魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

幕間2 ローゼンベルク帰路 ―どんちゃん騒ぎ②―

 「あーっ!? ロサリオがお姉さん達に囲まれて鼻の下を伸ばしてる! 」


 マルティーナが顔を真っ赤にしながら、ロサリオの背後から抱き付くというよりは、幾分強い勢いで撓垂れかかってきた。


 「いやいや、鼻の下なんか伸ばしてないよっ!? ていうか酔ってるのっ! 」


 「んふーっ! 別に酔ってないもん! 」


 「って、酒臭っ!? ないもんって…… 」


 ロサリオはフリーンと共に、ヴォルガから離れたところをローゼンベルクの薔薇の面々にちょうど囲まれて話しをしていた。
 リーダーであるサティアを含めて、5人の20代前半から半ばの女性のみで構成されている、高ランクパーティーとしては珍しい部類に入る。
 サティアはそもそもティファニア王国伯爵家の3女ということもあり、貴族からの信任も厚いと評判である。


 「おや、アルラオネ様の直弟子の方じゃないか。あなたもまだランビエール子爵と同じく12歳だと聞いている。10代後半に見えるが…… 年端もいかないのに素晴らしい魔法師だと聞いているよ。」


 「アルラオネ様の直弟子っていうのが、凄い事だし同じ魔法師として羨ましいわ! 」


 サティアがマルティーナに挨拶を交わし、ローゼンベルクの薔薇の魔法師が羨望を込めて話しかけた。
 マルティーナは、グラスに入った赤色に輝く液体をグイグイ呑みながら、酔って記憶が飛んでいるのかとんでもない爆弾を口にした。


 「ん? 子爵?…… ヒクっ…… 生き残ったんだから、戻って公爵なり皇帝なりになるんじゃないのっ!? 」


 「ちょっ!? おまっ! マルティーナ!! 」


 「っ!? ゴホッ、ゴホッ! 」


 ロサリオの隣ではフリーンが気管に飲み物が入りそうになって噎せて咳き込んでおり、ロサリオは慌ててマルティーナの口を塞ごうとするが、続けて言葉を発せられてしまう。


 「ねえどうなの? 帰っちゃうの……? ぅぅ、帰らないでよぉ…… 」


 「マルティーナ…… 」


 いきなり泣きだしそうな声色で縋るように問い質してきたマルティーナに少し驚いてしまう。
 少し離れていたところでマルティーナの発言を聞いたアメリアも噎せていたが、ロサリオの返答が気になり聞き耳を立てる。


 「大丈夫、ランサローテには帰らないよ。帰れるわけないじゃないか…… あそこには…… ほらっ! だから心配しないで。」


 「ぅぅ本当に……? 」


 ああ、と肯定を込めて頷きを返すロサリオは、マルティーナの普段は刺々しい態度とは真逆の反応に、内心ドギマギとしていた。


 (ぐはっ、なんだこの可愛さは! ヤバい、トキメキが止まらない!! )


 その問いの返答にマルティーナもそしてアメリアも安堵する。しかし、ロサリオのランサローテという言葉に、アメリアもフリーンも溜息が出てしまうのであった。


 「えっ? 何々、公爵とか皇帝って? 」


 「今、ランサローテって言わなかった? 」


 ローゼンベルクの薔薇の面々の反応に、しまったと思うが既に遅い。隣のフリーンを見ると目が、相変わらず迂闊ですと語っている。


 「なるほど、いやまさか…… そうか! なるほど。」


 サティアは考え込み結論が出たのか、ばっと体ごとロサリオの方へ振り向き目を見据える。


 「まさかと勘繰るメンバーも居ましたが、このサティア、バルトロメ公爵弟である閣下と戦場を共にできたとは光栄の至りでございます。」


 「あははは…… こちらこそ…… 」


 サティアは途端に敬意を形に表し、アメリアよりも上位者に対するような言葉を口にする。
 ロサリオは苦笑を浮かべながら、ロサリオの左側から近寄ってきたアメリアに縋るような視線を送ってしまった。 


 「全くマルティーナとロサリオ様は…… ふぅ、サティア殿、あなた方はAランクなので大丈夫だと思いますが、この事は最重要機密です。いいですね? 」


 アメリアは手にしていたグラスの中身を飲み干してから、キッとサティアを見て公爵令嬢としてしかと言い付ける。


 「ええ、もちろんですアメリア様。寧ろ腑に落ちましたよ、閣下は10代半ばに見えますが、実際は12歳という若さでのあの武勇! やはり彼の御仁でしかあり得ないということでしょうね。」


 納得しながら杯を空にして、熱っぽい目でロサリオを見るサティアの周りでは黄色い声が飛び交っていた。


 「きゃーっ! 聞いた聞いた!? 」


 「まさかのバルトロメ公爵弟!? 」


 「はい、私の一人勝ちね! 今度公都で甘いスイーツ奢ってもらうからっ!! 」


 「バルトロメ公爵弟に賭けているダニエラにビックリしたわよ。」


 実はローゼンベルクの薔薇内でもロサリオの事は噂になっていた。アメリアやヘルツォーク公爵から紹介を受けた内容では、Cランクの魔物300とDランクのオークジェネラル50を倒したことなどの説明に納得がつかなかったのだ。
 ヘルツォーク公爵の亡き従兄弟の隠し子で、今まで公にはしていなかったと言われればそれまでなのだが、サティアにダニエラと呼ばれた、盾役として前衛をサティアと共に担う騎士は、ロサリオという名前と強さで以て、彼はバルトロメ公爵弟だと一点張りし賭けをパーティー内でしていたのだ。
 サティアは、その強引な理由を元に賭けに勝ったダニエラに脱帽する。


 「ねえ、閣下! 年上に興味はないかしら? 」


 ローゼンベルクの薔薇の4人が、賭けの事とロサリオがバルトロメ公爵弟だった事を、興奮しながら話合っている合間を縫って、パーティー内で専任魔法師として後衛を任されているイゾルデが、一人ロサリオに詰め寄る。


 「えっ!? 年上の女性ですか? 好きか嫌いかでいうともちろん好きですよ! あのう、それが何か……? 」


 いきなり予想外のところから迫ってこられたので、素で答えてしまう。


 「あーっ!? イゾルデが抜け駆けしてる! 私がロサリオ様の事を当てたのに!! 」


 「抜け駆けって、ダニエラ…… 酷い事言わないでよ! 私は別に紹介がてら、歳も離れている事だし、愛人くらいにしてもらおうかと思っただけよ! 」


 「ブフゥーッ!! ゴホッゴホッ…… 愛人って…… 」


 隠そうともしないイゾルデの下心に、ロサリオは驚いて吹き出してしまった。
 ロサリオは病み上がりなので、あまり酒精は取らないようにしていた。
 そのような状態にあったことも加えて未成年でもあるので、ライ麦から作られたウイスキーに、バーボンとシェリー酒を加えた深く芳醇な香味と甘味がある、ティファニア王国ダークバッチ地方のウイスキーを1:5の割合としてハニーミルクで割ったカクテル、ダークバッチハニーミルクを呑んでいた。
 女性受けし、尚且つハニーミルクながら大人の味わいもあるので、女性陣に洒落ていると誉められた一品であった。


 この世界に飲酒の年齢制限はないので、未成年でも祭りや祝い事の席で酒を嗜む機会はある。貴族であればそのような場も平民よりは格段に多くなる。
 大人のように浴びるほど呑むのは、周囲からいい顔はされずに止められるであろうが、今回は戦勝記念の祝賀ということもあり、1,2杯くらいは嗜む量ということで、ロサリオを含めてアメリア達も呑んでいる。マルティーナは体質だろう、泥酔してしまったのは、厳しいが自業自得と捉えられる。


 マルティーナは、ロサリオに後ろから凭れかかる体勢で右肩に顎をのせてうつらうつらとしている。フリーンは右隣におり、マルティーナの様子を時折確認しながら、ロサリオやローゼンベルクの薔薇の面々と話をしていた。
 左側はつい先程までは空いていたが、サティアに忠告するためにアメリアがいる。
 ロサリオはそのことを失念し、正面はイゾルデにサティア達、右隣はフリーンに右肩にマルティーナの顎というか顔があるので、必然的且つ咄嗟に左側に首を動かしてしまった。


 「きゃふっ!? 」


 可愛いらしい悲鳴が響き渡り、特に大きい悲鳴ではないのだが、一斉に場が静まり返ってしまった。
 そこに絶妙のタイミングで食堂に入ってくる者達がいた。


 バタァーンッ! 扉が勢いよく開いた。


 「おうおうやっとるかの? 儂らも相伴に預かりにきたわい! のうオリビアよ。」


 「そうですね。後はお祖父様達に任せて、私も皆様と交流したいですしね。」


 「ありゃ!? なんぞ静かじゃの? 何が…… 」


 アルラオネとオリビアは、皆の視線を辿って行くとアメリアで止まった。


 「うっ、くふぅ…… こんなにたくさん!? ロサリオ様は、かけるほうがお好きなのですか? 」


 眉を少し八の字にして、涙を両目に溜めて上目遣いで聞いてくる。
 ロサリオに寄せていた身体を椅子のほうに預けて、惚けたような表情をしており、顔と胸元にかけられた、バークダッチハニーミルクが非常に艶かしい様相を醸し出している
 ゴクリッ、氷炎の牙のメンバーの生唾を呑み込む音が響き渡る。顔を濡らし、胸元に溜まったバークダッチハニーミルクに、大人の男が情欲を催すほどの妖艶さがアメリアから漂って来ていた。


 (エ、エロイッ!? じゃない…… このパターンは…… )


 「ギャハハハッハハッハハハハ!! またか! また白いのぶっかけよったんか!! いや、待て! わかっておる…… 大方、エリクサーで回復してあっちも回復して溜まったということじゃろっ!? 若さよのぉ…… ブハハハハハハハハッ!! 」


 「んあっ…… あれ…… 」


 「ってか、この糞幼女!! いつもお前の一言で始まんじゃねーか!! 」


 アルラオネの笑い声で吃驚してビクッと起きてしまったマルティーナは状況が分からず、黄ばみばしった白いもので、顔と胸元を汚したアメリアを見つけると、酔っぱらいながら条件反射的にロサリオの顔を掴み喚きだした。


 「あっ、あれっ!? あんたまた白いの吐き出してぶっかけてんの!! どんだけ好きなの!! 」


 「ふぁっ!? さ、酒臭っ!? ってか言い方!! 酔っぱらっててももうお前からも悪意しか感じねえぞっ!? 師匠と一緒じゃねえか!! 」


 オリビアは呆気に取られていたが、なるほどと思い出し言葉を発するのであった。


 「なるほど、これが以前ギルドで起こったという、僕のハニーミルク事件か! 確かにこのアメリア様は、中々に卑猥な姿であるな。」


 「ふぁっ!?!? 」


 ロサリオは、オリビアが発言したその余りの呼び名にどこから発せられているか良くわからない叫び声を上げてしまった。
 硬直していた食堂内が、そのロサリオの叫び声が起爆剤となったのかはわからないが、無礼講であり皆にも酒が入っていたため大爆笑が沸き起こるのであった。その中にメイドのアンナ女史がいたのは言うまでもない。
 サーラブが急いで布巾やタオルを用意して、フリーンがアメリアの顔と胸元を拭きながら、こっそりと喋りかけるのであった。


 「アメリア様狙ってませんか? 」


 「前回も今回も事故ではありますが、こういうのは有効活用しないと。ロサリオ様はあのようなこともあって、周囲と自分の関係をなるべく希薄化させようとする方ですからね。罪悪感でも何でもいいですから周囲と拘わる、若しくは縛るような形を取らないとどこかに消えてしまいそうですから。」


 フリーンもアメリアがロサリオに抱いた感覚は理解できるので、なるほどこの少女は女としてよく考えていると思ってしまう。


 「怖い方ですね、アメリア様は。そうやってロサリオ様の動きをコントロールしていくわけですか…… 」


 「あなたもそうでしょう。素でロサリオ様の近くに迫ることができるマルティーナも怖いですが、腹黒さと頭の良さでは貴女が一番恐ろしいです。ロサリオ様の正体にも一早く気づいていたフリーンさんが。」


 「ウフフフ…… 」


 「フフフフ…… 」


 ロサリオは氷炎の牙のメンバーとローゼンベルクの薔薇のメンバーに、「でかしたっ」、「男だな!!」、「ぷっ、僕のハニーミルク(笑)」、「キャー!」、「ヤダー!」などと揉みくちゃにされている所にサーラブが怯えながら近づいてきた。


 「ご主人様! あそこっ、あの二人の空間がやたら怖くて容易に近づけません!! 」


 サーラブに言われてそっちを見ると、アメリアとフリーンの二人が黒いものを辺りに撒き散らしながら微笑みあっている光景が見えてきた。
 マルティーナはロサリオに言いたいことを言ったら、早々に今度はテーブルに突っ伏して寝だしてしまっている。アルラオネは相当自身の琴線に触れたのか笑い転げている。


 (カオスだ…… もうどうやって収集が付くのか見当もつかないよ…… )


 「サーラブ、あの二人は暫く放って置いていいから。そこの糞幼女を連れてきて! 今回はきっちり文句言ってやる!! 」


 「は、はい! わかりましたぁ。」


 そう言ってアルラオネを担ぎ上げて連れてきたサーラブと、可哀想な者を見る優しげな目つきでオリビアも加わり、この後はロサリオが揶揄われるだけで、この戦勝祝いのパーティーも更けていくのであった。
 マルティーナが目を覚ますころにはすっかり食事も無くなっており、一人食べていないと文句を喚き散らしていたが、アルラオネに寝ていたのが悪いと窘められて解散するのであった。

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