魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第52話 冒険者ギルドでの会議

 子爵、子爵とは伯爵の下に位置しており、地方都市の管理や伯爵を補佐する者である。中には、建国期からあるような由緒ある家柄や、手柄を立てた家などは領地を得ている家もある。


 ランビエール子爵領は、人口約10,000を抱える領都メルダースと4つの町に10の村を含む、総人口約20,000人程の領地である。
 ヘルツォーク公爵領の東端に位置しており、ランビエール子爵領の東端にはティファニア王家直轄領とも接している。


 「……ランビエール領、なるほど…… 」


 アメリアは、何がなるほどなのだろうとロサリオは考えながら、先程の言葉を自分の中で反芻する。


 (7日前よりランビエール子爵となる…… か…… うん、意味がわからない。いや、意味はわかるが理由がわからない…… )


 正直、突拍子過ぎて訳がわからない。これは様子を見ようと落ち着く意味合いも含めて辺りを見回す。
 アルラオネは一見落ち着いているように見えるが、ヘルツォーク公爵と、アメリアが先程挨拶をしていた、隣の恐らくランビエール子爵であろう老人を交互に見ている。
 ヘルナーゼはポカンとした表情をしており、やはり意味がわかっていないのであろうと思われる。ナーダ伯爵はその理由を考えているのか難しい顔をしている。
 アメリアはある程度理由を察したのか含むような笑みを浮かべている。


 (サーラブは…… うん、小首を傾げながら微笑んでるけど、何も考えて無さそうだね…… ふぅ。)


 内心溜息を吐きながら、こちらを不適な笑みで見ているヘルツォーク公爵に自己紹介も含めて問おうと切り出すのであった。


 「ヘルツォーク公爵は何故か私のことを知っているようですが、この場では、ギルド長のヘルナーゼ殿が知らないはずなので、改めて自己紹介をさせて頂きます。」


 ヴァルターには直接伝えていないが、恐らくアルラオネかオリビア辺りが、言い含めているだろうと思いながら言葉を続ける。


 「私は、ランサローテ皇国バルトロメ公爵が弟、ロサリオ・サン・バルトロメである。」


 「なっ、なんと!? ま、まさか…… 」


 公爵弟として威厳を込めて言い放ち、バルトロメの紋章が入った短刀を皆に見えるように翳す。ヘルナーゼは驚きで空けていた口をさらに大きく空けることとなった。ヘルツォーク公爵の隣にいる老貴族は目を見開き公爵を見つめ、次いでロサリオを見る。ヘルツォーク公爵は一層笑みを深めた。
 ロサリオは先程の態度から一変して、ばつが悪そうに苦笑をしながら肩をすくめて続けるのであった。


 「まぁ、恐らくご存知の通り、公式には死んだ身ですがね…… それでヘルツォーク公爵、先程おっしゃった言葉はどういうことでしょうか? 」


 「まぁ、ちゃんと説明はするがその前に…… 」


 ロサリオの問いを受けたヘルツォーク公爵は、ヘルナーゼの方を向き、厳しい表情で告げた。


 「ヘルナーゼよ、彼の件は他言無用。もちろんギルドにもだ! もし、情報が漏れた先にギルドの名前が上がれば、このヘルツォーク公爵と、大魔法師であるアルラオネを敵に回すと考えてくれ。」


 その言葉に続いてアルラオネも言葉を発する。


 「うむ、冒険者ギルドへの魔法技術の供与はもちろん、儂の影響下にある魔法師達は、冒険者ギルドより引き揚げさせる。まぁもちろん、我らの意向を汲んでくれれば、今まで以上にお主個人に対して便宜を図ってやるがの。」


 事実上のヘルナーゼに対する脅しである。
 ヘルナーゼ自身その事は重々承知した。ギルド長としても個人としても公爵やアルラオネと渡りが着くのは美味しい。
 何よりこの一件は大きな貸しになるだろう。しかも、国を問わず影響力がある、アルラオネに貸しを作るのは非常に大きい。今までギルド関係者では誰もがなし得なかったことだ。何より、公爵の表情は、ヘルナーゼ自身の命をも脅かすと雄弁に語っている。


 「まぁいいでしょう。貸しですぞ、公爵にアルラオネ殿。」


 果たしてその貸しは誰が返すことになるのやらとロサリオは思うが、一先ずは、彼らとギルドの事は置いておくとして、ヘルツォーク公爵の本意は、何処にあるのであろうと考えるのだった。


 「ギルドには100年以上に渡って貸しを作ってはおるが、まぁお主個人にと考えてやるわい! あまり欲は掻くなよ…… お互い不幸になるだけじゃて。」


 「わかっておりますよ…… いくらギルドとて、御二人を同時に敵には回したくないのは本音です。私個人の部分で止めますよ。その範囲であれば、彼にも便宜は図りましょう。」


 ヘルナーゼの賢明な判断にヘルツォーク公爵とアルラオネは胸を撫で下ろす。そして、アルラオネ自身が公爵へロサリオの件を内密に頼んでいたこともあり、ランビエール子爵の事を質問するのであった。


 「じゃが、公爵よ…… 儂は確かにお主に小僧の件を頼んだが、ランビエール子爵とはどういうことじゃ? 」


 問われたヘルツォーク公爵は、隣の老貴族を見遣ってから、答えるのであった。


 「先ずは私の隣にいる御仁が、ヴェルナー・メルダース・ランビエール子爵である。まぁ、あったと言ったほうが正しいか。」


 そして、ランビエール子爵と午前中に打ち合わせした内容を皆に伝えるのであった。












 カチャリ、紅茶が入ったカップを置く音が響き渡る。マナーを逸脱する程の物音ではないが、ヘルツォーク公爵が語った内容が内容だけに、アメリアを除いて皆が息を飲み、静寂に包まれている。


 「確かに、これは極秘事項となりますな…… 私に対する口止めも致し方無し。といったところですな。」


 場を満たしていた静寂を破り、ヘルナーゼも自身が納得したと言わんばかりに言葉を発した。
 ロサリオは、何故に自分の身動きが取れない状況が、着々と整って行くのであろうかと嘆息するのであった。


 (タイミングが良すぎるが、偶然なんだろうな…… 後継問題を抱える貴族はランサローテでも珍しくはない。まぁ戦乱故にではあったが…… 
 しかし、ヘルツォーク公爵領か…… いくら自領で管理しているとはいえ、形の上ではティファニアの貴族に対して、これだけの裁量が認められているとは…… 大陸に存在する中堅国と変わらないと言われているように、もはや公国と言っても、やはり過言ではないということか。)


 問題は、書面上は既に決定事項でということである。ロサリオ自身が、どのように受けとめるかというところまで来ている。


 「公爵は、私の事をご存知ということでしたが、何処までをご存知なのでしょうか? 」


 「全てだよ。全てを知ってなおっ! 君にはこのティファニア…… いや、ヘルツォークと縁を結んで欲しいのだ。君とてランサローテには戻れまい。何より、今回の件でも手柄を立てた君程の人物が、徒人ただびととしてなどいられんだろう。」


 戻れまいという言葉に、ナーダ伯爵とヘルナーゼにヴァルターが、少し疑問を持つが口は挟んでこないので、両者は続けるのであった。


 「全て…… ですか…… 危険だとは考えなかったのですか? 」


 「君には正直に話そう。私もアルラオネのイヤリングを通して聞いてしまっていたのだよ…… 一部始終をな。あれを聞いて君自身を危険だとは思えんよ。アルラオネとアメリアの反応や判断も信頼に足るものであるしな…… 勝手に聞いていた件に関してはすまないと思っている。」


 あれを聞かれていたのかと、少々の羞恥と不満が綯交ぜになった表情でアルラオネを睨む。


 「すまん、まさかマルティーナがお主の心情にまで踏み込むとは予想外でな…… 結果として公爵のここまでの根回しも予想外であったがのぉ。本来の儂の考えであれば、ちょっとした後ろ楯と経歴を用意してくれれば、という程度だったんじゃが…… 」


 アルラオネが、ロサリオに素直な謝罪の言葉を発し、申し訳なさそうな表情を浮かべて、場が少し落ち着いたところに、経歴という部分に対して、アメリアが反応を示し、ヘルツォーク公爵へ質問する。


 「お父様、ロサリオ様のランビエール子爵への叙爵はわかりましたが、その前段階の出生からの経歴は、どのような物をお考えでしょうか? 」


 (あれ!? 一旦停滞してからのこの流れって、もう僕がランビエール子爵になることが決定みたいな感じじゃ…… )


 アメリアが差し挟んだ質問に、アルラオネも反応を示してヘルツォーク公爵を急かし出した。それに釣られて皆が興味をそちらに惹かれだしている。


 「もう亡くなっているが、私の5歳下の従兄弟にエルザリオ・ヘルツォーク子爵というのがいたんだが、結婚せずに家も構えず、成人後はずっとローゼンベルク騎士団にいて、平時はフラフラと遊び歩いていた男でなぁ。」


 そう言いながらも悪い感情はないのだろう。昔日を懐かしむ表情をしている。


 「そうでしたなぁ、実力もあり、平民や貴族という物に囚われず、妙に人を惹き付ける御仁でした。ローゼンベルク近衛騎士団の副団長を務めておったのですが、しょっちゅうサボっては遊んでおりましたが、不思議と憎めませなんだなぁ。昨年急に倒れたと思えば、そのまま亡くなってしまったのには驚かされました。本当に、愛嬌も含めて惜しい御仁でしたなぁ…… 」


 ヴァルターも同様に、当時を思い出すように感慨深く、エルザリオという今は亡き同僚について話すのであった。


 「アメリアも知っているだろうが、ヴァルターが言ったような男なのだが、エルザリオの息子ということにしようと考えている。エルザリオの婚外子でアードリゲ孤児院出身ということにすれば、色々と説明も省けるだろう。
 名前もロサリオとエルザリオで若干似ているし、そのままでいいだろう。そこまで珍しい名前でもないしな。」


 ロサリオとサーラブを除く全員が、アードリゲ孤児院とエルザリオ・ヘルツォークの名を聞いて納得するのであった。
 アードリゲ孤児院は、貴族の訳ありの婚外子達が集まることで有名であるのと、何よりナーダ伯爵の父親の出身である。先々代の王の公に出来ない子であったというのを知るのは、今ではナーダ伯爵とヘルツォーク公爵、そして、現在のティファニア王しかいない。
 エルザリオ・ヘルツォーク子爵であれば、そういう子供がいてもおかしくはないだろうと目される人物である。
 皆が各々の思考に耽るなか、ランビエール子爵が唐突にロサリオへ話しかける。


 「ロサリオ卿、君自身色々と考えることはあるだろうが、先ずは休暇がてらに私がいる、ランビエール子爵領都メルダースへ来てみてはどうかね? 話を聞くに、君には休息が必要じゃろう。」


 人好きのする好々爺然とした笑みを浮かべながら、ロサリオを焦らずに諭すよう話しかける。それに便乗するように、しかし、自然な流れを乱さずに、ヘルツォーク公爵とアメリアが畳み掛けるのであった。


 「うむ、魔族や魔物大狂乱パンデモニウムの件で疲れてもいるだろう。物見遊山も悪くないはずだ。」


 「そうですわね。結局ロサリオ様は満足に眠ってすらいませんもの。ゆっくりとこれからのことを考えて行きましょう! 」


 ヘルツォーク公爵の大人の優しい笑みと、アメリアの慈愛に富んだ微笑みにそのように返され――


 「まぁそれも悪くないですね。正直少しゆっくりしたいですし、自分にとってもいいことのようですし…… 」


 すっかり、ランビエール子爵とヘルツォーク公爵、それにアメリアが発する暖かみを持った雰囲気に当てられ、全てに対する肯定と取れるような返事をしてしまった。


 「では、魔族の進攻経路の件とアルラオネから聞いた冒険者の氷炎の牙の対処の件に移るとしよう。」


 「獣人族の3人組がおりますので、サーラブ殿から引き継ぎをさせましょう。そして…… 」


 この後はヘルツォーク公爵、ナーダ伯爵、ヴァルター、ヘルナーゼの4人が主導で会議は進んでいく運びとなった。


 ロサリオは忘れていた。彼らが老獪な貴族と最上級の貴族であるということを。
 メルダース領都に着く頃には、ランビエール子爵位がヘルツォーク公爵によって叙爵された文書と、魔族討伐及び魔物大狂乱パンデモニウムの最大勲功者である件が、既にティファニア王に報告が為された後となるのであった。

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