると思わなかったロサリオが、ヘルツォーク公爵に忠言する。


 「恐れながら申し上げます。私自身も公務中の身であり、降りかかる難事に姫様や民衆のために剣を取るのは騎士団の方々とそう変わらないことであると愚考致します。よって私への報償は先の物だけで十分すぎるほどでございます。」


 (勘弁してください。これ以上貰ってしまうと貸しではなく借りが大きくなりすぎそうです。返せる予定はありませんのでほっといてください!! )


 内心では拒否感で心中が満たされているのであるが、こと公の場ではさすがにそれを表に出すほど未熟ではなかった。隣のアメリアをチラリと覗ってみると、思わず見惚れてしまうような艶然とした微笑を浮かべてこちらを見返してきたが、思わず背筋がゾッとしてしまった。


 (っ!? これ程の美女はマルガリータさんでやっとといったところなのに、微笑みが物凄く恐ろしい…… )


 周囲の貴族達は宰相すら含めて思い思いに関心の声を上げている。


 「おぉ、若いのにずいぶんと謙虚であるな! 」


 「昨今は図々しい貴族が跋扈する中素晴らしい心構えだ! 」


 「アメリア様も帝国との国境会談に行く前と今とでは、雰囲気がまるで別人のようだな。お美しさだけではなく凛々しさも加わっておる! 」


 「さて、彼には娘の中の誰を送り込むか? 」


 最後のざわつきの声には、アメリアもピクリと反応を表して思考に耽るのであった。そんな中ヘルツォーク公爵が先のロサリオの忠言に返答する。


 「流石はランビエール子爵である。ヘルツォークの剣とまで言われた嘗ての栄誉を彷彿とさせる心意気である。ヘルツォークはティファニアの盾であり矛である。その事は我が娘アメリアも立派に体現したと言えようが、それにしても貴族が一人で最前線に赴き武功を上げたのだ。報償をしっかりと出さねば、我がヘルツォークの面子にも関わるのだよ。」


 もう既に貴族達の評価は、当初のものからは打って変わり、ロサリオを認めその武功及び謙虚な態度に、敬意と称賛の眼差しを送るようにまでなっている。


 「まずは、従来のランビエール子爵領は向こう1年間の租税の免除。そしてロサリオ卿個人には、大白金貨100枚を進呈する。王家直轄領の整備にでも充てるがよい! 」


 ロサリオは驚愕して思考が停止してしまった。通貨の価値はランサローテでも基本は変わらない。ランサローテ金貨だけは、含有量が多く重量が倍である為に大陸の金貨の倍で取引されるだけであり、大陸の通貨も島では出回っている。
 大白金貨は貴族や商人でしか用いられない単位であり、農村部では約50家族、都市部では40家族を1年間養える金額である。加えて1年間のヘルツォーク公爵領に納める租税の免除は大きい。
 王家直轄領を下賜されれば、それに加えて金銭も整備運用のために併せて下賜されるはずなので、途方もない恩賞である。


 「以上である。両名は退出し、公務の疲れを存分に癒すがよい。」


 ロサリオは想像外の報償に内心悄然としてしまい、アメリアに促されながら何とか体面を崩さずに退出するのが精いっぱいであった。 

「魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く