魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第51話 ランビエール子爵

 この場で最上位に位置する貴族が睥睨している。辺りは緊張感を含んだ空気を醸し出している。サーラブはこの場の雰囲気に耐えきれなくなり、ゴクリと生唾を飲み込む音を辺りに響き渡らせる。
 そして睥睨していた人物は、ロサリオに目を止め申すのであった。


 「ロサリオ卿、君はこれからランビエール子爵となる、というよりも既に7日前よりなっているので宜しく。」


 「「「「「「は、…… はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!?!? 」」」」」」 


 今までの重苦しい雰囲気から一転して、サラッと軽く放ったヘルツォーク公爵の言葉に、ロサリオ含め何名かが驚きの悲鳴を上げるのであった。














 大陸各国、そして各都市、町にある冒険者ギルドから、ランサローテで出現した魔王が討伐されたと民衆にも報告がされた。
 人口10,000人以上の都市には、中央部に拡声器の魔道具が取り付けられているので、ここナーダでも正午に放送がなされた。
 魔物大狂乱パンデモニウムの件もあり、ナーダの住民達は、その一報も相まってさらに沸き返るのであった。
 ランサローテの出来事は、大陸の住民達には対岸の火事としてそのようなことが起こっているという認識だけであった。本来であれば認識されることすら、ランサローテの出来事では稀であるが、魔王という単語や軍の展開規模により、冒険者達の噂が噂を呼び、3週間前にはギルドが、魔王と正式認定したこともあって、都市だけでなく、既に町や村の単位にまで情報が伝わっていた。
 この喧騒は、次第に祭りの様相にまで発展しそうな勢いを見せている。
 既に冒険者達は、併設された酒場や近隣の飲食店等でお祭り騒ぎを起こしている。冒険者にも犠牲は出たが、各自自己責任の精神が強いので、喪に服するというような行為は犠牲者を出したパーティーメンバーぐらいであろう。それすらもパーティーによってはまちまちである。酒で悲しみと涙を洗い流している者もいるということである。


 住民達の喧騒や祝砲のような物まで上がり、そして放送が止めとなって、ロサリオは目を覚ましてしまった。時計を見ると正午を過ぎたばかりであり、ちょうどいいとばかりにベッドから起き上がった。
 備え付けられている、水差しの中に入っている冷えたお茶で喉を潤した後、気を効かせて用意してくれていたのだろう、桶に入った水で顔を洗い、タオルで身体を拭っていた所に、ドアを叩くノックが響き渡った。


 「アンナです。入りますが、起きていらっしゃいますでしょうか?」


 「あっ、もう起きてます。ちょうど身支度中ですが…… 」


 下半身を拭い、下着にズボンは履いた状況であったのは幸いである。しかしまだ、上半身は裸であったために少し待ってもらおうと言いかけたが、それを待たずに、ガチャリと扉が開くのであった。


 「あら、もう身支度中でしたか…… 」


 「いやいや、身支度中って言いましたし…… 入っていいって言ってないですよ!? 」


 アンナが部屋へ入るなり、とぼけた様子でいい、その後ろからアメリアとサーラブも遠慮なく入ってきた。3人はロサリオの上半身を見て、恥ずかしさなどは吹き飛んでしまう光景に声を失う。


 「アメリアとサーラブまで!? ちょっ、まだ上を着てないんですけど…… 」


 「!?…… アメリア様とサーラブさんも起こした後のお手伝いをとおっしゃるので、お連れしたのですが…… その身体の傷痕は…… 」


 アンナも驚きを露に視線が固定されてしまう。それほどの惨く酷い状況をロサリオの上半身は語っている。
 アンナは、ロサリオの身分や本名を周囲が呼んでいることもあり、察しは付いているが、魔王として討伐されたことは、あの部屋での場に居なかったためにまだ知らない。
 それらを知らなくてもなお、この上半身が、バルトロメ公爵弟としての来歴以上の物を感じ取ってしまっていた。


 「ロサリオ様…… その、回復魔法や今回のエリクサーの効果は…… 」


 アメリアとてローゼンベルク城などで兵の鍛錬は見ている。時折、兵達が上半身裸で身体を拭う様を目にしてしまったこともあるが、このように上半身縦横無尽に走る傷痕は、見たことがないし聞いたこともない。
 致命傷に近いような傷痕も一見しただけで複数確認することが出来た。常に第一線で戦ってきたランサローテの軍人や冒険者でもいないだろう。こうなる前に既に死んでしまうのが常道である。


 「あはは…… 見苦しいでしょう、だからランサローテでも極力身の回りは自分でしていたんですよ…… メイドが卒倒してしまいますからね…… 」


 苦笑しながら軽く言う物言いに気遣いは見て取れるが、まさに言葉通りに卒倒してしまう者も出かねないほどの惨状を物語っている。


 「致命傷にならないような傷には、傷薬や血止めだけで済ませたり、致命傷には、回復魔法で死なないレベルや動けるようになるだけで済ませたりしてましたから…… どうしても痕が残ってしまって…… かと言って、戦場にいることが多かったり、領地に戻ってもゆっくり傷を治す暇はありませんでしたから…… 
 あぁでも、エリクサーのおかげで、塞がっていなかった傷も治りましたし、ありがとうございました。」


 最早過ぎ去りし事とはいえ、やはり傷一つとっても万全では無かったのかと思い、先程ランサローテでの魔王討伐の報を聞いたが、改めて、ロサリオが魔王として討伐されてから、まだ2日しか経っていないのだとアメリアは気づかされるのであった。


 「入室した件はすみませんでしたが、ギルドへ赴く準備をしましょう。アンナ、手伝ってあげてください。それと…… この黒いお召し物の件ですが…… 」


 そういって、ロサリオをベッドに寝かすときに、肌着以外を脱がして衣紋掛けに掛けておいた上着を取ってみたが、明らかに先程とは変わって、汚れや傷ついていた部分が修復されているのに気付いた。


 「あぁ、気付きましたか。そちらは、魔法が掛けられていましてね、防御力もさることながら、自動修復も付いている品なので、重宝しているんですよ。まぁランサローテでは見る者によってはバルトロメ公爵弟だと気づかれてしまうので、あの戦いでは着用しなかったんですがね…… 」


 魔王アザゼルとしてでの戦いでは、鎧を着こんで戦っていたためこれを着ていなかったのは幸いであったと思い返していた。バルトロメ秘蔵の国宝級である黒色の聖鎧もさすがにあの戦いでは、大禁呪にて粉砕されてしまっていた。
 まともな装備品としての衣服はこれと数着の肌着ぐらいしかない。正式な場での着用にも、耐えうる仕様となっているのも助かる限りである。


 取り敢えずアンナは、肌着を用意して着込むのを手伝い、靴を履かせている。アメリアはロサリオの髪を梳き、鏡で整えながら話しかけた。


 「それにしても、自動修復機能が付いている魔法の服とはいえ、戦闘で使用なさるとは…… この上下だけでももの凄い価値ですよ。」


 「自動修復が付いているからこそ、戦闘用だと思ってランサローテでも着用していたんですが、兄にも言われましたよ。―それは、社交界などで貴族が自慢するための逸品だ― とね。だから作りも凝ったものにはなってるんですが…… 」


 「はい、整いました…… 全く、ロサリオ様は意外と貴族としての常識には欠けておりますよね。冒険者や軍人寄りな気がします。」


 戦場で過ごすことが多かったからと返すロサリオに、アメリアもアンナも苦笑していると、部屋の入り口付近に居たサーラブが、ナーダ領主館の執事から言伝を受け取り、馬車の準備が整ったとの知らせを伝えるのであった。
 時計を見ると12時40分を指している。ここから冒険者ギルドへは10分程度なので、出発するには丁度いい頃合いである。
 アルラオネはロサリオ達が休む前にヴァルターの所へ行っているので別行動である。よって、ロサリオの身支度も整ったので、ナーダ伯爵を含め4人で馬車に乗り込み冒険者ギルドへ向かうのであった。


 冒険者ギルドに到着し、2階にある貴賓用応接室に通される。ロサリオ達が到着するころには参加人員は揃っており、冒険者ギルド長のヘルナーゼ、ヴァルター、アルラオネがソファーに腰を落ち着けていた。映像通信用の魔道具からは、ヘルツォーク公爵とランビエール子爵が投影されている。


 「お父様、お待たせして申し訳ございません。ランビエール子爵もお久しゅうございます。」


 投影された人物を見てアメリアがすぐさま挨拶をし、ナーダ伯爵以下がそれに倣い入室しソファーに着席をする。アンナとサーラブは後ろの椅子に促されて着席をするのだった。ヘルツォーク公爵がこの場に参加するのは、前もって知っていることもあり不思議ではないが、ランビエール子爵とアメリアに呼ばれた人物が、何故この場にいるのかわからない。ナーダ伯爵も表情に疑問を浮かべている。


 「うむ。この度は大変であったなアメリア、本当にご苦労であった。では、皆も集まったことだし会議を始めるとしよう。先ずは伝えておくことがある…… 」


 そう言って一度言葉を区切り一同を見渡しロサリオに目を止める。そうして冒頭の一言に始まり、皆の混乱と共に会議が騒然と開始を告げるのであった。

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