魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

幕間1 ローゼンベルク帰路 ―どんちゃん騒ぎ①―

 道中1日目の夜に停泊する、ナーダ伯爵領東端の町であるガルダの町にて、ロサリオは氷炎の牙とローゼンベルクの薔薇の面々に捕まっていた。
 さすがに、人目に着くようなギルドの酒場は利用せずに、小さい食堂を半ば強引に借り切る形で、食事を共にすることとなった。
 彼らからしてみれば、アメリアにアルラオネ、ナーダ伯爵にヘルツォーク公爵から、散々口止めをされた当人がいるのである。
 彼らとてAランクのパーティーであるので守秘義務はもちろん心得ているが、直接知己を得たり話をしたいと思うのは当然だろう。しかも、Cランクの魔物300に一人で突貫した強者である。興味を祖剃られないほうがおかしい。


 「んで、サーラブはまだしも、何でアメリアとマルティーナにフリーンさんもここにいるの? 」


 「私は口止めと護衛を依頼した依頼主でもありますしね! 」


 (公爵令嬢、というかほぼお姫様みたいな人を失礼だけど、貸し切り状態とはいえこんな場末の食堂に連れてきていいのかな? アンナさんも普通に座っているし。)


 ちゃっかりとロサリオの左隣を陣取っているところが抜け目ない。


 「私はお目付け役、あんたが無理に飲み食いして体調崩さないようにね! 」


 (母親かお前は! )


 口に出すと怖いので思うだけに止める。


 「私は氷炎の牙の皆さんとは面識がありますので、繋ぎには打ってつけですよ! 」


 「確かにこの肝の座った可愛い神官の嬢ちゃんとは、戦場でちょいとやり取りがあったからなぁ。うちらの面子とも全員顔を合わせてるしな。」


 フリーンの言葉を引き継ぐ形で、氷炎の牙のリーダーであるヴォルガが補足した。
 言葉使いは冒険者のそれで、粗野っぽく感じられるが、実際には色々と気を回せることが出来る男である。


 (フリーンさんには助けられたこともあるし、正体を見抜かれたこともあるから、なんか頭が上がらないんだよなぁ…… 何だろう? 兄さんに似たような腹黒さを感じるし…… )


 例に漏れず、口に出すと怖いので思うだけに止める。


 「わ、私はご主人様がいらっしゃるところには、基本的にご一緒させて頂きますので! 」


 ふんすっ、と一生懸命な姿にロサリオは癒しを感じる。


 「見た目は一番妖艶なのに、何か仕草が可愛いよね。癒されるなぁ。……あっ!? 」


 気を抜いて思ったことを口に出してしまい、慌てて気付くが既に時遅し、サーラブはあわあわと照れて顔を赤くしてしまい、他の3名からは、凍てつくような視線に目は笑っていない怖い笑み、血管が浮き出ている目付きを向けられ、背筋がぞっとしてしまう。
 誰がどれとは敢えて言わないでおこう。アンナ女史は無表情であるが、目の奥が笑っているのはもう平常運転なのだろうかと、ロサリオは嘆息する。


 「ぷっ、フフフフ、いや済まない。立場も色々と違うだろうにあなた達のやり取りが面白くて、ふふふ。」


 そう言って謝罪をいれながら上品に笑ったのは、ローゼンベルクの薔薇のリーダーであるサティアであった。


 「まさか、Cランクの魔物の群れに突撃しあまつさえ壊滅させた人物が、こんな少年の面影を残した凛凛しい男の子だとは思わなくてね。」


 「ねぇ、可愛いよね!」


 「もう数年したら凄いハンサムになりそうじゃない!? 」


 「えっ! 私なんか今の彼でも十分いけるんだけど! 」


 「確かにいけるけどっ!? って、そろそろいい加減にしないとあの3人の顔付きが怖くなってきてるわよ…… 」


 などと、ローゼンベルクの薔薇のメンバーであるサティア以下の4名が、思い思いの感想を姦しく言っているのが響き渡った。


 「何がいけるのでしょう? ロサリオ様も逝けるのですか? 」


 小首を傾げながら身を寄せて、自身の右腕をロサリオの左腕に絡ませながらアメリアは聞いてくる。


 (って間接極めてきた!? しかも逝くってそれダメなやつ! もうアメリアも実は色々知ってんだろ!? 男女のそういうこと!! でもこのアメリアの感触は捨てがたいよなぁ。)


 「いや、あははは…… 何のことでしょうね? 」


 もうロサリオにはこう答えるのが精一杯であった。


 「やっぱりご主人様の奴隷という私の立場は、意外と美味しいポジションではないかと何か思ってきました!! 」


 サーラブは、自身のあやふやではない立場に、納得と喜びまで露にし出してきた。


 「あんたって前向きよねぇ…… 」


 呆れるようにマルティーナはサーラブを眺めるのであった。


 「ほらっ! 料理もきたし自己紹介は食いながら呑みながらって感じでいいだろっ!! ここにいるのはAランクパーティーと姫さんの関係者ばかりだから、何を話しても大丈夫だろ。B以上のパーティーはその辺もしっかりしてなきゃ、そもそもランクは上がれないしなぁ。」


 乾杯の音頭はお前が取れと言わんばかりに、ロサリオにグラスを押し付けてきた。
 こういう粗野な雰囲気は懐かしくロサリオ自身も久しく忘れていた、楽しむという行為に身を浸そうと考えることが出来たのは、ヴォルガの気遣いだろうか。
 そのような事を考えながら、ロサリオは音頭を取り始める。


 「では、皆さん。魔物大狂乱パンデモニウム鎮圧お疲れ様でした。ナーダでは住民の人々や、この場にいない冒険者達は騒いでましたが、僕らは色々あってまだでしたからね。今日は僕達も戦勝を祝いましょう。僕自身も気分がいいので、この場は質問を受付けますよ! 」


 「太っ腹じゃねえか! み~んなあんたには聞きたいことがあるだろうから幸先いいなっ、おい! 」


 ピーッピーッ、と場を囃し立てる口笛は氷炎の牙のメンバーから上がる、ロサリオも笑顔を浮かべて、


 「乾杯っ!! 」


 「「「「「「かんぱーい!! 」」」」」」


 黄色い声が後を続いたが、男達はグイグイと呑みだし、料理に手が伸びる。
 そんな様子を楽しく見ながら、自信のグラスを口に運ぶのであった。


 乾杯までは、テーブル3つを使用してそれぞれのグループで座っていたが、それもつまらないだろうと立食状態であったり、皆が思い思いの席に座って食べながら呑んでいる。


 「んでよぉ! やっぱり本人から聞きたくてなぁ、お前さんは10歳で冒険者Aランク登録になったバルトロメ公爵弟でいいのか? 」


 ヴォルガは食堂の端にロサリオを引っ付かんで連れて行き、肩を組ながら内緒話をするように問い質した。
 氷炎の牙の面々は、フリーンがロサリオを助ける時に探りを入れているが、実は冒険者ギルドでは、ロサリオ・メルダース・ランビエール子爵としてしか伝えられておらず、彼が関わった今回の件は、公の発表があるまで秘密厳守を誓約させられているに過ぎない。
 ロサリオ退出後の話し合いなので、実はそこにロサリオと、氷炎の牙とローゼンベルクの薔薇の面々は情報に齟齬がある。
 もう既に秘密厳守とはいえ、ランビエール子爵と伝えていることにヘルツォーク公爵の周到さを感じる。
 ローゼンベルクの薔薇の面々や氷炎の牙の面々も今は、アメリア達に群がっている隙を付いてヴォルガはロサリオを引っ張って来たのだった。
 ヴォルガが探りを入れてきていることなど知らずに、ロサリオ自身は、彼らは秘密厳守を旨に強制指名で護衛に来ているということは知っているので、やっぱり自分のことをある程度知っているんだなという安易な気持ちを持ってしまった。
 Aランク冒険者というのは、貴族や国の機密事項にあたるような依頼もあるので、人格及び守秘義務は徹底されることが経験から知っていることもあり、特に気にせず答えてしまった。


 「ええそうですよ。何で僕がここにいるのかは極秘ですが…… 」


 戦時下であればここまで惚けてはいないのは言うまでもないが、安易に答えすぎた。ここには、アメリアもいるので確認するのが筋である。
 魔王アザゼルの件等はナーダ伯爵やナーダ冒険者ギルド長のヘルナーゼですら知らないので、ロサリオ・サン・バルトロメであることが極秘事項なのだろうと勝手に判断したのは不味かった。


 「っ!? いやいや…… まさか本人を目の前にするとはなぁ。ギルドからは死んだと報告が入ってたが…… 」


 「その辺は言えませんよ。説明もなかったでしょう? 」


 かまをかけたのはヴォルガのほうだが、まさかこうも簡単に釣れるとは思っていなかった。ロサリオの反応を見て、当の本人が蚊帳の外での、あの依頼内容に含まれる極秘事項だったのかと同情してしまうのも仕方がないのかも知れない。


 「あのなぁ坊主、ちょいと油断しすぎだな。俺達は、お前さん、ランビエール子爵が、魔物大狂乱パンデモニウムに関わった件を、公式に発表があるまで極秘だと受けてたんだよ。あっ、貴族様相手にこんな口調ですまんな。」


 「いえ、それは別に構いませんが…… えっ? はぁっ!? ランビエール子爵って…… それって……? 」


 「あっ! ロサリオ様、そんな端っこでどうしたんですか? ってヴォルガさん…… 」


 耳聡くロサリオの驚いた声に反応してフリーンが近寄ってきた。


 「俺達は神官の嬢ちゃんとお前さんを助ける時に、名前から正体を張ってたからほぼ気付いちゃいたが、あのバルトロメの麒麟児だとは聞かされてなかったんだよ。貴族なのにどうも抜けてやがんなぁ。」


 「あぁ…… そうだったんですねぇ、ははは、あははは…… はぁ…… 」


 「ロサリオ様…… 迂闊です。はぁ、私にも責任の一端はありますが…… 」


 フリーンも溜息を吐きながら、苦言と否を認めはしたが、ロサリオは、いやいや、それにしても少しくらい自分にも話ぐらいあってもと思いながら苦笑し、失言を後悔するのであった。
 ロサリオの後悔を他所にして、宴会はさらに更けて行くのであった。

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