魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

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第56話 神の子とバルトロメ公爵家の母

 冷気と多少の黴臭さが充満しているこの石造りの廊下に、カツカツと足音が反響して周囲に響かせている。次第に言葉にするには憚られる程の静謐さが辺りに充満していく。


 「ふむ、墓標にしてはずいぶんと立派なものだなこの城は…… 差し詰め皇帝はこの霊廟の墓守といったところかな? 」


 ランサローテ城の皇帝の間は、最上階にあるが、ここは地下9階である。元々ランサローテ城は4階建てとそれほど高層の城ではない。ある意味戦乱にあっては堅固さもなく珍しくはあるが、来場する貴族等に理由は不明であるが、静謐さを感じさせると有名である。
 公には地下5階までしか存在を公表されておらず、そこより階下は皇族及び公爵家でもごく一部、というよりもバルトロメ公爵家にしか知られていない。しかも地下10階の存在は、皇帝にのみ伝えられる世襲事項である。


 「さすがにお主は知っておるか。地下9階に呼び出したので若しやとは思っておったが、バルトロメ公爵よ。まさかただ墓荒らしのためにこの島を統一したわけではあるまい…… 」


 「よく言う、ただの木偶ごときが! それに私にもロサリオにもこの世界最大規模のマウソレウムを開く資格があるではないか。」


 何を今更と、愚昧極まりない皇族を完璧に見下しているフェメスは、皇帝に対し暴言を吐く。


 「それも知っておったか。確かに皇帝なぞ、もう長いこと…… そう、何代も木偶に成り果ててはいたか…… 」


 ランサローテ皇帝も既に推測が立っている。バルトロメ公爵家が一番恨んでいるものは皇族ではないかということに。


 「皇位継承権とは元来そういう意味であろう。然りとて、俺自身も形骸化されていた皇位継承権の意味を最初は知らなかったが、ロサリオがうちの馬鹿共の神輿にされそうになったときに、改めてバルトロメの書庫で調べて知ったのだがな…… 」


 無能を晒し続けて戦乱を、そして各貴族家を御しきれなかった皇族など、賊にも劣ると言わんばかりの目付きで皇帝を見据える。


 「正直、俺にとっては貴様なぞ存在価値すらない。黙って木偶に甘んじていれば生かすだけはしといてやろう。」


 「この島では神聖視すらされる皇帝をこうまで悪様に言えるのはお前だけだな…… しかも、そもそも弟を皇帝という木偶にしようとしていたのか、いやはや剛毅なことだ。」


 皇帝とて人間である。こうまで罵詈雑言を聞かされれば、嫌味の一つぐらいは言いたくもなるであろう。その瞬間フェメスの表情が悪鬼も斯くやという形相で皇帝を殴りつけたのだった。


 バギィッ!


 「黙れっ!! お前らのような愚図の一族がロサリオと俺を語るな!! この無能共がっ! 
 皇位継承権は血に宿る。俺に資格がある以上、500年無能を晒し続けた皇族を滅ぼさないだけ有りがたいと思うんだな。
 1,000年前に才有るものを外にだし、出涸らしだけで細々と繋いでいただけの愚図めらが! 」


 「ぐっ…… ぐぅ、そこまで知っておるのか!? 」


 殴られた左頬を抑えながら、代々皇帝位に就いたものしか知らされない皇家の秘匿を罵倒され、痛みと屈辱に顔を歪める。


 1,000年以上前に、当時のランサローテ皇国第3皇子が皇国を出奔し、大魔王ルツィフェル討伐のためにイグレシアス大陸に渡り、勇者パーティ2部隊12名の一人として挑んだという歴史がある。大陸に伝わるこの人物像は、放浪の魔剣士としてのみ記録されており、ランサローテ皇国の皇子だとは記されていない。
 決戦を生き残り、勇者召喚を実行して自身も12名に名を連ねたティファニア王女と恋仲にあった。
 ただし、教会主導の公式記録では両者ともに戦死扱いとなっているが、ティファニア王女は双子の男の子を授かり、現在のアエギディウス聖国の辺りで出産している。
 その後、ランサローテ皇国へ男児を連れてその後は二人とも消息不明となっている。


 「皇帝であれば分かるであろう、ここが我がバルトロメ公爵家の古き母の墓標だと…… そしてイグレシア正教会も、ランサローテにかの聖女が渡ったというところまでは知っているはずだからな。
 奴らも恐らく勘ぐっているはずだ…… ここに、この世界最高にして教会が血眼になって探している不朽体、ティファニア王国聖女エウラリア・エメリタ・ティファニアが眠っているということを!! 」


 教会はの上層部には古くから伝わる口伝のようなものがあり、「ランサローテは宝庫であり、また災厄である。」と言われている。
 教会にとっての宝である聖遺物や聖女の不朽体、そして禁書等が文字通りの宝庫となって存在しているだろうという憶測と、取り扱いを過てば、教会の権威が瞬く間に失墜するような物も存在しているだろうとの推測からである。


 「歴代のバルトロメ公爵家当主が頑なに否定していたが、やはり聖女エウラリアとランサローテ第3皇子ヒラリウス、その両者の息子はバルトロメ家の当主となっていたか…… 」


 「あぁそうだ、知られれば真っ先に教会の殲滅対象となるであろうからな。そしてこの聖女エウラリアは我がバルトロメの母だけでなく、神の子の母でもあるからな…… それはお前でも知らんことだろう。」


 その真実に皇帝は目を剥いて驚愕を露にして呟く。


 「そっ、そうか…… だから教会共は、500年前から…… そういうことなのか!? 」


 「そうだ、だから俺の復讐はまだ終わっていない…… ロサリオは最終的にランサローテの平和だけに固執していったが…… まだだ、まだ終わらせない!! この長きに渡る戦乱の元凶に鉄槌を下してやらねば、到底我が憤怒の劫火は納まるものではない!! 」


 地下10階への階段を、おそらくは言葉通りに地下聖堂並びに墓室となっているのであろう扉の前に、怒りの足音を反響させながらフェメスは降りていった。

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