魔王に堕ちて討伐されたけど、何とか生きてます。

ノベルバユーザー255848

第48話 討伐後の後処理

 アメリアからの魔物大狂乱パンデモニウム終結の報を都市内に拡声器にて伝達したこともあり、都市内すべての住人達が嬉しさと安堵で湧き返っている。避難の準備で北門に集まっていた人々も住まいへの帰路に付きだしている。
 魔物行進モンスターパレード程度であれば、城塞都市ナーダ規模の都市であれば、却って守備隊や冒険者たちのいい訓練になるのであるが、今回の規模は未曽有の大災害といって過言ではない物であった。城壁が突破され都市内へ魔物達が雪崩れ込んでも何らおかしくはない程であった。
 公都では3時間ほど前に連絡を受けた後、城詰めしている文官及び武官達が、軍の派遣を急遽決定したのがつい2時間ほど前である。ナーダから公都ローゼンベルクまでの間にある各都市には、冒険者ギルドを通じて警告を出していた。冒険者ギルドがない小規模な町や村には、直接伝令が今頃向かっているだろう。


 ナーダ冒険者ギルド長であるヘルナーゼは、今回の件が無事に終結した旨を各都市に連絡するため、ギルド内で慌ただしく報告をまとめていた。緊急事項であるため詳細は後回しにして、無事終結し各都市や町村などで避難の必要は無し、という旨だけは連絡し終えたところであった。
 今後は、ナーダ伯爵や参加した冒険者たち、そして全体を俯瞰して指揮の一翼を担っていたアルラオネと協議をして詳細を纏めていく段階である。
 ただし、今は守備隊や冒険者総出で討伐した魔物達を回収している段階である。ギルドに運び込まれたら素材の解体などでしばらくは忙しい日々が続くだろう。午後からの会談が、予定通り行われることなど、頭から抜け落ちてしまっていても仕方のないことでもあった。


 ヴァルター達は、守備隊の者たちと戦死者の確認や負傷者の運び込みに追われている。アメリアの魔法のおかげもあり軽傷者は少数であり、四肢を欠損したものが122名、重傷で戦線離脱していたが、命を落とさず軽度なレベルまで回復したものが154名、守備隊側で死者513名、冒険者側で死者26名、という損害状況である。ヴァルター旗下護衛部隊は死者及び重傷者無しと驚異的な戦歴を残した。
 全滅も必至という状況下において、今回の損害数はありえないと言わしめる程の少なさである。大勝利と言っても過言ではなく。後日、大陸全土がヘルツォーク公爵領の武勇を称え、脅威に感じることになる。
 しかしながらそれでも死者や怪我人は多数出ているので、都市に在籍する神官たちも総出で負傷者の手当てや死者達の供養に奔走している。


 アルラオネは魔物大狂乱パンデモニウムの顛末をヘルツォーク公爵にイヤリング型の通信用魔道具で報告した後、ナーダ伯爵にある物を提供してもらおうと探していた。
 アルラオネは、南門付近で守備隊や冒険者たちに指示を出しているナーダ伯爵を見つけ出して声を掛けるのであった。


 「ナーダ伯爵! ちとこちらに来てくれんかの? 」


 ナーダ伯爵の近辺は兵や冒険者達に囲まれているため、幼女の姿であるアルラオネは物理的に近づけない。そしてあまり大きい声で話をしたくも無かったので呼びつけるのであった。


 「おぉ! 此度はお疲れ様ですアルラオネ殿。どうされました? 何やらお急ぎのご様子ですが…… 」


 アルラオネ程の大魔法師に呼ばれて無視する者などほぼ皆無であり、ナーダ伯爵も周囲に言伝をしてアルラオネの元へ来るのであった。


 「今回の件では、儂は余り役に立てずにいた…… すまんのぉ。」


 「何を仰る!? 全体指揮の件に前日の魔族との一件など、感謝の念に堪えませんよ。して、何用でしょうかな? 」


 問われたアルラオネは、周りに聞かれるのは不味いとばかりに手招きをしてナーダ伯爵を屈めさせる。


 「この規模の城塞都市なら一つぐらいあるであろう? 半分ほどでいい、エリクサーを小僧にわけてくれんか!? この通りである。」


 アルラオネは、その小さい身体を地面に付くのではというほどに折り曲げて、ナーダ伯爵に頼み込んでいる。
 エリクサーは現存する物しかほぼ無く、出回ることは無いといっていい。1,000年前の錬金術師の勇者が調合したものと妖精族であるエルフしか調合できないからである。エルフとは多少交流もあるが、滅多なことではエリクサーは人族の間には出てこない。
 エルフでも調合は秘匿事項であり、勇者が記した調合方法も紛失しているとされている。何より材料にエルフの森の奥地にある世界樹の葉が材料ということでもあるので、人族には調達がほぼ不可能という現実がある。各国が管理している物しかないのが実情であるので、値段が付くような代物でもない。
 ティファニア王国では、領主に何かあった時のために、領主館には必ず1本は置いてあることが知られている。そういう事情もあるし、換金可能な物も多いということもあって、各貴族の館では賊の侵入を最警戒で備えているのである。


 「小僧の容体が芳しくない…… 回復魔法も容易に受け付けんし、脈も弱く体温も上がらん…… 」


 「そ、そこまでの酷い状態ですかっ!? いくら何でも怪我であれば重体でも回復魔法を掛け続ければ持ち直す筈なのにですか…… まさか…… 」


 ナーダ伯爵の驚きは尤もである。身体を幾度刺し貫かれても、生きてさえいれば通常の回復魔法で持ち直すこともできる。ただし、元とはいえ軍人でもあったナーダ伯爵にもそのような状態になる心当たりはあった。
 病気に回復魔法は聞かないが、致命傷を負った状態で戦い続け、回復手段を取るのに非常に時間が掛かった場合等にそういう現象が起こることがあると聞いたことがある。命を削り続け、もはや回復の余地がないほど疲弊した場合である。


 「昨日魔族と戦う前からそんな状態じゃったみたいじゃ…… 我らも気づいたのがもう0時を回っておった…… まさかこんな大惨事が起こるとは、露程にも感じておらんかったからのぉ。これからゆっくり休ませればいいと考えておった矢先のこれじゃ…… 」


 「そんな状態であのCランクの魔物達を相手どって殲滅したのですか…… いいでしょう! 彼には返しきれない大恩ができておりますからなっ!! 当家秘蔵の物をお渡ししますよ…… 救ってやってください。では当家へすぐにでも向かいましょう!! 」


 「すまぬ…… 恩に着させてもらうとする。」


 ナーダ伯爵はこちらが恩を受けていると言わんばかりに朗らかな笑みを浮かべて、アルラオネを馬の後ろへ誘い、駆け出すのであった。

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