魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第53話 教会の派閥

 ギルドでの会議は、魔族の進攻があった、イグレシアス山脈の獣人族が使用している通り道に見張り台を幾つか設置し、そこから森を出て街道にぶつかる箇所に、砦を設けて常時監視するという方向に行き着いた。
 建設はナーダ伯爵側で行い、兵の増員はヘルツォーク公爵から出すこととなった。獣人族の村への連絡は、サーラブが引き継ぎをした3人組の獣人族に依頼し、ヘルツォーク公爵領側の森を使用して、集落を構える許可と、希望者はメルダの町への移住の許可を含め、受け入れ体制を整えることも決定した。
 メルダの町は人口2,000人規模であり、ナーダに比べれば大分規模も小さいが冒険者ギルドもある。守備隊も200人程度であるので、そこにローゼンベルク騎士団から100人ほどが増員され、ナーダ伯爵軍も交えてローテーションで100人ほどが常時新設される砦に詰めることとなる。
 砦建設のための人員、兵や冒険者の行き来が増加するであろうとメルダの町は活気付くであろうと予想される。
 魔物大狂乱パンデモニウムでの魔物の素材の価格は、冒険者とナーダ伯爵領に分配される。そこから上がる収益は、遺族に支払われる形で纏まった。


 アメリア一向は、予定通りに明日には城塞都市ナーダを経つこととなる。魔物大狂乱パンデモニウム後の影響で暫くは、魔物の数も近辺では減るのも確実であるので、公都ローゼンベルクまでの護衛としてAランクパーティーである、氷炎の牙とローゼンベルクの薔薇を強制指名依頼という形で雇うこととなった。


 フリーンは、イグレシア正教会ナーダ神殿を最奥に向かって歩いている。神官の多くは負傷者の救護のために出払っており、今は平時より人が少ない。
 司祭に面会して最奥にある、司教以上しか入室できない祈りの間を使用するために、法衣の下に隠していた教皇印が刻まれた十字架を見せる。
 司教クラスでさえ、書面でしか中々目にすることがない教皇印を、十字架の中央に丸く象られた特徴的な構造の十字架に、驚きを隠せないが、教皇の関係者だということは間違いないと推測がつく。まだ年端もそれほどいかない少女であり、助祭位の法衣とはいえ、無下には扱えず使用の許可を出した。
 司教クラスが在籍する教会には、祈りの間というものが必ず存在し、会議や密談に使用される。
 フリーンは特定の人間と通信が可能となっている、フリーンが持つ十字架を手に持ち通信を心見る。魔力を流して少し待ち、相手から反応が返ってきたのを確認してから話しかけるのであった。


 「フリーンです。少々お時間宜しいでしょうか? 。」


 フリーンに母と呼ばれた相手から、通信越しでも溜息が聞こえてくる応答が返ってきた。


 「宗務中は、と呼びなさいと何度も言っているでしょう…… それで、どうかしましたか? 」


 この反応にはさすがにフリーンも苦笑でもって返す。


 「どうかしたとは…… また冷たい言い種ですね。私は今、渦中のナーダにいるのですよ。もう情報は聖国のほうでも把握はしておりますでしょう? 」


 溜息には溜息でもって返すのであるが、本来であれば、位階的に枢機卿と助祭では、言葉を交わすことなど滅多なことではないが、親子としての気安さはあるのであろう、目上の者に対する言葉としては幾分か砕けたものとなっている。


 「ええ、時間も時間でしたから、鎮圧の報も同時でした。教会所属の者に犠牲も出ていない旨も添えられていたみたいてますからね。心配はしていませんでしたよ。その件ではないのでしょう? 」


 「淡白ですね…… もう少し娘を心配してくれてもいいのですが…… 」


 「そのような玉ではないでしょう、あなたは。甘やかすのは教皇であるお爺様だけで十分です。本題に入りなさい。」


 フリーンもこんなところかと、特に親子としての会話を期待していた訳ではないので、本題に入ることとした。


 「わかりました。先ずはこのヘルツォークですが、やはり古い神話の書物があると思われます。物語としてのものなのか、古い宗教に基づいたものかはまだ不明ですが…… 」


 フリーンの一族が所属する派閥の主願には、禁書を回収、若しくは世に広まらないようにする目的がある。
 教会は、創造神を主神として崇めて、その教義を説いたイグレシアを神の子として讃えており、最初にして最大の聖人として認定している。彼が神から直接伝えられたとされるその教義を信者や民衆に説いている。他の神々、智恵の神、愛の神、戦の神、等々も認めているが、創造神を主神として強く崇めている。
 現在に至っては、神の子イグレシア自体を崇めている者達が主体となっている派閥も存在している。
 禁書や古い土着の宗教にはそれらを根底から覆すような物も存在するので、この1,000年の間、教会はそれらを回収して回っていた。場合によってはそれらを消し去るために過激な部隊も存在する。
 教会の財務や信徒、教会戦士団を管理する派閥よりは地味であるのと、暗部に近い性質があるために、派閥力や規模は大きくないが、教会成立時から存在し、教皇も少なからず排出しているので、一定の影響力は持っている。


 「それに恐らくですが、2,000年以上前の内容ではないかと思われます。」


 「それはまた…… どのような内容で教会の驚異になりそうですか? 」


 「いえ、それはまだわかりませんし、知っているのはヘルツォーク公爵の一族ぐらいでしょう。後はアルラオネ殿ぐらいかと…… 私自身、小耳に挟んだ程度ですので。」


 「あの御仁は存在自体が教会にとってもイレギュラーですが、害になり得ないのは、この200年が証明しているのでまぁいいでしょう。他には? 」


 アルラオネは方々に顔が効く、ヘルツォーク公爵家といえど、今はアルラオネ自身も所属しているので、彼女の希望があれば、書物の内容を知ることなど吝かでは無いのだろうと、フリーンの母であるディンプナ枢機卿は一先ず先を促すのであった。


 「後は、大変興味深い人物がおりました。アメリア公爵令嬢もそうですが、もう一人。詳細はまだ言えませんが、教会にも影響を与える人物になるかもしれませんので、暫くはヘルツォーク公爵領に留まる許可を下さい。」


 「詳細は言えないって、あなた…… ふぅ、これからは、ランサローテの魔王が討伐されたので、ランサローテに教会は進出するというのに、あそこは恐らく禁書の宝庫。それに…… まぁ今はいいですが、あなたにも現地に行ってもらおうと考えてたのですよ。それに、ランサローテではあの大禁呪の発動も観測されました…… あれは、教会でも解読が完璧にはできていない禁書の原典です。」


 発見以来、何百年と経っているのに、解読が一向に進んでいなかった神話の魔呪妬の原典。それを短期間で解読したフェメス公爵に教会は脅威を抱いているとフリーンには感じられた。
 フリーンは、フェメス公爵程では無いだろうが、ロサリオもあの大禁呪に関しては教会以上に知っているだろうと考えている。
 本人が発動実験に携わったと言っていたからである。


 「ランサローテには興味もありますし、後々は行ってみたいと考えておりますが、フェメス公爵…… 大陸では其処までの勇名は届いていませんが、それほど甘い相手ではないでしょう。」


 フリーンはまだ詳細を報告したくはないのか、フェメスのことを暈した状態で苦言を述べるに止まる。


 (フェメス公爵、正直私はロサリオ様よりも、教会よりも恐ろしいと感じてる。教会ですら解読できない原典を解読したこともそうだし、教会をランサローテの平定にも利用するつもりなのでしょうけど、果たしてそれだけなのか……? それにフェメス公爵程ではないでしょうが、ロサリオ様自身も今回の大禁呪やランサローテの書物に関することをご存知のはず…… )


 「フリーン、どうかしましたか? 」


 間が空いたことを少し訝しく感じたのか、ディンプナ枢機卿は探るように問いかけてきた。


 「いえ、やはり私はこちらで探りを入れます。古い神話等は、発見場所が違えど内容は総じて似たり寄ったりの物も多いですから。それに、フェメス公爵に対するには、教会も相応の人物ではないと通用しないのでは? 」


 「ええ、ですので私自身がランサローテに行くことにします。フェメス公爵には、ランサローテにおける、教会の総大司教の位を授与することも伴いますのでね。もちろん、あくまで名誉的な位階としてですが。」


 「総大司教!? 教会に取り込む腹積もりということですか…… 」


 枢機卿のすぐ下の位階であり、名誉的な物とはいえ、教会内での権限も軽視出来なくはなるので、不安に思うが、母である枢機卿と祖父である教皇が決めたことであるので、あからさまな懸念を伝えることは出来なかった。


 「まぁそれだけあそこは、各派閥共に重要だと考えてるのですよ。信徒を増やすことも然り、禁書を蒐集するにも然りといったところですか。」


 「では、私は引き続きヘルツォーク公爵領で活動をします。ある程度領内を自由に動けるようにして下さい。場合によっては王都に行くことも考えられますので。」


 フリーンが、今はヘルツォークから動かないという意思を感じ取り、教会にとっても重要度が高いのだろうとディンプナ枢機卿は判断した。
 元々、ヘルツォークの地は1,000年前の主戦場にもなっているので、勇者の遺物や当時の書物の存在も含めて重要度が高い。


 「ふう、解りました。何かあれば報告しなさい。それと、神殿構築を発動させたことも報告にありました。ローゼンベルク公都の神殿にて、司祭位が授与されるように話は通しておきます。」


 「ありがとうございます。ではローゼンベルク公都にて授与されて参ります。後は、私ごときが言うのも何ですが、フェメス公爵には、ゆめゆめ油断なされることなきよう御注意下さいませ。」


 通信が途切れ、フリーンがやけにフェメス公爵に警戒の念を抱いていたのが、ディンプナ枢機卿には気に掛かったが、あの原典を読み説いたこと以外にも、何かあるのだろうかと考える。


 「あの娘も腹黒いところがありますからね。フェメス公爵の政治力に、何か琴線が触れるところがあるのかもしれませんね。」


 ディンプナ枢機卿は独り言でそう判断を付けたが、フェメス公爵が、ランサローテの戦乱が佳境の最中に教会と渡りを付けた本当の理由を知らない。
 フェメスにとって大禁呪だの大祈祷だのは、さして重要では無かったことを知っているのは、ロサリオから話を聞いた面々だけである。フリーンも聞いてはいたが、そのことを其処まで深く考えていなかった。ロサリオの感想という点で聞いていたからかも知れない。
 フェメス公爵が本当は、500年前にランサローテが、戦乱の一途を辿ることになった元凶が、教会側にあるのではと探っているということに、教会関係者としてフリーンは気付くことはできないでいた。
 事実、その後ランサローテへの教会敷設は、戦後の混乱等の理由により中々進まず、フェメス公爵の許可したところにしか設立出来ない状況が続くことになる。

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